熊本県天草市のがけ条例とレッドゾーン——崖の近くに建てられるか

天草市のがけは、第2条

天草市で、崖の近くに家を建てる・土地を買う人へ——最初に答えから。

熊本県天草市の「がけ条例」とは、天草市建築基準条例 第2条のことです。崖の近くに建てるときは、原則として崖から一定の距離を保つことが求められます。

先にすることは、3つです。崖の規定がかかっても、建てられないと決まったわけではありません。まず、土地の売買契約を結ぶ前に動く(すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に)——買ったあとでは、擁壁(ようへき=崖の土が崩れないよう支える壁)の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。つぎに、建築士に現況の測量図・断面図・配置案を用意してもらう。そのうえで、その図面を持って天草市建築住宅課へ、条例の当てはめを確かめる。高さも角度も距離も、目測で判断しないでください。

その土地は天草市内ですか。はい=天草市建築基準条例 第2条です熊本県建築基準条例は天草市の区域では適用除外とされています(県条例第1条の3と、熊本県建築基準法施行細則第1条の2。県の解説の記載)。②天草市の第2条は、高さ2メートルを超える崖に接し、または近接して建築しようとする場合に、崖の上にあっては崖の下端(かたん=斜面の低いほうの足元)から、崖の下にあっては崖の上端(じょうたん=斜面の高いほうの肩)から、その建築物との間にその崖の高さの1.5倍以上の水平距離を保たなければならない、と定めています。③起点は、上に建てるか下に建てるかで入れ替わります。ここがいちばん間違えやすいところです。④離せないときも、道はあります——第3項が、建築物の用途、規模もしくは構造、擁壁の設置または崖の状況により建築物の安全上支障がないと認められる場合には、第1項・第2項を適用しないと定めています。ここに当たれば、第2条については原則として建てられます条文が挙げる入口は、擁壁だけではありません——用途・規模もしくは構造・擁壁の設置・崖の状況から、安全上支障がないと示せるかを個別に確かめる話です。擁壁を設ける案でも、擁壁の種類、確認済証・完了検査済証の有無、そして「安全上支障がないと認められる」かどうかで結論が変わります。⑤ただし、レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)・災害危険区域(天草市には、急傾斜地崩壊危険区域とは別の条例で定めた区域があります)・法第19条第4項は、別に残ります。(条例・細則・市の資料は2026年9月5日に原文を確認しました)。

レッドゾーンでどんな構造が求められるかは、土砂災害特別警戒区域で求められる構造にまとめています(区域に入るかどうかの判定と、この条例の当てはめは、上の窓口で確かめてください)。

天草市内なら、天草市建築基準条例 第2条です

天草市内なら、天草市建築基準条例 第2条です
天草市建築基準条例 第2条。満たせるのはこの条まで。ほかの区域・法令は別に確認

「がけ条例」という名前の条例はありません。天草市では、建築基準法第40条などに基づく天草市建築基準条例(平成23年12月21日条例第40号)の第2条(崖に近接する建築物)が、崖に近い建築物の決まりです。市はホームページに「がけ条例による建築制限」というページを置き、この第2条を案内しています。

この条例は平成24年4月1日から施行されました。附則は、「この条例の施行の日(中略)の前日までに、熊本県建築基準条例(昭和46年熊本県条例第38号)の規定によりなされた処分、手続その他の行為は、この条例の相当規定によりなされたものとみなす」(中略は引用者)と定めています。それより前の土地の資料には、県の条番号が書かれていることがあります——条番号だけで判断せず、いまの天草市の条文に当ててください。

熊本県建築基準条例には第1条の3(適用除外)があり、市町村が法第39条・第40条・第43条第3項・第56条の2第1項の規定により条例を定めた場合で、その市町村の条例の適用により県条例に定める制限等の目的が達せられるときは、規則で定めるところにより、県条例の全部または一部を適用しない、と定めています。熊本県が公表している「熊本県建築基準条例の解説」は、この仕組みについて「熊本県建築基準法施行細則第1条の2の規定により、熊本市、八代市及び天草市の区域においては、本条例の規定の全部を適用除外としています」と書いています。規制が無くなるのではなく、読む条例が入れ替わります。

(崖に近接する建築物)
第2条 建築物を高さ2メートルを超える崖に接し、又は近接して建築しようとする場合は、崖の上にあっては崖の下端から、崖の下にあっては崖の上端から、その建築物との間に、その崖の高さの1.5倍以上の水平距離を保たなければならない。
2 鉄筋コンクリート造等の重量建築物を、崖の上に建築しようとする場合は、前項の基準を安全上支障がない程度に増大しなければならない。
3 前2項の規定は、建築物の用途、規模若しくは構造、擁壁の設置又は崖の状況により建築物の安全上支障がないと認められる場合には、適用しない。

