神奈川県川崎市のがけ条例とレッドゾーン——崖の近くに建てられるか

川崎市のがけは、第5条

川崎市で、がけの近くに家を建てる・土地を買う人へ——最初に答えから。

神奈川県川崎市の「がけ条例」とは、川崎市建築基準条例 第5条のことです。崖の近くに建てるときは、原則として擁壁を設けることが求められます。

擁壁の形や寸法の一般的な考え方は、擁壁の選び方にまとめています(この条の当てはめは、この記事に書いた窓口で確かめてください)。

先にすることは、3つです。がけの規定がかかっても、建てられないと決まったわけではありません。まず、土地の売買契約を結ぶ前に動く(すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に)——買ったあとでは、擁壁(ようへき=がけの土が崩れないよう支える壁)の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。つぎに、建築士に現況の測量図・断面図・配置案を用意してもらう。そのうえで、その図面を持って川崎市まちづくり局の窓口へ、条例の当てはめを確かめる。高さも角度も距離も、目測で判断しないでください。

川崎市内のがけは、川崎市建築基準条例 第5条で決まります(区域の指定と法第19条第4項は、⑤のとおり別に確かめます)。神奈川県建築基準条例は適用されません(同条例第53条第1項)。②川崎市の第5条は、高さ3メートルを超えるがけの下端(かたん=斜面の低いほうの足元)からの水平距離が、がけの高さの2倍以内の位置に建築物を建築し、または建築物の敷地を造成する場合に、がけの形状もしくは土質または建築物の位置・規模もしくは構造に応じて安全な擁壁を設けなければならないと定めています。③この「2倍以内」は、規定がかかるかどうかの線引きです——2倍を超えて離れていれば、そもそも第1項本文はかかりません。けれど2倍以内に入るなら、義務の形は「離しなさい」ではなく「設けなさい」です——「◯倍以上あければよい」という書き方にはなっていません。④安全な擁壁を設ければ、第5条第1項の義務は満たせます——建てられるかどうかは、区域の指定や法第19条第4項を別に確かめたうえで決まります(ほかの規定は⑤のとおり残ります)。第1項ただし書の2つの号や、第2項の2つの場合に当たれば、そもそも本文が適用されない道もあります。⑤ただし、レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)・イエローゾーン(土砂災害警戒区域)・災害危険区域法第19条第4項は、別に残ります。(条例・解説は2026年9月5日に原文を確認しました)。

川崎市内なら、川崎市建築基準条例 第5条です

川崎市内なら、川崎市建築基準条例 第5条です
川崎市建築基準条例 第5条。満たせるのはこの条まで。ほかの区域・法令は別に確認

「がけ条例」という名前の条例はありません。川崎市では、建築基準法第40条などに基づく川崎市建築基準条例(昭和35年9月9日条例第20号)の第5条(がけ付近の建築物)が、がけに近い建築物の決まりです。神奈川県建築基準条例は、川崎市の区域では適用されません——県条例第53条第1項が、法第4条第1項または第2項の規定により建築主事を置く市町村が法第40条または法第43条第3項に基づく条例を定めたときは、その条例の効力が発生した時から、当該市町村の区域内においては適用しない、と定めています。規制が無くなるのではなく、読む条例が入れ替わります。川崎市内の土地について調べるときは、川崎市の条文の数字で読んでください。

(適用の除外)
第53条 この条例は、法第4条第1項又は第2項の規定により建築主事を置く市町村が法第40条又は法第43条第3項の規定に基づき条例を定めたときは、その条例の効力が発生した時から、当該市町村の区域内においては、適用しない。

神奈川県建築基準条例 第53条第1項(2026年4月1日施行の改正後)

