愛媛県松山市のがけ条例とレッドゾーン——崖の近くに建てられるか

松山市のがけは、第5条

松山市で、崖の近くに家を建てる・土地を買う人へ——最初に答えから。

先にすることは、3つです。崖の規定がかかっても、建てられないと決まったわけではありません。まず、土地の売買契約を結ぶ前に動く(すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に)——買ったあとでは、擁壁(ようへき=崖の土が崩れないよう支える壁)の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。つぎに、建築士に現況の測量図・断面図・配置案を用意してもらう。そのうえで、その図面を持って松山市建築指導課へ、条例の当てはめを確かめる。高さも角度も距離も、目測で判断しないでください。

松山市内の崖は、松山市建築基準法施行条例 第5条(崖付近の建築物)で決まります愛媛県建築基準法施行条例が併せてかかるかどうかは、この記事では条文を特定できていません——松山市建築指導課に確かめてください)。②この条は3つの項に分かれ、しきい値が項ごとに違います——第1項は崖の下(高さ5メートル以上の崖・居室を有する建築物(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋)だけ)、第2項は崖の上(高さ3メートルを超える崖・建築物すべて)、第3項は崖の上の敷地の排水(高さ3メートルを超える崖・距離の限定なし)。③第1項・第2項が命じているのは距離ではなく、安全上必要な擁壁を崖又は崖の部分に設けることです。かかる範囲は崖の高さの1.75倍以内で、起点は、崖の上と下で入れ替わります。④勾配はどの項も30度以上です。⑤擁壁を設けなくてもよい道もあります。第1項または第2項のただし書(=「ただし……この限りでない」で始まる、義務が外れる場合の定め。第3項には、ただし書がありません)に当たれば、崖の下なら第5条第1項については原則として建てられますその項だけの話です)。崖の上なら第5条第2項については原則として建てられます——ただし第3項の排水の措置は残ります。⑥ただし、レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)・イエローゾーン(土砂災害警戒区域)・災害危険区域建築基準法第19条第4項は、別に残ります。(条例は2026年9月5日に松山市例規集の本文で確認しました)。

松山市なら、松山市建築基準法施行条例 第5条です

松山市なら、松山市建築基準法施行条例 第5条です
松山市建築基準法施行条例 第5条。満たせるのはこの条まで。ほかの区域・法令は別に確認

「がけ条例」という名前の条例はありません。松山市では、松山市建築基準法施行条例(平成12年3月21日 条例第33号)の第5条(崖付近の建築物)が、崖に近い建築物の決まりです。同条例第1条は、建築基準法第39条の災害危険区域の指定と制限、法第40条(法第88条第1項において準用する場合を含む。)及び第43条第3項による制限の付加、法第56条の2第1項による日影の対象区域等の指定に関し必要な事項を定めることを目的とする、と書いています。市の条文は「崖」と漢字で書きます。

愛媛県建築基準法施行条例のほうは、どうなるのか。2026年9月5日に、県の条例(第1条から第20条まで)と県の建築基準法施行細則の本文を通して読みましたが、「建築主事を置く市の区域には適用しない」という趣旨の適用除外の条は、見つけられませんでした「県の条例は適用されません」と言い切れるだけの条文を、この記事は示せていません。松山市は、建築確認を自分で扱う権限を持つ市です(建築主事を置く特定行政庁(とくていぎょうせいちょう=許可・認定や是正命令を受け持つ役所。建築主事等を置く市町村ではその市町村長、それ以外は都道府県知事。ただし、限定特定行政庁(法第97条の2により、政令で定める事務に限って建築主事等を置く市町村)の区域内では、政令で定める建築物について都道府県知事です(法第2条第35号ただし書)))。ただし、市内の建築確認を審査するのが松山市だけ、というわけではありません——建築確認は、業務区域・業務範囲に対応する指定確認検査機関(民間の確認検査機関)にも申請できます(建築基準法第6条の2)。条例の当てはめの事前相談は松山市建築指導課へ、確認申請の審査は松山市の建築主事等または指定確認検査機関、と分けて考えてください。どの条例で読むのかを含めて、松山市建築指導課で確かめてください。

(崖付近の建築物)
第5条 高さ5メートル以上の崖(勾配が30度以上の傾斜地をいう。以下この条において同じ。)の下端に続く地盤面のうち,崖の上端からの水平距離が崖の高さの1.75倍以内の位置に居室を有する建築物を建築する場合には,崖の形状若しくは土質又は当該建築物の位置,規模若しくは構造に応じて安全上必要な擁壁を崖又は崖の部分に設けなければならない。ただし,次の各号のいずれかに該当する場合は,この限りでない。

