富山でがけの近くに家を建てる・買う人へ——最初に答えから。
先にすることは、3つです。がけ条例がかかっても、建てられないと決まったわけではありません。①まず、土地の売買契約を結ぶ前に動く(すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に)——買ったあとでは、がけから離す配置や擁壁(ようへき=がけの土が崩れないように留めるコンクリートなどの壁)の費用を、土地の値段に織り込みにくくなります。②つぎに、建築士に相談し、必要なら測量の手配を含めて、現況の測量図・断面図・配置案をそろえる。③そのうえで、その図面を持って所管窓口へ事前相談する(確認申請を出すのは建築主ですが、図面をそろえるのは建築士です。確認申請を出す先とも調整してください)。窓口は3つに分かれます——富山市なら富山市、高岡市なら高岡市、それ以外の市町村なら富山県 土木部建築住宅課(建築指導係、電話076-444-3356)です。高さも角度も距離も、目測で判断しないでください。確かめる中身は、この記事の最後の「売買契約の前に、専門家と確かめること」にまとめてあります。
①富山の「がけ条例」は、富山県建築基準法施行条例(平成14年3月27日 富山県条例第3号)の第4条です。②かかるのは、居室(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋。住宅なら、ふつう当てはまります)を有する建築物の敷地が、高さ2メートルを超えるがけに接し、または近接する場合です。③そのとき条文が求めるのは、がけの高さの2倍以上の水平距離。④どこから測るかは、がけの上と下で入れ替わります——がけの上に建てるならがけの下端(かたん)から、がけの下に建てるならがけの上端(じょうたん)から。⑤「超える」です——2.0メートルちょうども、30.0度ちょうども、当たりません。ただし、そこで外れるのは条例第4条だけです——建築基準法第19条第4項に、がけの高さの下限はありません。⑥距離が取れなくても、道はあります。ただし書の3つのどれかに当てはまれば、第4条第1項については原則として建てられます——同じ条の第2項は、別に読みます。⑦土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の中では、第4条第2項により第1項は適用されません——ただし、これは規制が無くなるという意味ではありません。かわりに建築基準法施行令第80条の3が働きます。災害危険区域・法第19条第4項も、別に確認してください。条文は2026年9月4日に、富山県法規集(Reiki-Base検索システム。内容現在=令和8年8月1日)で確認しました。
「がけ条例」の実体は、富山県建築基準法施行条例の第4条です
富山県に「がけ条例」という題名の条例はありません。実体は富山県建築基準法施行条例(平成14年3月27日 富山県条例第3号)の第4条(がけ付近の建築物)です。この条例は、昭和35年富山県条例第45号を全部改正して作られたもので、いまの番号は平成14年のものです。古い条番号で書かれた資料に当たったときは、そこを確かめてください。
根拠は建築基準法第40条です。その地方の気候・風土の特殊性などにより、法第2章の規定だけでは建築物の安全・防火・衛生の目的を十分に達しがたいと認める場合に、地方公共団体が条例で建築物の敷地・構造・建築設備の制限を付け加えられる、という規定です。条例第1条は、この第40条のほかに法第39条(災害危険区域)・法第43条第3項・法第56条の2第1項を挙げています。
ひとつ、探すときに引っかかるところがあります。県が公表しているのは「条例」と「規則」の2つで、条例は地方公共団体としての定め、規則は特定行政庁(=許可・認定や是正命令を受け持つ人。市町村長か都道府県知事。くわしくは後述)としての定めです。富山市と高岡市は、規則を自分で持っています——県のページも「規則に関して、富山市・高岡市については別の定めですので、それぞれの市に問い合わせ願います」と書いています。条例(第4条)は、県の区域を対象にしています——ただし、市町村が同じ事項についてより厳しい制限を条例で定めた区域では、県条例の当該規定は適用されません(第31条)。この記事は、ほかの13市町村の独自条例までは当たっていません(あとの節に書きました)。
もうひとつ。第4条には、都市計画区域の限定がありません。条例第27条は、都市計画区域および準都市計画区域内に限って適用する条を並べていますが、その列挙に第4条は入っていません(入っているのは第5条・第6条・第8条・第10条・第12条・第14条・第16条・第23条・第24条)。用途地域の外でも、山あいでも、条件に当たれば働きます。
