熊本市で、崖の近くに家を建てる・土地を買う人へ——最初に答えから。
先にすることは、3つです。崖の規定がかかっても、建てられないと決まったわけではありません。まず、土地の売買契約を結ぶ前に動く(すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に)——買ったあとでは、擁壁(ようへき=崖の土が崩れないよう支える壁)の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。つぎに、建築士に現況の測量図・断面図・配置案を用意してもらう(崖がどこにあり、高さがいくつで、建てる家との距離がいくらかが分かる図面です)。そのうえで、その図面の中身を自分でも把握したうえで、建築士とともに熊本市建築指導課 建築審査室へ、条例の当てはめを確かめる。高さも角度も距離も、目測で判断しないでください。
①その土地は熊本市内ですか。はい=熊本市建築基準条例 第4条です(第4条だけを見れば済む、という意味ではありません——⑤の区域と規定を、同時に確かめます)。熊本県建築基準条例は熊本市の区域では適用除外とされています(県条例第1条の3と、熊本県建築基準法施行細則第1条の2。県の解説の記載)。②熊本市の第4条は、高さが2メートルを超える崖に接し、または近接して建築しようとする場合に、崖の上にあっては崖の下端(かたん=斜面の低いほうの足元)から、崖の下にあっては崖の上端(じょうたん=斜面の高いほうの肩)から、その建築物との間に崖の高さの1.5倍以上の水平距離を保たなければならない、と定めています。③起点は、上に建てるか下に建てるかで入れ替わります。ここがいちばん間違えやすいところです。④離せないときも、道はあります——第3項が、建築物の用途、規模もしくは構造、擁壁の設置または崖の状況により建築物の安全上支障がないと認められる場合には、第1項・第2項を適用しないと定めています。ここに当たれば、第4条については原則として建てられます。ただし、条文が求めているのは「擁壁を設けること」ではなく、「建築物の安全上支障がないと認められること」です——擁壁を設けさえすれば自動的に外れる、という書き方ではありません。安全性を図面と計算で示すのは設計する建築士で、当てはめを確かめるのは市の窓口です。⑤ただし、レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)・災害危険区域・建築基準法第19条第4項(=崖崩れ等による被害を受けるおそれのある場合の安全措置)は、別に残ります。(条例は2026年9月6日に熊本市例規集の現行本文〈内容現在 令和8年8月1日〉で、市の解説・市の取扱いは2026年9月5日に原文を確認しました)。
熊本市内なら、熊本市建築基準条例 第4条です

「がけ条例」という名前の条例はありません。熊本市では、建築基準法第40条などに基づく熊本市建築基準条例(平成24年12月26日条例第127号)の第4条(崖に近接する建築物)が、崖に近い建築物の決まりです。市が公表している「熊本市建築基準法取扱」は、この第4条を市自身が「がけ条例」と呼んで説明しています。
熊本県建築基準条例には第1条の3(適用除外)があり、市町村が法第39条・第40条・第43条第3項・第56条の2第1項の規定により条例を定めた場合で、その市町村の条例の適用により県条例に定める制限等の目的が達せられるときは、規則で定めるところにより、県条例の全部または一部を適用しない、と定めています。熊本県が公表している「熊本県建築基準条例の解説」は、この仕組みについて「熊本県建築基準法施行細則第1条の2の規定により、熊本市、八代市及び天草市の区域においては、本条例の規定の全部を適用除外としています」と書いています。規制が無くなるのではなく、読む条例が入れ替わります。
(崖に近接する建築物)
熊本市建築基準条例 第4条
第4条 建築物を高さが2メートルを超える崖(地表面が水平面に対し30度を超える角度をなす土地で硬岩盤(風化の著しいものを除く。)以外のものをいう。)(以下「崖」という。)に接し、又は近接して建築しようとする場合は、崖の上にあっては崖の下端から、崖の下にあっては崖の上端から、その建築物との間に、その崖の高さの1.5倍以上の水平距離を保たなければならない。
