茨城県取手市のがけ条例——取手市建築基準条例 第5条

取手市で、がけの近くに家を建てる・土地を買う人へ——最初に答えから。

先にすることは、3つです。がけの規定がかかっても、建てられないと決まったわけではありません。まず、土地の売買契約を結ぶ前に動く(すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に)——買ったあとでは、擁壁(ようへき=がけの土が崩れないよう支える壁)の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。つぎに、建築士に現況の測量図・断面図・配置案を用意してもらう。そのうえで、その図面を持って取手市建築指導課の窓口へ、条例の当てはめを確かめる。高さも角度も距離も、目測で判断しないでください。確かめる中身は、この記事の最後の「売買契約の前に、専門家と確かめること」にまとめてあります。

その土地は取手市内ですか。はい=取手市建築基準条例 第5条です茨城県建築基準条例は、一部を除いて適用されません(県条例第46条の7第1項、茨城県建築基準法等施行細則第19条)。②取手市の第5条は、高さ2メートルを超えるがけ(こう配が30度を超える傾斜地)について、下端(かたん=斜面の低いほうの足元)からの水平距離——ただしがけの下に建てるときは、がけの上端(じょうたん=斜面の高いほうの肩)から——ががけの高さの2倍以内の位置に建築物を建築し、または建築物の敷地を造成する場合に、安全な擁壁を設けなければならないと定めています。③この「2倍以内」は、規定がかかるかどうかの線引きです——2倍を超えて離れていれば、そもそも第1項本文はかかりません。けれど2倍以内に入るなら、義務の形は「離しなさい」ではなく「設けなさい」です。④安全な擁壁を設ければ、第5条第1項については原則として建てられます。第1項ただし書(がけの形状または土質により安全上支障がない部分)や、第2項(がけの上なら基礎、がけの下なら鉄筋コンクリート造り、がけと建築物との間に安全な施設)に当たる道もあります。⑤ただし、急傾斜地崩壊危険区域レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)・イエローゾーン(土砂災害警戒区域)・法第19条第4項は、別に残ります。とくに急傾斜地崩壊危険区域は、この市では住居の用に供する建築物が原則として建てられない区域です——後半で詳しく書きます。(条例・規則・法令・市の資料は2026年9月6日に原文を確認しました)。

取手市内なら、取手市建築基準条例 第5条です

取手市は、この規定を「がけ条例」という通称で案内しています。市のページは、「がけ条例は、がけ崩れ、土砂の流出等による災害から、建築物とその敷地の安全を確保するための規定です」「取手市建築基準条例第5条に定められており、建築確認申請において審査対象となるものです」と書いています。根拠は、建築基準法第40条などに基づく取手市建築基準条例(平成12年3月29日条例第31号)の第3章「がけ」・第5条です。市の例規集で確認した現行条文は、令和7年3月19日施行のものです。

茨城県建築基準条例は、取手市の区域では、一部を除いて適用されません。県条例第46条の7第1項が、法第4条第1項または第2項の規定により建築主事を置く規則で定める市町村の区域内においては適用しない、と定めています。そして、その「規則で定める市町村」を挙げているのが茨城県建築基準法等施行細則 第19条で、そこに取手市が入っています。規制が無くなるのではなく、読む条例が入れ替わります。

(適用除外)
第46条の7 この条例(第4章の4(第46条の4第1項第2号に掲げる区域に係る部分に限る。)の規定を除く。)は,法第4条第1項又は第2項の規定により建築主事を置く規則で定める市町村の区域内においては,適用しない。

茨城県建築基準条例 第46条の7第1項

「一部を除いて」と書いたのには、理由があります。県条例第46条の7第1項の括弧書きは、第46条の4第1項第2号に掲げる区域に係る部分を、適用除外から外しています。その第2号とは、出水(しゅっすい=洪水などで水があふれること)による危険の著しい区域として知事が指定した区域です。この区域については、取手市の中でも県の条例が残ります——後ろの節で改めて書きます。