どこからが「がけ」か——2メートルを超える、30度を超える
第4条 居室を有する建築物の敷地が高さ2メートルを超えるがけ(地表面が水平面に対し30度を超える角度をなす土地で硬岩盤(風化の著しいものを除く。)以外のものをいう。以下同じ。)に接し、又は近接する場合において、その敷地が、がけの上にあるときはがけの下端から当該建築物までの、がけの下にあるときはがけの上端から当該建築物までの水平距離は、それぞれそのがけの高さの2倍以上としなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
富山県建築基準法施行条例 第4条第1項(本文)
押さえるところは4つです。①勾配は「30度を超える」——30.0度ちょうどは当たりません。②高さは「2メートルを超える」——2.0メートルちょうども当たりません(「以上」ではありません)。③硬岩盤(こうがんばん=かたい岩の地盤。風化の程度を含め、該当するかどうかは地質資料・調査で確かめます。条文は「風化の著しいものを除く」としています)は、そもそも「がけ」から外れます——ただし風化が著しければ、その岩はがけに当たり得ます。④かかるのは、居室を有する建築物の敷地です(距離は、その建築物まで測ります)。
④を、ゆるく読まないでください。物置や車庫でも、居室があれば当たります。逆に、居室のない物置なら、この条は当たりません。ただし、そのときも建築基準法第19条第4項は残ります(後述)。居室があるかどうかは、部屋の用途で決まります——設計者に確かめてください。
③を、自分で判定しないでください。目の前の斜面が硬岩盤か、風化が著しいか——これは見ただけでは決まりません。土質や形状を調べて図面にするのは、地盤調査と建築士等です。条例の具体的な取扱いは所管窓口に事前相談し、確認申請が要る計画なら、最終的な適合性は建築確認の審査でも確認されます(確認の特例で、条例の規定の審査が省かれる場合があります(省かれるのは、特定行政庁が規則で定めた規定に限られます。令第10条第三号ハ・第四号ハ)——省かれても、適合の義務は残ります)——審査をするのは、建築主事等(けんちくしゅじとう=市町村や県に置かれ、確認申請を審査する職員)だけとは限りません。指定確認検査機関(していかくにんけんさきかん=国や都道府県の指定を受けて、確認と検査を行う民間の機関)に申請する場合は、その機関が審査します。そして、事前相談で聞いた回答が、そのまま確認処分として確定するわけではありません。
段になった斜面は、1つのがけに数えられることがあります
富山県が公表している富山県建築基準関係規定運用集は、「2以上のがけがある場合の高さの算定について」という項目(501-002。関係条文は条例第4条第1項)を置いています。そこには、上下に分離されたがけがある場合において、下層のがけの下端を含み、かつ、水平面に対し30度の角度をなす面の上方に上層のがけ面の下端があるときは、その上下のがけを一体のものとみなすと書かれています。この運用集は、富山市・高岡市を除く区域についての考え方です——運用集の冒頭「使用に際して」に、そう書かれています。両市の取扱いは、各市に確かめてください。
途中に平らな段があっても、1つのがけとして高さを数える場合があるということです。どこまでを1つのがけと数えるかで、高さが変わります。かかる距離も変わります。ここは目測では決まりません——現況の測量図と断面図が要ります。運用集は、上層のがけの下端が30度の面の内側にあるか外側にあるかで、高さの数え方が変わることを図で示しています。
距離の起点は、がけの上と下で入れ替わります
下端(かたん=がけの斜面が、ふもとで下の地面と接するところ)。上端(じょうたん=がけの斜面が、上の平らな地面と接するところ)です。断面図の上で、どこが下端でどこが上端かが決まります。上の図は、がけの上に建てるときです——起点は、向こう側の「下端」になります。
がけの上に建てるなら、起点は「がけの下端」です。がけの下に建てるなら、起点は「がけの上端」です。言いかえると、起点は、いつも自分がいる側とは反対側の端です。
| 建てる位置 | 距離の起点 | 保つ距離 |
|---|---|---|
| がけの上に建てる | がけの下端から | がけの高さの2倍以上 |
| がけの下に建てる | がけの上端から | がけの高さの2倍以上 |
