加賀市で、がけの近くに家を建てる・土地を買う人へ——最初に答えから。
石川県加賀市の「がけ条例」とは、加賀市建築基準条例 第6条のことです。崖の近くに建てるときは、原則として崖から一定の距離を保つことが求められます。
先にすることは、3つです。がけの規定がかかっても、建てられないと決まったわけではありません。まず、土地の売買契約を結ぶ前に動く(すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に)——買ったあとでは、擁壁(ようへき=がけの土が崩れないよう支える壁)の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。つぎに、建築士に現況の測量図・断面図・配置案を用意してもらう。そのうえで、その図面を持って加賀市建築指導室の窓口へ、条例の当てはめを確かめる。高さも角度も距離も、目測で判断しないでください。
①その土地は加賀市内ですか。はい=加賀市建築基準条例 第6条(がけ付近の建築物)です。石川県建築基準条例は、がけ付近の建築物については適用されません(県条例第二条第1項)——ただし外れるのは「この条例の関係規定」で、条例の全部ではありません。災害危険区域の第三条・第四条は、法第39条に基づく規定です——あとの節で書きます。②第6条第1項は、地表面が水平面に対し30度を超える傾斜度をなす土地で、高さが3メートルを超えるものを「がけ」とし、建築物はそのがけの下端(かたん=斜面の低いほうの足元)から、がけの高さの2倍以上の水平距離を保たなければならないと定めています。③義務の形は「離す」です——擁壁を設けなさい、という書き方にはなっていません。④下端から2倍以上が取れれば、第6条第1項については原則として建てられます。取れないときは、ただし書の3つの事由(がけの地盤が堅固/がけが堅固な擁壁等で保護/当該建築物の構造)により安全上支障がないと認められる場合に、同じく第6条第1項については原則として建てられます。⑤そして加賀市には、第6条第2項があります——がけの上にある建築物の敷地には、排水施設を設ける等の措置を講じなければなりません。第2項には、ただし書がありません。⑥ほかに、災害危険区域(第4条・第5条)・レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)・イエローゾーン(土砂災害警戒区域)・建築基準法第19条第4項が別に残ります。(条例・規則・解説は2026年9月5日に原文を確認しました)。
加賀市内なら、加賀市建築基準条例 第6条です

「がけ条例」という名前の条例はありません。加賀市では、加賀市建築基準条例(平成29年12月19日条例第39号)の第6条(がけ付近の建築物)が、がけに近い建築物の決まりです。がけ付近の建築物については、石川県建築基準条例は加賀市の区域では適用されません——県条例第二条第1項が、建築主事を置く市町が法第四十条、第四十三条第三項及び第五十六条の二第一項の規定による条例を定めたときは、当該市町の区域内においてはこの条例の関係規定は適用しない、と定めているからです。規制が無くなるのではなく、読む条例が入れ替わります。加賀市内の土地について調べるときは、加賀市の条文の数字で読んでください。
ただし、外れるのは「この条例の関係規定」で、県条例の全部ではありません。第二条第1項が挙げているのは法第四十条・第四十三条第三項・第五十六条の二第一項の3つです。県条例の第一条(趣旨)は、根拠として法第三十九条も挙げており、災害危険区域の第三条・第四条は、その法第三十九条に基づく規定です。そこは、あとの「災害危険区域」の節で書きます。
(適用の除外)
石川県建築基準条例 第二条第1項
第二条 建築主事を置く市町が、法第四十条、第四十三条第三項及び第五十六条の二第一項の規定による条例を定めたときは、当該市町の区域内においては、この条例の関係規定は、適用しない。
加賀市は、自分の条例にがけの条を置いています。加賀市が公開している『加賀市建築基準条例と同解説』は、この第6条について「法第40条を根拠に条例で制限を付加しております」と書いています。
(がけ付近の建築物)
加賀市建築基準条例 第6条
第6条 建築物は、がけ(地表面が水平面に対し30度を超える傾斜度をなす土地で、その高さ(がけの上端と下端との垂直距離)が3メートルを超えるものをいう。以下同じ。)の下端からがけの高さの2倍以上の水平距離を保たなければならない。ただし、がけの地盤が堅固であり、若しくはがけが堅固な擁壁等で保護されており、又は当該建築物の構造により、安全上支障がないと認められる場合は、この限りでない。