第3章 がけ
(がけ)
第5条 高さ2メートルを超えるがけ(こう配が30度を超える傾斜地をいう。以下本条において同じ。)の下端(がけの下にあっては,がけの上端)からの水平距離が,がけの高さの2倍以内の位置に建築物を建築し,又は建築物の敷地を造成する場合には,がけの形状若しくは土質又は建築物の位置,規模若しくは構造に応じて,安全な擁壁を設けなければならない。ただし,がけの形状又は土質により安全上支障がない部分については,この限りでない。

取手市建築基準条例 第5条第1項

どこからが「がけ」か——高さ2メートル超・こう配30度超。自然がけかどうかは問いません

条文は、「がけ」を「こう配が30度を超える傾斜地」と定義し、そのうえで高さ2メートルを超えるものを第5条第1項の対象にしています。30.0度ちょうど・2.0メートルちょうどは、当たりません(条文はどちらも「超える」です)。

そして市は、対象になる「がけ」の範囲を、はっきり書いています——「水平面からのこう配が30度を超え、かつ、高さが2メートルを超えるものをいい、自然がけであるか否か、擁壁の有無、敷地の内外については問いません。」(取手市公式ページ「がけ条例(取手市建築基準条例第5条)の取扱い」)。

  • 自然がけかどうかを問わない——人が切ったり盛ったりしてできた斜面も、同じように見ます
  • 擁壁の有無を問わない——擁壁が既に立っていても、それだけで対象から外れるわけではありません。古い石積みやブロック積みがあるから安心、ではありません
  • 敷地の内外を問わない——市の資料は「『がけ』が建築敷地外、または道路の反対側にある場合でもがけ条例の検討が必要となる」と、図で示しています。自分の土地だけを見て「うちは平ら」で終わらせないでください

条文には、硬岩盤(こうがんばん=かたい岩の地盤)を「がけ」から除く定めがありません。「こう配が30度を超える傾斜地」としか書いていないので、土質は、がけに当たるかどうかの判定には入ってきません。土質が効くのは、第1項ただし書のほうです。「うちは岩だから、そもそもがけではない」とは読めません。

下端がどこかは、市の資料が定めています——「がけの下端は、地表面が水平面に対して30度を超えるはじめての地点とする。」斜面が途中で急になっている土地では、この一行で起点の位置が変わります。測って図にするのは建築士です。

そして対象は、建築物を建てる場合だけではありません。条文は「建築物を建築し,又は建築物の敷地を造成する場合」と書いています——造成の段階から、この規定はかかります。「まず土地を平らにしてから考える」は、順番が逆になります。

距離の起点は、がけの上に建てるか下に建てるかで入れ替わります

がけの上に建てるとき、距離をどこから測るか
がけの上に建てるとき、距離をどこから測るか

ここが、この条文のいちばんの山場です。条文は「がけの下端(がけの下にあっては,がけの上端)からの水平距離」と書いています。括弧の中が、起点を入れ替えています。市が公表している「取手市建築基準条例第5条(通称 がけ条例) 対応フロー」(令和3年12月作成)も、同じ形で書いています。

がけの下に建てるとき、距離をどこから測るか
がけの下に建てるとき、距離をどこから測るか
  • ①がけ上に建築する場合——がけ下端から建築物までの水平距離が、がけ高さの2倍以内である
  • ②がけ下に建築する場合——がけ上端から建築物までの水平距離が、がけ高さの2倍以内である

どちらの起点でも、はかる長さは「がけの高さの2倍」です。たとえば高さ3メートルのがけなら、6メートルです。間違えやすいのは、起点のほうです。がけの上に建てる計画で、うっかり上端から6メートルを測ってしまうと、実際より外側に線を引くことになり、本来かからない位置まで「かかる」と読んでしまいます。図面の上で、どちらの端から測っているのかを、必ず声に出して確かめてください。

途中に平らな部分(小段)があるときは、上下のがけが一体かどうかで変わります

市の資料は、斜面の途中に平らな部分(小段)があるときの扱いを図で示しています。下端から引いた30度の線を基準に、上下のがけを一体として見るかどうかを分けています。

  • 上下のがけが一体の場合——高さを合算し、2×(H1+H2)の範囲で見ます。小段があるから低いがけが2つ、とは限りません
  • 上下のがけが一体でない場合——2×H12×H2を、それぞれのがけについて別に見ます