がけの上に建てるとき、起点を取り違えると、必要な距離を長く見積もります。がけの上に建てるときは、手前の上端ではなく、斜面のふもとにある下端から測ります。がけの斜面の水平幅も、2倍の中に入ります。その分、上端から空ける長さは、がけの高さの2倍より短くて済みます。高さ2メートルを少し超えるがけなら、下端から4メートルあまり。高さ5メートルのがけなら、下端から10メートルです。
もうひとつ。条文は「その敷地が、がけの上にあるときは」と書き、測る先を「当該建築物まで」としています。敷地の境ではなく、建物までの距離です。そして、かかるのは「がけに接し、又は近接する場合」——がけが隣の土地にあっても、近接していればかかります。
ただし書の3つ——擁壁などを設ければ、第4条第1項の距離の義務は外れます
(1) 当該がけに、がけ崩れの発生を防止するための擁壁その他これに類する施設が設置されている場合
富山県建築基準法施行条例 第4条第1項ただし書
(2) がけの下に建築物を建築する場合で、次のいずれかによる場合
ア 建築物の外壁(がけ崩れによる衝撃を受けるおそれのない部分を除く。)及び構造耐力上主要な部分を鉄筋コンクリート造(がけ崩れによる衝撃に対して破壊を生じないものに限る。)その他これと同等以上の耐力を有する構造とし、かつ、当該外壁の開口部からの土砂の流入を防止するための有効な防護壁等を設置する場合
イ がけと建築物との間に、がけ崩れに対して建築物の安全上支障のない塀その他これに類する施設が設置されている場合
(3) がけの形状、土質等によりがけ崩れのおそれがない場合
ここが答えです。2倍の距離が取れなくても、この3つのどれかに当てはまる計画が成立すれば、第4条第1項については原則として建てられます。ただし、同じ条の第4条第2項が残ります——レッドゾーンの中では第2項により第1項が適用されず、かわりに、居室を有する建築物には令第80条の3が働きます(次の節)。建築できるかは、ほかの規制を含めて別に判断します——災害危険区域(条例第2条・第3条)、土砂災害の区域、建築基準法第19条第4項は、第4条第1項とは別に残ります。
第1号は、がけの側を直せば外れます。条文が挙げているのは「がけ崩れの発生を防止するための擁壁その他これに類する施設」——擁壁だけではありません。「その他これに類する施設」に何が当たるかは条文に書かれていませんので、窓口と設計者で詰める話です。この道は、がけの上でも下でも使えます。
第2号は、がけの下に建てるときだけの道です。2つに分かれます。アは、建物の外壁(がけ崩れによる衝撃を受けるおそれのない部分を除く)と構造耐力上主要な部分(こうぞうたいりょくじょうしゅようなぶぶん=基礎・柱・はり・耐力壁など、建物を支えている骨組みの部分)を鉄筋コンクリート造その他これと同等以上の耐力を有する構造とし、かつ、外壁の開口部からの土砂の流入を防止するための有効な防護壁等を設置する場合です。「かつ」です——構造を固めるだけでは足りず、開口部(窓や出入口)の対策が別に要ります。
イは、がけと建築物との間に、がけ崩れに対して建築物の安全上支障のない塀その他これに類する施設が設置されている場合です。建物を固めるのではなく、間で受け止める道です。これでも第1項の距離の義務は外れます。高さや構造方法の要件は、条文には書かれていません——何をもって「安全上支障のない」とするかは、所管窓口に事前相談したうえで、確認申請が要る計画なら建築確認の審査でも確認されます(確認の特例で省かれる場合があります)。
第3号は、がけそのものの性質による道です。「がけの形状、土質等によりがけ崩れのおそれがない場合」——これは、あなたが見て決めることではありません。形状と土質を測って図にするのは地盤調査と建築士等、取扱いは所管窓口に事前相談し、確認申請が要る計画なら、建築確認の審査でも確認されます(確認の特例で省かれる場合があります)。おそれがないと認められれば、第4条第1項については原則として建てられます。
レッドゾーンの中では第1項が適用されません——規制が無くなるのではありません
2 土砂災害特別警戒区域内においては、前項の規定は、適用しない。
富山県建築基準法施行条例 第4条第2項
ここは、良い知らせと読み違えやすいところです。土砂災害警戒区域(イエロー)と土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)は、「特別」の2字しか違いませんが、別のものです。この記事で「レッドゾーン」と書くのは、「特別」が付くほうだけです。第2項が外すのは、レッドゾーンのほうだけです。