天草市建築基準条例 第2条

どこからが「崖」か——条文は高さだけ。角度は、市のページに書かれています

ここは、条文と市の案内を分けて読んでください。天草市建築基準条例第2条には、「崖」の定義が置かれていません。条文が書いているのは「高さ2メートルを超える崖」という高さの条件だけで、勾配(こうばい=斜面の角度)が何度以上かは、この条にも、条例の第1章(総則)にも書かれていません。

角度を書いているのは、条文ではなく市の案内のほうです。天草市の「がけ条例による建築制限」のページは、がけを「勾配が30度を超える傾斜地で、高さ2mを超えるもの」と説明しています。30.0度ちょうど・2.0メートルちょうどは、この書き方には当たりません(どちらも「超える」です)。ただし、これは条文そのものではなく、市の説明です。ぎりぎりの土地は、市の説明で決めずに、図面を持って窓口に当ててください。

市が同じページに置いている資料(「建築基準条例の解説(抜粋)」というPDF)は、これとは違う書き方をしています。資料のがけは「地表面が水平面に対し30度を超える角度をなす土地(図1)で硬岩盤(風化の著しいものを除く。)以外のもの」——硬岩盤(こうがんばん=かたい岩の地盤)を、がけから外しています。ただし、「風化の著しいもの」は、その除外に入りません(=がけに当たり得ます)。そして市のページの説明には、硬岩盤の話が出てきません。岩肌の斜面がある土地では、どちらで見るかで結論が変わり得ます——しかも硬岩盤かどうか、風化が著しいかどうかは、見て決められるものではありません。地盤の調査と建築士の判断を用意したうえで、建築住宅課に当ててください。「うちは岩だから大丈夫」で終わらせないでください。

なお、資料はこの定義の根拠を「宅地造成等規制法施行令第1条」としていますが、この政令はいま「宅地造成及び特定盛土等規制法施行令」という名前です(法律の名称が令和5年5月26日に変わりました。令和4年法律第55号)。第1条の「崖」の定義そのものは、いまも同じ文です(2026年9月6日にe-Gov法令検索で確認しました)。資料そのものは2013年3月に作られ、2014年4月に更新されたもので、法令名は古いまま残っています。

条文は、自然にできた斜面か、人が切ったり盛ったりしてできた斜面かを問う書き方にはなっていません。また、崖が誰の土地にあるかでも線を引いていません——「建築物を……崖に接し、又は近接して建築しようとする場合」と書かれているだけです。隣の土地や道路との高低差でも、条件に当たれば規定はかかります。

もうひとつ、実務上の手がかりがあります。天草市建築基準法施行細則は、確認申請に添える図書として、敷地が「高さ2メートル以上の崖」に接し、または近接する場合の断面図を求めています(後述)。条例の「2メートルを超える」と、細則の「2メートル以上」は、一字違います。なぜ一字違うのかは、条文にも細則にも書かれていません。ただ、細則のほうが広く網をかけていることは確かです。高さがぎりぎりの土地こそ、図面を用意してください。

距離の起点は、崖の上に建てるか下に建てるかで入れ替わります

がけの上に建てるとき、距離をどこから測るか
がけの上に建てるとき、距離をどこから測るか

ここが、この条文のいちばんの山場です。崖の上に建てるなら、起点は「崖の下端」。崖の下に建てるなら、起点は「崖の上端」。どちらも、そこから建築物との間にその崖の高さの1.5倍以上の水平距離を保ちます。たとえば高さ4メートルの崖なら、6メートルです。起点を取り違えると、必要な距離が丸ごとずれます。市のページも、「原則、がけの上にあってはがけの下端から、がけの下にあってはがけの上端から、その建築物との間に、そのがけの高さの1.5倍以上の水平距離を保つ必要があります」と、同じ順で説明しています。

がけの下に建てるとき、距離をどこから測るか
がけの下に建てるとき、距離をどこから測るか

この距離は、敷地の境界からではなく、崖の下端または上端から測ります。だから、どこが下端で、どこが上端かを図面で決めることが、最初の仕事になります。斜面の途中に平らな部分があるとき、水路が絡むとき、古い石積みが混じるとき、傾斜が一様でないとき——どれも、目で見て決められるものではありません。そして義務の中身は「離しなさい」です——条文は「水平距離を保たなければならない」と書いています。離せないときにどうするかは、次の第3項に置かれています。

