福岡市で、がけの近くに家を建てる・土地を買う人へ。まず答えから。
先にすることは、3つです。がけの規定がかかっても、建てられないと決まったわけではありません。まず、土地の売買契約を結ぶ前に動く(すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に)——買ったあとでは、擁壁(ようへき=がけの土が崩れないよう支える壁)の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。つぎに、建築士に相談する——①現況測量図があるかの確認 ②必要なら測量の手配 ③断面図と配置案の作成、この3つです。そのうえで、その図面を持って福岡市 住宅都市みどり局 建築指導課へ、条例の当てはめを確かめる。高さも角度も距離も、目測で判断しないでください。
①その土地は福岡市内ですか。はい=福岡市建築基準法施行条例 第5条です。福岡県建築基準法施行条例は適用されません(県条例第26条の2)。②福岡市の第5条は、がけの高さが3メートルを超える場合に、がけの上にあってはがけの下端(かたん=斜面の低いほうの足元)から、下にあってはがけの上端(じょうたん=斜面の高いほうの肩)から、水平距離ががけの高さの2倍に相当する距離以内の位置、および当該がけには、居室(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋)を有する建築物を建築してはならないと定めています。③禁止されるのは「居室を有する建築物」です。そして起点は、上に建てるか下に建てるかで入れ替わります。④道は、ただし書にあります——第1項の5つの号のどれかに当たれば、第5条第1項本文の禁止は適用されません。第1号は、擁壁の設置により、建築物の安全性を損なうおそれのあるがけの崩壊が発生しないと認められる場合です——擁壁を置きさえすれば当たる、という書き方ではありません。認められれば、第5条第1項本文の禁止は外れ、この条については原則として建てられます。ただし、それだけで建築の可否が決まるわけではありません。⑤災害危険区域(急傾斜地崩壊危険区域)・レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)・建築基準法第19条第4項(がけ崩れ等による被害を受けるおそれがある場合に、擁壁の設置その他安全上適当な措置を求める規定)は、別に残ります。(福岡市の条例と市の資料は2026年9月5日に原文を確認しました)。
福岡市内なら、福岡市建築基準法施行条例 第5条です

「がけ条例」という名前の条例はありません。福岡市では、建築基準法第40条などに基づく福岡市建築基準法施行条例(平成19年3月15日条例第29号)の第5条(がけに近接する建築物の制限)が、がけに近い建築物の決まりです。この条例は平成19年10月1日から施行されました。
福岡県建築基準法施行条例には、第26条の2(市町村条例との関係)が置かれています——この条例の規定は、法第4条第1項又は第2項の規定により建築主事を置く市町村が法第39条、第40条、第43条第3項又は第56条の2第1項の規定に基づき条例を定めたときは、当該市町村の区域内においては、適用しない。福岡市はこれに当たるので、県条例は福岡市の区域では適用されません。ただし、この条文を確かめたのは、福岡県建築都市部建築指導課が編集した「福岡県建築基準法施行条例〔改正経過〕令和3年版」(この条を平成30年10月5日から現行のものとして掲げています)までです——県はその後も条例を改正しており(直近は令和8年6月30日の第18条の改正)、いまの第26条の2が同じ条文かどうかは、県の例規全集で確かめてください。規制が無くなるわけではありません。県の条例から市の条例に入れ替わります。福岡市内の土地について調べるときは、福岡市の条文の数字で読んでください。
(がけに近接する建築物の制限)
福岡市建築基準法施行条例 第5条第1項(本文とただし書の柱書)
第5条 がけ(地表面が水平面に対し30度を超える傾斜度をなす土地をいう。以下同じ。)の高さ(がけの上端と下端との垂直距離をいう。以下同じ。)が3メートルを超える場合においては、当該がけの上にあっては当該がけの下端から、下にあっては当該がけの上端から水平距離が当該がけの高さの2倍に相当する距離以内の位置及び当該がけには、居室を有する建築物を建築してはならない。ただし、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当する場合においては、この限りでない。
どこからが「がけ」か——傾斜度30度超。高さ3メートル超で、この制限がかかります