この第53条第1項は、2026年4月1日に変わりました——ただし、川崎市内の土地について、読む条例は変わりません。改正の前も後も、川崎市の条例で読みます。改正前は「この条例(第2条の2及び第2条の3の規定を除く。)は…」という括弧書き付きで、その2条——急傾斜地崩壊危険区域を災害危険区域として指定する第2条の2と、区域内の建築物の構造を定める第2条の3——を外す条件は、第2項が別に定めていました。2026年4月1日の改正で、第2条の2・第2条の3は両方とも削除され、第1項の括弧書きも、その2条を外していた第2項も削除されました(第59条第1項の罰則の列挙からも「第2条の3、」が削られています)。いまは、第53条第1項だけで、県条例は川崎市の区域では全部が外れます。

いまの第53条にも第2項・第3項はあります——ただし中身が入れ替わりました。改正前の第3項・第4項が繰り上がったもので、自然公園の特別地域などの区域について一部の条を適用しない、という規定です。川崎市の区域で県条例が外れる話とは、別の規定です。県の解説は、第2条の2を削除した理由を、土砂災害特別警戒区域の指定が令和3年度までに完了しており、法により制限を受ける区域が整理されたためと書き、第2条の3の削除はその区域解除に伴うものとしています。なお、2026年3月31日までにした行為の罰則は、改正前の条文で判断されます(改正条例の附則2「この条例の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。」)。

なお川崎市は、法第40条に基づく第5条(がけ付近の建築物)に加えて、法第39条第1項に基づく第3条(災害危険区域の指定)・第4条(災害危険区域内の建築物)も自分の条例に持っています。がけのことも、災害危険区域のことも、川崎市の条例で読みます

(がけ付近の建築物)
第5条 高さ3メートルを超えるがけの下端から水平距離が、がけの高さの2倍以内の位置に建築物を建築し、又は建築物の敷地を造成する場合(土砂災害特別警戒区域内において居室を有する建築物を建築する場合を除く。)においては、がけの形状若しくは土質又は建築物の位置、規模若しくは構造に応じて安全な擁壁を設けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する部分については、この限りでない。
⑴ がけの形状又は土質により安全上支障がない部分
⑵ がけの上部の盛土の部分で、高さが1メートル以下、斜面のこう配が 30 度以下であり、かつ、その斜面を芝その他これに類するもので覆ったもの

川崎市建築基準条例 第5条第1項

どこからが「がけ」か——こう配30度超・高さ3メートル超。硬岩盤を除く定めはありません

川崎市の条文は、「がけ」を「こう配(=斜面の角度)が30度を超える傾斜地」と定義しています(第4条の括弧書き。第5条もこの定義によります)。そのうえで、高さ3メートルを超えるものが第5条第1項の対象です。30.0度ちょうど・3.0メートルちょうどは、当たりません(条文は「超える」です)。ただし、現地で「ちょうど30度」「ちょうど3メートル」と自分で判定しないでください——角度も高さも、建築士に測量図・断面図を作ってもらって確かめます。市の解説は、この「がけ」を、傾斜地のこう配が30度を超え始める点(=がけ面の下端)を含む水平面に対し30度の角度をなす面より上部に地表面がある土地と説明し、宅地造成及び特定盛土等規制法等による擁壁も「がけ(人工がけ)」になるとしています。

川崎市の条文には、硬岩盤(こうがんばん=かたい岩の地盤)を「がけ」から除く定めがありません。土質は、がけに当たるかどうかではなく、第1項ただし書第1号(がけの形状又は土質により安全上支障がない部分)のほうで効きます。「うちは岩だから外れる」とは読めません。土質の見分けと、こう配・高さの測定は、建築士に見てもらってください。

がけが段状になっている場合の扱いも、市の解説に書かれています——上層のがけ面の下端が、下層のがけ面の下端を含む水平面に対し30度の角度をなす面の上方にあるときは、その上下のがけは一体のものとみなします。下方にある場合は、それぞれ別のがけとみなします。2段の土留めがある敷地では、ここで結論が変わります。