松山市建築基準法施行条例 第5条第1項本文

どこからが「崖」か——勾配30度以上。硬岩盤を除く定めはありません

市の条文は、「崖」を「勾配が30度以上の傾斜地」とだけ定義しています。硬岩盤(こうがんばん=かたい岩の地盤)を「崖」から除く定めは、松山市の条文にはありません。「うちは岩だから外れる」とは読めません。土質は、崖に当たるかどうかではなく、第1項ただし書第1号(崖の形状又は土質により安全上支障がない場合)のほうで効きます。

「以上」と「超える」が混ざっています。ここは1文字ずつ読んでください。勾配は「30度以上」なので、ちょうど30.0度は当たります。第1項の崖の高さは「5メートル以上」なので、ちょうど5.0メートルは当たります。一方、第2項・第3項の崖の高さは「3メートルを超える」なので、ちょうど3.0メートルは当たりませんこの3つの言葉づかいの違いが、そのまま結論の違いになります。勾配と高さの測り方は、建築士に見てもらってください。

距離の起点は、崖の上と下で入れ替わります

がけの上に建てるとき、距離をどこから測るか
がけの上に建てるとき、距離をどこから測るか

第1項は、崖の下に建てる話です。「崖の下端(かたん=斜面の低いほうの足元)に続く地盤面のうち、崖の上端(じょうたん=斜面の高いほうの肩)からの水平距離が崖の高さの1.75倍以内の位置」——起点は上端です。第2項は、崖の上に建てる話です。「崖の上端に続く地盤面のうち、崖の下端からの水平距離が崖の高さの1.75倍以内の位置」——起点は下端です。崖の上に立つか下に立つかで、測り始める場所が入れ替わります。たとえば高さ4メートルの崖なら、1.75倍は7メートルです。

がけの下に建てるとき、距離をどこから測るか
がけの下に建てるとき、距離をどこから測るか

かかる建物の範囲も、項で違います。第1項(崖の下)は「居室を有する建築物」だけです——居室(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋)を持つ建物で、住宅ならふつう当てはまります。居室を有しない倉庫や車庫だけの建物は、第1項の対象から外れます——ただし、外れるのは第1項だけです建築基準法第19条第4項と区域の指定は、別に残ります(敷地が崖の上にもあるなら、第2項・第3項も別にかかります)。一方、第2項(崖の上)は「建築物」で、居室の限定がありません。崖の上では、倉庫でもかかります。

安全上必要な擁壁を設ければ、原則として建てられます(第5条)

擁壁だけが道ではありません。条文は、崖と当該建築物との間に適当な流土止めを設けたときにも、この義務は「この限りでない」と書いています(第5条第1項ただし書第3号)。擁壁で受けるか、あいだで受けるか、建物側で受けるか——どれが自分の敷地に合うかは、設計者に見積りを並べてもらって比べてください。

道はあります。まず見るのは、1.75倍の範囲に入るかどうかです。範囲の外なら、第1項本文も第2項本文もかかりません。第3項の排水、法第19条第4項、区域の指定は、別に確かめてください。入るなら、義務の形は「離しなさい」ではなく「設けなさい」です——崖の形状もしくは土質、または当該建築物の位置・規模もしくは構造に応じて、安全上必要な擁壁を崖又は崖の部分に設ける。これを満たせば、崖の下なら第5条第1項については原則として建てられます、崖の上なら第5条第2項については原則として建てられます「原則として」と書くのには、理由があります——これはその項の義務を満たすという意味で、第3項の排水の措置と、建築基準法第19条第4項、災害危険区域、土砂災害の区域は、別に確認してください。

擁壁を置く場所は「崖又は崖の部分」です。敷地のどこでもよいわけではありません。また、高さ2メートルを超える擁壁は、建築基準法施行令第138条第1項第5号により法第88条第1項の工作物に指定されており、確認を受ける必要があります——擁壁そのものにも手続きがあります。どの構造の擁壁なら「安全上必要な擁壁」に当たるかは、建築士が設計し、松山市の建築主事等または指定確認検査機関の審査で見られます(事前の相談先は松山市建築指導課です)。