そのうえで——第2項は「規制が軽くなる」という意味ではありません。レッドゾーンの中では、建築基準法施行令第80条の3が別に働きます。居室を有する建築物の外壁と構造耐力上主要な部分のうち、土石等の高さ等以下で衝撃が作用すると想定される部分(条文は「外壁等」と呼びます)を、知事が定めた力の大きさ等に応じ、国土交通大臣が定めた構造方法で造るか、土石等の高さ等以上の高さがあり、外壁等と同等以上の耐力を有するものとして国土交通大臣が定めた構造方法による門または塀を、衝撃を遮るように設けるかです。
つまり、県の条例が下りて、国の政令が上がる形です。「レッドゾーンだから、がけの規制は無い」とは読めません。第2項は、条例の距離の規定と、令第80条の3の構造の規定が二重にかからないようにしている形です。どちらが自分にかかるかは、窓口で確かめてください。
手続の面でも、落としやすいところがあります。レッドゾーンの中では、都市計画区域の外でも、建築確認が要る場合があります——根拠は建築基準法ではなく、土砂災害防止法の第25条です。この条は、レッドゾーン(建築基準法第6条第1項第三号に規定する区域を除く。)内の居室を有する建築物(同項第一号または第二号に掲げるものを除く。)について、同項第三号の区域内の建築物とみなして、法第6条から第7条の5まで・第18条・第89条・第91条・第93条を適用する、と定めています。もともと確認が要る建築物は、この「みなし」の対象から外れています——第1号(特殊建築物で200平方メートル超)や第2号(2以上の階数、または延べ面積200平方メートル超)に当たる建築物は、この条を持ち出すまでもなく確認が要ります。居室を有する建築物で、敷地の過半がレッドゾーンの中にあり、その建築物もレッドゾーンの中にあるものが対象です(敷地が区域の内外にわたるときに過半で決まるのは、法第91条によります)。富山市も、この2つの条件を挙げて「新築等は確認申請が必要です」と案内しています(増築・改築・移転に係る部分の床面積が10平方メートル以内である場合は不要、とも書いています)。
自分の土地がどちらかは、目で見ても分かりません。どちらでもないこともあります。県の富山県内の土砂災害警戒区域等指定一覧で、市町村ごとの指定状況が見られます。ただし県自身が「土砂災害警戒区域等の公示に使用している地形図は、土地・道路等の境界を示すものではありません」と断り、基礎調査の結果(まだ区域に指定されていないもの)については所管の土木センター・事務所で確認するようにと書いています。土地を買う前なら、不動産会社にも「この区域に入るか」を確かめてください。レッドゾーンの中の建て方と、改修への補助の枠組みは、レッドゾーンの家と土地で整理しています。
災害危険区域は、条例の第2条と第3条です——住居以外なら建てる道があります
第2条 法第39条第1項の規定により災害危険区域として指定する区域は、次に掲げる区域(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号)第9条第1項の規定により知事が指定した土砂災害特別警戒区域(以下「土砂災害特別警戒区域」という。)を除く。)とする。
富山県建築基準法施行条例 第2条第1項
(1) 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)第3条第1項の規定により知事が指定した急傾斜地崩壊危険区域
(2) 前号に掲げる区域のほか、急傾斜地の崩壊、地滑り、土石流等(以下「急傾斜地の崩壊等」という。)による危険の著しい区域であって知事が指定するもの
建築基準法第39条は、地方公共団体が条例で津波、高潮、出水等による危険の著しい区域を災害危険区域として指定できると定めています。富山県は、その区域を2つに分けました。ひとつは、知事が指定した急傾斜地崩壊危険区域——すでにある区域を、そのまま使う形です。もうひとつは、急傾斜地の崩壊・地滑り・土石流等による危険の著しい区域で、知事が指定するもの。括弧書きも落とさないでください——レッドゾーンは、この災害危険区域から除かれています。
第3条 災害危険区域内においては、住居の用に供する建築物を建築してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
富山県建築基準法施行条例 第3条