距離の起点は「がけの下端」だけ。上に建てるか下に建てるかで入れ替わりません

上に建てても下に建てても、起点は下端です
上に建てても下に建てても、起点は下端です

条文は、「がけの下端から水平距離が、がけの高さの2倍以内の位置」とだけ書いています。がけの上か下かで、起点を入れ替えていません。市の解説の図1(がけ付近の範囲)も、がけ面の下端から、がけの下側にも上側にもがけの高さの2倍の幅を「がけ付近」として示しています。たとえば高さ4メートルのがけなら、下端から8メートルです。下端がどこかを図面で決めることが、最初の山場になります。

「がけの高さ」は、市の解説では、がけ面の下端から、がけ面の下端を含む水平面に対し30度の角度をなす面と、その面の上部における地表面との交点までの高さをいうとされています。斜面の見た目の全部が高さになるとは限りません。

そして対象は、建築物を建てる場合だけではありません。条文は「建築物を建築し、又は建築物の敷地を造成する場合」と書いています——造成の段階から、この規定はかかります。市の解説は、この適用範囲を、がけ面の下端からの水平距離ががけの高さの2倍以内の範囲において建築物を建築する場合、または敷地の造成(30センチメートルを超える切土もしくは盛土をいう)後のがけの高さが3メートルを超える場合、と説明しています。

なお第1項本文には、括弧書きの除外があります——土砂災害特別警戒区域内において居室(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋)を有する建築物を建築する場合は、第1項本文の対象から外れます。市の解説は、その部分には建築基準法施行令第80条の3の構造規制が適用されるためで、居室を有する建築物が当該区域に含まれない場合や、当該区域の内外にわたる場合、がけ上に建築する場合などには、本条による検討が必要だとしています。「レッドゾーンだから第5条は関係ない」とは読めません。

第5条第1項では、安全な擁壁と認められれば義務を満たせます——可否は別に決まります

安全な擁壁を設ければ、道はあります。まず見るのは、2倍以内に入るかどうかです。2倍を超えて離れていれば、第1項本文はかかりません——外れるのは第5条第1項本文だけで、災害危険区域・土砂災害の区域・法第19条第4項の確認は別に残ります。入るなら、義務の形は「離しなさい」ではなく「設けなさい」です。がけの形状もしくは土質、または建築物の位置・規模もしくは構造に応じて安全な擁壁を設ける——これを満たせば、第5条第1項については、原則として建てられます「原則として」と書くのには、理由があります——これは第5条第1項の義務を満たすという意味で、建築基準法第19条第4項、災害危険区域、土砂災害の区域は、別に確認してください。

「安全な擁壁」の中身について、市の解説は、「盛土規制法に基づく許可の手引き」(川崎市)によることができるとしています。既存の擁壁がこの手引きによって造られているか判断できない場合は、「宅地擁壁老朽化判定マニュアル(案)」(国土交通省)、「我が家の擁壁チェックシート(案)」(国土交通省)、「2020年版 建築物の構造関係技術基準解説書」3.12.5 擁壁の内容等が判断の参考になる、とも書いています。あわせて市の解説は、開発許可や盛土規制法の許可を取得した区域内であっても、任意で設置した擁壁で手引きによらないものがあるため、擁壁ごとに適切に判断する必要があること、設置当時は安全な擁壁でも、想定より大きな荷重がかかる場合は再度検討が必要なことを注意しています。古い擁壁があるから安心、ではありません。

第5条第1項の擁壁の義務がかからない場合——ただし書の2号と、第2項の2つ

第5条第1項ただし書は、2つの号のどれかに当たる部分について、本文を適用しないと定めています。がけ全体でひとまとめに判定するのではなく、部分ごとに見る書き方です。ここで外れるのは、第5条第1項の擁壁の義務だけです——擁壁その他の措置が要らなくなるという意味ではありません。建築基準法第19条第4項は、がけ崩れ等による被害を受けるおそれがあれば別にかかります。