2 がけの上にある建築物の敷地には、排水施設を設ける等、地盤の保全及びがけ面への流水又は浸水を防止するための措置を講じなければならない。
そして第6条は、都市計画区域の外でも効きます。加賀市建築基準条例には、都市計画区域内に限って適用する条を並べた第3条(適用区域)がありますが、そこに第6条は入っていません——列挙されているのは第7条から第9条まで、第15条、第17条及び第19条です。市の解説も、この第3条について、道路との関係で規制するものを都市計画区域内のみに適用すると書いています。都市計画区域の外だから外れる、という条文にはなっていません。
どこからが「がけ」か——30度を超える傾斜度・高さ3メートル超。硬岩盤を除く定めはありません
「がけ」の意味は、第6条第1項の括弧書きの中にあります。条件は2つ——①地表面が水平面に対し30度を超える傾斜度をなす土地で、②その高さが3メートルを超えるもの。条文は「超える」なので、30.0度ちょうど・3.0メートルちょうどは当たりません。
加賀市の条文は、高さの測り方まで括弧の中に書き込んでいます——「その高さ(がけの上端と下端との垂直距離)」。上端と下端を結んだ垂直の距離が高さです。市の解説も、適用を受ける「がけ」はその角度(θ)が30度を超え、かつその高さ(H)が3メートルを超えるものであり、「自然がけであるか否かは問いません」と書いています——人が切ったり盛ったりしてできた斜面も、同じように見ます。
加賀市の条文には、硬岩盤(こうがんばん=かたい岩の地盤)を「がけ」から除く定めがありません。土質による除外は、この括弧書きには書かれていません。「うちは岩だから外れる」とは、この条文からは読めません。土質は、がけに当たるかどうかではなく、次に出てくるただし書(がけの地盤が堅固)のほうで扱われる形になっています。角度と高さの測定、土質の見分けは、建築士に見てもらってください。
市の規則は、この第6条を名指ししています。加賀市建築基準法施行規則 第2条第1号は、確認申請書に添える図書を、こう定めています。
(1) 条例第6条に規定するがけに近接して建築するものである場合 建築物からがけの下端までの水平距離、当該がけの形状及び土質等を表示する図書
加賀市建築基準法施行規則 第2条第1号
建築士に頼む図面は、この3つが軸になります——がけの下端から建築物までの水平距離、がけの形状、土質等。
距離の起点は「がけの下端」——上に建てても下に建てても入れ替わりません
第6条第1項は、「がけの下端からがけの高さの2倍以上の水平距離を保たなければならない」とだけ書いています。がけの上に建てるか下に建てるかで、起点を入れ替える書き方をしていません。市の解説の図1も、がけの下端に「起点」の1点を置き、その左右それぞれに「規制範囲 2H」を伸ばして、低い側と高い側の建築物を同じ1つの起点から測っています。高さ4メートルのがけなら8メートル以上、高さ6メートルなら12メートル以上で、そこまで離せば第6条第1項は満たせます。
測る先も、市の解説の図1が示しています——「建築物の外壁の外面(壁が無い場合はこれに代わる柱外面)までの距離」。ただし、この解説には冒頭に断りがあります。
(1) 本解説は、加賀市建築基準条例の内容について一般的な解説を行ったものです。他の特定行政庁とは取扱いが異なる部分がありますのでご注意下さい。詳細は、加賀市建築課までお問い合わせ下さい。
加賀市建築基準条例と同解説(平成30年4月・加賀市建築課)はじめに
この解説は平成30年4月の版です。そのため、いまの条文と食い違っているところがあります——解説が引く条例第1条は「法第43条第2項」ですが、現行の条例第1条は「法第43条第3項」です。解説を根拠に使うときは、必ず現行の条番号と現行法に当て直してください。
がけの上に建てるときが、間違えやすいところです。敷地から見えているのは上端の際で、下端は斜面の下——敷地の外や、他人の土地にあることもあります。それでも条文が測れと言っているのは下端からの水平距離です。市の規則が図書に求めているのも「建築物からがけの下端までの水平距離」です。図面では、断面を描いてがけの下端を平面に落としてから、下端からの距離を確かめてください。
対象の建築物は、用途で絞られていません。条文は「建築物は、」で始まります——居室(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋)があるかどうか、住宅かどうかを問わない書き方です。倉庫でも車庫でも、建築物であれば当たります。ここでいう「建築」には、新築だけでなく増築・改築・移転も含まれます(建築基準法第2条第13号)。