(1) 建築物の外壁(急傾斜地の崩壊等による衝撃を受けるおそれのない部分を除く。)及び構造耐力上主要な部分を鉄筋コンクリート造(急傾斜地の崩壊等により破壊を生じないものに限る。)その他これと同等以上の耐力を有する構造とし、かつ、当該外壁の開口部からの土砂の流入を防止するための有効な防護壁等を設置する場合
(2) 急傾斜地の崩壊等に対して建築物の安全上支障のない防護施設又は防止施設が設置されている場合
禁じられているのは、住居の用に供する建築物です。住居以外の建築物は、この条の対象ではありません。そして住居であっても、ただし書の2つのどちらかに当てはまれば、第3条については原則として建てられます——第1号は、外壁と構造耐力上主要な部分を鉄筋コンクリート造その他これと同等以上の耐力を有する構造とし、かつ外壁の開口部からの土砂の流入を防止するための有効な防護壁等を設置する道。第2号は、急傾斜地の崩壊等に対して建築物の安全上支障のない防護施設又は防止施設が設置されている場合です。この2つが外すのは第3条だけで、第4条・法第19条第4項・土砂災害の区域の規制は別に残ります。
第2号の「防護施設」については、県の運用集が読み方を示しています(501-001。関係条文は法第39条、条例第3条第1項第2号)。①建築物の位置ががけの上にあってはがけの下端から、がけの下にあってはがけの上端から、がけの高さの2倍以上の水平距離がある場合には、防護施設があるものとみなす。②建築物の位置ががけの下で、がけとの間にがけ崩れに対して安全堅固な構築物(恒久的なものに限る。)がある場合は、当該構築物を防護施設とみなす。③地形、地質、植生等から地盤が安定しており、がけ崩れのおそれがない場合は、防護施設があるものとみなす——この3つです。ここも、富山市・高岡市を除く区域についての取扱いです。
ここで、条番号の書き方に注意してください。運用集は「条例第3条第1項第2号」と書いていますが、県の例規集の第3条には項の番号が印字されていません。法令では、最初の項に算用数字を付けないのがふつうの書き方で、印字が無いことは、その項が無いという意味ではありません。第3条は1つの項で、その中に第1号・第2号があります。運用集の「第3条第1項第2号」と、例規集で読める「第3条第2号」は、同じ規定を指しています。
この区域に入っているかは、目で見ても分かりません。県が公表している資料(災害危険区域等の建築制限について)は、条例第2条による指定として氷見市五十谷(坂元、宮下、堂上、芹原、北谷)、南砺市(旧福光町)砂子谷(池ケ原)、上市町稲村(中通、東割、村上、小俵)を挙げ、「詳細は各市町村又は建築住宅課にお問い合わせください」としています。急傾斜地崩壊危険区域については、市町ごとに問い合わせ先(土木センター・土木事務所の砂防班)が分かれます。
市町村が、より厳しい条例を作っている場合があります(第31条)
第31条 市町村が、法第39条、第40条、第43条第3項及び第56条の2第1項の規定に基づき制定する条例に規定する事項がこの条例に規定する事項と同一の事項であり、かつ、この条例の規定による制限を超える制限を付加する場合にあっては、当該市町村の区域内においては、この条例の当該規定は、適用しない。
富山県建築基準法施行条例 第31条
市町村が、同じ事項について県より厳しい制限を条例で付け加えたときは、その市町村の区域では県条例の当該規定が適用されません。外れるのは「当該規定」だけで、条例全体ではありません。制限が無くなるのではありません——その市町村の、より厳しい制限がかかります。読んだ範囲では、富山市にも高岡市にも、がけについての独自の条例は見つけられませんでした——両市とも、自分のページで県条例第4条を案内しています。ほかの13市町村までは確かめきれていません——独自の条例が無いとは言えません。所在地の市町村にも確かめてください。
もうひとつ、適用除外があります。条例第29条は、法第85条第6項・第7項の許可を受けた仮設興行場等、または法第87条の3第6項・第7項の許可を受けた建築物について、この条例の規定は適用しないと定めています。ふつうの住宅は、これに当たりません。
罰金の名宛人は原則、設計者。是正命令は建築主・所有者らが相手方になり得ます
第32条 第3条、第4条第1項、第5条、第6条、第8条、第10条、第11条第1項若しくは第2項、第12条、第13条第1項若しくは第2項、第14条から第16条まで、第17条第1項、第18条、第19条第1項、第20条、第21条、第23条、第24条第1項又は第25条第1項若しくは第2項の規定に違反した場合における当該建築物、工作物又は建築設備の設計者(設計図書を用いないで工事を施工し、又は設計図書に従わないで工事を施工した場合においては、当該建築物、工作物又は建築設備の工事施工者)は、50万円以下の罰金に処する。