ただし書の道は、崖の下に4つ、崖の上に2つ

(1) 崖の形状又は土質により安全上支障がない場合
(2) 当該建築物の主要構造部(崖崩れによる被害を受けるおそれのない部分を除く。)を鉄筋コンクリート造とした場合
(3) 崖と当該建築物との間に適当な流土止めを設けた場合
(4) 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(平成12年法律第57号)第9条第1項の規定により指定された土砂災害特別警戒区域(同条第4項の規定により公示された土砂災害の発生原因となる自然現象の種類が同法第2条に規定する急傾斜地の崩壊であるものに限る。以下「特別警戒区域」という。)内に当該建築物を建築する場合

松山市建築基準法施行条例 第5条第1項ただし書(第1号〜第4号)

崖の上(第2項)のただし書は、2つだけです。第2項が第1項から借りているのは「前項第1号」だけ——形状・土質で安全上支障がない場合だけです。第2号(鉄筋コンクリート造)・第3号(流土止め)・第4号(レッドゾーン)は、崖の上には使えません。そのかわり、崖の上には第2項第2号(当該建築物の基礎が崖に影響を及ぼさない場合)があります。

ただし書の道崖の下(第1項)崖の上(第2項)
崖の形状又は土質により安全上支障がない使えます(第1号)使えます(第2項第1号)
主要構造部を鉄筋コンクリート造にする使えます(第2号)ありません
崖と建築物の間に適当な流土止めを設ける使えます(第3号)ありません
レッドゾーン内に建築する(急傾斜地の崩壊を発生原因とする指定に限る)使えます(第4号)ありません
当該建築物の基礎が崖に影響を及ぼさないありません使えます(第2項第2号)

この5つは、素人が自分で判定するための一覧ではありません。どれに当たるかを設計として組み立てるのは建築士で、確認申請の対象となる計画では松山市の建築主事等または指定確認検査機関の審査で見られます。

レッドゾーンで外れるのは第1項だけ。しかも「急傾斜地の崩壊」に限られます

第1項第4号は、レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)内に建築する場合を挙げています。当たれば、第1項の擁壁の義務が外れます。ただし、2つの限定が付いています。

ひとつ、外れるのは第1項(崖の下)だけです。第2項(崖の上)のただし書が引いているのは「前項第1号」だけで、第4号は引かれていません。レッドゾーンの中でも、崖の上に建てるなら、第2項の擁壁の義務はそのまま残ります(実務の扱いは窓口で確かめてください)。第3項の排水の措置も、同じく残ります。

ふたつ、外れるのは、急傾斜地の崩壊を発生原因とするレッドゾーンだけです。第4号の括弧書きは「公示された土砂災害の発生原因となる自然現象の種類が同法第2条に規定する急傾斜地の崩壊であるものに限る」と書いています。土石流や地滑りを発生原因とするレッドゾーンは、この号では外れません。自分の土地のレッドゾーンがどの原因で指定されたかは、公示された事項で決まります——どの原因かは、松山市建築指導課で確かめてください。自分では決められません。

そして、第4号に当たっても「安全になった」わけではありません。レッドゾーンの中では、建築基準法施行令第80条の3の構造の規制が居室を有する建築物にかかります。条例の擁壁の義務が外れる代わりに、法令の構造規制が来る、という関係です。

市が公開している図解のPDFは、古い条番号のままです

松山市が「よくある質問」のページで公開している第5条の図解のPDFには、第1項第4号のレッドゾーンについて「第8条第1項の規定により指定された」と書かれています。しかし、市の例規集にある現行の条文は「第9条第1項」です(土砂災害防止法は、第7条第1項が警戒区域、第9条第1項が特別警戒区域)。さらに、そのPDFには「急傾斜地の崩壊であるものに限る」という括弧書きがありませんが、現行の条文には入っています(2026年9月5日、市の例規集の本文で確認)。

ここは、読み間違えると結論が逆になる場所です。PDFの図だけを見ると「レッドゾーンなら第1項は外れる」と受け取ってしまいますが、現行の条文では、土石流を発生原因とするレッドゾーンでは外れません図の形は使えても、条番号と括弧書きは、そのPDFから写さないでください。最新の条文は、松山市例規集で確かめられます。

崖の上に建てるなら、第3項の排水の措置が別に残ります

3 高さ3メートルを超える崖の上端に続く地盤面にある建築物の敷地には,崖の上端に沿って排水溝を設ける等崖への流水又は浸水を防止するための適当な措置を講じなければならない。