  • 第1号(形状・土質で安全)——がけの形状又は土質により安全上支障がない部分。市の解説は、がけの安全性の検討は「川崎市斜面地建築物技術指針」(川崎市)によることができるとし、同指針3.2の事前調査における斜面地の安全度評価では、斜面の土質が土丹(どたん)もしくは安定したロームから構成され、安息角(あんそくかく=土が自然に安定する角度)を満足し、斜面地安全度判定表の点数が9点以下の場合のみ、安定した斜面(ランクⅠ)と扱うことができる、と書いています。切土によりがけが生ずる場合は、その角度が安息角以下であれば形状及び土質により安全上支障がない部分と扱うことができ、土質試験等に基づく地盤の安定計算でがけの安全が確かめられた場合も同様とされています
  • 第2号(上部の盛土)——がけの上部の盛土の部分で、高さが1メートル以下、斜面のこう配が30度以下であり、かつその斜面を芝その他これに類するもので覆ったもの。市の解説は、既存のがけについて第1号と同様に安全性が確認できた場合に限ると書いています。盛土に芝を張れば足りる、ではありません

さらに第2項は、次のどちらかに当たるときは第1項の規定を適用しないと定めています。市の解説は、これを、がけが隣接地にある場合等で擁壁を築造できないときを想定した規定と説明し、がけが敷地内にある場合は、第1項に規定する擁壁を設けることが望ましいとしています。

  • 第1号(がけの上に建てる)——当該建築物の基礎の応力が、がけに影響を及ぼさないとき。市の解説は、建築物の構造・がけの位置等を総合的に判断し、基礎の安全性が確保でき、かつがけの崩壊を誘発しないときをいい、「川崎市斜面地建築物技術指針」によることができるとしています。例として、基礎の底盤、杭、深層混合処理工法や小口径鋼管杭等を用いた杭状地盤補強等の底面を、がけ面の下端から水平面に対し30度または安息角以深の層に支持させたときで、がけが安定している場合が挙げられています(安息角で検討する場合は、地質調査等によりがけ面の土質を把握できている場合に限る、とされています)。解説はあわせて、基礎の応力ががけに影響を及ぼさない場合でも、敷地内の既存擁壁や法面は土地所有者の管理によるため、安全性については設計者の責任において検討する必要があるとも書いています
  • 第2号(がけの下に建てる)——当該建築物の構造耐力上主要な部分(がけ崩れによる被害を受けるおそれのない部分を除く)を鉄筋コンクリート造とし、またはがけと当該建築物との間に鉄筋コンクリート造の流土止(りゅうどどめ=崩れてきた土を受け止める壁)を設けたとき。市の解説は、鉄骨鉄筋コンクリート造を含むこと、建築物の側面についてもがけ崩れによる被害を受けるおそれのある場合は本号の適用を受けること、構造耐力上主要な部分や流土止については令第80条の3(土砂災害特別警戒区域内における居室を有する建築物の構造方法)に定められた基準の考え方を準用する等、衝撃力等も考慮した構造計算等により安全上支障のないものとする必要があること、被害を受けるおそれがある部分に開口部を設ける場合は、土砂が建築物の内部に流入しないような対策等を行う必要があることを示しています

そして市の解説は、がけの中腹に建築物を建築する場合には、第1号及び第2号の規定をいずれも満足する必要があると書いています。どちらか一方では足りません。

この2号と2つの場合は、素人が自分で判定するための一覧ではありません。どれに当たるかを確認するのは設計者(建築士)で、条例の当てはめの相談先は川崎市まちづくり局です。順番は、まず建築士に測量図・断面図・配置案を作ってもらい、その図面を持って市の窓口へ、です——図面が無いまま窓口に行っても、当てはめは決まりません。

がけの上に建てるなら、排水の措置も要ります(第5条第3項)

3 高さ3メートルを超えるがけの上にある建築物の敷地には、がけの上部に沿って排水溝を設ける等、がけへの流水又は浸水を防止するための適当な措置を講じなければならない。