崖の上に建てる重い建物は、基準を増やします(第2項)

第2項は、鉄筋コンクリート造等の重量建築物を、崖の上に建築しようとする場合に、第1項の基準を安全上支障がない程度に増大しなければならないと定めています。重い建物の荷重が、崖に影響を及ぼさないようにするための項です。

「どれだけ増やすか」の数字は、条文に書かれていません。「安全上支障がない程度に」としか書かれていないので、増やす量は、個別の計画ごとに決まります——設計者が根拠を示し、建築住宅課で確かめる筋道です。また「鉄筋コンクリート造等の重量建築物」がどこまでを指すかも、条文からは一義に決まりません。木造でも一部を鉄筋コンクリート造にする計画なら、この項の当てはめを窓口で確かめてください。設計者には、こう頼んでください——「構造の種別(木造か、鉄筋コンクリート造か、混構造か)、基礎の形式、崖側にかかる荷重を示したうえで、第2項に当たる可能性があるかを建築住宅課に確かめてほしい」。この3つを添えて聞いてください。

擁壁を設けるなどして安全が確かめられれば、第2条第3項については原則として建てられます

離せないときの道は、第3項にあります。入口は4つあります——用途・規模もしくは構造・擁壁の設置・崖の状況のいずれかから、安全上支障がないと示せるかを確かめる道です(「規模もしくは構造」はひとまとまりとして数えています)。条文は、建築物の用途規模もしくは構造擁壁の設置、または崖の状況により、建築物の安全上支障がないと認められる場合には、第1項・第2項を適用しない——つまり、1.5倍を確保できなくても、第2条については原則として建てられます「原則として」と書くのには、理由があります——これは第2条の義務の話で、建築基準法第19条第4項、災害危険区域、土砂災害の区域は、別に確認してください。市のページは、適用が除外される場合の例として「がけの倒壊を防止するための擁壁の設置」と「都市計画法上の開発許可により設置された擁壁の場合」を挙げ、前者には「ただし、当該擁壁の設置において、建築基準法上の建築確認申請手続き及び完了検査済証の交付を受けていることが条件です」という注記を付けています。市のページが例示している「がけの倒壊を防止するための擁壁の設置」については、擁壁があるだけでは足りず、確認申請の手続きと完了検査済証の交付が条件とされているということです(第3項で考慮されるすべての擁壁に、一律にこの書類が要ると書かれているわけではありません——もう一つの例である開発許可により設置された擁壁には、この注記が付いていません)。市のページは続けて「がけ条例の適用が除外されますので、建築住宅課までご相談ください」と書いています。条文は「……により……認められる場合」と書いています——用途・規模もしくは構造・擁壁の設置・崖の状況のどれか1つで足りるとも、組み合わせが要るとも書いていません。決まるのは「安全上支障がないと認められるか」のほうで、そこをどう示すかは計画ごとに違います。土地の持ち主が自分で当てはめる一覧ではありません。

擁壁の形や寸法の一般的な考え方は、擁壁の選び方にまとめています(この条の当てはめは、この記事に書いた窓口で確かめてください)。

市が配っている資料は、「がけライン」で説明しています

天草市は、「がけ条例による建築制限」のページに、「建築基準条例の解説(抜粋)」という資料(PDF)を置いています。この資料の解説部分は、熊本県建築基準条例第2条の条番号で書かれています——天草市の第2条と条文の中身は同じですが、市の条例の解説として市が書き下ろしたものではありません。資料自身も、「なお、他の特定行政庁(熊本市、八代市、天草市等)とは取り扱いが異なる部分がありますので、ご注意下さい。」と断っています(特定行政庁は、建築確認や是正命令を受け持つ立場で、天草市の区域では原則として天草市長です)。この資料の書きぶりを、そのまま天草市の結論と決めつけないでください——有利にも、不利にも。当てはめは建築住宅課です。

4つの入口は、横並びではありません。崖の上に建てる場合について、資料はまず「規定の水平距離を保つことができない場合は、原則として擁壁を築造することが必要である」と書き、直接基礎・杭基礎・地盤改良で基礎を立ち下げる道を「やむを得ない場合」に置いています。「入口が4つあるから、好きなものを選べる」ではありません。また「建築物の用途」について、資料は「居室を有しない建築物で、がけ下に建築する場合の倉庫、車庫、便所、畜舎等」と書いています。居室(きょしつ)は、居住・執務・作業などに継続して使う部屋のことです——居室のある住宅は、ここに挙がっていません(資料は続けて「ただし、がけ上に建築する場合にあっては、上記の建築物以外でも、がけ下に支障を来す恐れがあるので、状況により判断を要する」とも書いています)。家を建てるなら、「用途」は当てにしにくい入口です。