富山県建築基準法施行条例 第32条第1項
列挙の2つ目に「第4条第1項」があります。第4条第1項違反は、この罰則の対象です。名宛人(なあてにん=この罰則を受ける人)は原則、設計者——設計図書を用いずに、または設計図書に従わずに工事を施工した場合は工事施工者です。上限は50万円以下の罰金。第32条第2項は、その違反が建築主等の故意によるものであるときは、設計者または工事施工者を罰するほか、建築主等にも同じ刑を科すると定めています。
第33条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務に関して、前条の違反行為をした場合においては、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して同条の刑を科する。ただし、法人又は人の代理人、使用人その他の従業者の当該違反行為を防止するため、当該業務に対し、相当の注意及び監督が尽くされたことの証明があったときは、その法人又は人については、この限りでない。
富山県建築基準法施行条例 第33条
第33条は両罰規定(りょうばつきてい=違反をした本人だけでなく、その人を使っている法人や事業主にも同じ刑を科す定め)です。ただし書に、免責の道があります——ただし、読み落としやすい限定が付いています。ただし書が挙げているのは「法人又は人の代理人、使用人その他の従業者の当該違反行為」です。本文が挙げている「法人の代表者」の違反行為は、ただし書に入っていません。つまり、代表者自身が違反した場合まで免責されるとは読めません。
是正命令は、建築主・所有者などが相手方になり得ます(法第9条第1項)
罰金の名宛人が原則として設計者でも、是正命令の相手方は別です。建築基準法第9条第1項は、違反した建築物・敷地について、建築主、工事の請負人(下請人を含みます)、現場管理者、建築物または敷地の所有者・管理者・占有者に対して、工事の施工の停止を命じ、または相当の猶予期限を付けて除却(じょきゃく=取り壊し)・移転・改築・増築・修繕・模様替・使用禁止・使用制限その他の是正に必要な措置を命ずることができる、と定めています。故意は要件ではありません。設計者は、設計者であることだけでは名宛人に挙げられていませんが、設計者が現場管理者を兼ねていれば名宛人になり得ます。命令に違反した場合は、法第98条第1項第一号により3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です。
この記事が扱っているのは、これから建てる場合です(新築・増築・改築・移転)。すでに建っている建物に、この条例がどうかかるかは扱っていません——気になる場合は、この記事に書いた窓口へお尋ねください。
第4条第1項の距離の義務が外れても、建築基準法第19条第4項は残ります
4 建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない。
建築基準法 第19条第4項
この規定は、条例の第4条とは別に働きます。条文が付けている条件は「がけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合」です——どんな敷地にも無条件でかかる、という規定ではありません。そのおそれがあるなら、擁壁の設置その他安全上適当な措置が要ります。求められているのは擁壁だけではなく、「その他安全上適当な措置」を含みます。
だから、「2メートルを超えないから何もしなくてよい」とは読めません。居室のない物置でも、レッドゾーンの中でも、この規定は残ります。
窓口は3つに分かれます——富山市・高岡市・それ以外は県
特定行政庁(とくていぎょうせいちょう)は、役所ではなく人です——原則として、建築主事または建築副主事を置く市町村の区域ではその市町村長、それ以外の区域では都道府県知事をいいます(建築基準法第2条第35号)。同号にはただし書があります——法第97条の2第1項若しくは第2項または法第97条の3第1項若しくは第2項の規定により建築主事または建築副主事を置く市町村(限定特定行政庁)の区域内の、政令で定める建築物については、都道府県知事が特定行政庁です。「限定特定行政庁」は、法にも令にも出てこない実務の呼び名です——政令が定める小規模な建築物などに限って建築主事等を置いた市町村を指し、それ以外の建築物は都道府県知事が特定行政庁になります(令第148条第1項・令第2条の2第1項)。法第97条の3は特別区(東京23区)の規定で、富山県内には当たりません。
