栃木県のがけ条例とレッドゾーン——崖の近くに建てられるか

栃木県のがけ条例(栃木県建築基準条例第6条)

栃木県で、がけの近くに家を建てる・買う人へ——最初に答えから。

栃木県の「がけ条例」とは、栃木県建築基準条例 第6条のことです。崖の近くに建てるときは、原則として擁壁を設けることが求められます。

擁壁の形や寸法の一般的な考え方は、擁壁の選び方にまとめています(この条の当てはめは、この記事に書いた窓口で確かめてください)。

先にすることは、3つです。がけ条例がかかっても、建てられないと決まったわけではありません

  • まず、土地の売買契約を結ぶ前に動く(すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に)——買ったあとでは、擁壁(ようへき=がけの土が崩れないよう支える壁)の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります
  • つぎに、建築士に現況の測量図・断面図・配置案を用意してもらう
  • そのうえで、その図面を持って計画地を所管する建築行政の窓口へ。条例の当てはめを確かめる

高さも角度も距離も、目測で判断しないでください。

①栃木の「がけ条例」は、栃木県建築基準条例(昭和57年3月30日栃木県条例第2号)の第6条です。②かかるのは、がけ(地表面の水平面に対するこう配が30度を超える土地で、高さが2メートルを超えるもの)に建築物を建てる場合と、がけの上ならがけの下端から、がけの下ならがけの上端から、がけの高さの2倍の水平距離内に建築物を建てる場合です。③そのとき条文が求めるのは離れることではなく、「構造耐力上安全な擁壁をがけに設置し、又はこれに代わる措置を講じなければならない」——擁壁(ようへき=がけの土が崩れないように支える構造物。塀とは役割が違います)を設けるか、それに代わる工法をとることです。④条例に合う擁壁を設ければ、第6条については原則として建てられます。ただし、災害危険区域・土砂災害の区域・建築基準法第19条第4項は別に確認してください。ただし書の3つの号のどれかに当たるときは、擁壁も代わる措置も要りません。⑤第6条は、栃木県内の全域にかかります——建築確認を自前で行う9市(宇都宮・足利・栃木・佐野・鹿沼・日光・小山・大田原・那須塩原)でも外れません。ただし、市が独自に上乗せする規定の有無は、各市にも確かめてください。⑥分かれるのは相談する窓口のほうです。

根拠は、栃木県例規集の条例本文と建築基準法施行細則、栃木県建築行政連絡協議会『栃木県建築基準条例の解説』(令和8〈2026〉年4月)、県の建築行政の窓口一覧、県砂防水資源課のページです。2026年9月1日に、いずれも県が公開している原文で確認しました。

「がけ条例」の実体は、栃木県建築基準条例の第6条です

「がけ条例」の実体は、栃木県建築基準条例の第6条です
栃木県建築基準条例 第6条。満たせるのはこの条まで。ほかの区域・法令は別に確認

「がけ条例」という名前の条例はありません。栃木県では、栃木県建築基準条例の第3章「がけと建築物との関係」の第6条がその中身です。根拠は建築基準法第40条——地方公共団体が、条例で建築物の敷地・構造の制限を付け加えられる、という規定です。

探すときに手間取るところがひとつあります。第6条には、カッコ書きの見出し(条名)が付いていません。手前の第4条には「(災害危険区域の指定)」、第5条には「(災害危険区域内の建築制限)」が付いているのに、第6条は章の名前だけで始まります(次の第7条にも見出しはありません)。「がけ」という語で条名を探しても見つかりません——章の見出しでたどってください。

この条例には「都市計画区域及び準都市計画区域外においては適用しない」という限定を置いた条があります(第3条)。そこに並んでいるのは第7条・第14条・第22条・第37条で、第6条は入っていません。県の解説も、はっきりこう書いています。

前条が災害危険区域内にのみ適用されるものに対して、本条の規定は都市計画区域及び準都市計画区域の内外を問わず県内全域において適用されるものであり、災害危険区域内においては、前条と本条の両方が適用されることになる。また、特別警戒区域内外に関わらず本条が適用される。