2 鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物を崖の上に建築しようとする場合は、前項の基準を安全上支障がない程度に増大しなければならない。
3 前2項の規定は、建築物の用途、規模若しくは構造、擁壁の設置又は崖の状況により建築物の安全上支障がないと認められる場合には、適用しない。
どこからが「崖」か——高さ2メートル超・勾配30度超。硬岩盤は除かれますが、風化が著しければ崖に当たります
熊本市の条文は、「崖」を「地表面が水平面に対し30度を超える角度をなす土地で硬岩盤(風化の著しいものを除く。)以外のもの」(硬岩盤=こうがんばん。かたい岩の地盤)と定義し、そのうえで高さが2メートルを超えるものを第4条の対象にしています。30.0度ちょうど・2.0メートルちょうどは、当たりません(条文はどちらも「超える」です)。市の解説(令和8年3月)も、「本条において「崖」とは、勾配が30度を超える傾斜地で、高さ2mを超えるものをいいます」と書いています。
「硬岩盤」の判定は、素人にはできません。条文は硬岩盤を崖から除いていますが、そこには「風化の著しいものを除く」という打ち消しが付いています。見た目が岩でも、風化が著しければ崖に当たり得ます。岩かどうか、風化の程度がどうかを見分けるのは、地盤調査と建築士の仕事です。「うちは岩だから外れる」と、自分で決めないでください。
崖に当たるかどうかは、自然にできた斜面か、人が切ったり盛ったりしてできた斜面かを問う書き方にはなっていません。敷地の中だけでなく、隣の土地や道路との高低差も対象になり得ます。条文は「建築物を……崖に接し、又は近接して建築しようとする場合」と書いており、崖が誰の土地にあるかで線を引いていません。
条文が定義しているのは「30度を超える角度をなす土地」であって、敷地の平均勾配ではありません。斜面の上のほうがゆるく、下のほうが急——という土地はよくあります。どこからどこまでを1つの崖として見るか、その高さをどこで測るかは、断面図で決めることになります。市の解説は、条文と図でこの範囲を示していますが、個別の地形の当てはめまでは書いていません。ここは、窓口に持ち込む前に建築士と詰めるところです。
距離の起点は、崖の上に建てるか下に建てるかで入れ替わります
ここが、この条文のいちばんの山場です。崖の上に建てるなら、起点は「崖の下端」。崖の下に建てるなら、起点は「崖の上端」。どちらも、そこから建築物との間に崖の高さの1.5倍以上の水平距離を保ちます。たとえば高さ4メートルの崖なら、6メートルです。起点を取り違えると、必要な距離が丸ごとずれます。
市の解説は、この範囲を「崖に近接する」部分=崖の崩壊等により影響を受ける範囲と言い換え、「崖の上にあっては崖の下端から,下にあっては崖の上端から水平距離が崖の高さの1.5倍に相当する距離以内の範囲をいいます」と書いています(解説の図1)。どこが下端で、どこが上端かを図面で決めることが、最初の仕事になります。斜面の途中に平らな部分(小段)があるとき、水路や既存の石積みが混じるとき、傾斜が一様でないとき——どれも、目で見て決められるものではありません。
熊本市の第4条は「その建築物との間に……水平距離を保たなければならない」という形です。つまり、義務の中身は「離しなさい」で、離せないときにどうするかは第3項に置かれています。この距離は、敷地の境界からではなく、崖の下端または上端から測ります——隣の土地に崖があっても、測る起点は崖のほうです。市の解説は、崖の高さをH、確保すべき距離を1.5Hとする図を載せています。
崖の上に建てる重い建物は、基準を増やします(第2項)
第2項は、鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物を崖の上に建築しようとする場合に、第1項の基準を安全上支障がない程度に増大しなければならないと定めています。市の解説は、その理由を「その重量によって崖に影響を与えないよう」と書き、「建築物の一部を鉄筋コンクリート造等とした場合も含まれます」と付け加えています。木造の家でも、一部をRC造にすれば、第2項の「基準を増大する」義務がかかり得ます。
「どれだけ増やすか」の数字は、条文にも解説にも書かれていません。増やす量は、個別の計画ごとに決まります——設計者が根拠を示し、窓口で確かめる筋道です。なお解説は、基礎杭等を崖の崩壊等により影響を受ける範囲より深い位置まで伸ばした場合などには第3項によりこの限りではない、としています。
