藤沢市で、崖の近くに家を建てる・土地を買う人へ——最初に答えから。
先にすることは、3つです。崖の規定がかかっても、建てられないと決まったわけではありません。まず、土地の売買契約を結ぶ前に動く(すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に)——買ったあとでは、擁壁(ようへき=崖の土が崩れないよう支える壁)の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。つぎに、建築士に現況の測量図・断面図・配置案を用意してもらう。そのうえで、その図面を持って藤沢市の窓口へ、条例の当てはめを確かめる。高さも角度も距離も、目測で判断しないでください。
建築士に頼む前に、今日できることがあります——不動産会社(売主側)に、その土地の「現況測量図」「擁壁の設計図・構造計算書」「検査済証」が残っているかを聞いてください。残っていなければ、それ自体が費用の話になります。建築士に測ってもらうのは、買付申込を出す前——申込のあとでも、売買契約に署名する前です。擁壁の費用は、高さ・長さ・地盤で決まります。同じ敷地でも置く位置で変わるので、値段が決まる前に図面が要ります。
この記事でいう「崖」は、地表面が水平面に対し30度を超える角度をなす土地で、高さが2メートルを超えるものです。擁壁ひとつぶんの高さ、階段十数段ぶんの高低差でも当たり得ます。「うちのは崖というほどのものではない」という感覚は、条文の線引きとは別物です。まず測ってください。なお、高さ2メートル以下なら安心、ではありません——災害危険区域の第4条にも、建築基準法第19条第4項にも、崖の高さの下限はありません(あとの節で書きます)。
- ①その土地は藤沢市内ですか。はい=藤沢市建築基準等に関する条例 第5条です。神奈川県建築基準条例は適用されません(同条例第53条第1項)。2026年3月31日までは、災害危険区域を定めた第2条の2・第2条の3だけが例外でしたが、その2条は2026年4月1日に削除されました(あとの節で書きます)。藤沢市は、法第40条に基づく条例(第5条)も、法第39条第1項に基づく条例(第3条・第4条)も持っています——災害危険区域は、藤沢市の条例で見ます。名前は「建築基準条例」ではなく「建築基準等に関する条例」です(探すときも、この名前で)。
- ②藤沢市の第5条は、高さ2メートルを超える崖の上または下で、崖の上にあっては崖の下端(かたん=斜面の低いほうの足元)、崖の下にあっては崖の上端(じょうたん=斜面の高いほうの肩)からの水平距離が崖の高さの2倍の範囲内のときに、安全な擁壁を設けなければならないと定めています。
- ③この「2倍」は、規定がかかるかどうかの線引きです——2倍を超えて離れていれば、第1項本文はかかりません(外れるのは第1項本文だけです——災害危険区域・土砂災害の区域・法第19条第4項は、別に確認してください)。けれど2倍の範囲に入るなら、義務の形は「離しなさい」ではなく「設けなさい」です。
- ④安全な擁壁を設ければ、第5条第1項については原則として建てられます。第1項ただし書の2つの号に当たると、その当たった部分についてだけ本文が適用されません。第2項の3つの号のどれかに当たる場合は、第1項本文が適用されません——外れる範囲が違います。
- ⑤ただし、災害危険区域(第3条・第4条)・レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)・イエローゾーン(土砂災害警戒区域)・法第19条第4項は、別に残ります。(条例・解説・質問と回答は2026年9月5日に原文を確認しました。神奈川県建築基準条例の2026年4月1日改正は、2026年9月6日に県公報・新旧対照表・県の解説で確認しました)。
藤沢市内なら、藤沢市建築基準等に関する条例 第5条です

「がけ条例」という名前の条例はありません。藤沢市では、建築基準法第39条・第40条などに基づく藤沢市建築基準等に関する条例の第5条(崖付近の建築物)が、崖に近い建築物の決まりです。この条例は、平成31年4月1日に施行されました。市は「平成31年3月31日までは、神奈川県建築基準条例が適用されます」と、切り替わりの日付をはっきり書いています。規制が無くなるのではなく、読む条例が入れ替わりました。藤沢市内の土地について調べるときは、藤沢市の条文の数字で読んでください。
(適用の除外)
神奈川県建築基準条例 第53条第1項(2026年4月1日施行の現行)
第53条 この条例は、法第4条第1項又は第2項の規定により建築主事を置く市町村が法第40条又は法第43条第3項の規定に基づき条例を定めたときは、その条例の効力が発生した時から、当該市町村の区域内においては、適用しない。