一体かどうかを、あなたが決めるのではありません。断面図を描いて30度の線を当てるのは建築士で、当てはめは市の窓口と確認申請の審査で見られます。

もうひとつ、市の資料には「建築位置が30°を超える場合」の図があります。がけの下端から引いた30度の線より上に建物がかかる位置について、「上図のがけは、こう配が30°を超えているのでがけ条例の適用を受け、原則として上図の位置に建築はできません。」と書いています。がけの上のすぐ際は、そのままでは建てられない、ということです。

安全な擁壁を設ければ、第5条第1項については原則として建てられます

安全な擁壁を設ければ、道はあります。まず見るのは、2倍以内に入るかどうかです。2倍を超えて離れていれば、第1項本文はかかりません。入るなら、義務の形は「離しなさい」ではなく「設けなさい」です。がけの形状もしくは土質、または建築物の位置・規模もしくは構造に応じて、安全な擁壁を設ける——これを満たせば、第5条第1項については、原則として建てられます。市の対応フローも、対象になった場合の安全対策の一つ目を「安全な擁壁、法面等を設置する【市条例第5条第1項】」としています。そして、擁壁だけが道ではありません。第2項は、がけの上なら基礎がけの下なら鉄筋コンクリート造り、そしてがけと建築物との間に設ける安全な施設を挙げています。

「原則として」と書くのには、理由があります——これは第5条第1項の義務を満たすという意味であって、建築確認そのものが通ることを保証するものではありません。急傾斜地崩壊危険区域、土砂災害の区域、建築基準法第19条第4項は、別に確認してください。

条文は「安全な擁壁」としか書いていません。高さ・厚さ・根入れ(ねいれ=擁壁の底を地面に埋め込む深さ)といった寸法の数字は、条例の第5条には書かれていません。どういう擁壁なら「安全」なのかは、がけの形状・土質・建築物の位置と規模と構造に応じて決まるもので、構造計算で確かめる領域ですこの記事に一般的な寸法を書かないのは、条例にその根拠が無いからです。

なお、高さが2メートルを超える擁壁は、建築基準法第88条第1項により政令で指定された工作物です(建築基準法施行令第138条第1項第5号)。擁壁そのものについても、確認の手続きが別に必要になり得ます。

第1項ただし書——「がけの形状又は土質により安全上支障がない部分」

第5条第1項のただし書は、「がけの形状又は土質により安全上支障がない部分については,この限りでない」と書いています。「部分については」と書かれているところが大事です——がけ全体でひとまとめに判定するのではなく、部分ごとに見る書き方です。

市の資料は、このただし書について「切土をした土地の部分に生じることとなるがけ若しくはがけの部分で、がけが岩盤又は上記の一に該当するがけ面若しくは土質試験等に基づく地盤の安定計算により安全が確認されたもの等が該当する。(参考:都市計画法施行規則第23条)」と説明し、あわせて次の表を載せています——「表.1 切土をした土地の擁壁を要しない勾配の上限」

  • 軟岩(風化の著しいものを除く)——がけ上端から5メートル以内の部分80度/5メートルを超える部分60度
  • 風化の著しい岩——5メートル以内50度/5メートル超40度
  • 砂利・真砂土・関東ローム層・硬質粘土・その他これらに類するもの——5メートル以内45度/5メートル超35度

参考として挙げられている都市計画法施行規則第23条第1項の表を原文で確かめると、「擁壁を要しない勾配の上限」が軟岩60度・風化の著しい岩40度・砂利等35度、「擁壁を要する勾配の下限」が80度・50度・45度で、後者までの角度が認められるのは「その上端から下方に垂直距離5メートル以内の部分」です(同項第1号・第2号)。市の表の読み方は、これと合っています。

ただし、この角度に収まっていれば自動的に外れる、とは読まないでください。ただし書の文言は「安全上支障がない部分」で、市の説明も「土質試験等に基づく地盤の安定計算により安全が確認されたもの等」を並べています。裏づけをそろえるのは設計者(建築士)で、それを条例に当てはめるのは市の窓口と、確認申請の審査です。この表を、自分に有利に読まないでください。