擁壁を設けるなどして安全が確かめられれば、第4条第3項については原則として建てられます
離せないときの道は、第3項にあります。建築物の用途、規模もしくは構造、擁壁の設置、または崖の状況により、建築物の安全上支障がないと認められる場合には、第1項・第2項を適用しない——つまり、1.5倍を確保できなくても、第4条については原則として建てられます。ただし、条文が外す条件は「安全上支障がないと認められること」です——擁壁を設けたことそのものではありません。「原則として」と書くのには、理由があります——これは第4条の義務の話で、建築基準法第19条第4項、災害危険区域、土砂災害の区域は、別に確認してください。
条文が挙げているのは「用途、規模若しくは構造、擁壁の設置又は崖の状況」です。市の解説は、これを4つの入口——用途/規模もしくは構造/擁壁の設置/崖の状況——に分けて、当てはめの考え方を図で示しています。いずれも「当該建築物を設計する建築士が安全上支障がないと判断できる場合」という条件が付いています——土地の持ち主が自分で判定する一覧ではありません。条文は「……により……認められる場合」と書いています——4つのうちどれか1つで足りるとも、組み合わせが要るとも書いていません。決まるのは「安全上支障がないと認められるか」のほうで、そこをどう示すかは計画ごとに違います。
- 用途——崖下に建てる場合で、建築物自体が倉庫等の居室(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋)を有しないものや、崖の崩壊等により影響を受ける範囲をピロティ(1階を柱だけにした吹き放ちの部分)や物置等とした場合(解説の図2)
- 規模もしくは構造(条文はこの2つをひとまとまりで書いています。市の解説が図で示しているのは構造の例です)——崖下に建てる場合で、影響を受ける範囲の構造耐力上主要な部分を高基礎等の鉄筋コンクリート造とし、その部分に開口部を設けないとき(図3)。崖上に建てる場合で、影響を受ける範囲より深く基礎を伸ばす、または基礎杭等を打つとき(図4・図5)。解説は、高基礎は天端(てんば=上面)を崖のラインより上位とすること、立ち下げ基礎は底板の設置面をすべて崖のラインより下位に収めることを注記しています
- 擁壁の設置——市の解説は、ここでいう擁壁を工作物の確認済証および検査済証がある擁壁のほか、次のいずれかに該当するものとしています。宅地造成等規制法または都市計画法による許可を受け、完了検査に合格したもの/道路・河川の管理者が道路、河川等の施設として築造したもの、または管理しているもの/急傾斜地の崩壊による災害防止に関する法律に規定する急傾斜地崩壊防止工事として築造されたもの/崖と建築物の間に土留め壁を設けた場合(図6)。「昔から石積みがあるから安心」ではありません——この「擁壁の設置」の入口を使うなら、書類で裏が取れるかどうかが線引きです。ただし、書類が無ければ第3項の道がすべて閉じる、という意味ではありません——第3項は擁壁のほかに用途・規模もしくは構造・崖の状況も挙げています。書類が無いときにどの道が取れるかは、設計者と市の窓口に確かめてください
- 崖の状況——解説は「擁壁の設置を要しない切土のり面の勾配」の表(表1)を参考として示しています。軟岩(風化の著しいものを除く)は、崖の高さ5メートル以下で80度以下・5メートル超えで60度以下。風化の著しい岩は、50度以下・40度以下。砂利、真砂土(まさど)、硬質粘土等は、45度以下・35度以下です
この表は「この角度以下なら安全」という保証ではありません。表の題は「擁壁の設置を要しない切土のり面の勾配」で、切土(きりど=地面を削ってつくった斜面)を前提にしています。そして表を引く前に、その斜面の土質が軟岩なのか、風化の著しい岩なのか、砂利・真砂土・硬質粘土等なのかを決めなければなりません。この区分けは、目で見て決められるものではありません。解説自身が、この表を「参考としてください」と書き、判断の主語を設計する建築士に置いています。
市の解説は第4条の解説に、「他の特定行政庁とは取扱いが異なる部分がありますのでご注意下さい」(特定行政庁=とくていぎょうせいちょう。建築主事を置く市町村の長や都道府県知事など、建築基準法を執行する立場の行政庁)と書き、冒頭では詳細を熊本市建築指導課建築審査室へ問い合わせるよう求めています。熊本市内の土地は、熊本市の窓口で確かめてください。