この第53条は、2026年4月1日に変わりました。2026年3月31日までは、第1項に「(第2条の2及び第2条の3の規定を除く。)」という括弧書きがあり、災害危険区域を定めた第2条の2・第2条の3だけは第1項では外れず、同条第2項(市が法第39条第1項又は第2項に基づく条例を定めたとき)で外れる形でした。2026年4月1日の改正で、第2条の2・第2条の3は削除され、第1項の括弧書きも、その2条を外していた第2項も、罰則の第59条第1項にあった「第2条の3、」も削られています(神奈川県公報 令和7年12月23日 号外第70号・神奈川県条例第84号/県の新旧対照表)。いまは、第53条第1項だけで、県条例は藤沢市の区域では丸ごと外れます——適用除外の根拠に「第53条第1項・第2項」と書いてある資料は、2026年3月31日までの条文です。いまの第53条にも、第2項・第3項はあります——改正前の第3項・第4項が繰り上がったもので、自然公園の特別地域などで一部の条を適用しないという、市が外れる話とは別の規定です。県の解説は削除の理由を、土砂災害特別警戒区域の指定が令和3年度までに完了し、法により制限を受ける区域が整理されたためと書いています。県が所管する区域でも、「急傾斜地崩壊危険区域=災害危険区域」ではなくなりました——ただし藤沢市の災害危険区域は、市の条例(第3条・第4条)で別に定められていますし、急傾斜地崩壊危険区域そのものも残っています(急傾斜地法第7条第1項の知事の許可。窓口は建築の窓口とは別で、所在地を所管する県の土木事務所・治水事務所です。担当課の名前は事務所によって違います)。なお改正条例の附則は、「この条例の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による」と定めています。
ひとつ注意があります。神奈川県が公開している「神奈川県建築基準条例等の解説(一括版)」は平成30年12月13日版で、藤沢市の条例が施行される前のものであり、2026年4月1日の改正よりも前のものです。そのため、この県の解説の中では藤沢市がまだ「県条例が適用される市」として書かれている箇所があり、削除された第2条の2・第2条の3も現行の条文として載っています。古い資料を読むと、逆の答えが出ます。藤沢市内の土地については、藤沢市の条例と市の解説を見てください。
なお藤沢市は、法第40条に基づく第5条に加えて、法第39条第1項に基づく第3条(災害危険区域の指定)と第4条(災害危険区域内の建築物)も自分の条例に持っています。崖のことも、災害危険区域のことも、藤沢市の条例で読みます。市は全条文に解説を付け、「質問と回答」(2026年3月更新)も公開しています。
(崖付近の建築物)
藤沢市建築基準等に関する条例 第5条第1項
第5条 高さ2メートルを超える崖の上又は崖の下において、崖の上にあっては崖の下端、崖の下にあっては崖の上端からの水平距離が崖の高さの2倍の範囲内に建築物を建築し、又は建築物の敷地を造成する場合には、崖の形状若しくは土質又は建築物の位置、規模若しくは構造に応じて、安全な擁壁を設けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する部分については、この限りでない。
(1)崖の形状又は土質により安全上支障がない部分
(2)崖の上部の盛土の部分で、高さが1メートル以下、斜面の勾配が45度以下であり、かつ、その斜面をモルタルその他これに類するもので覆ったもの
どこからが「崖」か——勾配30度超・高さ2メートル超。土質で崖から外す定めはありません
藤沢市の条文は、「崖」を「地表面が水平面に対し30度を超える角度をなす土地」と定義しています。この定義は第4条第2項の括弧書きにあり、「以下同じ。」と続く——つまり第5条にも及びます。そのうえで第5条は、高さ2メートルを超えるものを対象にしています。30.0度ちょうど・2.0メートルちょうどは、当たりません(条文は「超える」です)。市の解説も、地上面の勾配(水平面となす角度をいう)が30度を超える土地で、高さが2メートルを超えるものを対象とする、と書き、図5-1で「崖の例」と「崖でない例」を並べています。
「2メートル超」は、思っているより低い線です。擁壁ひとつぶんの高さ、階段十数段ぶんの高低差でも、勾配が30度を超えていれば条文の「崖」に当たり得ます。「うちのは崖というほどのものではない」という感覚は、条文の線引きとは別物です。敷地の中の段差も、隣地との高低差も、まず測ってください。