富山県が公表している富山県建築基準法施行条例等のページは、こう書いています——「特定行政庁…建築主事を置く市町村の区域については市町村、その他の市町村の区域については県をいう。富山県の場合、富山市、高岡市と富山県。」県のページが挙げているのは、この3つです(法の言い方に直すと、富山市長・高岡市長・富山県知事の3人です)。2市が限定特定行政庁かどうかは、県のページにも市のページにも記載を見つけられませんでした——大きな建築物の行き先は、市の窓口で確かめてください。
| 土地の場所 | 窓口 | 電話 |
|---|---|---|
| 富山市 | 活力都市創造部 建築指導課 | 076-443-2107 |
| 高岡市 | 建築政策課 | 0766-20-1429 |
| それ以外の市町村 | 富山県 土木部建築住宅課 建築指導係 | 076-444-3356 |
県が所管する区域では、順番にひとつ落とし穴があります。富山県建築基準法施行規則の第4条は、知事または建築主事等に出す申請書・届出書を、その敷地の存する市町村の長を経由すると定めています。先に市町村、そのうえで県です。ただし第3項に例外があり、電子情報処理組織(でんしじょうほうしょりそしき=オンラインで申請するための仕組み)を使用して行うときは、市町村の長への経由は要しないとされています。
がけに接するときは、確認申請にがけの図書が要ります
(2) 条例第4条に規定するがけに接し、又は近接して建築する建築物 がけの形状、土質、がけの上端又は下端から当該建築物までの水平距離等を示す図書
富山県建築基準法施行規則 第5条第1項第2号
これが、建築士に用意してもらうものの中身です。①がけの形状、②土質、③がけの上端または下端から建築物までの水平距離。条例の当てはめは、この図書の上で決まります。だから、目測では決まりません。この規則は県の規則です——富山市・高岡市では、それぞれの市の規則によります。高岡市の細則も、がけに接し、又は近接して建築する建築物について同じ趣旨の図書を求めています。
売買契約の前に、専門家と確かめること
この一覧は、自分で判定するためのものではありません——土質や形状を調べて図面にするのは建築士等、条例の取扱いは所管窓口に事前相談し、確認申請先とも調整してください。確認申請が要る計画なら、最終的な適合性は建築確認の審査でも確認されます(確認の特例で省かれる場合があります)。確認申請が要らない計画でも、条例に合わせる義務は残ります。
- ①その土地は、富山市か、高岡市か、それ以外か。窓口が分かれます(上の表)
- ②その土地は、災害危険区域(条例第2条)の中か、外か。中なら第3条——住居の用に供する建築物は原則として建てられません(ただし書2つを除く)
- ③その土地は、レッドゾーンの中か、外か。中なら第4条第1項は適用されませんが、居室を有する建築物には令第80条の3が別に働きます
- ④敷地の中や隣に、勾配30度を超え、高さ2メートルを超えるがけがあるか。目測ではなく、現況の測量図と断面図で。ちょうどの数字は当たりません
- ⑤建てる建物に、居室があるか。第4条第1項がかかるのは居室を有する建築物の敷地です
- ⑥建てる位置が、がけの高さの2倍の範囲に入るか。起点は、がけの上なら下端、がけの下なら上端です
- ⑦がけが隣の土地にあってもかかります。条文は「接し、又は近接する場合」です
- ⑧距離が取れないなら、ただし書の3つのどれに当てはめるか。第2号アは、構造と開口部の対策の両方が要ります
- ⑨すでに擁壁があるなら、いつ・どの基準で造られたか。設計者による安全性の判断が要ります。売主に、残っている書類をひととおり聞いてください——確認済証・検査済証だけでなく、開発許可の書類、宅地の造成や盛土についての許可・検査の書類、設計図書(せっけいとしょ=図面と仕様書のひとそろい)、構造計算書、工事の記録まで。どれが残っているかで、設計者が安全性を判断できる範囲が変わります。聞くのは、契約の前に。
- ⑩所在地の市町村に、独自の条例がないか(条例第31条)。より厳しい制限があれば、県条例の当該規定は適用されません
- ⑪第4条第1項の距離の義務が外れても、建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれがある場合は、法第19条第4項の措置は別に要ります