栃木県建築行政連絡協議会『栃木県建築基準条例の解説』(令和8年4月)第6条の解説

どこからが「がけ」か——こう配30度を「超える」、高さ2メートルを「超える」

第6条 がけ(地表面の水平面に対するこう配が30度を超える土地で、高さが2メートルを超えるものをいう。以下この条において同じ。)に建築物を建築する場合又はがけの上にあってはがけの下端から、がけの下にあってはがけの上端からがけの高さの2倍の水平距離内に建築物を建築する場合には、構造耐力上安全な擁壁をがけに設置し、又はこれに代わる措置を講じなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
(1) がけの上に建築物を建築する場合において、建築物ががけに影響を及ぼすおそれのないとき。
(2) がけの下に建築物を建築する場合において、がけ崩れによる被害を受けるおそれがない建築物の部分を除きその基礎及び主要構造部が鉄筋コンクリート造若しくは鉄骨鉄筋コンクリート造であるとき又は建築物が居室を有しないとき。
(3) がけの形状及び土質によりがけ崩れのおそれがないとき。

栃木県建築基準条例 第6条(栃木県例規集・令和8年4月1日施行)

ただし書の第2号に出てくる「居室(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋)」は、あとの節で扱います。押さえるところは3つです。①こう配は「30度を超える」——30.0度ちょうどは当たりません。②高さは「2メートルを超える」——2.0メートルちょうどは当たりません(「以上」ではありません)。ただし、法第19条第4項の措置は、2メートルちょうどでも要ることがあります(後述)。③この括弧書きに硬い岩盤を外す定めはありません。岩かどうかは、あとに出るただし書の第3号の中で扱われます。

「30度」と「2メートル」がどこから来た数字なのか、県の解説は理由まで書いています。

ここで、傾斜面の角度が30度を超えるものとしたのは、過去にがけ崩れを起こした斜面の角度から、30度を超えると崩壊の発生が急に多くなっていることにより、高さが2メートルを超えるものとしたのは、法により工作物として確認申請の手続きを必要とする擁壁(法第88条、令第138条)を対象としたためである。

栃木県建築行政連絡協議会『栃木県建築基準条例の解説』(令和8年4月)第6条の解説

建築基準法施行令第138条第1項第五号は、工作物として建築確認の手続きが要るものとして「高さが二メートルを超える擁壁」を挙げています。県の解説によれば、条例の2メートルは、この擁壁を対象にするためのものです。

まぎらわしい数字がもうひとつあります。急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律の「急傾斜地」は、第2条第1項で「傾斜度が三十度以上である土地」——こちらは30度ちょうどを含みます。同じ30度でも、条例は30度ちょうどを含まず、急傾斜地法は含みます。だから、30.0度ちょうどで第6条から外れる斜面でも、その土地が急傾斜地崩壊危険区域に指定されていれば、条例第5条の建築制限は別にかかります(第5条には、がけの高さや角度の要件がありません)。

かかる範囲——「がけに建てる場合」と、上下2倍の水平距離の中

第6条が並べているのは、2つの場合です。ひとつは、がけそのものに建築物を建てる場合。もうひとつが、がけの高さの2倍の水平距離の中に建てる場合です。「2倍以内」は、規制が働く範囲を示す言葉であって、「2倍以上離しなさい」ではありません。

この2倍を測る起点が、栃木の山場です。がけの上に建てるときは、がけの下端(かたん)から。がけの下に建てるときは、がけの上端(じょうたん)から。——上と下で、起点が入れ替わります。下端はがけの下側の縁、上端はがけの上側の縁ですが、どの点を下端・上端とみるかは、条例にも県の解説にも定めがありません。断面図を書いて、窓口に当ててもらう場所です。

数字にすると、高さ3メートルのがけなら6メートル、高さ5メートルのがけなら10メートル。がけの上に建てる家は、がけの下端から6メートル(または10メートル)以内かどうか。がけの下に建てる家は、がけの上端から同じ距離で測ります。起点を取り違えると、判定がずれます。ずれの大きさは、上端と下端の水平位置の差——つまり斜面の形——で変わります。上端と下端がどこかは、断面図で確かめてください。

義務の形は「離す」ではなく、「擁壁を設置する、又はこれに代わる措置」です

条文が命じているのは「構造耐力上安全な擁壁をがけに設置し、又はこれに代わる措置を講じなければならない」です。「又は」でつないでいるので、擁壁のほかにも道があります。県の解説は、それぞれの中身をこう説明しています。