市の解説は、そこにもうひとつ大事なことを書いています——「対象となる形状の崖に擁壁等の土留めがある場合についても、その安全性が確認できない場合は本条の対象となります」。すでに擁壁が立っていることは、第5条が外れる理由になりません。第5条第1項が求めているのは、崖の形状もしくは土質、または建築物の位置・規模もしくは構造に応じた「安全な擁壁を設ける」ことです。ですから、既存の擁壁がその「安全な擁壁」だと確認できれば、第5条第1項の義務は満たしていることになります——問われているのは、擁壁があるかどうかではなく、安全性を確認できるかどうかです。「質問と回答」の5-1は、既存の擁壁の安全性は設計者が確認することになり、確認の方法は設計者の責任において判断すると答えています——市が代わりに判定してくれるものではありません。確認した資料は、建築指導課への事前相談に持っていってください。
藤沢市の条文には、硬岩盤(こうがんばん=かたい岩の地盤)など、土質を理由に「崖」から除く定めがありません。土質は、崖に当たるかどうかではなく、第1項ただし書第1号(安全上支障がない部分)のほうで効きます。「うちは岩だから外れる」とは読めません。土質の見分けと、勾配・高さの測定は、建築士に見てもらってください。
距離の起点は、崖の上に建てるか下に建てるかで入れ替わります
ここが、藤沢市の第5条でいちばん間違えやすいところです。条文は「崖の上にあっては崖の下端、崖の下にあっては崖の上端からの水平距離」と書いています。
- 崖の上に建てるなら、起点は「下端」——足元の、遠いほうの点から測ります
- 崖の下に建てるなら、起点は「上端」——肩の、遠いほうの点から測ります
建てる場所によって、測り始める点が入れ替わります。どちらの場合も崖をはさんで向こう側の端が起点になるので、崖の斜面の幅のぶんだけ、対象の範囲は広くなります。たとえば高さ3メートルの崖なら、その起点から6メートルの範囲が対象です。どちらの点から測るのかを最初に決めることが、山場になります。
市の解説は、範囲についてもうひとつ注意を置いています——「崖と建築物の間に当該建築物以外の敷地がある場合についても、対象範囲は同様となります」。崖が自分の敷地の外でも、他人の土地をはさんでいても、2倍の範囲に入れば第5条はかかります。「うちの敷地に崖はない」で終わらせないでください。
そして対象は、建築物を建てる場合だけではありません。条文は「建築物を建築し、又は建築物の敷地を造成する場合」と書いています——造成の段階から、この規定はかかります。先に土地を平らにしてから家の計画を考える、という順番だと、造成の時点ですでに第5条の当てはめが始まっています。
安全な擁壁を設ければ、第5条第1項については原則として建てられます
安全な擁壁を設ければ、道はあります。2倍の範囲に入るなら、義務の形は「離しなさい」ではなく「設けなさい」です。崖の形状もしくは土質、または建築物の位置・規模もしくは構造に応じて、安全な擁壁を設ける——これを満たせば、第5条第1項については、原則として建てられます。「原則として」と書くのには、理由があります——これは第5条第1項の義務を満たすという意味で、災害危険区域、土砂災害の区域、建築基準法第19条第4項は、別に確認してください。
高さ2メートルを超える擁壁は、建築基準法施行令第138条第1項第5号により法第88条第1項の工作物に指定されており、建築主事等(=市で建築確認を受け持つ職員)または指定確認検査機関(=国や県の指定を受けて確認・検査を行う民間の機関)の確認を受ける必要があります——擁壁そのものにも手続きがあります。ただし、盛土規制法などの許可を受けなければならない場合の擁壁については、法第88条第1項のうち確認・検査に関する部分が適用されません(法第88条第4項)——手続きが無くなるのではなく、許可のほうへ移ります。擁壁を「設ければ終わり」ではなく、その擁壁の手続きと検査まで含めて計画に入れてください。
ただし書は2つ。「当該部分については」と書かれています
第5条第1項ただし書は、2つの号のどれかに当たる場合に、当該部分については本文を適用しないと定めています。崖全体でひとまとめに判定するのではなく、部分ごとに見る書き方です。当たった部分については本文が外れますが、当たらない部分には残ります。
- 第1号(安全上支障がない部分)——「崖の形状又は土質により安全上支障がない部分」。市の解説は、斜面の安定計算やその他学術的な検討により安全が確かめられたものとし、例として盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)施行令第8条による擁壁の要否の考え方を挙げています。同令別表第1は、切土の場合に擁壁を要しない勾配の上限/擁壁を要する勾配の下限を土質ごとに定めており——砂利、真砂土(まさど)、関東ローム、硬質粘土その他これらに類するものは35度/45度、風化の著しい岩は40度/50度、軟岩(風化の著しいものを除く)は60度/80度です。市の解説は、その直後に「土質の形状等により、必ずしも安全上支障がないと判断できないケースがあります」と打ち消しています——表の角度に収まっているから外れる、とは読めません