下端から2倍以上を取れば、原則として建てられます(第6条)
道はあります。第6条第1項が求めているのは距離を保つことで、一定の範囲の中なら擁壁を設けよ、という形ではありません。がけの下端から、2倍以上の水平距離が取れれば、第6条第1項については原則として建てられます。「原則として」と書くのには、理由があります——2倍以上を取れば第6条第1項の距離の義務は満たせますが、第6条第2項の排水の措置、建築基準法第19条第4項、災害危険区域、土砂災害の区域は、別に確認してください。
そして2倍の距離が取れていても、それで安全の検討が終わるわけではありません。建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれがある場合には、建築基準法第19条第4項により、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければなりません。この規定に、がけの高さの下限はありません——高さ3メートル以下でも、かかり得ます。市の解説も、第6条の説明の中でこの法第19条第4項を引いています。
擁壁の形や寸法の一般的な考え方は、擁壁の選び方にまとめています(この条の当てはめは、この記事に書いた窓口で確かめてください)。
2倍が取れないとき——ただし書の3つの事由
2倍の距離が取れないとき、頼るのは第6条第1項のただし書です。事由は3つ——①がけの地盤が堅固であること、②がけが堅固な擁壁等で保護されていること、③当該建築物の構造によること。このいずれかにより「安全上支障がないと認められる場合」に、距離の規定が外れます。3つのどれかにより安全上支障がないと認められるなら、2倍が取れなくても第6条第1項については原則として建てられます。
ここは、読み間違えやすいところです。3つの事由のどれかに当たるだけでは、足りません。条文は「〔3つの事由〕により、安全上支障がないと認められる場合は、この限りでない」という形で、事由と「認められること」が重なっています。誰がどう認めるのかは、条文に書かれていません——加賀市の第6条のただし書には、別個の許可の手続が明記されていません。確認申請を要する計画では、審査の中で適合性が確かめられます——ただし確認特例で審査から外れる規定もあり、その範囲は市の規則で決まります(このことは、後の「確認申請が要らない計画でも」の段で書きます)。確認申請が要らない計画には、審査の場そのものがありません。いずれにしても、ただし書を使う計画は、着工前に建築指導室へ確かめてください。
市の解説は、規制範囲の中に建築する場合について、がけの形状、土質、建築物の規模・配置・用途に十分に勘案し、建築物の構造を安全上支障がない仕様として下さいと書いています。擁壁を設置する場合の技術基準にも触れていますが、ここは版が古くなっています——解説が引く「宅地造成等規制法施行令」は、現在は「宅地造成及び特定盛土等規制法施行令」という名称になっています。いま、擁壁の構造の技術的基準は、この政令の第8条から第13条までに置かれています——第8条(擁壁の設置に関する技術的基準)、第9条(鉄筋コンクリート造等の擁壁の構造)、第10条(練積み造の擁壁の構造)、第11条(設置しなければならない擁壁についての建築基準法施行令の準用)、第12条(擁壁の水抜穴)、第13条(任意に設置する擁壁についての建築基準法施行令の準用)(e-Gov法令検索で2026年9月6日に確認)。第11条と第13条は、別の条です——第11条は第8条第1項第1号により設置しなければならない擁壁について建築基準法施行令第36条の3から第39条まで・第52条(第3項を除く)・第72条から第75条まで・第79条を準用し、第13条は許可を要する宅地造成に関する工事で任意に設置する、高さが2メートルを超える擁壁について同令第142条を準用します。その令第142条第1項は、擁壁の構造に道を2つ置いています——同項が掲げる基準に適合する構造方法か、これと同等以上に擁壁の破壊及び転倒を防止することができるものとして国土交通大臣が定めた構造方法か。ただし、この政令がそのままかかるかどうかは、区域と工事の中身で決まります——旧令のどの条が新令のどの条に移ったかまでは、この記事では確かめていません。擁壁で通すなら、いま適用される技術基準を建築指導室に確かめてください。