川崎市建築基準条例 第5条第3項

第3項はがけの上の話です。市の解説は、がけ面に雨水等が流入し、がけの安定に影響を及ぼすことを防止するため、がけの上部に沿って排水溝を設置することや、がけ面に雨水等が流入しないように水勾配をとる等の防護措置を講ずることを定めた規定だとしています。がけの中腹に建築物を建築する場合には、敷地の周囲に排水溝を設置する等の防護措置を講ずる必要があるとも書かれています。第1項ただし書や第2項に当たって擁壁が要らない場合でも、第3項は別の義務です——第3項には、ただし書がありません。

災害危険区域(第3条・第4条)——がけに直接面する居室は、原則として置けません

川崎市建築基準条例 第3条は、建築基準法第39条第1項の災害危険区域を、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律第3条第1項により神奈川県知事が指定した急傾斜地崩壊危険区域(土砂災害特別警戒区域を除く)で、市長が定める区域としています。市の解説は、「市長が定める区域」とは特定行政庁(=許可・認定や是正命令を受け持つ役所。川崎市では市長)が指定・公告した区域だと説明しています。

第4条は、災害危険区域内において居室を有する建築物を建築する場合に、第5条の規定によるほか、その建築物の基礎及び主要構造部を鉄筋コンクリート造その他これに類する構造とし、かつその居室はがけに直接面していないものでなければならない、と定めています(がけ崩れによる被害を受けるおそれのない場合はこの限りでない、というただし書があります)。市の解説は、対象を用途や規模を問わず、居室を有する建築物としており、居室を有する建築物が災害危険区域の内外にまたがる場合は、建築物の全てが区域内に含まれるものとして本条を適用すると書いています。

解説によれば、災害危険区域内で土砂災害特別警戒区域の指定を受けた区域については、居室を有する建築物にかかる令第80条の3の構造規制の適用を優先し、災害危険区域の指定から除いていること、ただし土砂災害特別警戒区域であっても、居室を有する建築物として令第80条の3の適用を受けない部分については本条例による検討を要することを書いています。また、急傾斜地崩壊危険区域内で切土・盛土・掘削等(急傾斜地法第7条第1項各号の行為)を行う場合は、原則として神奈川県知事の許可が必要です(急傾斜地法第7条第1項ただし書に、非常災害のための応急措置などの例外があります)。区域の指定は変わり得ます——計画の時点で、市の窓口で確かめてください。

レッドゾーン・イエローゾーンと、法第19条第4項は、別に残ります

第5条の擁壁を設けても、次の3つは別に残ります。

  • 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)——指定するのは神奈川県知事です。区域内で居室を有する建築物を建てる場合、建築基準法施行令第80条の3の構造規制がかかります(土砂災害防止法と法施行令による全国共通の仕組みで、この条例とは別です)
  • 土砂災害警戒区域(イエローゾーン)——こちらは構造規制ではなく、警戒避難体制の区域です。ただし、第5条のがけに当たるかどうかは、区域の内外とは関係なく決まります——イエローゾーンに入っていないことは、第5条が外れる理由になりません
  • 建築基準法第19条第4項——建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合は、擁壁の設置その他安全上適当な措置が別に必要です。この規定に、がけの高さの下限はありません——高さ3メートル以下でも、かかり得ます

レッドゾーンでは、確認申請そのものが増えることがあります。土砂災害防止法第25条が、こう定めているからです——特別警戒区域(建築基準法第6条第1項第3号に規定する区域を除く。)内における居室を有する建築物同項第1号又は第2号に掲げるものを除く。)を、同項第3号の区域内の建築物とみなして、法第6条から第7条の5まで・第18条・第89条・第91条・第93条を適用します。つまり、都市計画区域の外で通常は建築確認の対象にならない規模でも、確認が必要になり得ます「敷地の過半」は、第25条の条文には書かれていません——第25条が適用する法第91条が、敷地が区域の内外にわたる場合は敷地の過半の属する区域の規定によると定めています(ちょうど半分は「過半」ではありません)。なお、法第6条第1項第1号は別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物でその用途に供する部分の床面積の合計が200平方メートルを超えるもの、第2号は二以上の階数を有し、又は延べ面積が200平方メートルを超える建築物です。