- 第2号(崖の上部の盛土の部分)——崖の上部の盛土の部分で、高さが1メートル以下、斜面の勾配が45度以下であり、かつその斜面をモルタルその他これに類するもので覆ったもの。市の解説は、これを既存の崖(盛土でない)の上部に盛土をする場合の規定と位置づけ、覆うものの例に石張り、芝張り、モルタル吹付け等を挙げています。そして「なお、既存の崖については、前号と同様に安全上支障がないと判断されたものに限ります」と書いています——盛土の部分が外れても、その下の既存の崖が第1号に当たらなければ、本文は残ります
第2項は3つ。当たれば、第1項本文は適用されません
2 前項本文の規定は、次の各号のいずれかに該当するときは、適用しない。
藤沢市建築基準等に関する条例 第5条第2項
(1)崖の上に建築物を建築する場合において、当該建築物の基礎が崖に影響を及ぼさないとき。
(2)崖の下に建築物を建築する場合において、当該建築物の主要構造部(崖崩れによる被害を受けるおそれのある部分に限る。)を鉄筋コンクリート造とし、又は崖と当該建築物との間に崖崩れによる被害を防止するために必要な施設を設けたとき。
(3)崖の下に建築物を建築する場合において、その建築物が居室を有しないとき。
市の解説は、この第2項を「本項では崖崩れによっても建築物が崩壊しない対策を講じた場合には前項の規定を適用しないこととしています」と説明しています。「安いほうを選ぶための逃げ道」ではありません——どちらも、構造の検討と図面が要ります。ここで出てくる主要構造部(しゅようこうぞうぶ)は、建築基準法第2条第5号の言葉で、壁・柱・床・はり・屋根・階段を指します(構造上重要でない間仕切壁、間柱、付け柱、揚げ床、最下階の床、小ばり、ひさし、局部的な小階段、屋外階段などは除かれます)。「家じゅうをコンクリートで固めなさい」という意味ではありません——この先に見るとおり、鉄筋コンクリート造にする範囲が決められています。
- 第1号(崖の上・基礎)——市の解説は、基礎の根入れ(ねいれ=基礎を地中に埋め込む深さ)を、崖の下端から土質により算出した角度をなす面より深くすることや、地盤改良により基礎の応力が崖に影響を及ぼさない場合をいう、としています。図5-5はL(崖の下端から基礎までの水平距離)は崖の高さHの0.7倍以上を示し、角度θ1はHが5メートルを超えるなら別表第1の中欄、5メートル以下なら下欄によるとしています。杭基礎については「質問と回答」5-2〜5-5が、支持層への到達・杭頭の緊結・摩擦杭の扱いを答えています(建築士向け)
- 第2号(崖の下・鉄筋コンクリート造または施設)——主要構造部のうち崖崩れによる被害を受けるおそれのある部分に限って鉄筋コンクリート造とするか、崖と建築物とのあいだに崖崩れによる被害を防止するために必要な施設(市の解説は流土止めを例に挙げています)を設ける。図は、崖の高さの2倍(2H)の範囲を対象とし、その中で3分の1(1/3H)や3分の2(2/3H)を目安に範囲を示しています。流土止めのLは1.5メートル以上(または設計上必要な距離)です。市の解説は、政令第80条の3の適用を受ける建築物で国土交通大臣が定めた構造方法を用いたもの等は本号に該当する、とも書いています
- 第3号(崖の下・居室を有しない)——崖の下に建てる建築物が居室(きょしつ=居住・執務・作業・集会・娯楽などのために継続的に使う室。建築基準法第2条第4号)を有しないとき。これは崖の下に建てる場合だけの号です——条文が「崖の下に建築物を建築する場合において」と限っているので、崖の上には使えません。そして条文は「その建築物が居室を有しないとき」と書いています——主語は建築物で、建築物の一部ではありません。ただし市の解説は、この第3号について説明を置いていません(私たちが確かめた範囲では、解説にも「質問と回答」にも第3号の記述は見当たりませんでした)。住宅として使う建物がこの号に当たるかどうかは、建築指導課で確かめてください
第2号を使うなら、開口部に強い制限がかかります。「質問と回答」5-8は、崖崩れによる被害を受けるおそれのある部分の主要構造部を鉄筋コンクリート造とした場合、その部分に開口部を設けることは原則禁止と答えています。例外は開口面積100平方センチメートル以下で、その周囲に径12ミリメートル以上の補強筋を配置した給気口または排気口に限る——第2号を選んだ場合の、鉄筋コンクリート造にしたその部分に、窓は置けません(擁壁を設ける道=第1項を選ぶなら、この制限は出てきません)。4-1も、居室を有しない建築物であっても、第2号で第1項を適用しないものとする場合は原則として開口部の設置を禁止するとしています。「崖側にも窓が欲しい」という前提で間取りを描いてから相談すると、描き直しになります。