また、市の解説は高さ2メートルを超える擁壁について、建築基準法第88条第1項により建築主事又は指定確認検査機関の確認を受ける必要があると書いています(宅地造成工事規制区域内で当時の法律の許可を受けた擁壁を除く、という但し書きが付いています)。この但し書きに当たる定めは、いまも建築基準法第88条第4項です。変わったのは項の番号ではなく、同項が挙げる法律と条のほうです。いまの同項は、盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)・都市計画法・特定都市河川浸水被害対策法・津波防災地域づくりに関する法律の、同項が挙げる許可を受けなければならない場合の擁壁について、確認・検査に関する部分を適用しないと定めています(e-Gov法令検索で、いまの条文と平成30年4月1日施行の版を2026年9月6日に読み比べました)。解説が書く「宅地造成工事規制区域内」という限定は、いまの同項にはありません。手続きが無くなるのではなく、許可のほうへ移ります——法第20条は除外されていないので、擁壁を安全に造る義務(構造耐力)は残ります。擁壁そのものの手続きが、別に立ちます。既にある擁壁で通すなら、どの現況調査・計算書・許可の資料で安全性を示すかを、市と個別に協議することになります——古い石積みがあるから安心、ではありません。
がけの上に建てるなら、排水の措置も要ります(第6条第2項)
加賀市の第6条には、第2項があります。距離の話ではなく、がけの上にある建築物の敷地に、排水施設を設ける等の措置を義務づける条項です——「地盤の保全及びがけ面への流水又は浸水を防止するため」。第2項には、ただし書がありません。第1項ただし書に当たって距離が外れる場合でも、第2項は別の義務として残ります。
市の解説は、第2項について「雨水、汚水の排水ががけ面を流下し、擁壁の裏側又はがけに浸透しないように排水施設を設けることで地盤の保全に努めるように配慮して下さい」と書き、図1の吹き出しでも「雨水等の排水は前面道路側に排水し、地盤の保全に努め、がけ崩れを誘発しないように配慮して下さい」としています。ただし、解説の言い方が「配慮して下さい」でも、条例の第2項は「講じなければならない」です。設計のときに、雨水と汚水をどこへ流すかを図面に入れてください。
災害危険区域(第4条・第5条)——居室のある建築物は、原則として建てられません
加賀市建築基準条例は、第2章に災害危険区域を置いています。第4条は、建築基準法第39条第1項により災害危険区域として市長が指定する区域を、石川県知事が急傾斜地崩壊危険区域及びこれに準ずる地域のうち指定して告示した区域としています——知事の告示区域を、市長が受ける書き方です。
(建築の制限)
加賀市建築基準条例 第5条
第5条 災害危険区域内においては、居室のある建築物は、建築してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合で安全上及び避難上支障がないと認められるときは、この限りでない。
(1) 当該建築物の基礎及び主要構造部の構造が鉄筋コンクリート造又はこれに類するものであるとき。
(2) 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律第2条第3項に規定する急傾斜地崩壊防止工事の施工により、当該建築物が被害を受けるおそれがないとき。
禁止されるのは「居室のある建築物」です。市の解説も、「本条の対象になる建築物は、用途、規模にかかわらず居室を有するものすべてです」と書いています。そして「建築物が区域の内外にわたる場合は、区域内の建築物の部分が本条の適用対象となります」。例外は2つの号だけで、しかも号に当たるだけでは足りず、「安全上及び避難上支障がないと認められるとき」という条件が重なります。自分の土地が区域に入っているかどうかは、窓口で区域図に当ててもらってください。市の解説は、急傾斜地崩壊危険区域内で建築物を建築する場合は、別途、石川県知事の許可が必要とも書いています。
県条例の側にも、災害危険区域の条があります。県条例第二条第1項が県条例を外す条件として挙げているのは法第四十条・第四十三条第三項・第五十六条の二第一項の3つで、法第三十九条(災害危険区域)は入っていません。条文どおり読めば、加賀市でも県条例の第三条(指定)・第四条(建築の制限)は外れないように読めます。一方で加賀市は、自分の条例で指定の仕組みを持っています。