区域に入っているかどうかは、川崎市の防災情報ポータルサイトガイドマップかわさきで当たりを付けられます——住所または地番で計画地を出し、「土砂災害警戒区域」「土砂災害特別警戒区域」「災害危険区域」の表示を見て、その画面を建築士と窓口に持っていくという順です。最終確認は、レッドゾーン・イエローゾーンは神奈川県の告示図書(法定図書)で、災害危険区域は川崎市長の指定・公告で行ってください(指定するのは、前者が神奈川県知事、後者が市長です)。レッドゾーン内で建てる場合の構造の考え方と、改修への補助の枠組みは、レッドゾーンの家と土地で整理しています。

レッドゾーンでどんな構造が求められるかは、土砂災害特別警戒区域で求められる構造にまとめています(区域に入るかどうかの判定と、この条例の当てはめは、上の窓口で確かめてください)。

既存の建物の増築・改築・用途変更——第5条は、条例の緩和の列挙に入っていません

既存不適格(きそんふてきかく=建てたときは適法だった建物)には、建築基準法第3条第2項により、その適合しなくなった規定が原則として適用されません。ただし増築・改築・移転・大規模の修繕・大規模の模様替をすると、法第3条第3項第3号・第4号により緩和が切れて条例が適用されるのが原則です。

川崎市建築基準条例の第63条(既存の建築物に対する制限の緩和)は、緩和する条を項ごとに列挙する形です。その列挙に、第5条(がけ付近の建築物)はありません。つまり、増築・改築などをするなら、がけの第5条は原則としてかかってきます。ただし第5条の義務は「安全な擁壁を設ける」ことなので、既にあるものが安全な擁壁と判断できれば足りる場合もあり得ます——個別の当てはめは、市の窓口で確かめてください。

なお、第61条の4(特殊の構造方法又は建築材料を用いる建築物に対する制限の緩和)は、法第38条の規定に該当する建築物について市長が同等以上の効力があると認めた場合に適用しない条を列挙しており、そこには第5条第1項若しくは第3項が入っています。これは国土交通大臣の認定を受けた建築物についての話で、一般の住宅の話ではありません。また第62条(仮設建築物に対する制限の緩和)の列挙に第5条はありません。

建築基準法の側の緩和も見ておきます。法第86条の7第1項が列挙しているのは法第20条・第21条・第48条といった法自身の条で、法第39条・第40条に基づく条例の規定は入っていません(同条第2項・第3項も同じです)。法第86条の7のほうで、この条例に届くのは第4項(移転)です——同項が対象にする「建築基準法令の規定」には条例が含まれます(法第6条第1項の定義)。同一敷地内の移転か、交通上・安全上・防火上・避難上・衛生上・市街地の環境の保全上支障がないと特定行政庁が認める移転では、法第3条第3項にかかわらず既存不適格の扱いが継続します(施行令第137条の16)。どの移転でも扱いが続く、という意味ではありません。

用途変更——工事を伴わない用途変更でも、建築基準法第87条第2項により、法第39条第2項・第40条に基づく条例の規定は用途変更に準用されます。既存不適格の建物の用途変更については、法第87条第3項が列挙する規定(またはそれらに基づく条例規定)が原則として準用され、増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合(第1号)や、政令で指定する類似の用途相互間の変更で一定の条件を満たす場合(第2号)は、この準用から除かれます。第1号に当たるときは、法第3条第3項で判断します。

罰則と是正命令は、相手が違います——建築主・所有者なども対象になり得ます

(罰則)
第65条 第4条、第5条第1項、第6条第1項若しくは第2項、(中略)の規定に違反した場合における当該建築物、工作物又は建築設備の設計者((中略)設計図書を用いないで工事を施工し、又は設計図書に従わないで工事を施工した場合(中略)においては当該建築物、工作物又は建築設備の工事施工者)は、500,000円以下の罰金に処する。