本条中、「構造耐力上安全な擁壁」としては、宅地造成及び特定盛土等規制法第12条、都市計画法(以下「都計法」という。)第29条又は都計法第43条に基づく許可により造成された既存擁壁等で、劣化がなく、かつ、設計地耐力が十分安全であるものが考えられる。また、「擁壁に代わる措置」としては、法面にコンクリート枠を取り付ける工法(のり枠工)等のがけ崩れを防止するために有効な工法が考えられる。

栃木県建築行政連絡協議会『栃木県建築基準条例の解説』(令和8年4月)第6条の解説

すでに擁壁があるだけでは足りません。解説が挙げているのは許可を受けて造成された擁壁で、劣化がなく、設計地耐力(その地盤が支えられる力として設計で見込んだ値)が十分安全なものです。由来や設計資料が分からない古い擁壁は、そのままでは第6条に適合する擁壁か確認できません。そして、のり枠工(のりわくこう=斜面にコンクリートの枠を組んで、土が崩れるのを止める工法)のように、がけ崩れ防止に有効な工法であれば、擁壁以外でも「代わる措置」になり得ます

第6条の義務は、擁壁または有効な「代わる措置」で満たせます

条文は「擁壁」だけを書いてはいません。第6条本文は「構造耐力上安全な擁壁をがけに設置し、又はこれに代わる措置を講じなければならない」としています。県の解説は、これに代わる措置の例として「法面にコンクリート枠を取り付ける工法(のり枠工)等のがけ崩れを防止するために有効な工法」を挙げています。がけ崩れを防止するために有効な工法であれば、代わる措置になり得ます。

第6条は、建築を禁止する条文ではありません。がけの2倍の範囲に入っていても、構造耐力上安全な擁壁をがけに設置すれば、第6条については原則として建てられます。条文が先に挙げているのは擁壁ですが、のり枠工などの工法も、がけ崩れ防止に有効な工法であれば「代わる措置」になり得ます。「申請先が有効と認めること」は、別に置かれた要件ではありません——条文にも県の解説にも、そうは書かれていません。ただし、有効かどうかを自分で決められるわけでもありません——設計者が資料に基づいて検討し、所管の建築行政の窓口へ事前相談します確認申請が要らない建物にも、第6条はかかります(県の解説。後述)。

条件は3つあります。①その擁壁が条例のいう「構造耐力上安全な擁壁」に当たること——設計者が資料に基づいて適合性を検討し、所管の建築行政の窓口へ事前相談します。確認申請が必要な場合は、申請先でも審査されます。②高さ2メートルを超える擁壁は、令第138条第1項第五号の工作物です。工作物の確認が要る区域は、法第88条第1項が準用する法第6条第1項第3号によります。同号が挙げているのは、都市計画区域・準都市計画区域(いずれも知事が都道府県都市計画審議会の意見を聴いて指定する区域を除きます)、景観法第74条第1項の準景観地区市町村長が指定する区域を除きます)、そして知事が関係市町村の意見を聴いて指定する区域です。この区域の外では、工作物の確認は要りません。また、法第88条第4項により、盛土規制法・都市計画法・特定都市河川浸水被害対策法・津波防災地域づくりに関する法律の同項が挙げる許可を受けなければならない場合の擁壁には、確認・検査等の規定は適用されません(条例の第6条を守る義務は、それとは別に残ります)。③条例の第6条を満たしても、その土地に建てられると決まったわけではありません。建築基準法第19条第4項の措置、災害危険区域の制限、土砂災害の区域の規制は、それぞれ別に確かめてください。

確認が要らない場合でも、擁壁の構造の基準は別にかかります。法第88条第1項は法第20条も準用していて、法第88条第4項も、法第20条は除いていません令第138条第1項第五号に掲げる擁壁(高さ2メートルを超えるもの)の技術的基準が、令第142条です。同条第1項が挙げているのは2つの道です。ひとつは同項各号の基準に適合する構造方法、もうひとつは、これと同等以上に擁壁の破壊及び転倒を防止することができるものとして国土交通大臣が定めた構造方法——後者でなければならない、ということではありません。これは第6条の「擁壁に代わる措置」の話ではなく、擁壁そのものの構造方法の定めです。