福岡市の条文は、「がけ」を「地表面が水平面に対し30度を超える傾斜度をなす土地」と定義し、そのうえでがけの高さが3メートルを超える場合に第5条第1項の制限がかかる、という組み立てです。30.0度ちょうど・3.0メートルちょうどは、当たりません(条文はどちらも「超える」です)。
そして条文は、「がけの高さ」も定義しています——「がけの上端と下端との垂直距離」です。水平の距離ではなく、斜面の長さでもなく、垂直に測った差です。だから、どこが上端で、どこが下端かを図面で決めることが、最初の仕事になります。
福岡市の条文には、硬岩盤(こうがんばん=かたい岩の地盤)を「がけ」から除く定めがありません。岩かどうかは、第1項ただし書第2号(地盤が強固であり、がけの崩壊が発生しないと認められること)のほうで効きます。「うちは岩だから、そもそもがけではない」とは読めません。
また条文は、自然にできた斜面か、人が切ったり盛ったりしてできた斜面かを問う書き方にはなっていません。がけが誰の土地にあるかでも線を引いていません——隣の土地や道路との高低差でも、条件に当たれば規定はかかります。
がけの範囲は、第2項・第3項で広がることがあります
ここが、目で見ただけでは分からないところです。福岡市の第5条には、「がけ」の範囲を広げてみなす規定が2つ置かれています。
2 がけの上方に当該がけに接して、地表面が水平面に対し30度以下の傾斜度をなす土地がある場合にあっては、当該がけの下端を含み、かつ、水平面に対し30度の角度をなす面の上方にある部分に限り、当該がけの一部とみなして前項の規定を適用する。
福岡市建築基準法施行条例 第5条第2項・第3項
3 小段等によって上下に分離されたがけがある場合において、下層のがけの下端を含み、かつ、水平面に対し30度の角度をなす面の上方に上層のがけの下端があるときには、その上下のがけは一体のものとみなして第1項の規定を適用する。
第2項は、急な斜面の上に続くゆるい斜面の扱いです。がけの上方に、そのがけに接して30度以下の傾斜度の土地があるとき、がけの下端を通る30度の面より上にある部分に限って、そのがけの一部とみなします。結果として、がけの高さが、見た目より高くなることがあります。高さが高くなれば、制限のかかる距離(高さの2倍)も伸びます。
第3項は、小段(こだん=斜面の途中の平らな部分)などで上下に分かれたがけの扱いです。下層のがけの下端を通る30度の面より上に、上層のがけの下端があるときは、上下のがけを一体のものとみなします。「2メートルの段が2つだから、それぞれは3メートル以下」とは限りません。一体とみなされれば、合わせた高さで3メートル超かどうかを見ることになります。
この2つは、素人が図面なしに当てはめられるものではありません。30度の面をどこから引くか、小段をどう評価するか——断面図を描いて初めて分かります。「段になっているから大丈夫」「上はなだらかだから関係ない」という見立ては、この2つの項でひっくり返ることがあります。
距離の起点は、がけの上に建てるか下に建てるかで入れ替わります
がけの上に建てるなら、起点は「がけの下端」。がけの下に建てるなら、起点は「がけの上端」。そこから水平距離ががけの高さの2倍に相当する距離以内の位置が、居室を有する建築物について制限のかかる範囲です。たとえば高さ4メートルのがけなら、8メートル。起点を取り違えると、必要な距離が丸ごとずれます。
そして条文は、範囲をもうひとつ書いています——「及び当該がけには」。がけそのものの上にも、居室を有する建築物は建築してはならない、という意味です。斜面に張り出して建てる計画は、この文言に当たり得ます。
義務の形も、確かめておいてください。福岡市の第5条第1項は「……建築してはならない」という禁止の形です。「◯メートル離しなさい」でも「擁壁を設けなさい」でもありません。2倍を超えて離れていれば、そもそも第1項本文はかかりません。2倍以内に入るなら、ただし書の5つの号のどれかに当たることを示すことになります。
擁壁を設けて崩壊しないと認められれば、第5条の禁止は外れます——ただし書は5つ
擁壁を設けて、がけの崩壊が発生しないと認められれば、道はあります。第5条第1項ただし書は、次の5つの要件のいずれかに該当する場合には、本文の禁止がかからないと定めています。どれかに当たれば、第5条については、原則として建てられます。「原則として」と書くのには、理由があります——これは第5条の禁止が外れるという意味で、建築基準法第19条第4項、災害危険区域、土砂災害の区域は、別に確認してください。