資料が示している考え方の軸は、「がけライン」です。資料の言葉は「がけ上に建築する建築物の基礎を、がけの起点から1/1.5の角度をなす線(以下、「がけライン」(図3)という。)以深に納める場合等」——この「1/1.5」は角度の数字ではなく勾配です垂直1に対して水平1.5(がけの高さがHなら、水平に1.5H)で、角度でいえば約33.7度起点は、がけの下端です(資料は、安全性が確認できない既存擁壁があるときのがけラインの起点を「原則として既存擁壁構造体の外面とがけ下地盤面との交点」としています)。この資料では、一定の範囲の計画について、がけの上に建てる建築物の基礎を、この線より深く(以深に)納めるという考え方が示されています——これが、第3項の「構造」で安全を示すときの筋道のひとつです。「がけラインより深く入れれば、それだけで安全と認められる」ではありません——適用範囲の外なら、この考え方はそのまま使えません(範囲は、すぐ下に書きます)。資料は、その適用範囲を「建築物の規模は、木造建築物2階建て程度の小規模な建築物」「がけの規模は、高さ5m以下」「がけ上に建築する場合」と区切ったうえで、3つのやり方を挙げています。

  • 直接基礎による立ち下げ——立ち下げ基礎の底盤接地面を、すべてがけライン以深に納める。土圧を受ける立ち下げ部分の曲げ応力等に対する安全性を確保する。資料は「周辺の地盤を乱さないため、掘削深さは過度に深くしないよう配慮し、地表面から深さ2m程度を限度とする」としています
  • 杭基礎による立ち下げ——杭は支持杭とし、がけライン以深に納める。「がけラインと基礎の底盤下面との交点より内側基礎の割合は全体の1/2以上とし、杭全長の1/2かつ杭径の5倍以上はがけライン以深に根入れすること」(根入れ=杭や基礎を地中に埋め込む深さ)。原則として建築物全体を杭基礎とし、杭間隔は1.82メートル以内
  • 地盤改良による立ち下げ——浅層混合処理工法(改良深さ2メートル程度以内)では、原則としてべた基礎とし、基礎スラブ下は全面改良、改良範囲は外壁ラインから外側に改良厚の1/2以上。深層混合処理工法では、原則としてラップ配置による壁状形式やブロック状形式とする。いずれも改良深さはがけライン以深

この資料は、「これに合わせれば自分で判断できる」ものではありません。資料自身が、「本資料の規定に適合しない計画については別途詳細な調査や計算を行い、安全性を確かめる必要がある」と書いています。

古い石積みがある土地では、話が変わります。資料は、擁壁として認める構造を並べたうえで、こう書いています——「既設擁壁で上記の基準に適合することが確認できない間知ブロック積、自然石積による擁壁等は、がけとみなす。」(間知ブロック積は「けんちブロックづみ」と読みます)。「上記の基準」とは、資料が同じところで挙げている擁壁の基準(宅地造成等規制法による基準・開発許可基準・建築士会連合会基準に該当する構造その他国土交通大臣認定品、土砂法に基づく待受擁壁等、国土交通大臣が定める基準に従った構造計算により安全が確かめられた構造で、建築基準法の仕様規定を満たしたもの)です。これに当たると示せない石積みは、擁壁として数えられないだけでなく、その石積みごと「がけ」として測られるということです。これに合わせて資料は、安全性が確認できない既存擁壁がある場合のがけラインの起点を、原則として既存擁壁構造体の外面とがけ下地盤面との交点とする、としています。そして、「書類が無い」ことと「上記の基準に適合することが確認できない」ことが同じかどうかは、この資料には書かれていません——手元の書類でその擁壁が基準に適合すると示せるかどうかは、建築住宅課で個別に確かめてください。

既存の擁壁がある土地では、まず書類を探してください。「昔から石積みがあるから安心」ではありません。擁壁が第3項の「擁壁の設置」として通るかどうかは、工作物としての確認済証・検査済証があるか宅地造成や開発の許可を受けて完了検査に合格しているか道路や河川の管理者が築造・管理している施設か急傾斜地崩壊防止工事として築造されたものか——といった裏付けが取れるかどうかで大きく変わります。売主に、擁壁の書類が残っているかを聞いてください。

確認申請には、崖の断面図を付けます(施行細則 第5条)