第6条では、ただし書の3つに当たれば、擁壁も代わる措置も要りません

ただし書の3つの号のどれかに当たれば、擁壁も代わる措置も要りません。どれも、素人が自分で決められるものではありません。

  • 第1号(がけの上に建てるとき)——建築物ががけに影響を及ぼすおそれのないとき。県の解説は例として「杭地業により直接支持層に建築物の全荷重を伝える構造等の建築物」(杭地業=杭を打って、建物の重さを地中の固い層まで直接伝える基礎の造り方)を挙げ、がけ崩れを助長することがないものと考えられる、としています
  • 第2号(がけの下に建てるとき)——がけ崩れによる被害を受けるおそれがない建築物の部分を除いて、その基礎及び主要構造部(壁・柱・床・はり・屋根・階段。建物の構造上重要な部分)が鉄筋コンクリート造か鉄骨鉄筋コンクリート造であるとき。または、その建築物が居室(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋)を有しないとき
  • 第3号——がけの形状及び土質により、がけ崩れのおそれがないとき

第2号について、県の解説は「がけの下に建築する場合に、がけ崩れの被害を受けるおそれのある部分を鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造とした場合には建築できる旨を規定したもの」と書いています。条文のほうは「がけ崩れによる被害を受けるおそれがない建築物の部分を除き」と、建物の部分を切り分けています。被害を受けるおそれのある部分の基礎・主要構造部まで木造のままなら、この号は使えません。被害を受けるおそれのない部分は、除かれます。ただし木造でも、擁壁か代わる措置を設ければ、第6条については原則として建てられます——使えないのは第2号という道であって、建てられないという意味ではありません。物置や車庫のように居室のない建築物なら、後半の「居室を有しない」で外れる余地があります。

第3号は、「岩だから自動的に外れる」ではありません

栃木の第6条に、硬い岩盤を名指しで外す規定はありません。第6条にあるのは、第3号「がけの形状及び土質によりがけ崩れのおそれがないとき」だけです。県の解説は、この号をこう説明しています——「がけ面が岩等であるなど、がけ崩れのおそれがないと判断できる場合である」。

読むときに落とさないでほしいのが、「がけ崩れのおそれがないと判断できる」のほうです。岩であることは例として挙がっているだけで、それだけで外れるとは書かれていません。形状と土質の両方から、がけ崩れのおそれがないと言えるかどうかで決まります。

そして、これを決めるのは読者ではありません。まず建築士に相談し、必要な測量や地盤・地質調査の担当者を手配してもらいます。そのうえで設計者が資料を整え、所管の建築行政の窓口に事前相談します——確認申請があるときは、申請先にも適合性を確かめてください。「うちは岩だから関係ない」と自分で判断しないでください。

建築確認が要らない建物にも、第6条はかかります

県の解説は、ここに名指しで注意を書いています。

なお、都市計画区域及び準都市計画区域外における木造住宅等、確認申請が不要な場合においても本条が適用される。がけ崩れによる災害を防止するため、特に関係者に対する啓蒙を図る必要がある。

栃木県建築行政連絡協議会『栃木県建築基準条例の解説』(令和8年4月)第6条の解説

建築基準法第6条第1項は、確認の手続きが要る建築物を3つの号で決めています。第1号は別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物でその用途の床面積の合計が200平方メートルを超えるもの、第2号は二以上の階数を有し、又は延べ面積が200平方メートルを超える建築物、第3号は都市計画区域・準都市計画区域などの中の建築物です。都市計画区域の外にある平屋の小さな木造住宅は、この3つのどれにも当たらないことがあります。

自分の土地が都市計画区域の中か外かは、市町の都市計画の窓口で分かります。区域の外で確認が要らないとき、建築確認による事前の審査を受ける機会がありません。それでも第6条を守る義務は残ります——確認の手続きがあるかどうかと、条例に適合する義務があるかどうかは、別のことです。県内には、都市計画区域の外の土地もあります。そうした土地で、第6条ただし書のいずれにも当たらず、擁壁も代わる措置も講じずに建てれば、違反建築物になります。

建築確認が要るときは、がけの図面を付けます(県の施行細則第13条第2号)

第13条 確認申請書には、規則第1条の3又は第3条に規定する図書のほか、次に規定する調書又は図書を添付しなければならない。
(略)
(2) 高さ2メートルを超えるがけに接し、又は近接する建築物であるときは、がけの上下端から当該建築物までの水平距離、がけの形状、擁壁の構造等を明示した図書