両方の条文を並べて読むと、読者の側でやることは変わりません。県条例第三条第1項が指定するのは「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律第三条第一項の規定により指定された急傾斜地崩壊危険区域及びこれに準ずる地域のうち、知事が指定する区域」で、市条例第4条が受けているのも知事が指定して告示した同じ区域です。制限の中身も、県条例第四条と市条例第5条で同じ書き方——居室のある建築物は建築してはならない、ただし①基礎及び主要構造部が鉄筋コンクリート造又はこれに類するもの ②急傾斜地崩壊防止工事の施工により被害を受けるおそれがないのいずれかに該当し、かつ安全上及び避難上支障がないと認められるときは、この限りでない。どちらで読んでも、区域も、禁止も、例外の2つも同じです。
変わらないのは、そこまでです。市と県のどちらの条例で扱うのか、県が加賀市の区域で指定しているのかは、条文からは決められませんでした——罰則の名宛人や手続の窓口は、そこで変わり得ます。災害危険区域の該当が疑われる敷地なら、市の建築指導室と、石川県土木部建築住宅課(076-225-1778)の両方に確かめてください——区域図と計画図を持って行ってください。
レッドゾーン・イエローゾーンと、法第19条第4項は、別に残ります
第6条の距離を取っても、次の3つは別に残ります。
- 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)——指定するのは石川県知事です。区域内で居室を有する建築物を建てる場合、建築基準法施行令第80条の3の構造規制がかかります(土砂災害防止法と法施行令による全国共通の仕組みで、この条例とは別です)
- 土砂災害警戒区域(イエローゾーン)——こちらは構造規制ではなく、警戒避難体制の区域です。ただし、第6条のがけに当たるかどうかは、区域の内外とは関係なく決まります——イエローゾーンに入っていないことは、第6条が外れる理由になりません
- 建築基準法第19条第4項——建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合は、擁壁の設置その他安全上適当な措置が別に必要です
加賀市の条例には、レッドゾーンを理由にがけの規定を外す定めが見当たりません。条例の全文を機械で検索したところ、「土砂災害」「特別警戒」「第80条の3」はいずれも0件でした。つまりレッドゾーンの中でも外でも第6条は同じようにかかり、レッドゾーンの中なら、その上に土砂災害防止法の規制が重なります。第6条は居室の有無を問わず建築物について判定し、令第80条の3は居室を有する建築物にかかります——両方を通すことになります。ここで比べているのは、第6条とレッドゾーンの重なりだけです。区域は災害危険区域・レッドゾーン・イエローゾーンを、それぞれ別に見てください——レッドゾーンの外だから土砂災害の話は終わり、ではありません。
レッドゾーンでは、確認申請そのものが増えることがあります。土砂災害防止法第25条は、こういう仕組みです(条文そのものではなく、要点です)——特別警戒区域(建築基準法第6条第1項第3号に規定する区域を除く。)内における居室を有する建築物(同項第1号又は第2号に掲げるものを除く。)を、同項第3号の区域内の建築物とみなして、法第6条から第7条の5まで・第18条・第89条・第91条・第93条を適用します。つまり、都市計画区域の外で通常は建築確認の対象にならない規模でも、確認が必要になり得ます。「敷地の過半」は、第25条の条文には書かれていません——第25条が適用する法第91条が、敷地が区域の内外にわたる場合は敷地の過半の属する区域の規定によると定めています(ちょうど半分は「過半」ではありません)。
石川県内の指定は、県の石川県土砂災害情報システム(通称SABOアイ)で確認できます。市町村のハザードマップは避難の確認には有用ですが、作成時点より後の指定が反映されていないことがあります——境界と数値は、県が公表する指定の図書で確かめてください。レッドゾーン内で建てる場合の構造の考え方と、改修への補助の枠組みは、レッドゾーンの家と土地で整理しています。
レッドゾーンでどんな構造が求められるかは、土砂災害特別警戒区域で求められる構造にまとめています(区域に入るかどうかの判定と、この条例の当てはめは、上の窓口で確かめてください)。
既存の建物の増築・改築・用途変更——条例の側に緩和の定めがありません
加賀市建築基準条例の全文を検索したところ、「既存不適格」「仮設」「第85条」「用途変更」の語は、いずれも0件でした。条例の側に定めが無い以上、使えるのは建築基準法の側の仕組みです。