(確認申請書に添付する図書)
第5条 確認申請書には、省令第1条の3又は第3条に規定する図書その他市長、建築主事又は建築監視員が必要と認める図書のほか、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める図書を添付しなければならない。
(中略)
(2) 建築物の敷地が高さ2メートル以上の崖に接し、又は近接する場合 崖の高さ、崖の下端及び上端と当該建築物との距離並びに崖の形状を明記した断面図

天草市建築基準法施行細則 第5条第1項第2号(中略は引用者)

建築士に頼む図面は、この号がそのまま指示書になります——崖の高さ崖の下端および上端と当該建築物との距離崖の形状を明記した断面図。斜面が一様でないときは、方向を変えて複数枚が要ります。あわせて現況の測量図(崖の位置、下端と上端の位置、敷地の境界)と配置案(建築物の位置と、崖の下端または上端からの水平距離)がそろうと、窓口での話が一度で済みます。「だいたいこのあたり」では、判定できません。崖の高さが30センチ違えば、必要な距離は45センチ変わります。

第2条を満たしても、この3つは別に残ります

  • 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)——指定するのは熊本県知事です(土砂災害防止法第9条第1項)。区域内で居室を有する建築物を建てる場合、建築基準法施行令第80条の3の構造規制がかかります。聞く順番は、こうです——建築の計画との関係は、まず天草市の建築住宅課に相談してください。区域そのものの位置は、熊本県の公示図書で確かめます(当たりは熊本県土砂災害情報マップで付けられます)
  • 土砂災害警戒区域(イエローゾーン)——こちらは構造規制ではなく、警戒避難体制の区域です。ただし、第2条の崖に当たるかどうかは、区域の内外とは関係なく決まります——イエローゾーンに入っていないことは、第2条が外れる理由になりません
  • 建築基準法第19条第4項——「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない。」この規定に、崖の高さの下限はありません——高さ2メートル以下でも、かかり得ます。「条例に当たらない=何もしなくてよい」ではありません

レッドゾーンでは、確認申請そのものが増えることがあります。土砂災害防止法第25条は、こういう仕組みです(条文そのものではなく、要点です)——特別警戒区域(建築基準法第6条第1項第3号に規定する区域を除く。)内における居室を有する建築物同項第1号又は第2号に掲げるものを除く。)を、同項第3号の区域内の建築物とみなして、法第6条から第7条の5まで・第18条・第89条・第91条・第93条を適用します。つまり、都市計画区域の外で通常は建築確認の対象にならない規模でも、確認が必要になり得ます「敷地の過半」は、第25条の条文には書かれていません——第25条が適用する法第91条が、敷地が区域の内外にわたる場合は敷地の過半の属する区域の規定によると定めています(ちょうど半分は「過半」ではありません)。なお天草市は、令和7年4月1日から、都市計画区域外に2階建て木造住宅などを建築する場合も建築確認申請が必要になったことを、別のページで案内しています。「都市計画区域の外だから確認は要らない」という前提は、いったん捨てて窓口に当ててください。

区域に入っているかどうかは熊本県土砂災害情報マップで当たりを付けられますが、熊本県は指定に係る公示図書について「各広域本部土木部及び各地域振興局土木部、熊本県庁砂防課、各市町村役場で縦覧できます」としています。最終確認は、この公示図書で行ってください。レッドゾーン内で建てる場合の構造の考え方と、改修への補助の枠組みは、レッドゾーンの家と土地で整理しています。

災害危険区域は2種類——急傾斜地崩壊危険区域と、市が別の条例で定めた区域です

(災害危険区域)
第27条 法第39条第1項の規定により指定する災害危険区域は、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)第3条第1項の規定により指定された急傾斜地崩壊危険区域及び別に条例で定める区域とする。
(建築の制限)
第28条 前条の災害危険区域内においては、住居の用に供する建築物は、建築してはならない。ただし、建築物の構造若しくは敷地の状況又は急傾斜地崩壊防止工事の施工等により被害を受けるおそれがないと認められる場合は、この限りでない。

天草市建築基準条例 第27条・第28条

「及び別に条例で定める区域」に、注目してください。天草市の災害危険区域は、急傾斜地崩壊危険区域だけではありません。そして天草市には、これとは別に天草市災害危険区域に関する条例(平成18年3月27日条例第238号)があります。この条例は、建築基準法第39条の規定に基づき、災害危険区域の指定等に関し必要な事項を定めるもので(第1条)、法第39条第1項に規定する災害危険区域を別表のとおりとしています(第2条)。その別表には、天草市倉岳町の「浦」と「宮田」の地区の区域地番が、一筆ずつ列挙されています(別表の備考は「地区名及び地番は、平成18年3月27日現在とする」としています)。