建築基準法施行細則(昭和33年4月1日 栃木県規則第29号)第13条第2号

県の解説は、この細則を置いた理由を「現行の添付図書だけでは適用対象となるがけがあるかどうか判断できない場合が考えられるので」と説明しています。がけの上下端から建築物までの水平距離と、がけの形状と、擁壁の構造——これらを明示した図書が要ります。細則が定めているのは図書の名称ではないので、実務上は現況の測量図・断面図・配置案を建築士に用意してもらいます

ひとつ、範囲に断りが要ります。この細則は、建築主事を置く市町村の区域に係る、その市の建築主事・建築副主事および特定行政庁である市長が行う事務については、適用されません(細則第2条第1項)——区域がまるごと外れるのではなく、外れるのは「その市が行う事務」です。県が行う事務や、指定確認検査機関に申請する場合の扱いは、申請先ごとに確かめてください。つまり9市では、添付する図書は、その市の決まりによります。条例の第6条そのものは9市にもかかりますが、提出する図書の決まりは市ごとに確かめてください。提出先は建築主事・建築副主事だけではなく、業務の範囲内であれば指定確認検査機関(民間の確認検査機関)にも申請できます(法第6条の2)。

県の条例は、急傾斜地崩壊危険区域を災害危険区域に指定しています(第4条・第5条)

(災害危険区域の指定)
第4条 法第39条第1項の規定による災害危険区域として、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号。次条において「急傾斜地法」という。)第3条第1項の規定により指定された急傾斜地崩壊危険区域を指定する。

栃木県建築基準条例 第4条

栃木では、急傾斜地崩壊危険区域が、そのまま災害危険区域です。指定を受けた土地には、第5条の建築制限がかかります——居室のある建築物は、基礎及び主要構造部が鉄筋コンクリート造か鉄骨鉄筋コンクリート造で、かつ、その居室の開口部が急傾斜地に面していないものでなければなりません。ただし書があり、その建築物に係る急傾斜地について急傾斜地崩壊防止工事がなされている場合、その他崖崩れによる被害を受けるおそれのない場合は、この制限を受けません。

県の解説は、指定の数をこう書いています——「県内の指定箇所は令和8(2026)年3月31日時点で287箇所ある。指定区域については、各特定行政庁に確認すること。」特定行政庁(=建築確認や是正命令など、建築基準法の事務を行う役所。原則として、建築主事または建築副主事を置く市町村の区域ではその市町村長、それ以外の区域では都道府県知事。ただし、法第97条の2第1項・第2項または法第97条の3第1項・第2項により建築主事等を置く市町村の区域内の政令で定める建築物については、都道府県知事です。法第2条第35号)は、下の窓口の表のとおりです。

市町が独自に指定しているものもあります。県の解説は「市町の条例により、浸水被害を受けた区域を災害危険区域に指定しているため、各市町に確認すること」とし、令和8年3月31日時点として小山市と那須烏山市を挙げています。この2市では、水害を理由にした災害危険区域が別にあります。

第5条と第6条は、両方かかります。県の解説が「災害危険区域内においては、前条と本条の両方が適用されることになる」と書いているとおりです。第5条の構造の制限を満たしても、第6条本文の対象となり、同条ただし書に当たらない場合は、擁壁又はこれに代わる措置が別に要ります。

なお、区域の指定より前から建っている危険な住宅を移す場合について、県の解説はがけ地近接等危険住宅移転事業防災集団移転促進事業(いずれも国土交通省所管)という国の補助事業がある、と書いています。使えるかどうかは市町の窓口で確かめてください。

土砂災害の区域に入っていても、第6条は外れません

県の解説は、第6条について「特別警戒区域内外に関わらず本条が適用される」と書いています。土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)の中でも、第6条は生きています。そのうえで、土砂災害防止法の側の規制が重なります。

レッドゾーンでどんな構造が求められるかは、土砂災害特別警戒区域で求められる構造にまとめています(区域に入るかどうかの判定と、この条例の当てはめは、上の窓口で確かめてください)。