建築士に用意してもらう図面は、この3つが軸になります
第4条の当てはめを窓口で確かめるには、話し言葉ではなく図面が要ります。軸になるのは次の3つです。①現況の測量図——崖の位置、下端と上端の位置、敷地の境界。②断面図——崖の形状、勾配、高さ。斜面が一様でないときは、方向を変えて複数枚。③配置案——建築物の外壁の位置と、崖の下端または上端からの水平距離。第3項で安全を示すつもりなら、あわせて擁壁の位置と構造、または基礎の立ち下げ深さ・杭の長さが要ります。「だいたいこのあたり」では、判定できません。崖の高さが30センチ違えば、必要な距離は45センチ変わります。
擁壁そのものにも、確認申請が要ることがあります
高さ2メートルを超える擁壁は、建築基準法施行令第138条第1項第5号の工作物です。都市計画区域や準都市計画区域などの中では、建物とは別に確認申請が要ります(法第88条第1項が擁壁について準用する法第6条第1項は、第3号の建築物に係る部分に限られています)。熊本市が公表している「熊本市建築基準法取扱」(2025年度版)は、これについて市独自の取扱いを置いています。
「建築基準法等の運用について(熊本県版)A8669」において、法88条1項に規定する工作物のうち、確認申請を要しないものの取扱いが定められているが、「田畑、山林等の保安等の目的で築造されるもの」のうち、周辺に既存建築物がある等、当該建築物に「熊本市建築基準条例」4条(がけ条例)が適用される場合にあっては、確認申請の提出を要する。
熊本市建築基準法取扱(2025年度版)工23005
また、現状は既存建築物がない場合でも、建築物の新築が見込まれる場合等、「熊本市建築基準条例」4条(がけ条例)が適用される可能性がある場合には、確認申請を提出すること。
「田畑の保安のための擁壁だから申請は要らない」と決めてしまわないでください。いま建物が無くても、将来の新築が見込まれる場合には申請を出すよう、市は求めています。擁壁を先に造ってから家の計画を始める段取りのときは、擁壁の工事に入る前に建築審査室へ相談してください。
レッドゾーンでは、市の解説上、第4条は適用外——代わりに令第80条の3と土砂法第25条がかかります
市の解説は、第4条の項の最後に「土砂災害特別警戒区域内」についてという節を置き、こう書いています——土砂災害特別警戒区域において居室を有する建築物を建築する場合の基準については土砂災害防止法に定めてあるため、本条例については適用外となります。詳細は熊本県県央広域本部土木部工務管理課(旧熊本県熊本土木事務所)へ問い合わせるように、とも書かれています。
これは「規制が軽くなる」という意味ではありません。外れるのは条例の第4条のほうで、代わりに土砂災害防止法と建築基準法の規制がかかります。土砂災害防止法第24条は、特別警戒区域における土砂災害の発生を防止するため、建築基準法第20条第1項に基づく政令において、居室を有する建築物の構造が土砂災害の発生原因となる自然現象により建築物に作用すると想定される衝撃に対して安全なものとなるよう、構造耐力に関する基準を定めるものとする、と定めています。その政令が建築基準法施行令第80条の3です。
さらに、確認申請そのものが増えることがあります。土砂災害防止法第25条は、特別警戒区域(建築基準法第6条第1項第3号に規定する区域を除く。)内における居室を有する建築物(同項第1号又は第2号に掲げるものを除く。)について、同項第3号の規定に基づき都道府県知事が関係市町村の意見を聴いて指定する区域内における建築物とみなして、法第6条から第7条の5まで、第18条、第89条、第91条、第93条の規定を適用する、と定めています。熊本市も、レッドゾーンでの建築について「土砂法第25条に基づき、都市計画区域外において建築確認申請を要さない建築物(建築基準法第6条1項4号規模の建築物)を建築する場合であっても、レッドゾーン内にあっては建築確認申請が必要になります」と案内しています(このページの最終更新日は2023年10月3日で、括弧内の「第6条1項4号規模の建築物」という区分はその後の法改正で変わっています——旧・第4号は、いまの法第6条第1項第3号(都市計画区域等の内の建築物)に当たります。実際の当てはめは窓口で確かめてください)。「敷地の過半」は、第25条の条文には書かれていません——第25条が適用する法第91条が、敷地が区域の内外にわたる場合は敷地の過半の属する区域の規定によると定めています(ちょうど半分は「過半」ではありません)。