(建築の制限)
第3条 前条の災害危険区域内においては、住居の用に供する建築物を建築してはならない。

天草市災害危険区域に関する条例 第3条

この第3条には、ただし書がありません。建築基準条例第28条には「被害を受けるおそれがないと認められる場合は、この限りでない」というただし書がありますが、天草市災害危険区域に関する条例の第3条は、そこで文が終わっています。倉岳町の浦・宮田で土地を検討している方は、その地番が別表に載っているかどうかを、いちばん先に確かめてください。載っていれば、住居の用に供する建築物の話は、そこで大きく変わります。別表は天草市の例規集(この記事の最後に載せています)で読めます。ただし別表の備考は「地区名及び地番は、平成18年3月27日現在とする」と書いており、その後に分筆や合筆があった土地では、いまの地番と一致しないことがあります——登記の地番を控えて、建築住宅課に当ててください。

急傾斜地崩壊危険区域のほうは、指定されるとその区域がそのまま災害危険区域になり、建築基準条例第28条により住居の用に供する建築物は原則、建てられません。ただし書に当たれば建てられますが、その判断は窓口です。また、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律に基づく行為の制限や許可の手続きが別に必要になることがあります。土地の資料に「急傾斜地」の文字を見つけたら、県の土木部局に先に当たってください。

既存の建物の増築・改築——第2条は、緩和の対象に入っています

既存不適格(きそんふてきかく=建てたときは適法だった建物)には、建築基準法第3条第2項により、その適合しなくなった規定が原則として適用されません。ただし増築・改築・移転・大規模の修繕・大規模の模様替(法第2条第15号=建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の模様替)をすると、法第3条第3項第3号・第4号により緩和が切れて条例が適用されるのが原則です。

天草市建築基準条例は、そこに第29条(既存建築物等に対する制限の緩和)を置いています——法第3条第3項第3号および第4号に規定する建築物もしくはその敷地、またはその部分で、市長が、その建築物、敷地等の状況により、やむを得ないと認めるものについては、第2章および第3章の規定を緩和して適用することができる。第2条は第2章(建築物の敷地及び構造)に置かれていますから、この緩和の対象に入ります。ただし条文は「やむを得ないと認めるもの」「緩和して適用することができる」と書いています——増築だから自動的に外れる、という意味ではありません。個別の当てはめは、建築住宅課で確かめてください。

用途変更——工事を伴わない用途変更でも、建築基準法第87条第2項により、法第39条第2項・第40条に基づく条例の規定は用途変更に準用されます。既存不適格の建物の用途変更については、法第87条第3項が列挙する規定(またはそれらに基づく条例規定)が原則として準用され、増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合(第1号)などは、この準用から除かれます。また第30条は、法第85条第6項または第7項の許可を受けた仮設興行場等などについて、安全上および防火上支障がないと認められる場合は第2章・第3章の規定を適用しない、としています。

罰金は原則、設計者に。ただし是正命令は、建築主・所有者も対象になり得ます

第33条 第2条第1項若しくは第2項、(中略)又は第28条の規定に違反した場合における当該建築物の設計者(設計図書を用いないで工事を施工し、又は設計図書に従わないで工事を施工した場合は、当該建築物の工事施工者)は、20万円以下の罰金に処する。
2 前項に規定する違反があった場合において、その違反が建築物の建築主の故意によるものであるときは、その設計者又は工事施工者を罰するほか、当該建築主に対して前項の刑を科する。

天草市建築基準条例 第33条(中略は引用者)

第2条第1項・第2項は、罰則の対象です。名宛人(なあてにん=この罰則を受ける人)は原則設計者で、設計図書を用いない・従わない施工では工事施工者に替わります。違反が建築主の故意によるときは、設計者または工事施工者を罰するほか、建築主にも同じ刑が科されます(第33条第2項)。法人の代表者や、法人・人の代理人、使用人その他の従業者が業務に関して違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、法人または人にも罰金が科されます(第34条の両罰規定)。ただし第34条には、ただし書があります——代理人・使用人その他の従業者の違反行為を防止するため、「当該業務に対し、相当の注意及び監督が尽くされたことの証明があったとき」は、その法人または人については科されません災害危険区域の第28条も、同じ第33条に並んでいます。

是正命令は、建築主・所有者なども対象になり得ます(法第9条第1項)