レッドゾーンの中で居室のある建築物を建てるときは、建築基準法施行令第80条の3の制限がかかります。かかるのは、外壁と構造耐力上主要な部分(基礎・柱・はり・床・耐力壁など、力を支える部分)の全部ではありません。知事が定めた土石等の高さ等以下の部分で、かつ衝撃が作用すると想定される部分に限られます(条文はこれを「外壁等」と呼んでいます)。その外壁等について、想定される衝撃が作用しても破壊を生じないものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いることが求められます。なお、同条ただし書により、土石等の高さ等以上の高さの門または塀(外壁等と同等以上の耐力を有するものとして国土交通大臣が定めた構造方法を用いるものに限ります)が、その衝撃を遮るように設けられている場合は、この限りではありません。この土地でどちらの方法が取れるか、補助が使えるかは、県の建築行政の窓口と、計画地の市町の担当窓口に確かめてください。2つの方法と、改修への補助の枠組みは、レッドゾーンの家と土地で整理しています。

もうひとつ、手続きが増えます。土砂災害防止法第25条は、特別警戒区域(建築基準法第6条第1項第3号に規定する区域を除く)の中の、居室を有する建築物(同項第1号又は第2号に掲げるものを除く)を、法第6条第1項第3号の区域内の建築物とみなして、法第6条から第7条の5まで、第18条、第89条、第91条、第93条を適用すると定めています。都市計画区域の外でも、居室のある建築物は建築確認の対象になります。適用される中に法第91条が入っているので、敷地が区域の内と外にまたがるときは、敷地の過半がどちらに属するかで決まります。この過半の扱いは、建築確認の手続についてのものです。居室のある建築物にかかる施行令第80条の3の構造の制限は、第25条が適用すると定めた規定の列挙に入っていません——建物の一部がレッドゾーンの中にあるときの構造の話は、別に確かめてください。

区域の指定と公示図書は、県の砂防水資源課(028-623-2452)と、県の地図サービス「とちぎまるっとマップ」で確かめられます。急傾斜地崩壊危険区域では、切土・盛土・工作物の設置・立木竹の伐採などに知事の許可が要ります(急傾斜地法第7条第1項)。建築の窓口とは別の窓口です。県の案内は、この手続きの窓口を「急傾斜地崩壊危険区域を管轄する土木事務所」としています——許可・協議は、計画地を所管する土木事務所へお尋ねください(申請の内容によっては、土木事務所を経由して県砂防水資源課へ回ります)。なお、同項ただし書により、非常災害のために必要な応急措置として行う行為、区域の指定の際すでに着手している行為、政令で定めるその他の行為は、許可の対象から外れます。ただし、許可が要らないことと、届出が要らないことは違います——区域が指定されたとき、すでにその行為に着手していた人は、指定の日から起算して14日以内に、国土交通省令で定めるところにより、その旨を知事に届け出なければなりません(同条第3項。非常災害のために必要な応急措置として行う行為と、第1項ただし書の政令で定めるその他の行為を除きます)。国または地方公共団体は、同条第4項により許可ではなく協議によります。

「指定の日」がいつで、14日をどう数えるか——ここでいう「指定の日」は、区域の指定が公示によって効力を生じた日です。知事は指定をするとき国土交通省令で定めるところにより区域を公示し(同法第3条第3項)、指定は、その公示によって効力を生じます(同条第4項)。数え方の目印は、条文の「その指定の日から起算して」という書き方です。民法第140条は、期間の初日は算入しないのが原則だと定めています——この届出で指定の日を1日目に数えるのかどうかは、この記事では確かめていません(国や県が数え方を示した資料は見つかりませんでした)。日にちが際どいときは、指定の公示日と提出期限を、区域を所管する県の窓口(急傾斜地法の許可の窓口)に確かめてください。なお、この届出をしなかったり、うその届出をしたりすると、同法第29条第2号により1万円以下の罰金です。

罰則は第48条——50万円以下の罰金。原則は設計者、建築主等の故意なら建築主等も

第48条 第5条から第7条まで、第8条の2から第20条まで、第22条から第35条まで、第37条、第38条又は第41条から第42条の2までの規定に違反した場合における当該建築物、工作物又は建築設備の設計者(設計図書を用いないで工事を施工し、又は設計図書に従わないで工事を施工した場合においては、当該建築物、工作物又は建築設備の工事施工者)は、50万円以下の罰金に処する。

栃木県建築基準条例 第48条第1項

列挙の先頭が「第5条から第7条まで」です——災害危険区域の建築制限(第5条)と、がけの第6条と、道路との関係(第7条)が、まとめて入っています。罰金を科される人(名宛人〈なあてにん〉=罰則を受ける人)は原則、設計者。設計図書を用いずに工事を施工した場合、または設計図書に従わずに施工した場合は工事施工者です。