第2項が外すのは第1項本文です。次に見る第3項(排水)は、別に残ります。
崖の上に建てるなら、排水の措置も要ります(第5条第3項)
3 高さ2メートルを超える崖の上にある建築物の敷地については、崖の上部に沿って排水溝を設ける等崖への流水又は浸水を防止するために必要な措置を講じなければならない。
藤沢市建築基準等に関する条例 第5条第3項
第3項は崖の上の話です。市の解説は「崖への流水等の進入により崖の崩落等を保護するため」の規定と説明し、原則として崖の上部に排水溝を設ける措置が必要としつつ、崖の上部の勾配を崖とは反対側にするなど崖への流水等を防止するための適当な措置を講じた場合は、必ずしも排水溝を設ける必要はない、としています。第3項にただし書はありません。第1項ただし書に当たって擁壁が要らない場合でも、第2項に当たって第1項が適用されない場合でも、第3項は別の義務として残ります——そして後で見るとおり、第3項も罰則の対象です。また第3項の起点は「高さ2メートルを超える崖の上にある建築物の敷地」で、2倍の範囲かどうかを問うていません。
災害危険区域(第3条・第4条)——急傾斜地崩壊危険区域から、レッドゾーンを除いたもの
第3条は、法第39条第1項の災害危険区域を、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律第3条第1項により指定された急傾斜地崩壊危険区域(土砂災害防止法第9条第1項により土砂災害特別警戒区域として指定された区域を除く)と同一の区域とする、と定めています。区域を指定するのは神奈川県知事です。レッドゾーンを除く括弧書きは、条文そのものに入っています——解説だけの運用ではありません。市の解説は、その理由をレッドゾーンには法による構造規制(政令第80条の3)が適用されるからと説明しています。危険がないから外れるのではなく、別の規制が代わりにかかるから外れています。ただし、令第80条の3がかかるのは「居室を有する建築物」です——レッドゾーンに居室を有しない建築物を建てる場合、令第80条の3はかからず、しかも第3条の災害危険区域からも外れています。どの規定がかかるのかは、建物の用途によって変わります——窓口で確かめてください。
(災害危険区域内の建築物)
藤沢市建築基準等に関する条例 第4条
第4条 災害危険区域内において居室を有する建築物を建築する場合においては、当該建築物の基礎及び主要構造部は、鉄筋コンクリート造又はこれに類する構造としなければならない。
2 災害危険区域内において居室を有する建築物を建築する場合においては、当該建築物の崖(地表面が水平面に対し30度を超える角度をなす土地をいう。以下同じ。)に面する当該崖の上端の高さより低い部分には、居室の窓その他の開口部を設けてはならない。
3 前2項の規定は、当該建築物が崖崩れによる被害を受けるおそれのない場合においては、適用しない。
第4条の崖には、高さの下限がありません。市の解説がはっきり書いています——「本条における崖とは、勾配が30度を超える傾斜地をいい、崖の高さにかかわらず適用されます」。2メートル以下でもかかります。対象は居室を有する建築物で、市の解説は用途、規模に関係なく居室を有するものすべてとしています。求められるのは①基礎及び主要構造部を鉄筋コンクリート造またはこれに類する構造(鉄骨鉄筋コンクリート造等)とすること、②崖に面する、崖の上端の高さより低い部分に居室の窓その他の開口部を設けないこと、の2つです。第2項についても小開口の例外(開口面積100平方センチメートル以下・径12ミリメートル以上の補強筋を配置した給気口または排気口)が示されています。
第3項の「崖崩れによる被害を受けるおそれのない場合」について、市の解説は4つを挙げています——急傾斜地法第12条第1項または第13条に規定する工事を行った崖に面する場合、建築物から崖の下端までの距離が当該崖の高さの2倍以上であって、崖崩れにより建築物に影響を及ぼすおそれのない場合、崖に面さない建築物の部分および崖の上端より高い建築物の部分である場合、その他崖崩れによる被害を受けるおそれがないと認められる場合。2つ目には距離だけでなく「おそれのない場合」が付いています——離れていれば自動的に外れる、とは書かれていません。また、急傾斜地崩壊危険区域内で切土・盛土・掘削等(急傾斜地法第7条第1項各号の行為)を行う場合は、神奈川県知事の許可が別に要ります。
レッドゾーン・イエローゾーンと、法第19条第4項は、別に残ります
第5条の擁壁を設けても、次の3つは別に残ります。
- 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)——指定するのは神奈川県知事です。区域内で居室を有する建築物を建てる場合、建築基準法施行令第80条の3の構造規制がかかります(土砂災害防止法と法施行令による全国共通の仕組みで、この条例とは別です)