第2項——擁壁のかわりに、基礎で受ける/鉄筋コンクリート造りにする/間に安全な施設を設ける

2 前項本文の規定は,がけの上に建築物を建築する場合において,当該建築物の基礎ががけに影響を及ぼさないとき,又はがけの下に建築物を建築する場合において,当該建築物の主要構造物(がけ崩れによる被害を受けるおそれのない部分を除く。)を鉄筋コンクリート造りとし,又はがけと当該建築物との間に安全な施設を設けたときは,適用しない。

取手市建築基準条例 第5条第2項

これは、擁壁を設ける以外の道です。第2項に当たれば、第1項本文は適用されません。市の対応フローは、この2つを「B がけ上に建築する場合→深基礎、基礎杭等」「C がけ下に建築する場合→建築物を鉄筋コンクリート造等とする」として、どちらにも【市条例第5条第2項】と付けています。

条文には、もうひとつ道が書いてあります。「がけと当該建築物との間に安全な施設を設けたとき」です。市の対応フローにも説明資料にも、この道の例は載っていません。当てはまるかどうかは、建築指導課で確かめてください。

市の説明資料は、次の3つの図を「取手市建築基準条例第5条第1項の除外規定の説明(がけくずれ等に対して安全と認められる場合の例)」という題で載せ、対応フローの B・C(第5条第2項)からも、この図を見るよう案内しています。

  • がけの上に建築する場合で、基礎杭が支持層に達しているもの。ただし市は「がけの付近の基礎及び基礎杭の施工については、十分留意が必要となる」と付け加えています
  • がけの上に建築する場合で、基礎底面が安定勾配以内に築造されているもの。市は「安定勾配(安息角)とは、斜面が長期的に安定を保ち得る最大の傾斜角のこと」と説明しています(安息角は「あんそくかく」と読みます)
  • がけの下に建築する場合で、主要構造物を鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造としたもの。図には「がけに面する部分は無開口に近い状態とすること」と注記されています

「主要構造物(しゅようこうぞうぶつ)」は、この条例の言い方です。建築基準法が定義しているのは「主要構造部」で、壁・柱・床・はり・屋根または階段のうち、建築物の構造上重要でない一定の部分を除いたものを指します(法第2条第5号)。この条例の「主要構造物」がどこまでを指すかは、市の窓口で確かめてください。

「鉄筋コンクリート造りにすれば、どこでも建てられる」ではありません。条文は「主要構造物(がけ崩れによる被害を受けるおそれのない部分を除く。)を」と書いています——がけ崩れの被害を受けるおそれのある部分が、鉄筋コンクリート造りになっている必要があります。しかも、がけに面する部分の開口についても注文が付いています。

もうひとつ。第2項が外すのは「前項本文」だけです。次に書く第3項(排水の措置)は、第2項に当たっても別に残ります

がけの上に敷地があるなら、排水の措置も要ります(第5条第3項)

3 高さ2メートルを超えるがけの上にある建築敷地には,がけのかたに沿って排水溝を設ける等がけへの流水又は浸水を防止するため安全な措置を講じなければならない。

取手市建築基準条例 第5条第3項

第3項はがけの上の話です。水ががけに流れ込んだり染み込んだりすると、がけ崩れを誘発します。だから、がけのかた(=がけの肩、上端のふち)に沿って排水溝を設けるなどの措置を求めています。

第3項には、ただし書がありません。そして、条文の書き出しは「高さ2メートルを超えるがけの上にある建築敷地には」です——距離の2倍という条件が、この項には書かれていません。第1項がかからない位置でも、敷地ががけの上にあるなら、この項は読むことになります。「擁壁が要らないと言われたから、排水も要らない」ではありません。

急傾斜地崩壊危険区域では、住居の用に供する建築物は原則として建てられません

ここは、第5条より重い話です。取手市建築基準条例は、第6章に災害危険区域を置いています。

(災害危険区域)
第55条 法第39条第1項に規定する災害危険区域は,急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)第3条第1項の規定により指定された急傾斜地崩壊危険区域とする。
(建築の制限)
第56条 前条の災害危険区域においては,住居の用に供する建築物は建築してはならない。ただし,建築物の構造若しくは敷地の状況又は崩壊防止工事の施工により市長が被害を受けるおそれがないと認める場合は,この限りでない。