罰則の名宛人が原則として設計者でも、是正命令の相手方は別です。建築基準法第9条第1項は、違反した建築物・敷地について、当該建築物の建築主、工事の請負人(下請人を含みます)・現場管理者、建築物または敷地の所有者・管理者・占有者に対して措置を命ずることができる、と定めています。故意かどうかは、この条の要件ではありません。命じられるのは工事の施工の停止のほか、除却(じょきゃく=取り壊し)・移転・改築・増築・修繕・模様替・使用禁止・使用制限その他、違反を是正するために必要な措置です。建てたあとに除却や使用禁止を命じられ得るのは、建築主・所有者などです——設計者は、設計者であることだけでは名宛人に挙げられていませんが、設計者が現場管理者を兼ねていれば名宛人になり得ます命令に従わないと、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です(法第98条第1項第1号)。これは、是正命令が出て、それに従わなかった場合の話です——土地を検討している段階でやることは、第2条が当たるかどうかと、当たるなら何をすればよいかを、建築住宅課で確かめることです。

そして、確認申請の審査で見られなかった場合でも、条例の適用要件を満たせば適合義務は残ります——確認申請を審査するのは建築主事等または指定確認検査機関で、確認特例(法第6条の4・施行令第10条)による審査の省略は、建築物・設計者の区分と、法第39条から第41条までに基づく条例規定のうち特定行政庁(とくていぎょうせいちょう。法第2条第35号は、建築主事または建築副主事を置く市町村の区域ではその市町村の長、それ以外の区域では都道府県知事としています。ただし、法第97条の2・第97条の3により建築主事等を置く市町村の区域内の政令で定める建築物については、都道府県知事です)が規則で定めた規定の範囲で決まります。大きな建築物では、行き先が市ではなく県になることがあります——どちらに出すかは、建築住宅課に確かめてください。審査が省略される場合でも、適合義務は別に生じます。また、指定確認検査機関に出す場合でも、条例の当てはめの相談は、市の窓口で受けてください。読み手として大事なのは、罰金の額よりも「どこに来るか」です。崖の手当てをしないまま建ててしまうと、その土地と建物を持っている人が、あとから工事や使用制限を命じられ得る立場になります。設計者に任せきりにせず、「第2条はどう当てはめたのか」を、契約の前に言葉で説明してもらってください。

「うちは確認申請が要らない規模だから」で、条例が外れるわけではありません

崖の近くの土地で聞かれることの多い誤解が、ふたつあります。

ひとつめ——「小さい建物だから条例は関係ない」。天草市建築基準条例第2条は、建築物の規模で線を引いていません。条文が書いているのは「建築物を高さ2メートルを超える崖に接し、又は近接して建築しようとする場合」だけです。平屋の小さな住宅でも、当たるときは当たります。確認申請の要否と、条例に適合する義務は、別々に決まります。しかも天草市の案内によれば、令和7年4月1日からは、都市計画区域外の2階建て木造住宅なども建築確認申請の対象になっています。

ふたつめ——「崖はお隣の土地だから、うちには関係ない」。第2条は、崖が誰の所有かで線を引いていません。隣地や道路との高低差でも、条件に当たれば規定はかかります。そして、その崖の手当て(擁壁を設ける、基礎を深くするなど)は、原則として建てる側の計画の中で解決することになります。土地を買う前に確かめる意味は、ここにあります——買ってから分かると、費用も配置も、後から動かせません。

窓口——天草市建築住宅課です

  • 条例第2条の当てはめ・確認申請・災害危険区域内の建築——天草市 建築住宅課 建築指導係 0969-32-6797(ファクス 0969-24-4266)。所在は〒863-8631 熊本県天草市東浜町8番1号。市は「建築確認申請は、特定行政庁である本市、または指定確認検査機関へ提出してください」と案内し、あわせて「建築物を建築する場合には、建築士または建築住宅課へご相談ください」と書いています。土地を買う前に、まずここです
  • 土砂災害の区域の指定・公示図書——熊本県 土木部 砂防課 096-333-2553(熊本市中央区水前寺6丁目18番1号 行政棟本館12階)。区域を指定するのは熊本県知事です。区域の位置は熊本県土砂災害情報マップで見られます
  • 急傾斜地崩壊危険区域の範囲・急傾斜地法の手続き——熊本県の天草地域を所管する土木部局。まず建築住宅課に、どこへ聞けばよいかを確かめてください(この記事では、天草地域の所管窓口の名称と直通番号までは確かめきれませんでした)