第48条第2項は、その違反が建築主・工作物の築造主・建築設備の設置者の故意によるものであるときは、設計者らを罰するほか、その建築主などにも同じ刑を科すと定めています。第49条は法人の両罰規定で、行為者を罰するほか、その法人または人にも前条(第48条)の刑を科します。

条文を引くときの注意がひとつ。第48条第2項は、県の例規集では前段が「工作物の築造主」、後段が「工作物の造築主」となっており、「当該設計者又は工事施行者」と、第1項の「工事施工者」も字が違います。県の解説(令和8年4月)の同項は、どちらも「築造主」「工事施工者」です。引用するときは、どちらの資料から写したのかを添えてください。

是正命令は、現在の所有者・占有者も相手方になり得ます(法第9条第1項)

罰金の名宛人が原則として設計者でも、是正命令の相手方は別です。建築基準法第9条第1項は、違反した建築物・敷地について、当該建築物の建築主、工事の請負人(下請人を含みます)現場管理者、または建築物・敷地の所有者、管理者、占有者に対して、工事の施工の停止を命じ、あるいは除却(じょきゃく=取り壊し)・移転・改築・増築・修繕・模様替・使用禁止・使用制限その他の必要な措置を命ずることができる、と定めています。

ここに「故意」は要件として書かれていません。買った家が違反建築物だった場合、現在の所有者や占有者も是正命令の相手方となることがあります。設計者は、設計者であることだけでは名宛人に挙げられていませんが、設計者が現場管理者を兼ねていれば名宛人になり得ます。命令に違反した場合は、法第98条第1項第一号により3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です。設計者に任せておけば自分は関係ない、とはなりません。中古の家や土地を買うときは、契約の前に、いつ・どの確認や許可で造られたかを売主に確かめてください(この記事の締め「売買契約の前に、専門家と確かめること」の④)。

条例が外れても、がけ崩れ等による被害を受けるおそれがあれば建築基準法第19条第4項の措置が要ります

4 建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない。

建築基準法 第19条第4項

これは、がけ崩れ等への安全措置を定めた国の法律の規定です。(ただし、この規定にも、適用されない場合と、条例で緩和される場合があります——くわしくは、すぐ下の「この規定が働かない場合」をご覧ください。)こう配が30度ちょうどでも、高さが2メートルちょうどでも、がけ崩れ等による被害を受けるおそれがあるなら、擁壁の設置その他安全上適当な措置が要ります。求められているのは擁壁だけではなく「その他安全上適当な措置」を含みます。条例の数字に届かない場合でも、がけ崩れ等による被害を受けるおそれがあるときは、この第19条第4項の措置が要ります。おそれの有無も、どの措置で足りるかも、あなたが決めるものではありません——がけと地盤を調べて図にするのは建築士等、条例と法の当てはめを判断するのは所管の建築行政の窓口と申請先です。

この規定が働かない場合——法第19条第4項にも、次の例外があります。法第3条第1項の文化財等の建築物。法第3条第2項の、その規定の施行・適用の際にすでに存在していた建築物や敷地(いわゆる既存不適格。ただし同条第3項各号に当たるものは除かれ、第一号は、改正後の規定の適用の際に当該規定に相当する従前の規定に違反している建築物や敷地です)。法第85条第1項の、非常災害区域等で災害の発生した日から1か月以内に工事に着手する応急の修繕・応急仮設建築物(防火地域内は除きます。応急仮設建築物は、国・地方公共団体・日本赤十字社が災害救助のために建てるものと、被災者が自ら使う延べ面積30平方メートル以内のものです)。法第85条第2項の、災害時の公益上必要な応急仮設建築物と、工事現場の事務所・下小屋・材料置場などの仮設建築物。第85条は、第1項と第2項で対象も要件も違います——「応急仮設建築物なら外れる」とは読めません。

もうひとつ、条例で外したり緩めたりできる仕組みがあります法第41条は、法第6条第1項第三号の区域の外(都市計画区域・準都市計画区域・準景観地区・知事が指定する区域の、いずれにも入らない土地)で、市町村が国土交通大臣の承認を得て条例を定め、区域を限って法第19条を適用しない、または制限を緩和することを認めています(法第6条第1項第一号の建築物と、同項第二号の建築物のうち木造以外のものには使えません)。自分の土地がどれに当たるかは、窓口で確かめてください。