レッドゾーンにも、外れる道があります。熊本市のページは、こう案内しています——「建築物から独立して土砂法に基づく待受擁壁等を設置した場合は、土砂法第18条の工事完了の検査を経て、レッドゾーンの指定解除手続きとなります。待受擁壁等の施行や指定解除の手続き等については、県央広域本部土木部(熊本土木事務所)にお尋ねください」。待受擁壁(まちうけようへき)は、崩れてきた土砂を受け止めるための擁壁です。これは「擁壁を建物にくっつけて造る」話ではありません——条文の言い方は「建築物から独立して」です。手続きの窓口も、市ではなく県です。
区域を指定するのは熊本県知事です(土砂災害防止法第9条第1項)。区域に入っているかどうかは熊本県土砂災害情報マップで当たりを付けられますが、熊本県は指定に係る公示図書について「各広域本部土木部及び各地域振興局土木部、熊本県庁砂防課、各市町村役場で縦覧できます」としています。最終確認は、この公示図書で行ってください。なお土砂災害警戒区域(イエローゾーン)は構造規制ではなく警戒避難体制の区域ですが、第4条の崖に当たるかどうかは、区域の内外とは関係なく決まります——イエローゾーンに入っていないことは、第4条が外れる理由になりません。レッドゾーン内で建てる場合の構造の考え方と、改修への補助の枠組みは、レッドゾーンの家と土地で整理しています。
第4条とは別に、確かめる区域と規定が3つあります
- 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)——指定するのは熊本県知事です。区域内で居室を有する建築物を建てる場合、建築基準法施行令第80条の3の構造規制がかかり、土砂災害防止法第25条により建築確認の対象が広がります。ここは「第4条に上乗せ」ではありません——市の解説は、レッドゾーンでは条例第4条のほうが適用外になると書いています(上の節)。第4条が外れても、令第80条の3と第25条は残ります
- 土砂災害警戒区域(イエローゾーン)——こちらは構造規制ではなく、警戒避難体制の区域です。ただし、第4条の崖に当たるかどうかは、区域の内外とは関係なく決まります——イエローゾーンに入っていないことは、第4条が外れる理由になりません
- 建築基準法第19条第4項——「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない。」この規定に、崖の高さの下限はありません——高さ2メートル以下でも、かかり得ます。「条例に当たらない=何もしなくてよい」ではありません
災害危険区域では、住居の用に供する建築物は原則、建てられません
(災害危険区域)
熊本市建築基準条例 第2条・第3条
第2条 法第39条第1項の災害危険区域は、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)第3条第1項の規定により指定された急傾斜地崩壊危険区域とする。
(建築の制限)
第3条 前条の災害危険区域内においては、住居の用に供する建築物は、建築してはならない。ただし、建築物の構造若しくは敷地の状況又は急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律第2条第3項に規定する急傾斜地崩壊防止工事の施工等により被害を受けるおそれがないと認められる場合においては、この限りでない。
熊本市では、急傾斜地崩壊危険区域が指定されると、その区域がそのまま建築基準法第39条の災害危険区域になります。市の解説は「急傾斜地崩壊危険区域内では、急傾斜地崩壊防止工事が終了していない場合、原則として建築できません」と書き、指定箇所の照会先を熊本県県央広域本部土木部工務管理課(旧熊本県熊本土木事務所)としています。禁止されるのは「住居の用に供する建築物」で、第3条ただし書に当たれば、第3条については原則として建てられますが、その判断は窓口です。