- 第1号(擁壁の設置)——「擁壁の設置により、がけの崩壊(建築物の安全性を損なうおそれがあるものに限る。次号において同じ。)が発生しないと認められること。」条文は「がけの崩壊が発生しないと認められること」と書いています。ここが認められますと示せれば通りますが、擁壁を置きさえすればよい、ではありません
- 第2号(地盤が強固)——「地盤が強固であり、がけの崩壊が発生しないと認められること。」岩盤かどうかは、ここで効きます。これは地質の調査で示すもので、見た目では決まりません
- 第3号(がけの上に建てる場合の構造)——「がけの上に建築物を建築する場合にあっては、がけの崩壊により当該建築物が自重によって損壊、転倒、滑動又は沈下しない構造であると認められること。」がけが崩れることを前提に、建物が持ちこたえるという考え方です
- 第4号(がけの下に建てる場合の安全確保)——「がけの下に建築物を建築する場合にあっては、次のいずれかにより、がけの崩壊に伴う当該建築物の敷地への土砂の流入に対して当該建築物の居室の部分の安全性が確保されていると認められること。」ア 土留施設を設置すること。/イ 建築物のがけに面する壁を開口部のない壁とし、かつ、当該建築物の居室の部分を当該建築物への土砂の衝突により破壊されるおそれがないと認められる構造とすること。イを使うと、がけ側の壁に窓を設けられません——間取りに直に効きます
- 第5号(がけに建てる場合)——「がけに建築物を建築する場合にあっては、前2号に該当すること。」第3号と第4号の両方です。がけそのものの上に建てるなら、どちらか一方では足りません
この5つは、素人が自分で判定するための一覧ではありません。どの号も「認められること」という書き方で、認めるのは市(または確認の審査をする者)です。どれで通すかを決め、根拠の図面と計算を用意するのは、設計者(建築士)の仕事です。条例の当てはめの相談先は、福岡市 住宅都市みどり局 建築指導部 建築指導課です。
既存の擁壁がある土地では、まず書類を探してください。「昔から石積みがあるから安心」ではありません。第1号は「がけの崩壊が発生しないと認められること」を求めています。既存の擁壁でそれを示すには、工作物としての確認済証・検査済証、宅地造成や開発の許可と完了検査の記録、あるいは構造計算の資料といった裏付けが要ります。売主に、擁壁の書類が残っているかを聞いてください。なお、高さ2メートルを超える擁壁を新しく造る場合は、建築基準法施行令第138条第1項第5号により法第88条第1項の工作物の確認申請の対象になり得ます——擁壁の設計と、家の設計と、条例の当てはめは、同じ時期に窓口へ持ち込むのが安全です。
建築士に用意してもらう図面は、この3つが軸になります
第5条の当てはめを窓口で確かめるには、話し言葉ではなく図面が要ります。軸になるのは次の3つです。①現況の測量図——がけの位置、上端と下端の位置、敷地の境界。②断面図——がけの傾斜度、上端と下端の垂直距離、そしてがけの下端を通る30度の面。第2項・第3項のみなし規定を確かめるには、断面図にこの30度の面を引いてもらう必要があります。斜面が一様でないときは、方向を変えて複数枚。③配置案——建築物の位置と、がけの下端または上端からの水平距離。ただし書のどの号で通すかが決まっていれば、あわせて擁壁の位置と構造、地盤の調査結果、または土留施設・壁の構造が要ります。「だいたいこのあたり」では、判定できません。がけの高さが30センチ違えば、制限のかかる距離は60センチ変わります。
なお、2026年9月5日に福岡市建築基準法施行細則を確かめた範囲では、がけに関する図書を名指しで求める規定は見当たりませんでした(見落としの可能性はあります)。だから図面が要らない、ということではありません——上の3つは、当てはめを相談するための資料です。正式に必要となる図書が何かは、建築指導課に確かめてください。
レッドゾーンでは、第5条第1項から第3項までは適用されません(同条第4項)
4 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号)第9条第1項の規定により福岡県知事が指定した土砂災害特別警戒区域内においては、前3項の規定は、適用しない。
福岡市建築基準法施行条例 第5条第4項
これは「規制が軽くなる」という意味ではありません。外れるのは条例の第5条第1項から第3項までで、代わりに土砂災害防止法と建築基準法の規制がかかります。土砂災害防止法第24条は、特別警戒区域における土砂災害の発生を防止するため、建築基準法第20条第1項に基づく政令において、居室を有する建築物の構造が土砂災害の発生原因となる自然現象により建築物に作用すると想定される衝撃に対して安全なものとなるよう、構造耐力に関する基準を定めるものとする、と定めています。その政令が建築基準法施行令第80条の3です。