①既存不適格(きそんふてきかく=建てたときは適法だった建物)——条例の規定の施行・改正のときに適法に存在し、その施行・改正によって適合しなくなった建築物等には、建築基準法第3条第2項により、その適合しなくなった規定が原則として適用されません(条例の全部が外れるという意味ではありません)。ただし増築・改築・移転・大規模の修繕・大規模の模様替をすると、法第3条第3項第3号・第4号により緩和が切れて条例が適用されるのが原則です。法第86条の7第1項が列挙しているのは法第20条・第21条・第48条といった法自身の条で、法第39条・第40条に基づく条例の規定は入っていません——この条例には届きません(同条第2項・第3項も同じです)。法第86条の7のほうで、この条例に届くのは第4項(移転)です——同項が対象にする「建築基準法令の規定」には条例が含まれます(法第6条第1項の定義)。同一敷地内の移転か、交通上・安全上・防火上・避難上・衛生上・市街地の環境の保全上支障がないと特定行政庁(=許可・認定や是正命令を受け持つ側。建築主事等を置く市町村の区域では、その市町村の長です。建築基準法第2条第35号。ただし、限定特定行政庁(法第97条の2により、政令で定める事務に限って建築主事等を置く市町村)の区域内では、政令で定める建築物について都道府県知事です(法第2条第35号ただし書))が認める移転では、法第3条第3項にかかわらず既存不適格の扱いが継続します(施行令第137条の16)。どの移転でも扱いが続く、という意味ではありません。
②用途変更——工事を伴わない用途変更でも、建築基準法第87条第2項により、法第39条第2項・第40条に基づく条例の規定は用途変更に準用されます。がけの第6条だけでなく、災害危険区域内の第5条も対象です(居室のない倉庫を、居室のある用途に変える場合などに問題になります)。既存不適格の建物の用途変更については、法第87条第3項が列挙する規定(またはそれらに基づく条例規定)が原則として準用されます。号ごとに結論が違います——第1号(増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替を伴う場合)は、法第3条第3項で判断します。第2号(政令で指定する類似の用途相互間で、修繕・模様替をしないか、それが大規模でない場合)は、その用途変更だけを理由に条例が遡って適用されることはありません。第3号は法第48条(用途地域)に関する例外で、がけの規定には関わりません。
③仮設・災害時——法第85条第2項は、工事を施工するために現場に設ける事務所・下小屋・材料置場その他これらに類する仮設建築物などについて、「第三十九条及び第四十条の規定並びに第三章の規定は、適用しない」と定めています(ただし、防火地域又は準防火地域内にある延べ面積50平方メートルを超えるものについては法第62条が適用されます)。第6条は法第40条による付加制限なので、これに当たる仮設建築物には及ばないことになりますが、条文は「第四十条の規定」とだけ書いていて「同条に基づく条例の規定」とは書いていません——所管の窓口で確かめてください。また、特定行政庁が指定する非常災害区域等の内では、法第85条第1項の特例があります(ただし、防火地域内に建築する場合を除きます)。
罰金は原則、設計者に。ただし是正命令は、建築主・所有者も対象になり得ます
(罰則)
加賀市建築基準条例 第20条
第20条 第5条から第18条までの規定のいずれかに違反した場合における当該建築物の設計者(設計図書を用いないで工事を施工し、又は設計図書に従わないで工事を施工した場合においては、当該建築物の工事施工者)は、50万円以下の罰金に処する。
2 前項に規定する違反があった場合において、その違反が建築主の故意によるものであるときは、当該設計者又は工事施工者を罰するほか、当該建築主に対して同項の刑を科する。
がけの第6条は、罰則の対象です。第20条第1項が挙げる範囲は「第5条から第18条まで」で、がけの第6条も、災害危険区域の第5条も、どちらも入ります。名宛人(なあてにん=この罰則を受ける人)は原則設計者で、設計図書を用いないで工事を施工し、又は設計図書に従わないで工事を施工した場合に工事施工者に替わります。額は50万円以下の罰金です。建築主に刑が科されるのは、違反が建築主の故意によるときに限られます(第2項)。第21条は両罰規定で、法人の代表者や、法人・人の代理人・使用人その他の従業者が業務に関して違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人または人にも同じ刑が科されます——ただし書で除かれるのは、代理人・使用人その他の従業者の違反について、法人・人が防止のため相当の注意及び監督を尽くしたことの証明があった場合の、法人・人への刑に限られます(行為者への刑は残ります)。