ここは、第4条とは別の話です。第4条は「離しなさい(または安全を示しなさい)」という距離と構造の規定ですが、災害危険区域は住居用の建築そのものを原則として禁じる規定です。1.5倍を確保できても、区域内なら第3条が別にかかります。また、急傾斜地崩壊危険区域では、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律に基づく行為の制限や許可の手続きが別に必要になることがあります。土地の資料に「急傾斜地」の文字を見つけたら、県の土木事務所に先に当たってください。
既存の建物の増築・改築——第4条は緩和の対象ですが、市長が「やむを得ない」と認めた場合に限ります
既存不適格(きそんふてきかく=建てたときは適法だった建物)には、建築基準法第3条第2項により、その適合しなくなった規定が原則として適用されません。ただし増築・改築・移転・大規模の修繕・大規模の模様替をすると、法第3条第3項第3号・第4号により緩和が切れて条例が適用されるのが原則です。
熊本市建築基準条例は、そこに第31条(既存建築物等に対する制限の緩和)を置いています——法第3条第3項第3号および第4号に規定する建築物もしくはその敷地、またはその部分で、市長が、その建築物、敷地等の状況により、やむを得ないと認めるものについては、第3章および第4章の規定による制限を緩和することができる。第4条は第3章(建築物の敷地及び構造)に置かれていますから、この緩和の対象に入ります(章立ては、市の解説PDF〈令和8年3月版〉の目次で確かめました)。ただし条文は「やむを得ないと認めるもの」「緩和することができる」と書いています——増築だから自動的に外れる、という意味ではありません。個別の当てはめは、建築審査室で確かめてください。
用途変更——工事を伴わない用途変更でも、建築基準法第87条第2項により、法第39条第2項・第40条に基づく条例の規定は用途変更に準用されます。既存不適格の建物の用途変更については、法第87条第3項が列挙する規定(またはそれらに基づく条例規定)が原則として準用され、増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合(第1号)などは、この準用から除かれます。また第32条は、法第85条第6項または第7項の許可を受けた仮設興行場等と、法第87条の3第6項または第7項の許可を受けた興行場等・特別興行場等について、安全上および防火上支障がないと認められる場合は第3章・第4章の規定を適用しない、としています(市の解説PDF〈令和8年3月版〉は、第32条を令和4年改正前の条文のまま載せています——見出しも「仮設建築物等…」で、引く項も第5項・第6項になっています。上に書いたのは、例規集の現行本文〈内容現在 令和8年8月1日〉のほうです)。
罰金は原則、設計者に。ただし是正命令は、建築主・所有者も対象になり得ます
第4条第1項・第2項は、罰則の対象です。熊本市建築基準条例第35条第1項は、第4条第1項もしくは第2項などの規定に違反した場合における当該建築物の設計者(設計図書を用いないで工事を施工し、または設計図書に従わないで工事を施工した場合は、当該建築物の工事施工者)を20万円以下の罰金に処する、と定めています。違反が建築主の故意によるものであるときは、その設計者または工事施工者を罰するほか、建築主にも同項の刑が科されます(第35条第2項)。法人の代表者や、法人・人の代理人、使用人その他の従業者が業務に関して前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人または人にも同条第1項の刑が科されます(第36条の両罰規定)。第35条・第36条は、2026年9月6日に熊本市例規集の現行本文(内容現在 令和8年8月1日)で読みました。なお、市の解説PDFは「法35条、36条(罰則)、附則は省略」としているので、解説には載っていません。
是正命令は、建築主・所有者などに来ます(法第9条第1項)
罰則の名宛人(なあてにん=その罰則を受ける人)が原則として設計者でも、是正命令の相手方は別です。建築基準法第9条第1項は、違反した建築物・敷地について、当該建築物の建築主、工事の請負人(下請人を含みます)・現場管理者、建築物または敷地の所有者・管理者・占有者に対して措置を命ずることができる、と定めています。故意かどうかは、この条の要件ではありません。命じられるのは工事の施工の停止のほか、除却(じょきゃく=取り壊し)・移転・改築・増築・修繕・模様替・使用禁止・使用制限その他、違反を是正するために必要な措置です。建てたあとに除却や使用禁止を命じられ得るのは、建築主・所有者などです——設計者は、設計者であることだけでは名宛人に挙げられていませんが、設計者が現場管理者を兼ねていれば名宛人になり得ます。命令に従わないと、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です(法第98条第1項第1号)。