取手市建築基準条例 第55条・第56条

読み方は、こうです。急傾斜地崩壊危険区域に指定された土地は、そのまま災害危険区域になります。②災害危険区域では、住居の用に供する建築物は建築してはならない——擁壁を設ければよい、という話ではありません。③ただし、建築物の構造もしくは敷地の状況、または崩壊防止工事の施工により、市長が被害を受けるおそれがないと認める場合は、この限りでない

市の「各区域における建築規制フロー」は、この道筋をはっきり書いています——敷地が「急傾斜地崩壊危険区域」に存する場合は、「取手市建築基準条例第56条ただし書きに基づく認定を取得」し、そのうえで建築確認申請へ進む。そして注記に「認定にあたっては、別途茨城県竜ケ崎工事事務所と協議が必要です。」とあります。

だから「建てられない土地」と決めつけないでください。ただし書があり、市はその認定の手順まで公表しています。けれど、市長の認定と、県の事務所との協議という手続きが要るという点で、第5条とは重さが違います。土地を買う前に、その区域に入っていないかを確かめる——これが、この記事でいちばん強く言いたいことです。

急傾斜地崩壊危険区域を指定するのは、茨城県知事です(急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律 第3条第1項)。同法第2条第1項は「急傾斜地」を傾斜度が30度以上である土地と定義しています——条例のがけ(こう配が30度を「超える」)とは、線の引き方が違う別の制度です。混ぜないでください。

急傾斜地崩壊危険区域では、工事そのものに知事の許可が要ります

建築の可否とは別に、もうひとつ手続きがあります。急傾斜地法第7条第1項は、急傾斜地崩壊危険区域内では、次のような行為を都道府県知事の許可を受けなければしてはならないと定めています——水を放流し、又は停滞させる行為その他水のしん透を助長する行為/ため池、用水路その他の急傾斜地崩壊防止施設以外の施設又は工作物の設置又は改造/のり切、切土、掘さく又は盛土/立木竹の伐採ほか。

つまり、擁壁を設けることも、土を切ることも盛ることも、この区域では知事の許可の対象になり得ます。ただし書で、非常災害のための応急措置、区域指定の際すでに着手している行為、政令で定めるその他の行為は除かれています。建築確認とは別のルートの手続きです。

レッドゾーン・イエローゾーンと、法第19条第4項は、別に残ります

市も、このことを「がけ条例とは別に関連するものとして、土砂災害警戒区域、土砂災害特別警戒区域、急傾斜地崩壊危険区域における建築規制があります」と書いています。第5条の擁壁を設けても、次の3つは別に残ります。

  • 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)——指定するのは茨城県知事です。市のフローは、建築物がレッドゾーンに存し、かつ居室(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋)を有する場合に建築基準法施行令第80条の3に適合することを求め、そのうえで第5条にも適合させて確認申請へ、という順で示しています
  • 土砂災害警戒区域(イエローゾーン)——こちらは構造規制ではなく、警戒避難体制の区域です。市のフローでも、イエローゾーンからはそのまま第5条の適合へつながっています。イエローゾーンに入っていないことは、第5条が外れる理由になりません
  • 建築基準法第19条第4項——「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない」。この規定に、がけの高さの下限はありません——高さ2メートル以下でも、かかり得ます

レッドゾーンでは、確認申請そのものが増えることがあります。土砂災害防止法第25条は、こういう仕組みです(条文そのものではなく、要点です)——特別警戒区域(建築基準法第6条第1項第3号に規定する区域を除く。)内における居室を有する建築物同項第1号又は第2号に掲げるものを除く。)を、同項第3号の区域内の建築物とみなして建築基準法の第6条から第7条の5まで・第18条・第89条・第91条・第93条を適用します。つまり、都市計画区域の外で通常は建築確認の対象にならない規模でも、確認が必要になり得ます「敷地の過半」は、第25条の条文には書かれていません——第25条が適用する建築基準法第91条が、敷地が区域の内外にわたる場合は敷地の過半の属する区域の規定によると定めています(ちょうど半分は「過半」ではありません)。

