大阪地震でのブロック塀事故

塀のねっこの開発を一気にスタートさせようとした大きなきっかけは、2018年の大阪地震で大阪府高槻市の寿永小学校で9歳の少女がブロック塀倒壊事故で亡くなったためです。
当時、私の娘が同じ年齢で、その娘から「パパ!コンクリートって地震の時危ないんだね!」とじっと目を見られながら強く疑問をぶつけられました。私が長年コンクリートによる防災技術開発を行っていることを知っている娘から見ると、コンクリート屋さんは何やっているの?という気持ちだったのではないかと思います。その時ちょうど、今の会社を起業したばかりで主力とする商品を今まで開発してきた住宅地盤用の杭にするか、試作品ができたばかりの塀にするか悩んでいたところでした。

娘の問いに「地震の時は危ないからブロック塀から離れなさい。ブロック塀かどうかよくわからないときはコンクリートから離れなさい。」としか答えられなかった私は非常に情けなくなり、日本中から危険ブロック塀をなくすための耐震コンクリート塀の製品化を行うことを決意しました。

製品開発

コンクリート塀の素案は起業時にすでに持っており、試験施工も実施していたのですが、設計に対する裏付けがない状態でした。見ての通り非常に単純な形状ですから、開発そのものは数か月ですぐに終わるだろうと高を括って開発を始めたのですが、国内に全く先例のないもので頼りになる文献もなく非常に苦労しました。

調べていく中で大分大学にブロック塀事故について長年研究している先生がいらっしゃり、様々な疑問を質問したところこれに丁寧に答えていただき研究の進展のキーとなりました。また建築学会の論文を大量に読む中でブロック塀の問題を理解すると共に、ブロック塀がこれまで担ってきた重要な役割を十分に把握できたことは大きいものでした。

しかしながら、実際に大量生産に持ち込むための規格作りは非常に難航しました。様々な書籍を紐解いても結局のところ「だろう」という結論にしかならないわけです。ブロック塀の計算方法を適用しようとしても、我々の企画する製品とは異なり様々なところで問題点や疑問点が出てきたわけです。

初製造の製品。底版の短さにブロック塀、水抜き穴に擁壁の影響。
テスト施工の現場。現在の製品より底版が短い。

特に、我々の作る塀のねっこは空洞の多いブロック塀と比べると遥かに強度がある代わりに面積当たり1.5倍重い製品(150mm厚の場合)となります。地震の際はとくに上のほうの重さがかなり効きます。このためブロック塀の転倒対策として実証されてきた理論が塀のねっこに適用できるかわかりませんでした。机上の計算、模型を用いた実験を繰り返し行いましたが、私は不安でたまらず夜中に納品した製品が転倒する夢をみて飛び起きる、という日を毎日過ごしていました。

そこで実物大実験をするしかない、ということで、様々な大学に共同研究の打診をしました。地元九州は全滅だったのですが、いろいろご縁があり石川県にある金沢工業大学の須田先生と出会うことができました。

東京で打ち合わせをし、ようやく金沢工業大学が保有する振動台での試験に持ち込めたのが2019年12月。高さ2.5m、長さ2m、重さ2.6トンの塀のねっこを熊本工場から金沢工業大学に持ち込み、振動実験では準備を含め1週間かけ繰り返し大地震の振動を与えました。

耐震振動実験の写真。これで設計技術を確立した。

目標とする震度6では問題ないことを確認し、震度7の入力でも転倒しないことを確認しました。公開している動画は震度7だった熊本地震の益城地点の波形を再現したものです。一連の振動実験では最大1234Galの振動を与えても転倒することはなく、振動実験で安全性を確認してからはようやく毎晩ぐっすり眠れるようになりました。

現在は、調査・実験から得られた知見をもとに開発した製品に、理論的な問題がないことを証明するために、(一財)ベターリビングにおいて第三者認証を得るための作業を実施しています。今では、家庭用だけでなく都市ガスプラントや発電所といった社会的に重要なところにも採用が広がることにより、安全性も高く評価していただいています。

このようにしてようやく「塀のねっこ」は安全なコンクリート塀として世に出ています。安心してご利用ください。

初の大型物件。大分市内の都市ガスタンク周りを安全に囲む。