川崎市建築基準条例 第65条第1項(中略は引用者)

第5条第1項は、罰則の対象です。名宛人(なあてにん=この罰則を受ける人)は原則設計者で、設計図書を用いない・従わない施工では工事施工者に替わります。違反が建築主等の故意によるときは、設計者または工事施工者を罰するほか、建築主等にも同じ罰金刑が科されます(第65条第2項)。法人の代表者や、法人・人の代理人・使用人その他の従業者が業務に関して違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、法人または人にも罰金が科されます(第65条第3項の両罰規定)。第65条第1項の列挙は「第5条第1項」で、第3項(排水の措置)は挙げられていません——罰則が及ばないことと、義務が無いことは別です。第3項の義務は残ります。

是正命令は、建築主・所有者なども対象になり得ます(法第9条第1項)

罰則の名宛人が原則として設計者でも、是正命令の相手方は別です。建築基準法第9条第1項は、違反した建築物・敷地について、当該建築物の建築主、工事の請負人(下請人を含みます)・現場管理者、建築物または敷地の所有者・管理者・占有者に対して措置を命ずることができる、と定めています。故意かどうかは、この条の要件ではありません。命じられるのは工事の施工の停止のほか、除却(じょきゃく=取り壊し)・移転・改築・増築・修繕・模様替・使用禁止・使用制限その他、違反を是正するために必要な措置です。建てたあとに除却や使用禁止を命じられ得るのは、建築主・所有者などです——設計者は、設計者であることだけでは名宛人に挙げられていませんが、設計者が現場管理者を兼ねていれば名宛人になり得ます命令に従わないと、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です(法第98条第1項第1号)。

そして、確認申請が要らない計画でも、条例の適合義務は残ります——確認特例(法第6条の4・施行令第10条)による審査の省略は、建築物・設計者の区分と、法第39条から第41条までに基づく条例規定のうち特定行政庁が規則で定めた規定の範囲で決まり、適合の義務は審査の有無にかかわらず残ります。確認申請の提出先は、建築主事等のほか指定確認検査機関もあります。

窓口——川崎市まちづくり局です

  • 条例・解説と取扱いに関する相談——まちづくり局建築審査課。区で担当が分かれます。意匠南部担当 044-200-3044(川崎区・幸区・中原区)/意匠北部担当 044-200-3045(高津区・宮前区・多摩区・麻生区)
  • 条例に基づく許可の協議・調整——まちづくり局建築指導課 建築許可担当 044-200-3007または044-200-0319(市の条例・解説の巻末に記載された連絡先です)
  • 条例・解説のページについての問い合わせ——まちづくり局指導部建築管理課 044-200-3018
  • 土砂災害警戒区域・特別警戒区域の指定(告示図書)と、急傾斜地崩壊危険区域内の行為の許可——神奈川県。区域を指定するのは県知事です

まぎらわしいものが、もうひとつあります。川崎市には「川崎市建築行為及び開発行為に関する総合調整条例」もありますが、こちらは一定規模以上の建築行為・開発行為の手続を定めるもので、この記事のがけの規定とは別の条例です。斜面地の土地を調べるときは、どちらの話をしているのかを窓口で確かめてください。

売買契約の前に、専門家と確かめること

確かめるのは、土地の売買契約を結ぶ前です。買ったあとでは、擁壁の費用と配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。この一覧は、自分で判定するためのものではありません——測って図にするのは建築士、条例の当てはめは川崎市まちづくり局の窓口です。