さらに、確認申請そのものが増えることがあります。土砂災害防止法第25条は、こういう仕組みです(条文そのものではなく、要点です)——特別警戒区域(建築基準法第6条第1項第3号に規定する区域を除く。)内における居室を有する建築物(同項第1号又は第2号に掲げるものを除く。)を、同項第3号の区域内の建築物とみなして、法第6条から第7条の5まで・第18条・第89条・第91条・第93条を適用します。つまり、都市計画区域の外で通常は建築確認の対象にならない規模でも、確認が必要になり得ます。「敷地の過半」は、第25条の条文には書かれていません——第25条が適用する法第91条が、敷地が区域の内外にわたる場合は敷地の過半の属する区域の規定によると定めています(ちょうど半分は「過半」ではありません——ちょうど半分になる場合にどちらの規定によるかは、この記事では確かめられませんでした。窓口で個別に確かめてください)。
もうひとつ、落としやすい点があります。第5条第4項が適用を外すのは同条第1項から第3項までで、敷地の全部がレッドゾーンに入っているとは限りません。敷地の一部だけが区域内で、残りが区域外——という土地では、区域外の部分について第5条第1項から第3項までが生きています。どこまでが区域内かを、地図の見た目ではなく指定の図書で確かめてください。
第5条を満たしても、この3つは別に残ります
- 災害危険区域(急傾斜地崩壊危険区域)——後述のとおり、条例第3条・第4条の話です。第5条とは別の条文で、より強い制限です
- 土砂災害警戒区域(イエローゾーン)——こちらは構造規制ではなく、警戒避難体制の区域です。そして第5条第4項が適用を外すのは、レッドゾーンだけです——イエローゾーンでは、第5条第1項から第3項までがそのままかかります
- 建築基準法第19条第4項——「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない。」この規定に、がけの高さの下限はありません——高さ3メートル以下でも、かかり得ます。「条例に当たらない=何もしなくてよい」ではありません
区域を指定するのは福岡県知事です(土砂災害防止法第9条第1項)。福岡市は土砂災害ハザードマップを公開していますが、市自身が「今年度、区域が変更されたものは、土砂災害ハザードマップへの反映ができていません」と注意しています。最終確認は、福岡県が公表している区域の資料で行ってください。県は「『土砂災害警戒区域地図』から県内の指定区域、縦覧図書を確認できます」と案内し、確認の問い合わせは、土地の区域を管轄する県土整備事務所に一本化しています(窓口は後述)。レッドゾーン内で建てる場合の構造の考え方と、改修への補助の枠組みは、レッドゾーンの家と土地で整理しています。
災害危険区域では、居室を有する建築物は原則、建てられません(第3条・第4条)
(災害危険区域の指定)
福岡市建築基準法施行条例 第3条・第4条
第3条 法第39条第1項の災害危険区域(次条において「災害危険区域」という。)は、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)第3条第1項の規定に基づき福岡県知事が指定した急傾斜地崩壊危険区域とする。
(災害危険区域内の建築制限)
第4条 災害危険区域内においては、居室を有する建築物を建築してはならない。ただし、災害防止上必要な措置を講じることにより市長が建築物の安全上支障がないと認める場合においては、この限りでない。
福岡市では、福岡県知事が急傾斜地崩壊危険区域を指定すると、その区域がそのまま建築基準法第39条の災害危険区域になります。区域内では居室を有する建築物を建築してはならないのが原則で、外れるのは「災害防止上必要な措置を講じることにより市長が建築物の安全上支障がないと認める場合」です。福岡市が公表している「福岡市建築基準法施行条例の解説」は、この「災害防止上必要な措置」について、擁壁の設置、法面(のりめん)保護工等をいう、と書いています。
ここは、第5条とは別の話です。第5条は距離と構造の規定ですが、災害危険区域は居室を有する建築物そのものを原則として禁じる規定で、外すには市長が認めることが要ります。2倍を超えて離れていても、区域内なら第4条が別にかかります。また、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律に基づく行為の制限や許可の手続きが別に必要になることがあります。土地の資料に「急傾斜地」の文字を見つけたら、福岡県の窓口に先に当たってください。
既存の建物の増築・改築・用途変更——第5条は、条例の緩和の列挙に入っていません