確かめるのは、土地の売買契約を結ぶ前です。買ったあとでは、がけから離す配置や擁壁の費用を、土地の値段に織り込みにくくなります。すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に。がけの高さと、がけからの距離は、現況の測量図と断面図がないと自分では判断できません——測量と図面は建築士に、条例の取扱いは所管窓口に事前相談し、確認申請先とも調整してください。どれくらい日数がかかるかは、がけの状態と計画で変わりますので、この記事では示せません。建築士と窓口に、最初に「いつごろ答えが出るか」を聞いてください——それが分かって初めて、売買契約の日取りを動かせます。
擁壁の形や寸法の一般的な考え方は、擁壁の選び方にまとめています(条例の第4条の当てはめは、この記事に書いた窓口で確かめてください)。
確かめきれなかったこと
- 富山市・高岡市以外の13市町村の例規は読んでいません。条例第31条により、独自の条例があればそちらが優先します
- 富山市・高岡市の規則(細則)の全文は読んでいません。読んだのは高岡市の細則のうち、がけの図書を求める号だけです
- 2市が限定特定行政庁かどうかは、県のページと市のページで記載を見つけられませんでした
- 運用集の「条例第3条第1項第2号」と、例規集で読める「第3条第2号」が同じ規定を指す、と読んだのは、いまの条文の形からです。窓口には確かめていません
- 「その他これに類する施設」に何が当たるかの基準は、県が公表している資料の範囲では見つけられませんでした
- 災害危険区域の指定の一覧は、県の資料が3か所を挙げていますが、それが最新の全部かどうかは確かめていません(資料そのものに、いつ現在のものかの記載がありません。表に付いている指定年月日は、3か所とも昭和52年です)
- 2026年8月の豪雨による被害の状況は、一次資料に当たれていないので確かめていません。区域の指定や解除が動いている可能性がありますので、指定状況は必ず最新のものを窓口で確かめてください
出典
- 富山県建築基準法施行条例(平成14年3月27日 富山県条例第3号。第1条・第2条・第3条・第4条・第27条・第29条・第31条・第32条・第33条・附則)。富山県建築基準法施行条例等のページから「富山県法規集(Reiki-Base検索システム)」に入り、件名で検索して読みました(内容現在=令和8年8月1日)
- 富山県建築基準法施行規則(昭和53年9月30日 富山県規則第47号。第1条・第2条・第4条・第5条第1項第2号)。同じ法規集で読みました
- 富山県建築基準関係規定運用集(富山県土木部建築住宅課。R0807版。501-001「災害危険区域内における建築制限について」・501-002「2以上のがけがある場合の高さの算定について」)
- 災害危険区域等の建築制限について(富山県土木部建築住宅課・PDF。急傾斜地崩壊危険区域の確認先=別紙1、条例第2条による指定=別紙2)
- 富山県内の土砂災害警戒区域等指定一覧(富山県。市町村別の指定数と一覧。「公示に使用している地形図は、土地・道路等の境界を示すものではありません」)
- がけ付近で建築物を建てるとき(富山市 活力都市創造部 建築指導課。県条例第3条・第4条と令第80条の3の3ケース、都市計画区域外での確認申請)
- 建築の規制(高岡市。公法上の規制として富山県建築基準法施行条例を挙げている。建築政策課 0766-20-1429)
- 高岡市建築基準法施行細則(高岡市例規集。がけに接し、又は近接して建築する建築物に係る図書)
- 建築基準法(e-Gov法令検索・第2条第35号・第6条第1項・第9条第1項・第19条第4項・第39条・第40条・第85条・第91条・第97条の2・第97条の3・第98条)
- 建築基準法施行令(e-Gov法令検索・第80条の3)
- 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(e-Gov法令検索・第3条第1項)
- 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(e-Gov法令検索・第7条・第9条・第25条)
条例と規則は2026年9月4日に、富山県法規集(Reiki-Base検索システム。内容現在=令和8年8月1日)で読みました。運用集・県の建築制限の資料・土砂災害の一覧・富山市・高岡市のページも、同じ日に開いて確かめています。法律・政令は同じ日にe-Gov法令検索で確認しました。個別の土地に当てはまるかどうかは、建築士と、所管の建築行政の窓口にご確認ください。