松山市建築基準法施行条例 第5条第3項

第3項には、ただし書がありません。そして距離の限定もありません——高さ3メートルを超える崖の上端に続く地盤面にある敷地なら、1.75倍の範囲の外に建てる計画でも、この義務は残ります。第1項・第2項のただし書は、第3項には効きません。「擁壁が要らないと言われた」ことと、「排水の措置が要らない」ことは別です。

災害危険区域(第15条・第16条)——住居は原則として建てられません

(災害危険区域の指定)
第15条 法第39条第1項の規定に基づき,急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)第3条第1項の規定により指定された急傾斜地崩壊危険区域(以下「急傾斜地崩壊危険区域」という。)を災害危険区域として指定する。ただし,特別警戒区域内の急傾斜地崩壊危険区域については,この限りでない。

(建築の制限)
第16条 前条に規定する災害危険区域内においては,住居の用に供する建築物は,建築してはならない。ただし,建築物の構造若しくは敷地の状況又は急傾斜地崩壊防止工事の施工により被害を受けるおそれがないと認められるときは,この限りでない。

松山市建築基準法施行条例 第15条・第16条

作りが2つあります。ひとつ、指定が自動です。愛媛県知事が急傾斜地法第3条第1項で指定した急傾斜地崩壊危険区域が、そのまま災害危険区域になります。ふたつ、レッドゾーンと重なる部分は外れます。第15条のただし書がそう書いています。ここでいう「特別警戒区域」は第5条第1項第4号の定義——つまり急傾斜地の崩壊を発生原因とするものに限る——を借りています。定義が崖の条にあり、災害危険区域の条がそれを借りているので、第5条を読まないと第15条も読めません。

区域に入っているなら、住居の用に供する建築物は、原則として建てられません。外れるのは、建築物の構造もしくは敷地の状況、または急傾斜地崩壊防止工事の施工により被害を受けるおそれがないと認められるときだけです。認めるのは市で、自分では決められません。また、区域内の切土・盛土・工作物の設置などには、急傾斜地法第7条第1項の知事の許可が別に必要になる場合があります。

レッドゾーン・イエローゾーンと、法第19条第4項は、別に残ります

  • 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)——指定するのは愛媛県知事です。区域内で居室を有する建築物を建てる場合、建築基準法施行令第80条の3の構造規制がかかります(土砂災害防止法と法施行令による全国共通の仕組みで、この条例とは別です)
  • 土砂災害警戒区域(イエローゾーン)——こちらは構造規制ではなく、警戒避難体制の区域です。ただし、第5条の崖に当たるかどうかは、区域の内外とは関係なく決まります——イエローゾーンに入っていないことは、第5条が外れる理由になりません
  • 建築基準法第19条第4項——建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合は、擁壁の設置その他安全上適当な措置が別に必要です。この規定に、崖の高さの下限はありません——高さ3メートル以下でも、かかり得ます

レッドゾーンでは、確認申請そのものが増えることがあります。土砂災害防止法第25条は、こういう仕組みです(条文そのものではなく、要点です)——特別警戒区域(建築基準法第6条第1項第3号に規定する区域を除く。)内における居室を有する建築物同項第1号又は第2号に掲げるものを除く。)を、同項第3号の区域内の建築物とみなして、法第6条から第7条の5まで・第18条・第89条・第91条・第93条を適用します。つまり、都市計画区域の外で通常は建築確認の対象にならない規模でも、確認が必要になり得ます「敷地の過半」は、第25条の条文には書かれていません——第25条が適用する法第91条が、敷地が区域の内外にわたる場合は敷地の過半の属する区域の規定によると定めています(ちょうど半分は「過半」ではありません)。

区域に入っているかどうかは、えひめ土砂災害情報マップで当たりを付けられます。最終確認は、愛媛県の公示された事項(告示図書)で行ってください。レッドゾーン内で建てる場合の構造の考え方と、改修への補助の枠組みは、レッドゾーンの家と土地で整理しています。いま確かめるなら——構造の中身は建築士と松山市建築指導課へ、補助の有無は松山市または愛媛県の担当窓口へ

既存の建物の増築・改築・用途変更——第18条の緩和は「できる」規定です

既存不適格(きそんふてきかく=建てたときは適法だった建物)には、建築基準法第3条第2項により、その適合しなくなった規定が原則として適用されません。ただし増築・改築・移転・大規模の修繕・大規模の模様替をすると、法第3条第3項第3号・第4号により緩和が切れて条例が適用されるのが原則です。