是正命令は、建築主・所有者なども対象になり得ます(法第9条第1項)
罰則の名宛人が原則として設計者でも、是正命令の相手方は別です。建築基準法第9条第1項は、違反した建築物・敷地について、当該建築物の建築主、工事の請負人(下請人を含みます)・現場管理者、建築物または敷地の所有者・管理者・占有者に対して措置を命ずることができる、と定めています。故意かどうかは、この条の要件ではありません。命じられるのは工事の施工の停止のほか、除却(じょきゃく=取り壊し)・移転・改築・増築・修繕・模様替・使用禁止・使用制限その他、違反を是正するために必要な措置です。建てたあとに除却や使用禁止を命じられ得るのは、建築主・所有者などです——設計者は、設計者であることだけでは名宛人に挙げられていませんが、設計者が現場管理者を兼ねていれば名宛人になり得ます。命令に従わないと、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です(法第98条第1項第一号)。
そして、確認申請が要らない計画でも、条例の適合義務は残ります——確認特例(法第6条の4・施行令第10条)は、建築基準関係規定のうち「政令で定める規定」を、確認の審査から除く仕組みです(法第6条の4第1項)。その「政令で定める規定」に、法第39条から第41条までの規定に基づく条例の規定のうち、特定行政庁が規則で定める規定が挙げられています(令第10条第3号ハ・第4号ハ)。つまり、市が規則でその条例規定を挙げていれば審査から外れ、挙げていなければ審査の対象に残ります。加賀市建築基準法施行規則の全文を確かめたところ、この「規則で定める規定」を置いた条は見当たりませんでした(加賀市例規集の現行本文・2026年9月6日確認)。そうであれば、条例第6条は審査から外れていないことになります——ただしこれは条文を読んだ範囲の話で、市の運用には確かめていません。いずれにしても、審査されるかどうかにかかわらず、条例に適合する義務は残ります——「確認が下りたから第6条も大丈夫」とも、「審査されないから見なくてよい」とも読まないでください。ただし書を使う計画なら、なおさら着工前に建築指導室で確かめてください。なお建築確認は、業務範囲に対応する指定確認検査機関にも申請できます(法第6条の2)——その場合の相談先は、まずその機関へ。
窓口——加賀市建設部 建築指導室です
- 建築確認申請・条例第6条の当てはめ——建設部 建築指導室 0761-72-7935(ファクス0761-72-7212)。建築指導室は、建築課の下ではなく、建設部の下に並ぶ室です(建設部=建築課・建築指導室・都市計画課・土木課・建設総務課)。石川県も、加賀市の窓口としてこの室とこの番号を載せています
- 条例・解説そのものについて——市の「加賀市建築基準条例について」のページに、条例本文・解説・対照表のPDFが置かれています
- 災害危険区域の指定・県条例の適用——石川県土木部建築住宅課 076-225-1778。市と県の両方に確かめてください
- 土砂災害警戒区域・特別警戒区域の指定(告示図書)——石川県。区域を指定するのは県知事です
売買契約の前に、専門家と確かめること
確かめるのは、土地の売買契約を結ぶ前です。買ったあとでは、擁壁の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。この一覧は、自分で判定するためのものではありません——測って図にするのは建築士、条例の当てはめは加賀市建築指導室です。
- ① その土地は加賀市内か。加賀市内なら、読むのは加賀市建築基準条例 第6条です(がけ付近の建築物については、石川県建築基準条例は適用されません。県条例第二条第1項。外れるのは「関係規定」で、災害危険区域の第三条・第四条は法第39条に基づく規定です)
- ② 敷地の中や周りに、地表面が水平面に対し30度を超える傾斜度をなす土地で、高さが3メートルを超えるものがあるか。高さはがけの上端と下端との垂直距離です。30度ちょうど・3メートルちょうどは「超える」に当たりません。市の解説は「自然がけであるか否かは問いません」としています
- ③ 図面に「がけの下端」を落として測る。そこから水平に2倍取れているか。がけの上に建てても下に建てても、起点は下端です。高さ4メートルなら8メートル以上。測る先は、市の解説の図1では外壁の外面(壁が無い場合は柱外面)までです