既存不適格(きそんふてきかく=建てたときは適法だった建物)には、建築基準法第3条第2項により、その適合しなくなった規定が原則として適用されません。ただし増築・改築・移転・大規模の修繕・大規模の模様替をすると、法第3条第3項第3号・第4号により緩和が切れて条例が適用されるのが原則です。
福岡市建築基準法施行条例には、既存建築物のための緩和として第37条(既存の建築物に対する制限の緩和)が置かれています。第1項は、建築物等について増築または改築をする場合で、避難または通行の安全上もしくは防火上支障がないと市長が認めるとき、または特別の事情によりやむを得ないと市長が認めるときに、第27条または第28条の規定を適用しないとするもの。第2項は、大規模の修繕もしくは大規模の模様替または用途変更をする場合に、同じく第27条または第28条を適用しないとするものです。
この緩和が挙げているのは第27条(建築物の敷地と道路との関係)・第28条(特殊建築物の敷地と道路との関係)だけで、どちらも道路の話です。第5条はありません。つまり、増築・改築などをするなら、がけの第5条は原則としてかかってきます。ただし第5条の禁止はただし書の5つの号で外れる形なので、既にある擁壁が第1号の「がけの崩壊が発生しないと認められる」ものであれば足りる場合もあり得ます——個別の当てはめは、建築指導課で確かめてください。
用途変更——工事を伴わない用途変更でも、建築基準法第87条第2項により、法第39条第2項・第40条に基づく条例の規定は用途変更に準用されます。既存不適格の建物の用途変更については、法第87条第3項が列挙する規定(またはそれらに基づく条例規定)が原則として準用され、増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合(第1号)などは、この準用から除かれます。また第36条は、法第85条第6項前段もしくは第7項前段の許可を受けた仮設興行場等、および法第87条の3第6項前段もしくは第7項前段の許可を受けた建築物について、第3章から前章までの規定は適用しないとしています——第5条はこの条例の第3章(建築物の敷地及び構造に関する制限の付加等)にありますから、この特例の対象です。ただし対象は許可を受けた仮設興行場等で、ふつうの住宅の話ではありません。
罰金は原則、設計者に(建築主は故意のときだけ)。ただし是正命令は、建築主・所有者も対象になり得ます
第38条 第4条から第6条まで、第7条から第22条まで、第27条、第28条及び第30条から第33条までの規定に違反した場合における当該建築物の設計者(設計図書を用いないで工事を施工し、又は設計図書に従わないで工事を施工した場合においては、当該建築物の工事施工者)は、20万円以下の罰金に処する。
福岡市建築基準法施行条例 第38条
2 前項に規定する違反があった場合において、その違反が建築主の故意によるものであるときは、当該設計者又は工事施工者を罰するほか、当該建築主に対して同項の刑を科する。
第5条は、罰則の対象です(第38条第1項の「第4条から第6条まで」に含まれます)。名宛人(なあてにん=この罰則を受ける人)は原則設計者で、設計図書を用いない・従わない施工では工事施工者に替わります。違反が建築主の故意によるときは、設計者または工事施工者を罰するほか、建築主にも同じ刑が科されます(第38条第2項)。法人の代表者や、法人・人の代理人、使用人その他の従業者が業務に関して違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、法人または人にも罰金刑が科されます(第39条の両罰規定。ただし、違反行為を防止するため相当な注意および監督が尽くされたことの証明があったときは、この限りでないとされています)。災害危険区域の第4条も、同じ第38条に含まれています。
是正命令は、建築主・所有者なども対象になり得ます(法第9条第1項)
罰則の名宛人が原則として設計者でも、是正命令の相手方は別です。建築基準法第9条第1項は、違反した建築物・敷地について、当該建築物の建築主、工事の請負人(下請人を含みます)・現場管理者、建築物または敷地の所有者・管理者・占有者に対して措置を命ずることができる、と定めています。故意かどうかは、この条の要件ではありません。命じられるのは工事の施工の停止のほか、除却(じょきゃく=取り壊し)・移転・改築・増築・修繕・模様替・使用禁止・使用制限その他、違反を是正するために必要な措置です。建てたあとに除却や使用禁止を命じられ得るのは、建築主・所有者などです——設計者は、設計者であることだけでは名宛人に挙げられていませんが、設計者が現場管理者を兼ねていれば名宛人になり得ます。命令に従わないと、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です(法第98条第1項第1号)。