  • ① 川崎市内のがけは、川崎市建築基準条例 第5条で決まります。(神奈川県建築基準条例は適用されません。県条例第53条第1項)。区域の指定は⑧⑨のとおり、法第19条第4項は⑩のとおり、別に確かめます
  • ② 敷地の中や周りに、こう配が30度を超える傾斜地で、高さが3メートルを超えるものがあるか。硬岩盤を除く定めはありません。宅地造成の擁壁も「がけ」になり得ます。段状のがけは、一体とみなすか別とみなすかで結論が変わります
  • ③ 建てる場所は、がけの下端からがけの高さの2倍以内か。2倍を超えて離れていれば、第1項本文はかかりません(外れるのは第5条第1項本文だけで、⑧⑨と法第19条第4項は別です)。起点は下端だけで、がけの上に建てるか下に建てるかで入れ替わりません。敷地の造成も対象です(市の解説は30センチメートルを超える切土または盛土を「造成」としています)
  • ④ かかるなら——安全な擁壁を設ければ、第5条第1項の義務は満たせます満たせるのは第5条第1項の義務だけで、⑧⑨⑩は別です)。「安全な擁壁」の判断は、市の解説が「盛土規制法に基づく許可の手引き」(川崎市)によることができるとしています
  • ⑤ 第1項ただし書の2つの号、または第2項の2つの場合に当たるか。ただし書は「該当する部分については」なので、がけの部分ごとに見ます。第2号(上部の盛土)は、市の解説では既存のがけの安全性が確認できた場合に限るとされています。がけの中腹に建てる場合は、第2項第1号と第2号のいずれも満たす必要があります
  • ⑥ 高さ3メートルを超えるがけの上に建築物の敷地があるなら第3項の排水の措置が計画に入っているか(第3項が対象にしているのは「がけの上にある建築物の敷地」で、第1項と違い、造成する場合とは書かれていません)。第3項にただし書はありません
  • ⑦ 既存の擁壁があるなら、資料と現況の確認から。市の解説は、開発許可や盛土規制法の許可を受けた区域内でも任意設置の擁壁があり得ること、設置当時より大きな荷重がかかる場合は再検討が要ることを注意しています
  • ⑧ レッドゾーン・イエローゾーンに入っていないか。市の防災情報ポータルサイトやガイドマップかわさきで当たりを付け、最終確認は神奈川県の告示図書で。レッドゾーン内で居室を有する建築物を建てる場合は、第1項本文の括弧書きで第5条第1項の対象から外れますが、令第80条の3の構造規制がかかります。がけ上に建てる場合や、区域の内外にわたる場合は、第5条の検討が必要です
  • ⑨ 災害危険区域に入っていないか(指定・公告するのは川崎市長です)。入っていれば第4条により、基礎及び主要構造部を鉄筋コンクリート造その他これに類する構造とし、がけに直接面する居室は、原則として置けませんがけ崩れによる被害を受けるおそれのない場合は、この限りでないというただし書があります)。急傾斜地崩壊危険区域内での切土・盛土・掘削等には、原則として神奈川県知事の許可が要ります
  • ⑩ 条例の数字に届かなくても、建築基準法第19条第4項は別に確かめる。建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合には、擁壁の設置その他安全上適当な措置が要ります——この規定に、がけの高さの下限はありません。高さ3メートル以下でもかかり得ます
  • ⑪ 既存の建物の増築・改築・用途変更は、適用関係を窓口で。条例第63条の緩和の列挙に、第5条はありません
  • ⑫ 建築確認が不要でも、条例の適合義務は残ります。確認申請の提出先は建築主事等のほか指定確認検査機関もあります。違反すれば、条例第65条の罰則(50万円以下の罰金)や、建築基準法第9条の是正命令の対象になり得ます

参考にした資料(2026年9月5日に原文を確認。神奈川県条例の改正(第2条の2・第2条の3の削除と第53条の改正)は、2026年9月6日に県公報で確認しました

  • 建築基準法(e-Gov法令検索・第3条・第4条・第6条・第6条の4・第9条・第19条第4項・第38条・第39条・第40条・第85条・第86条の7・第87条・第88条・第91条・第98条)

同じ県の記事

製品・技術・見積についてご相談ください

お電話でのご相談(フリーダイヤル・平日9:00〜18:00) 0120-1181-46(イイヘイヨロ)

ご相談・お見積は無料です。原則1〜2営業日以内にご返信します。