そして、確認申請の審査で見られなかった場合でも、条例の適用要件を満たせば適合義務は残ります——確認申請を審査するのは建築主事等または指定確認検査機関で、確認特例(法第6条の4・施行令第10条)による審査の省略は、建築物・設計者の区分と、法第39条から第41条までに基づく条例規定のうち特定行政庁が規則で定めた規定の範囲で決まります。審査が省略される場合でも、適合義務は別に生じます。また、指定確認検査機関に出す場合でも、条例の当てはめの相談は、市の窓口で受けてください。
「うちは確認申請が要らない規模だから」で、条例が外れるわけではありません
崖の近くの土地で聞かれることの多い誤解が、ふたつあります。
ひとつめ——「小さい建物だから条例は関係ない」。熊本市建築基準条例第4条は、建築物の規模で線を引いていません。条文が書いているのは「建築物を高さが2メートルを超える崖(中略)に接し、又は近接して建築しようとする場合」(中略は引用者)だけです。平屋の小さな住宅でも、当たるときは当たります。確認申請の要否と、条例に適合する義務は、別々に決まります。
ふたつめ——「崖はお隣の土地だから、うちには関係ない」。第4条は、崖が誰の所有かで線を引いていません。隣地や道路との高低差でも、条件に当たれば規定はかかります。そして、その崖の手当て(擁壁を設ける、基礎を深くするなど)は、原則として建てる側の計画の中で解決することになります。土地を買う前に確かめる意味は、ここにあります——買ってから分かると、費用も配置も、後から動かせません。
崖の手当てを擁壁で行う計画では、擁壁の工事が先に走りがちです。けれど高さ2メートルを超える擁壁は、都市計画区域などの中では工作物の確認申請の対象になり、市は「「熊本市建築基準条例」4条(がけ条例)が適用される可能性がある場合には、確認申請を提出すること」と取扱いに書いています。擁壁の設計と、家の設計と、条例の当てはめは、同じ時期に窓口へ持ち込むのが安全です——図面を用意するのは建築士、持ち込むのは建築士と施主です。擁壁だけ先に発注しないでください。
窓口——条例のことは熊本市、区域のことは熊本県です
- 条例第4条の当てはめ・確認申請・擁壁の工作物申請——熊本市 都市建設局 建築指導課 建築審査室 096-328-2516(メール kenchikushinsa@city.kumamoto.lg.jp)。所在は熊本市中央区手取本町1番1号。市が「主な窓口の受付時間」として案内しているのは月曜から金曜日の午前9時〜午後4時30分(祝・休日、12月29日〜翌年1月3日を除く)ですが、市は「受付時間は窓口によって異なります」とも書いています——行く前に、電話で確かめてください。土地を買う前に、まずここです
- レッドゾーン・急傾斜地崩壊危険区域の範囲、構造計算に必要な資料——熊本県 県央広域本部土木部(旧熊本土木事務所)砂防班 096-333-2796(熊本市中央区水前寺6丁目18-1 防災センター5階)
- 土砂災害の区域の指定・公示図書——熊本県 土木部 砂防課 096-333-2553(熊本市中央区水前寺6丁目18番1号 行政棟本館12階)。区域を指定するのは熊本県知事です
売買契約の前に、専門家と確かめること
確かめるのは、土地の売買契約を結ぶ前です。買ったあとでは、擁壁や基礎の費用と配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。この一覧は、自分で判定するためのものではありません——測って図にするのは建築士、条例の当てはめは熊本市建築指導課 建築審査室です。
- ① その土地は熊本市内か。熊本市内なら、熊本市建築基準条例 第4条です(熊本県建築基準条例は、県の解説によれば熊本市の区域では全部が適用除外)
- ② 敷地の中や周りに、勾配が30度を超える傾斜地で、高さが2メートルを超えるものがあるか。硬岩盤は除かれますが、風化の著しいものは除かれません——岩かどうかの判定は、地盤調査と建築士に