そして、確認申請の審査で見られなかった場合でも、条例の適用要件を満たせば適合義務は残ります——確認申請を審査するのは建築主事等または指定確認検査機関で、確認特例(法第6条の4・施行令第10条)による審査の省略は、建築物・設計者の区分と、法第39条から第41条までに基づく条例規定のうち特定行政庁(とくていぎょうせいちょう=原則として、建築主事または建築副主事を置く市町村ではその市町村長、それ以外では都道府県知事。ただし、法第97条の2・第97条の3により建築主事等を置く市町村の区域内の政令で定める建築物については、都道府県知事です——法第2条第35号ただし書)が規則で定めた規定の範囲で決まります。審査が省略される場合でも、適合義務は別に生じます。また、指定確認検査機関に出す場合でも、条例の当てはめの相談は、市の窓口で受けてください。読み手として大事なのは、罰金の額よりも「どこに来るか」です。がけの手当てをしないまま建ててしまうと、その土地と建物を持っている人が、あとから工事や使用制限を命じられ得る立場になります。設計者に任せきりにせず、「第5条はどう当てはめたのか。ただし書の何号で通したのか」を、契約の前に言葉で説明してもらってください。
「うちは居室のない物置だから」で、全部が外れるわけではありません
福岡市の第5条第1項が禁じているのは「居室を有する建築物」の建築です。だから、居室を持たない物置や車庫は、第1項本文の禁止に当たりません。ここは、条文をそのまま読めば分かります。
ただし「居室が無い」と言えるかどうかは、間取りの一部では決まりません。建築基準法第2条第4号の「居室」は、居住、執務、作業、集会、娯楽その他これらに類する目的のために継続的に使用する室をいいます。一部でも居室があれば、その建築物は「居室を有する建築物」です。ガレージの奥に作業スペースを設ける、物置の一角を趣味の部屋にする——といった計画は、判断が変わり得ます。用途の名前ではなく、実際の使い方で見られます。居室に当たるかどうかを、用途の名前だけで自分で決めないでください——図面と使い方を建築士に説明し、確認申請や市への相談で扱いを確かめてください。
そして、居室が無くても建築基準法第19条第4項は残ります。建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合には、擁壁の設置その他安全上適当な措置が必要です。「条例の禁止に当たらない」と「何もしなくてよい」は、別のことです。
窓口——条例のことは福岡市、区域のことは福岡県です
- 条例第5条の当てはめ・確認申請の相談——福岡市 住宅都市みどり局 建築指導部 建築指導課 指導係 092-711-4575(メール kenchikushido-shido@city.fukuoka.lg.jp)。課の代表は092-711-4573(ファクス 092-733-5584)。所在は福岡市中央区天神1丁目8番1号。土地を買う前に、まずここです
- 土砂災害ハザードマップのこと——福岡市 市民局 防災・危機管理部 防災推進課 092-711-4153(ファクス 092-733-5861)。市のハザードマップは、最新の指定を反映できていないことがあると市自身が注意しています
- 土砂災害警戒区域・特別警戒区域の確認——福岡県は、確認の問い合わせを土地の区域を管轄する県土整備事務所に一本化しています。福岡市の東区・中央区・城南区・早良区と、博多区・南区・西区の一部は福岡県土整備事務所 092-641-0161(代表)/管理課管理二係 092-641-6581。西区の一部は同 前原支所 092-322-2961。博多区・南区の一部(道路を除く)は那珂県土整備事務所 092-513-5561(代表)/用地課管理係 092-513-5563。区の中で分かれているので、まず代表番号に住所を伝えてください
売買契約の前に、専門家と確かめること
確かめるのは、土地の売買契約を結ぶ前です。買ったあとでは、擁壁や構造の費用と配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。この一覧は、自分で判定するためのものではありません——測って図にするのは建築士、条例の当てはめは福岡市建築指導課です。
- ① その土地は福岡市内か。福岡市内なら、読むのは福岡市建築基準法施行条例 第5条です(福岡県建築基準法施行条例は適用されません。県条例第26条の2)
- ② 敷地の中や周りに、傾斜度が30度を超える土地で、上端と下端の垂直距離が3メートルを超えるものがあるか。第2項(上方のゆるい斜面)・第3項(小段等で分かれたがけ)で、がけの範囲が広がることがあります——断面図で確かめてください