- 土砂災害警戒区域(イエローゾーン)——こちらは構造規制ではなく、警戒避難体制の区域です。ただし、第5条の崖に当たるかどうかは、区域の内外とは関係なく決まります——イエローゾーンに入っていないことは、第5条が外れる理由になりません
- 建築基準法第19条第4項——建築物が崖崩れ等による被害を受けるおそれのある場合は、擁壁の設置その他安全上適当な措置が別に必要です。この規定に、崖の高さの下限はありません——高さ2メートル以下でも、かかり得ます
レッドゾーンでは、ふだんなら建築確認の要らない小さな建物でも、確認が必要になることがあります。土砂災害防止法第25条が、特別警戒区域内の居室を有する建築物を建築基準法第6条第1項第3号の区域内の建築物とみなして、法第6条から第7条の5まで・第18条・第89条・第91条・第93条を適用するからです(同項第1号・第2号に掲げるものと、同項第3号の区域は除かれます)。自分の計画に確認が要るかどうかは、窓口で確かめてください。なお、敷地が区域の内外にわたるときは、第25条が適用する法第91条により敷地の過半の属する区域の規定によります(ちょうど半分は「過半」ではありません——ちょうど半分になる場合にどちらの規定によるかは、この記事では確かめられませんでした。窓口で個別に確かめてください)。
区域に入っているかどうかは、藤沢市の土砂災害・洪水ハザードマップで当たりを付けられます。ただし、指定するのは県知事です——地図サービスの表示と告示が食い違うことがあるので、最終確認は神奈川県の告示図書(法定図書)で行ってください。見るところは、所在地または地図から、その土地が入る区域図です——見方が分からなければ、県の担当窓口か、藤沢市建築指導課に聞いてください。レッドゾーン内で建てる場合の構造の考え方と、改修への補助の枠組みは、レッドゾーンの家と土地で整理しています。
増築・改築の「50平方メートル以内」の緩和は、いまある建物のためのものです(新築には使えません)
既存不適格(きそんふてきかく=建てたときは適法だった建物)には、建築基準法第3条第2項により、その適合しなくなった規定が原則として適用されません。ただし増築・改築・移転・大規模の修繕・大規模の模様替をすると、法第3条第3項第3号・第4号により緩和が切れて条例が適用されるのが原則です。
藤沢市の条例には、第5条を名指しで緩和する規定が2つあります。ひとつは第96条(既存建築物の増築又は改築に対する制限の緩和)——第5条ほかの規定の適用を受けない建築物に係る、床面積の合計が50平方メートル以内の増築または改築については、これらの規定は適用しない。もうひとつは第96条の2第1項(大規模の修繕又は大規模の模様替)——第5条ほかの規定の適用を受けない建築物に係る大規模の修繕または大規模の模様替については、これらの規定は適用しない。
ただし、この緩和は「既存不適格の建物」が前提です。条文はどちらも「法第3条第2項の規定により……第5条……の規定の適用を受けない建築物に係る」と書いています。いま建てようとしている新築には関係しません。また50平方メートルという線は増築・改築の部分の床面積で、それを超えれば緩和は働きません。自分の計画がどちらに当たるかは、建築指導課で確かめてください。なお、法第85条第6項・第7項等の許可を受けた仮設興行場等については、第95条により第5条は適用されませんが、これは期間を限った仮設の建築物の話で、住宅には関係しません。
ここから先は、いまある建物を動かす・変える人向けです。新しく建てる人は読み飛ばして構いません。法第86条の7第1項が列挙しているのは法第20条・第21条・第48条といった法自身の条で、法第39条・第40条に基づく条例の規定は入っていません(同条第2項・第3項も同じです)。この条例に届くのは第4項(移転)だけです——同一敷地内の移転か、支障がないと特定行政庁(=許可・認定や是正命令を受け持つ役所。藤沢市では市長)が認める移転では、既存不適格の扱いが続きます(施行令第137条の16)。どの移転でも続く、という意味ではありません。
用途変更——工事を伴わない用途変更でも、建築基準法第87条第2項により、法第39条第2項・第40条に基づく条例の規定は用途変更に準用されます。既存不適格の建物の用途変更については、法第87条第3項が列挙する規定(またはそれらに基づく条例規定)が原則として準用され、増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合(第1号)や、政令で指定する類似の用途相互間の変更で一定の条件を満たす場合(第2号)は、この準用から除かれます。第1号に当たるときは、法第3条第3項で判断します。