(既存建築物に対する制限の緩和)
第18条 法第3条第2項の規定によりこの条例の規定の適用を受けない建築物に係るこの条例施行後の増築,改築,大規模の修繕又は大規模の模様替のうち,その建築物及び敷地の状況によりやむを得ないと認められるものについては,この条例の規定による制限を緩和することができる。

松山市建築基準法施行条例 第18条

第18条は、条や章を限っていません。条文が書いているのは「この条例の規定による制限」なので、第5条もその中に入ります。ただし「緩和することができる」という書き方で、緩和されると決まっているわけではありません——認めるかどうかは市の判断です。また、対象に挙がっているのは増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替で、移転は挙がっていません計画を決める前に、建築指導課に相談してください。

建築基準法の側の緩和も見ておきます。法第86条の7第1項が列挙しているのは法第20条・第21条・第48条といった法自身の条で、法第39条・第40条に基づく条例の規定は入っていません(同条第2項・第3項も同じです)。法第86条の7のほうで、この条例に届くのは第4項(移転)です——同項が対象にする「建築基準法令の規定」には条例が含まれます(法第6条第1項の定義)。同一敷地内の移転か、交通上・安全上・防火上・避難上・衛生上・市街地の環境の保全上支障がないと特定行政庁が認める移転では、法第3条第3項にかかわらず既存不適格の扱いが継続します(施行令第137条の16)。どの移転でも扱いが続く、という意味ではありません。

用途変更——工事を伴わない用途変更でも、建築基準法第87条第2項により、法第39条第2項・第40条に基づく条例の規定は用途変更に準用されます。既存不適格の建物の用途変更については、法第87条第3項が列挙する規定(またはそれらに基づく条例規定)が原則として準用され、増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合(第1号)や、政令で指定する類似の用途相互間の変更で一定の条件を満たす場合(第2号)は、この準用から除かれます。第1号に当たるときは、法第3条第3項で判断します。

罰金は20万円以下。名宛人は原則、設計者です

第19条 この条例の規定に違反した建築物,工作物又は建築設備の設計者(設計図書を用いないで工事を施工した場合においては,その建築物,工作物又は建築設備の工事施工者)は,200,000円以下の罰金に処する。

松山市建築基準法施行条例 第19条第1項

この条は「この条例の規定に違反した」と書いていて、条を列挙していません。つまり第5条も、第16条も、罰則の対象です。名宛人(なあてにん=この罰則を受ける人)は原則設計者で、設計図書を用いないで工事を施工した場合は工事施工者に替わります。違反が建築主、工作物の築造主または建築設備の設置者の故意によるときは、設計者または工事施工者を罰するほか、建築主等にも同じ刑が科されます(第19条第2項)。第3項は両罰規定です——法人の代表者、または法人・人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して条例に違反する行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人にも第1項の刑を科します。免責のただし書は、範囲が限られています——条文が免責の対象にしているのは「法人又は人の代理人,使用人その他の従業者の」違反行為の防止について相当の注意及び監督が尽くされたことの証明があったときだけで、代表者自身の違反行為は、このただし書の書き方には含まれていません。

是正命令は、建築主・所有者などに来ます(法第9条第1項)

罰則の名宛人が原則として設計者でも、是正命令の相手方は別です。建築基準法第9条第1項は、違反した建築物・敷地について、当該建築物の建築主、工事の請負人(下請人を含みます)・現場管理者、建築物または敷地の所有者・管理者・占有者に対して措置を命ずることができる、と定めています。故意かどうかは、この条の要件ではありません。命じられるのは工事の施工の停止のほか、除却(じょきゃく=取り壊し)・移転・改築・増築・修繕・模様替・使用禁止・使用制限その他、違反を是正するために必要な措置です。建てたあとに除却や使用禁止を命じられ得るのは、建築主・所有者などです——設計者は、設計者であることだけでは名宛人に挙げられていませんが、設計者が現場管理者を兼ねていれば名宛人になり得ます命令に従わないと、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です(法第98条第1項第1号)。

確認申請で細かく見られない場合でも、条例を守らなくてよいという意味ではありません。確認申請が要らない計画でも、条例の適用要件を満たせば適合義務は残ります——確認特例(かくにんとくれい=建築確認の審査の一部が省略される仕組み。法第6条の4・施行令第10条)による審査の省略は、建築物・設計者の区分と、法第39条から第41条までに基づく条例規定のうち特定行政庁が規則で定めた規定の範囲で決まり、審査が省略される場合でも適合義務は別に生じます。