- ③ 起点は、上に建てるか下に建てるかで入れ替わります。がけの上に建てるならがけの下端から、がけの下に建てるならがけの上端から、がけの高さの2倍に相当する距離以内が制限の範囲です(対象は居室を有する建築物)。高さ4メートルなら8メートルです。がけそのものの上も対象です
- ④ 範囲に入るなら——ただし書の5つの号のどれで通すかを、設計者と決める。第1号(擁壁の設置により、がけの崩壊が発生しないと認められること)/第2号(地盤が強固であり、がけの崩壊が発生しないと認められること)/第3号(がけ上・構造)/第4号(がけ下・土留施設または開口部のない壁と構造)/第5号(がけに建てる場合は第3号と第4号の両方)。第4号のイを使うと、がけに面する壁に窓を設けられません
- ⑤ 既存の擁壁があるなら、書類から。第1号は「がけの崩壊が発生しないと認められること」を求めています。売主に、確認済証・検査済証や許可・完了検査の記録が残っているかを聞いてください
- ⑥ 擁壁を新しく造るなら、工作物の確認申請の要否も。高さ2メートルを超える擁壁は、建築基準法施行令第138条第1項第5号により建築基準法第88条第1項の対象になり得ます
- ⑦ レッドゾーンに入っていないか。入っていれば第5条第1項から第3項までは適用されませんが、居室を有する建築物には令第80条の3の構造規制がかかり、土砂法第25条による確認申請も別に要り得ます。敷地の一部だけが区域内なら、区域外の部分には第5条が生きています
- ⑧ イエローゾーンでは、第5条はそのままかかります。同条第4項が適用を外すのはレッドゾーンだけです
- ⑨ 急傾斜地崩壊危険区域に入っていないか。入っていれば、条例第3条によりそこは災害危険区域で、居室を有する建築物は原則、建てられません(第4条)。外すには市長が安全上支障がないと認めることが要ります
- ⑩ 既存の建物の増築・改築・用途変更は、適用関係を窓口で。条例第37条の緩和の列挙に、第5条はありません
- ⑪ 建築確認の審査で見られなくても、条例の適合義務は残ります。違反すれば、条例第38条の罰則(20万円以下の罰金)や、建築基準法第9条の是正命令の対象になり得ます
参考にした資料(2026年9月5日・9月6日に原文を確認)
- 福岡市建築基準法施行条例(福岡市例規集・現行条文。平成19年3月15日条例第29号、令和8年6月22日施行=最終改正は令和8年6月22日条例第45号。がけの第5条は平成27年条例第68号による一部改正が最後で、その後の改正の対象になっていません。第3条・第4条・第5条・第6条・第36条・第37条・第38条・第39条・附則)
- 福岡市建築基準法施行細則(福岡市例規集・現行条文。昭和46年11月25日規則第83号、令和8年3月9日施行。この版の全文で「がけ」「崖」「擁壁」の語は0件で、がけに関する図書の規定は見当たりませんでした)
- 「福岡市建築基準法施行条例」「福岡市建築基準法施行細則」について(福岡市公式・窓口と連絡先、および「福岡市建築基準法施行条例の解説」PDF。この解説は第5条ただし書について宅地造成等規制法施行令第5条に触れる記述にとどまり、現行の5つの号の構成には対応していません)
- 福岡県建築基準法施行条例〔改正経過〕令和3年版(福岡県建築都市部建築指導課・編集。第26条の2「市町村条例との関係」の現行条文)/福岡県建築基準法施行条例の解説(福岡県公式PDF・第4条)
- 福岡市 土砂災害ハザードマップ(福岡市公式・区域を指定するのは福岡県であること、地図が最新の指定を反映できていない場合があることの注意書き、防災推進課の連絡先)
- 土砂災害警戒区域等や砂防に関する情報を砂防課ホームページで公開しています(福岡県公式・「土砂災害警戒区域地図」から指定区域と縦覧図書を確認できること、確認窓口一覧〔県土整備事務所の管轄と電話番号〕)
- 建築基準法(e-Gov法令検索・第2条・第3条・第4条・第6条の4・第9条・第19条第4項・第20条・第39条・第40条・第85条・第87条・第88条・第91条・第98条)/建築基準法施行令(第10条・第80条の3・第138条)
- 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(e-Gov法令検索・第9条・第24条・第25条)/急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(第2条・第3条)
擁壁の形や寸法の一般的な考え方は、擁壁の選び方にまとめています(条例第5条の当てはめは、この記事に書いた窓口で確かめてください)。