罰金は原則、設計者に。ただし是正命令は、建築主・所有者も対象になり得ます
第4条第1項・第2項と第5条第1項・第3項は、罰則の対象です。藤沢市建築基準等に関する条例 第100条第1項第1号は、これらの規定に違反した建築物・工作物・建築設備の設計者(設計図書を用いないで工事を施工し、または設計図書に従わないで工事を施工した場合は工事施工者)を、50万円以下の罰金に処すると定めています。名宛人(なあてにん=この罰則を受ける人)は原則として設計者です。違反が建築主等の故意によるときは、設計者または工事施工者を罰するほか、建築主等にも同じ罰金刑が科されます(第100条第2項)。第5条第2項そのものに違反、ということはありません(罰則の対象は第1項と第3項です)——第2項は義務を課す規定ではなく、第1項本文を適用しない場合を定めた規定だからです。
是正命令は、建築主・所有者なども対象になり得ます(法第9条第1項)
罰則の名宛人が原則として設計者でも、是正命令の相手方は別です。建築基準法第9条第1項は、違反した建築物・敷地について、当該建築物の建築主、工事の請負人(下請人を含みます)・現場管理者、建築物または敷地の所有者・管理者・占有者に対して措置を命ずることができる、と定めています。故意かどうかは、この条の要件ではありません。命じられるのは工事の施工の停止のほか、除却(じょきゃく=取り壊し)・移転・改築・増築・修繕・模様替・使用禁止・使用制限その他、違反を是正するために必要な措置です。建てたあとに除却や使用禁止を命じられ得るのは、建築主・所有者などです——設計者は、設計者であることだけでは名宛人に挙げられていませんが、設計者が現場管理者を兼ねていれば名宛人になり得ます。命令に従わないと、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です(法第98条第1項第1号)。
そして、確認申請が要らない計画でも、条例を守る義務は残ります。ここは、2つを分けて読んでください——①確認申請そのものが要らない場合と、②確認申請は要るが、確認特例(法第6条の4・施行令第10条)によって審査の一部が省略される場合は、別の制度です。②の省略の範囲は、建築物・設計者の区分と、法第39条から第41条までに基づく条例規定のうち特定行政庁が規則で定めた規定で決まります。どちらの場合も、条例に適合させる義務そのものは残ります——自分の計画がどちらに当たるか、第5条が審査で見られるかは、建築指導課に確かめてください。
窓口——藤沢市計画建築部 建築指導課です
- 条例第5条の当てはめ・確認申請の相談——藤沢市計画建築部 建築指導課 0466-50-3539(直通)(ファクス 0466-50-8223)。土地を買う前に、まずここです——具体的な当てはめは、建築士が用意した測量図・断面図・配置案を持って相談します
- 条例の解説・質問と回答——市は「藤沢市建築基準等に関する条例の解説」を章ごとのPDFで公開し、あわせて「質問と回答」を更新しています。相談の前に、第5条の章と質問と回答を建築士に読んでもらってください
- 急傾斜地崩壊危険区域の範囲・許可、土砂災害警戒区域等の指定(告示図書)——神奈川県。区域を指定するのは県知事です
- 確認申請そのものの提出先——建築主事等(藤沢市)のほか、指定確認検査機関にも出せます。どちらに出しても、条例の適合義務は同じです
売買契約の前に、専門家と確かめること
確かめるのは、土地の売買契約を結ぶ前です。買ったあとでは、擁壁の費用と配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。この一覧は、自分で判定するためのものではありません——測って図にするのは建築士、条例の当てはめは藤沢市建築指導課です。
- ① その土地は藤沢市内か。藤沢市内なら、読むのは藤沢市建築基準等に関する条例です(神奈川県建築基準条例は適用されません。県条例第53条第1項。かつて例外だった第2条の2・第2条の3は、2026年4月1日に削除されました。災害危険区域は、藤沢市の条例 第3条・第4条で見ます)。平成31年3月31日までに確認申請が出ている計画は、県条例で審査されています
- ② 敷地の中や周りに、地表面が水平面に対し30度を超える角度をなす土地で、高さが2メートルを超えるものがあるか。すでに擁壁があっても、安全性が確認できなければ対象です。高さが足りなくても、終わりではありません。建築基準法第19条第4項には高さの下限がありません——崖崩れ等による被害を受けるおそれがあれば、擁壁の設置その他安全上適当な措置が別に要ります。「うちは2メートル以下だから対象外」で止めないでください