- ③ 起点は、上に建てるか下に建てるかで入れ替わります。崖の上に建てるなら崖の下端から、崖の下に建てるなら崖の上端から、崖の高さの1.5倍以上の水平距離。高さ4メートルなら6メートルです
- ④ 崖の上に建てる建物に、鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造の部分があるか。あれば第2項で基準を増やします。市の解説は、一部をRC造とした場合も含まれるとしています
- ⑤ 1.5倍を確保できないなら——第3項の4つの入口(用途/規模もしくは構造/擁壁の設置/崖の状況)のどれで安全を示すかを、設計者と決める。どれも「設計する建築士が安全上支障がないと判断できる場合」が条件です
- ⑥ 既存の擁壁があるなら、書類から。市の解説が挙げるのは、工作物の確認済証・検査済証があるもの、宅地造成等規制法や都市計画法の許可を受け完了検査に合格したもの、道路・河川管理者が築造または管理しているもの、急傾斜地崩壊防止工事として築造されたものです
- ⑦ 擁壁を新しく造るなら、工作物の確認申請の要否を先に。市の取扱いは、いま建物が無くても新築が見込まれる場合等は申請を出すよう求めています
- ⑧ レッドゾーン・イエローゾーンに入っていないか。熊本県土砂災害情報マップで当たりを付け、最終確認は熊本県の公示図書で。レッドゾーンでは市の解説により条例第4条は適用外ですが、居室を有する建築物には令第80条の3の構造規制がかかり、土砂法第25条による確認申請も別に要り得ます
- ⑨ 急傾斜地崩壊危険区域に入っていないか。入っていれば、条例第2条によりそこは災害危険区域で、住居の用に供する建築物は原則、建てられません(第3条)
- ⑩ 既存の建物の増築・改築・用途変更は、適用関係を窓口で。条例第31条の緩和は「市長が(中略)やむを得ないと認めるもの」が条件です
- ⑪ 建築確認の審査で見られなくても、条例の適合義務は残ります。違反すれば、条例第35条の罰則(20万円以下の罰金)や、建築基準法第9条の是正命令の対象になり得ます
参考にした資料(2026年9月5日・6日に原文を確認)
- 熊本市建築基準条例について(熊本市公式・「熊本市建築基準条例と同解説」令和8年3月版のPDF。第1条〜第4条・第31条〜第34条の条文と解説、および目次の章立て。同解説は「法35条、36条(罰則)、附則は省略」と明記しています。この解説PDFの第32条は、令和4年改正前の条文のままです——第32条を読むときは、例規集の現行本文に当ててください)
- 熊本市建築基準条例(熊本市例規集・現行本文。内容現在 令和8年8月1日。第2条・第3条・第4条・第31条・第32条・第35条・第36条を、2026年9月6日に読みました。このURLは例規集の検索画面へ転送されます——転送先の検索画面で、件名を「熊本市建築基準条例」として検索すると現行本文が開きます)
- 熊本市建築基準法取扱について(熊本市公式・2025年度版PDF。工23005「工作物(擁壁)の確認申請について」)
- 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)での建築について(熊本市公式)/建築指導課 建築審査室(熊本市公式・連絡先と受付時間)
- 熊本県建築基準条例の解説(熊本県公式PDF・第1条・第1条の3。熊本市・八代市・天草市の区域における県条例の適用除外の記載)
- 県内の土砂災害警戒区域等指定状況(熊本県公式・公示図書の縦覧と砂防課の連絡先)/熊本県土砂災害情報マップ
- 建築基準法(e-Gov法令検索・第3条・第6条の4・第9条・第19条第4項・第20条・第39条・第40条・第85条・第87条・第87条の3・第88条・第91条・第98条。第6条第1項・第85条・第87条の3は2026年9月6日に確認)/建築基準法施行令(第10条・第80条の3・第138条)
- 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(e-Gov法令検索・第9条・第24条・第25条)/急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(第2条・第3条)
擁壁の形や寸法の一般的な考え方は、擁壁の選び方にまとめています(条例第4条の当てはめは、この記事に書いた窓口で確かめてください)。