区域に入っているかどうかは、茨城県が公表している土砂災害警戒区域等の指定箇所一覧で確かめられます。県が公表しているこの一覧のうち取手市の欄には、【急傾斜】が挙げられています(2026年9月6日に確認)。指定は変わり得ます——県は、土砂災害防止法に基づく2巡目の調査を行っており、見直しがある箇所は「告示準備中」と表示すると書いています。最終確認は、各箇所の公示図書(PDF)で行ってください。市のフローも、「指定区域の詳細は、茨城県竜ケ崎工事事務所または取手市安全安心対策課でご確認ください。」としています。

出水による危険の著しい区域は、県の条例が残ります

前のほうで書いた「一部を除いて」の中身です。県条例第46条の7第1項の括弧書きにより、茨城県建築基準条例 第46条の4第1項第2号に掲げる区域に係る部分は、取手市の区域でも適用されます。その第2号は、出水による危険の著しい区域として知事が指定した区域で、これも建築基準法第39条第1項の災害危険区域です。

県条例第46条の5第1項は、この災害危険区域において住居の用に供する建築物は建築してはならないとし、建築物の構造もしくは敷地の状況または崩壊防止工事等の施工により、規則で定める基準に適合するものとして知事が被害を受けるおそれがないと認める場合は、この限りでないと定めています。さらに同条第2項は、この区域で規則で定める建築物(住居の用に供するものを除く。)を建てる場合には、規則で定める基準に適合すると知事が認めるものとしなければならない、としています。

がけの話ではありませんが、同じ土地にかかり得ます。そして認めるのは市長ではなく、知事です——窓口が変わります。この区域の指定があるかどうかは、市の窓口と県の窓口の両方で確かめてください。

既存の建物の増築・改築・大規模の修繕——第5条は、条例の緩和の列挙に入っていません

既存不適格(きそんふてきかく=建てたときは適法だった建物)には、建築基準法第3条第2項により、その適合しなくなった規定が原則として適用されません。ただし増築・改築・移転・大規模の修繕・大規模の模様替をすると、法第3条第3項第3号・第4号により緩和が切れて条例が適用されるのが原則です。

取手市建築基準条例には、既存建築物のための緩和が第59条の2(既存の建築物に対する制限の緩和)に置かれています。緩和する条を号ごとに列挙する形です。その列挙に、第5条(がけ)はありません。第59条の2第1項が挙げているのは第8条・第10条・第11条・第12条・第15条第2号・第16条・第17条・第19条第1項・第25条・第29条・第30条・第31条第4号・第33条第2項・第34条・第35条で、第5条は入っていません。つまり、増築・改築などをするなら、がけの第5条は原則としてかかってきます。

ただし第5条の義務は「安全な擁壁を設ける」ことなので、既にあるものが「安全な擁壁」に当たれば足りる場合もあり得ます——個別の当てはめは、建築指導課で確かめてください。

建築基準法の側の緩和も見ておきます。法第86条の7第1項が列挙しているのは法第20条・第21条・第48条といった法自身の条で、法第39条・第40条に基づく条例の規定は入っていません。法第86条の7のほうで、この条例に届くのは第4項(移転)です——同項が対象にする「建築基準法令の規定」には条例が含まれます(法第6条第1項の定義)。同一敷地内の移転か、交通上・安全上・防火上・避難上・衛生上・市街地の環境の保全上支障がないと特定行政庁(とくていぎょうせいちょう。原則として、建築主事または建築副主事を置く市町村の区域ではその市町村長、それ以外の区域では都道府県知事。ただし、法第97条の2により建築主事または建築副主事を置く市町村(限定特定行政庁)の区域内では、政令で定める建築物の特定行政庁は都道府県知事です。法第2条第35号)が認める移転では、法第3条第3項にかかわらず既存不適格の扱いが継続します(施行令第137条の16)。どの移転でも扱いが続く、という意味ではありません。