- ④ 2倍以上が取れれば、第6条第1項については原則として建てられます。取れないなら、ただし書の3つの事由(地盤が堅固/堅固な擁壁等で保護/建築物の構造)のどれで示すかを決める。事由に当たるだけでは足りません——安全上支障がないと認められることまで要ります
- ⑤ がけの上にある建築物の敷地なら、第6条第2項の排水の措置が計画に入っているか。条文が名指ししているのは「がけの上にある建築物の敷地」です。雨水と汚水の行き先を図面に入れます。第2項にただし書はありません——第1項ただし書で距離が外れても、第2項は残ります
- ⑥ 確認申請に添える図書をそろえる。加賀市建築基準法施行規則第2条第1号は、建築物からがけの下端までの水平距離、がけの形状、土質等を表示する図書を求めています
- ⑦ 既存の擁壁で通すなら、資料と現況の確認から。市の解説は擁壁の技術基準に触れていますが、平成30年4月版で、法令名が古くなっています——いま適用される基準を建築指導室に確かめてください。高さ2メートルを超える擁壁は、令第138条第1項第5号・法第88条第1項の確認が別に立ち得ます
- ⑧ 災害危険区域に入っていないか。入っていれば居室のある建築物は原則、建築できません(住宅に限りません)。建築物が区域の内外にわたる場合は、区域内の部分が対象です(市の解説)。市と県の双方に、告示・区域図・適用条例を確かめてください
- ⑨ レッドゾーン・イエローゾーンに入っていないか。SABOアイで当たりを付け、最終確認は石川県の告示図書で。レッドゾーン内で居室を有する建築物を建てるなら、令第80条の3の構造規制が別にかかります。居室を有する建築物(法第6条第1項第1号又は第2号に掲げるものを除く)が区域内で、かつ敷地の過半が区域内なら、都市計画区域外でも土砂災害防止法第25条により確認が必要です(第25条は法第6条第1項第3号に規定する区域を対象から除いています)。この判定は、敷地境界・区域境界・建物の位置で変わります——自分で決めず、区域図と配置図を持って窓口で当ててもらってください
- ⑩ 既存の建物の増築・改築・用途変更は、適用関係を窓口で。条例の側に緩和の定めはありません。法第86条の7第1項はこの条例には届きません(届くのは第4項の移転と施行令第137条の16)
- ⑪ 建築確認が不要でも、条例の適合義務は残ります。都市計画区域の外でも第6条は効きます(第3条の列挙に第6条は入っていません)。違反すれば、条例第20条の罰則(50万円以下の罰金。原則、設計者)や、建築基準法第9条の是正命令の対象になり得ます。確認申請は、指定確認検査機関にも提出できます(法第6条の2)
- ⑫ 加賀市に「がけ地近接等危険住宅移転事業」があるかどうかは、この記事では確かめられませんでした。石川県のこの事業は事業主体が市町なので、制度があるかどうかから、市の担当課に聞いてください——加賀市で使えると決まったわけではありません。聞くときは建築年・所在地・区域図・現況の写真を持って行くと、対象になるかを見てもらえます
参考にした資料(2026年9月5日に原文を確認)
- 加賀市建築基準条例(加賀市例規集・現行本文。第1条・第3条・第4条・第5条・第6条・第20条・第21条。令和7年4月1日施行の版)
- 加賀市建築基準条例(加賀市公式PDF。例規集の本文と同じ第6条であることを確かめました)
- 加賀市建築基準条例と同解説(平成30年4月・加賀市建築課・PDF。はじめに・第4条・第5条・第6条の解説と図1)
- 加賀市建築基準法施行規則(加賀市例規集・現行本文。第2条第1号)
- 加賀市建築基準条例について(加賀市公式・条例本文と解説の掲載ページ、担当課と電話番号)
- 石川県建築基準条例(石川県例規集・第二条第1項・第三条・第四条)
- 建築基準法の施行(基準・規定)に関すること(石川県公式。相談窓口表・災害危険区域・土砂災害特別警戒区域・SABOアイ)
- 建築基準法(e-Gov法令検索・第2条・第3条・第6条・第6条の2・第6条の4・第9条・第19条第4項・第39条・第40条・第85条・第86条の7・第87条・第88条・第91条・第98条)
- 建築基準法施行令(e-Gov法令検索・第10条・第80条の3・第137条の16)
- 宅地造成及び特定盛土等規制法施行令(e-Gov法令検索・第8条から第13条まで。擁壁の技術的基準。2026年9月6日確認)
- 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(e-Gov法令検索・第25条)
- 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(e-Gov法令検索・第2条第3項・第3条・第7条)