窓口——松山市建築指導課です

  • 条例第5条の当てはめ・建築確認の相談——松山市 都市整備部 建築指導課 089-948-6509(松山市二番町四丁目7-2 本館9階)。土地を買う前に、まずここです
  • 土砂災害警戒区域・特別警戒区域の指定(公示された事項)と、急傾斜地崩壊危険区域——愛媛県。区域を指定するのは県知事です

売買契約の前に、専門家と確かめること

確かめるのは、土地の売買契約を結ぶ前です。買ったあとでは、擁壁の費用と配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。この一覧は、自分で判定するためのものではありません——測って図にするのは建築士、条例の当てはめは松山市建築指導課です。

  • ① 松山市内の崖は、松山市建築基準法施行条例 第5条で決まります。愛媛県の条例が併せてかかるかどうかは、この記事では条文を特定できていません——建築指導課に確かめてください
  • ② 敷地の中や周りに、勾配が30度以上の傾斜地があるか。ちょうど30.0度は当たります
  • ③ 建てるのは崖の下か、崖の上か。崖の下なら、崖の高さが5メートル以上で、建てるのが居室を有する建築物のとき、崖の上端から1.75倍以内が範囲です(第1項)。崖の上なら、崖の高さが3メートルを超えるとき、崖の下端から1.75倍以内が範囲です(第2項・建築物すべて)
  • ④ 範囲に入るなら、安全上必要な擁壁を崖又は崖の部分に設けるか、その項のただし書のどれに当てはめるか。どれかが成立すれば、崖の下は第5条第1項については原則として建てられます、崖の上は第5条第2項については原則として建てられます
  • ⑤ 高さ3メートルを超える崖の上に建てるなら、第3項の排水の措置が計画に入っているか。第3項にただし書はなく、距離の限定もありません——1.75倍の外でも残ります
  • ⑥ レッドゾーン・イエローゾーンに入っていないか。入っているなら、どの自然現象を発生原因とする指定かを市に確かめる。第1項第4号で外れるのは急傾斜地の崩壊を発生原因とするものだけで、崖の上(第2項)には使えません
  • ⑦ 急傾斜地崩壊危険区域に入っていないか。入っていれば災害危険区域で、住居の用に供する建築物は原則として建てられません(第15条・第16条)。区域内の切土・盛土等には急傾斜地法第7条第1項の許可が要る場合があります
  • ⑧ 既存の擁壁があるなら、確認済証・検査済証等の資料と現況の確認から。あることと、条例の「安全上必要な擁壁」に当たることは、別です
  • ⑨ 既存の建物の増築・改築・用途変更は、適用関係を窓口で。第18条の緩和は「できる」規定で、移転は対象に挙がっていません
  • ⑩ 建築確認が不要でも、条例の適合義務は残ります。違反すれば、条例第19条の罰則(20万円以下の罰金)や、建築基準法第9条の是正命令の対象になり得ます

参考にした資料(2026年9月5日に原文を確認)

  • 松山市例規集(Reiki-Base インターネット版・内容現在 令和8年7月17日。松山市建築基準法施行条例〈平成12年3月21日 条例第33号〉第1条・第5条・第15条・第16条・第18条・第19条の本文)
  • 建築基準法(e-Gov法令検索・第3条・第6条第1項・第6条の4・第9条・第19条第4項・第39条・第40条・第43条第3項・第56条の2・第86条の7・第87条・第88条・第91条・第98条)

擁壁の形や寸法の一般的な考え方は、擁壁の選び方にまとめています(条例第5条の当てはめは、この記事に書いた窓口で確かめてください)。

この記事で確かめきれなかったこと。ひとつ、愛媛県建築基準法施行条例が松山市の区域で適用されるのかどうか——県の条例にも県の細則にも適用除外の条が見当たりませんでしたが、「適用されない」と書ける根拠も示せていません。ふたつ、松山市建築基準法施行細則(規則)に、崖に関する図書の定めがあるかどうかは当たっていません。みっつ、「安全上必要な擁壁」「適当な流土止め」の仕様と、水平距離を建築物のどこまで測るかを示す市の運用資料は、市のページを見た範囲では見つけられませんでした。よっつ、松山市内の急傾斜地崩壊危険区域と土砂災害特別警戒区域の指定件数は数えていません。

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