用途変更——取手市は、用途変更の取扱いも別に案内しています。工事を伴わない用途変更でも、建築基準法第87条第2項により、法第39条第2項・第40条に基づく条例の規定は用途変更に準用されます。既存不適格の建物の用途変更については、法第87条第3項が列挙する規定(またはそれらに基づく条例規定)が原則として準用され、増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合(第1号)や、政令で指定する類似の用途相互間の変更で一定の条件を満たす場合(第2号)は、この準用から除かれます。第1号に当たるときは、法第3条第3項で判断します。

罰金は原則、設計者に。ただし是正命令は、建築主・所有者も対象になり得ます

(罰則)
第61条 この条例の規定に違反した建築物,工作物又は建築設備の設計者(設計図書を用いないで工事を施工し,又は設計図書に従わないで工事を施工した場合においては,その建築物,工作物又は建築設備の工事施工者)は,50万円以下の罰金に処する。
2 前項に規定する違反が建築主,工作物の築造主又は建築設備の設置者の故意によるものであるときは,当該設計者又は工事施工者を罰するほか,当該建築主,工作物の築造主又は建築設備の設置者に対して前項の刑を科する。

取手市建築基準条例 第61条

第5条は、罰則の対象です。名宛人(なあてにん=この罰則を受ける人)は原則設計者で、設計図書を用いない・従わない施工では工事施工者に替わります。違反が建築主等の故意によるときは、設計者または工事施工者を罰するほか、建築主等にも同じ刑が科されます(第61条第2項)。法人の代表者や、法人・人の代理人・使用人その他の従業者が業務に関して違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、法人または人にも罰金が科されます(第62条の両罰規定)。

是正命令は、建築主・所有者などに来ます(法第9条第1項)

罰則の名宛人が原則として設計者でも、是正命令の相手方は別です。建築基準法第9条第1項は、違反した建築物・敷地について、当該建築物の建築主、当該建築物に関する工事の請負人(請負工事の下請人を含みます)もしくは現場管理者、または当該建築物もしくは建築物の敷地の所有者・管理者・占有者に対して措置を命ずることができる、と定めています。故意かどうかは、この条の要件ではありません。命じられるのは工事の施工の停止のほか、除却(じょきゃく=取り壊し)・移転・改築・増築・修繕・模様替・使用禁止・使用制限その他、違反を是正するために必要な措置です。建てたあとに除却や使用禁止を命じられ得るのは、建築主・所有者などです——設計者は、設計者であることだけでは名宛人に挙げられていませんが、設計者が現場管理者を兼ねていれば名宛人になり得ます命令に従わないと、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です(法第98条第1項第1号)。

そして、確認申請が要らない計画でも、条例の適用要件を満たせば適合義務は残ります——確認特例(法第6条の4・施行令第10条)による審査の省略は、建築物・設計者の区分と、法第39条から第41条までに基づく条例規定のうち特定行政庁が規則で定めた規定の範囲で決まり、審査が省略される場合でも適合義務は別に生じます。

窓口——取手市建築指導課です

取手市は建築主事を置く市です。市のがけ条例のページは、詳細について「建築確認申請を提出する機関に相談してください」と案内しています。

  • 条例第5条の当てはめ・建築確認の相談——取手市 建築指導課 0297-74-2141(代表)/ファクス 0297-72-6040。土地を買う前に、まずここです
  • 条例第56条ただし書(災害危険区域の建築制限)の認定——認めるのは市長です。市は「認定にあたっては、別途茨城県竜ケ崎工事事務所と協議が必要です」としています
  • 指定区域(イエローゾーン・レッドゾーン・急傾斜地崩壊危険区域)の詳細——市は「茨城県竜ケ崎工事事務所または取手市安全安心対策課」を挙げています
  • 急傾斜地崩壊危険区域の指定・同法第7条第1項の許可——指定も許可も茨城県知事です。区域の照会は茨城県 土木部河川課ダム 029-301-4498
  • 土砂災害警戒区域・特別警戒区域の指定(公示図書)——茨城県。区域を指定するのは県知事です