- ③ 建てる場所は、起点から2倍の範囲に入るか。起点は、崖の上に建てるなら下端、下に建てるなら上端です。崖と建物のあいだに他人の土地があっても、範囲は同じです。2倍を超えて離れていれば、第5条第1項本文はかかりません。敷地の造成も対象です
- ④ かかるなら——安全な擁壁を設ければ、第5条第1項については原則として建てられます。高さ2メートルを超える擁壁は、令第138条第1項第5号・法第88条第1項の確認が別に要ります(提出先は建築主事等または指定確認検査機関)
- ⑤ 第1項ただし書の2つの号のどれかに当たるか。「当該部分については」なので、崖の部分ごとに見ます。第2号で外れるのは盛土の部分だけで、下の既存の崖は第1号に当たることが前提です
- ⑥ 第2項の3つの号のどれかに当たるか。崖の上なら基礎が崖に影響を及ぼさないこと、崖の下なら主要構造部を鉄筋コンクリート造とするか必要な施設を設けること、または居室を有しない建築物であること。第2号を使うなら、鉄筋コンクリート造とした部分に窓は置けません(小開口の例外のみ)
- ⑦ 崖の上に建てる・造成するなら、第3項の排水の措置が計画に入っているか。第3項にただし書はありません。第3項は、2倍の範囲かどうかを問いません
- ⑧ 既存の擁壁があるなら、検査済証等の資料と現況の確認から。「質問と回答」5-1は、既存の擁壁の安全性は設計者が確認するとしています
- ⑨ 災害危険区域(=急傾斜地崩壊危険区域からレッドゾーンを除いたもの)に入っていないか。入っていれば第4条がかかり、崖の高さに下限なく、居室を有する建築物の基礎・主要構造部の構造と、開口部の位置が制限されます。区域内の切土・盛土等には、急傾斜地法第7条第1項の県知事の許可が別に要ります
- ⑩ レッドゾーン・イエローゾーンに入っていないか。レッドゾーンでは居室を有する建築物に令第80条の3の構造規制がかかり、敷地の過半が区域内かどうかで扱いが分かれます(法第91条)。最終確認は神奈川県の告示図書で
- ⑪ 既存の建物の増築・改築・用途変更は、適用関係を窓口で。条例第96条・第96条の2の緩和には第5条が入っていますが、既存不適格の建物であることと50平方メートル以内などの条件が付きます
- ⑫ 建築確認が不要でも、条例の適合義務は残ります。違反すれば、条例第100条の罰則(50万円以下の罰金)や、建築基準法第9条の是正命令の対象になり得ます
参考にした資料(2026年9月5日に原文を確認)
- 藤沢市建築基準等に関する条例の施行について(藤沢市公式・条例と解説の入口、施行日と改正の履歴)
- 藤沢市建築基準等に関する条例の解説(藤沢市公式PDF・2025年4月・一括ダウンロード版。第3条・第4条・第5条・第95条・第96条・第96条の2・第100条)/第3章(崖付近の建築物)
- 藤沢市建築基準等に関する条例 質問と回答(藤沢市公式PDF・2026年(令和8年)3月更新。4-1・5-1〜5-8)
- 土砂災害・洪水ハザードマップ(藤沢市公式)
- 神奈川県公報 令和7年12月23日 号外第70号(神奈川県条例第84号=神奈川県建築基準条例の一部を改正する条例。「第2条の2及び第2条の3を削る。」「第53条第1項中『(第2条の2及び第2条の3の規定を除く。)』を削り、同条中第2項を削り」「第59条第1項中『第2条の3、』を削る。」/附則1に施行期日=令和8年4月1日、附則2に罰則の経過措置)/神奈川県建築基準条例 新旧対照表(令和7年12月23日改正・県公式。現行の第53条第1項は、これで確認しました)/神奈川県建築基準条例第3条等の解説(令和8年3月31日・県建築指導課。削除の理由は、これで確認しました)/神奈川県土砂災害情報ポータル/土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域の告示図書(神奈川県公式)
- 建築基準法(e-Gov法令検索・第3条・第4条・第6条・第6条の4・第9条・第19条第4項・第39条・第40条・第85条・第86条の7・第87条・第88条第1項及び第4項・第91条・第98条)
- 建築基準法施行令(e-Gov法令検索・第10条・第36条の3・第80条の3・第137条の16・第138条第1項第5号)/宅地造成及び特定盛土等規制法施行令(e-Gov法令検索・第3条・第8条・別表第1)
- 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(e-Gov法令検索・第9条・第25条)/急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(e-Gov法令検索・第3条・第7条・第12条・第13条)
擁壁の形や寸法の一般的な考え方は、擁壁の選び方にまとめています(条例第5条の当てはめは、この記事に書いた窓口で確かめてください)。