売買契約の前に、専門家と確かめること

確かめるのは、土地の売買契約を結ぶ前です。買ったあとでは、擁壁や基礎の費用と配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。この一覧は、自分で判定するためのものではありません——測って図にするのは建築士、条例の当てはめは天草市建築住宅課です。

  • ① その土地は天草市内か。天草市内なら、読むのは天草市建築基準条例 第2条です(熊本県建築基準条例は、県の解説によれば天草市の区域では全部が適用除外)
  • ② 倉岳町の浦・宮田なら、地番から。天草市災害危険区域に関する条例の別表に載っている地番かどうかを、いちばん先に確かめる。載っていれば、住居の用に供する建築物は建築してはならないと定められています(同条例第3条。ただし書はありません
  • ③ 敷地の中や周りに、高さが2メートルを超える高低差があるか。条例に「崖」の定義(角度)は書かれていません——市のページは「勾配が30度を超える傾斜地で、高さ2mを超えるもの」と説明し、市が配る資料は硬岩盤(風化の著しいものを除く。)をがけから外しています。硬岩盤かどうか、風化が著しいかどうかは、見て決められません——ぎりぎりの土地は窓口に当ててください
  • ④ 起点は、上に建てるか下に建てるかで入れ替わります。崖の上に建てるなら崖の下端から、崖の下に建てるなら崖の上端からその崖の高さの1.5倍以上の水平距離。高さ4メートルなら6メートルです
  • ⑤ 崖の上に建てる建物が、鉄筋コンクリート造等の重量建築物か。そうなら第2項で基準を増やします。増やす量は条文に数字が無く、個別に決まります
  • ⑥ 1.5倍を確保できないなら——第3項の4つの入口(用途/規模もしくは構造/擁壁の設置/崖の状況)のどれで安全を示すかを、設計者と決める。ただし、4つは横並びではありません——市が配る資料は、崖の上に建てて距離を保てない場合について「原則として擁壁を築造することが必要である」と書き、「用途」は「居室を有しない建築物で、がけ下に建築する場合の倉庫、車庫、便所、畜舎等」としています(居室のある家は、ここに挙がっていません)。「構造」で示すなら、同じ資料の「がけライン」が出発点になります(適用範囲は木造2階建て程度・崖の高さ5メートル以下・崖上に建築する場合)
  • ⑦ 既存の擁壁があるなら、書類から。市が配る資料は、基準に適合することが確認できない間知ブロック積・自然石積による擁壁等を「がけとみなす」としています——擁壁として数えられないだけでなく、その擁壁ごと「がけ」として測られます。あわせて、安全性が確認できない既存擁壁がある場合のがけラインの起点を、原則として既存擁壁構造体の外面と崖下地盤面との交点とする、としています。売主に、書類が残っているかを聞いてください
  • ⑧ 確認申請に付ける断面図を、早い段階で。細則第5条第1項第2号は、敷地が高さ2メートル以上の崖に接し、または近接する場合に、崖の高さ、崖の下端及び上端と当該建築物との距離並びに崖の形状を明記した断面図を求めています
  • ⑨ レッドゾーン・イエローゾーンに入っていないか。熊本県土砂災害情報マップで当たりを付け、最終確認は熊本県の公示図書で。レッドゾーンでは居室を有する建築物に令第80条の3の構造規制がかかり、土砂法第25条による確認申請も別に要り得ます
  • ⑩ 急傾斜地崩壊危険区域に入っていないか。入っていれば、条例第27条によりそこは災害危険区域で、住居の用に供する建築物は原則、建てられません(第28条)
  • ⑪ 既存の建物の増築・改築・用途変更は、適用関係を窓口で。条例第29条の緩和は「市長が(中略)やむを得ないと認めるもの」が条件です。違反すれば、条例第33条の罰則(20万円以下の罰金)や、建築基準法第9条の是正命令の対象になり得ます

参考にした資料(2026年9月5日に原文を確認)

  • 天草市建築基準条例(天草市例規集・現行条文。令和4年6月28日施行。第2条・第27条・第28条・第29条・第30条・第33条・第34条・附則)
  • がけ条例による建築制限(天草市公式)/同ページに掲載の建築基準条例の解説(抜粋) 市のページ上の表記もこの題名です。PDF・146.2キロバイト。中身は熊本県建築基準条例の解説の抜粋で、2013年3月作成・2014年4月更新。がけの定義、がけライン、擁壁の基準、立ち下げの3例が載っています
  • 建築基準法(e-Gov法令検索・第3条・第6条の4・第9条・第19条第4項・第20条・第39条・第40条・第85条・第87条・第91条・第98条)/建築基準法施行令(第10条・第80条の3)

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