売買契約の前に、専門家と確かめること

確かめるのは、土地の売買契約を結ぶ前です。買ったあとでは、擁壁の費用と配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。この一覧は、自分で判定するためのものではありません——測って図にするのは建築士、条例の当てはめは取手市建築指導課の窓口です。

  • ① その土地は取手市内か。取手市内なら、読むのは取手市建築基準条例 第5条です(茨城県建築基準条例は、出水による危険の著しい区域に係る部分を除いて適用されません。県条例第46条の7第1項、県細則第19条)
  • ② 敷地の中や周りに、こう配が30度を超える傾斜地で、高さが2メートルを超えるものがあるか。市は「自然がけであるか否か、擁壁の有無、敷地の内外については問いません」としています——敷地の外にあるがけも、道路の反対側のがけも対象です
  • ③ 起点はどちらか。がけの上に建てるならがけの下端から、がけの下に建てるならがけの上端から。そこからの水平距離ががけの高さの2倍以内なら、第1項本文がかかります。下端は「地表面が水平面に対して30度を超えるはじめての地点」です。敷地の造成も対象です
  • ④ 斜面の途中に小段があるなら、上下のがけが一体かどうかを断面図で確かめたか。一体なら高さを合算し、2×(H1+H2)で見ます
  • ⑤ かかるなら——安全な擁壁、法面等を設ければ、第5条第1項については原則として建てられます高さ2メートルを超える擁壁は、法第88条第1項の工作物です(令第138条第1項第5号)——手続きが別に要ります
  • ⑥ 第1項ただし書や、第2項(がけの上なら深基礎・基礎杭等/がけの下なら鉄筋コンクリート造等/がけと建築物との間に安全な施設)に当たるか。判定するのは設計者と窓口で、あなたではありません
  • ⑦ 敷地ががけの上にあるなら、第3項の排水の措置が計画に入っているか。第3項にただし書はなく、距離の条件も書かれていません
  • ⑧ 急傾斜地崩壊危険区域に入っていないか。入っていれば条例第55条により災害危険区域となり、第56条で住居の用に供する建築物は原則として建築できません。市のフローでは第56条ただし書に基づく認定を取る流れで、茨城県竜ケ崎工事事務所との協議が別に要ります。さらに急傾斜地法第7条第1項の知事の許可が、切土・盛土・工作物の設置などに要ります
  • ⑨ レッドゾーン・イエローゾーンに入っていないか。茨城県の指定箇所一覧で当たりを付け、最終確認は各箇所の公示図書で。レッドゾーンで居室を有する建築物なら、令第80条の3の構造規制がかかります
  • ⑩ 出水による危険の著しい区域(県条例第46条の4第1項第2号)の指定がないか。これも災害危険区域で、認めるのは知事です
  • ⑪ 既存の建物の増築・改築・用途変更は、適用関係を窓口で。条例第59条の2の緩和の列挙に、第5条はありません
  • ⑫ 建築確認が不要でも、条例の適合義務は残ります。違反すれば、条例第61条の罰則(50万円以下の罰金)や、建築基準法第9条の是正命令の対象になり得ます

参考にした資料(2026年9月6日に原文を確認)

  • 取手市建築基準条例(取手市例規集・現行条文。令和7年3月19日施行。第5条・第55条・第56条・第59条の2・第61条・第62条)
  • 茨城県建築基準条例(茨城県例規集・現行条文。昭和36年3月31日茨城県条例第21号。令和7年3月27日施行。第46条の4・第46条の5・第46条の7)
  • 茨城県建築基準法等施行細則(茨城県例規集・現行条文。昭和45年3月9日茨城県規則第9号、最終改正 令和7年4月3日規則第50号。令和7年7月1日施行。第19条)
  • 建築基準法(e-Gov法令検索・第3条・第4条・第6条の4・第9条・第19条第4項・第39条・第40条・第86条の7・第87条・第88条・第91条・第98条)

擁壁の形や寸法の一般的な考え方は、擁壁の選び方にまとめています(条例第5条の当てはめは、この記事に書いた窓口で確かめてください)。レッドゾーン内で建てる場合の考え方は、レッドゾーンの家と土地で整理しています。

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