相談の窓口は、9市とそれ以外で分かれます

特定行政庁になることと、県条例が外れることは別です。下の9市は建築確認の事務を自前で行いますが、栃木県建築基準条例の第6条は、9市の区域にもかかります。条例に「建築主事を置く市町村には適用しない」という条はなく、県の解説も「県内全域において適用される」と書いています。宇都宮市の「建築基準法関係県条例・市規則集」も、関係県条例として栃木県建築基準条例を挙げ、県の例規集へ直接リンクしています。

窓口所管する市町電話
宇都宮市 都市整備部 建築指導課宇都宮市028-632-2573
足利市 都市建設部 建築・住宅政策課足利市0284-20-2170
栃木市 都市建設部 建築指導課栃木市0282-21-2441
佐野市 都市建設部 建築指導課佐野市0283-20-3104
鹿沼市 都市建設部 建築指導課鹿沼市0289-63-2242
日光市 建設部 建築住宅課日光市0288-21-5197
小山市 都市整備部 建築指導課小山市0285-22-9233
大田原市 建設部 建築住宅課大田原市0287-23-1178
那須塩原市 建設部 建築指導課那須塩原市0287-62-7169
栃木県 県土整備部 建築指導課 審査指導第一担当矢板市、さくら市、那須烏山市、上三川町、壬生町、塩谷町、高根沢町、那須町、那珂川町028-623-2867
栃木県 県土整備部 建築指導課 審査指導第二担当真岡市、下野市、益子町、茂木町、市貝町、芳賀町、野木町028-623-2872

栃木県内の25市町が、この表のどれかに入ります。9市の一覧は令和7年4月1日現在、県の担当の区分は令和8年4月1日からのものです。県の建築指導課は宇都宮市戸祭元町1-25 県庁舎北別館3階にあります。土砂災害の区域と急傾斜地崩壊危険区域は、窓口が役割ごとに分かれます区域図・公示図書は、県砂防水資源課(028-623-2452)ととちぎまるっとマップで確かめます。条例第4条・第5条・第6条や令第80条の3建築計画にどう当てはめるかは、所管の建築行政の窓口にも確かめてください——県の解説も、災害危険区域の指定区域について「各特定行政庁に確認すること」と書いています。急傾斜地法第7条の許可・協議は、計画地を所管する土木事務所です。

売買契約の前に、専門家と確かめること

この表は、自分で判定するためのものではありません——測って図にするのは建築士、条例の当てはめは所管の建築行政の窓口です。個別の判断は、建築士と窓口にご確認ください。

  • ①敷地内や周辺に、こう配30度を超え、高さ2メートルを超えるがけがあるか。少なくともがけの高さの2倍の範囲に、計画建物が入る可能性まで見る。目測ではなく、現況の測量図と断面図で
  • ②建てる位置が、がけの高さの2倍の水平距離に入るか。がけの上なら下端から、がけの下なら上端から——起点が入れ替わります
  • ③がけそのものに建てる計画になっていないか。2倍の範囲の外でも、がけに建てるなら第6条の対象です
  • ④すでに擁壁があるなら、許可を受けて造成されたものか、劣化はないか、設計地耐力は足りるか。設計者の判断が要ります
  • ⑤その土地が急傾斜地崩壊危険区域(=この条例の災害危険区域)に入っていないか。入っていれば、居室のある建物には第5条(災害危険区域内の建築制限)がかかります——第6条(がけと建築物との関係)は、その崖が第6条の高さ・角度・距離の条件にも当たるときに、あわせてかかります(区域に入っただけで第6条まで当たると決まるわけではありません)。急傾斜地法第7条の許可・協議は、計画地を所管する土木事務所へ
  • ⑥その土地が土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域に入っていないか。県砂防水資源課ととちぎまるっとマップで
  • 建築確認が要らない建物でも、第6条は守る義務があります。都市計画区域の外の平屋の木造住宅にも、同じように第6条はかかります
  • 計画地が9市の区域内か、県の所管区域内かで、追加する図書の決まりが変わります。9市には県の施行細則が及びません。指定確認検査機関へ申請する場合も、計画地に応じて確かめてください
  • ⑨条例が外れても、がけ崩れ等による被害を受けるおそれがあれば、建築基準法第19条第4項の措置が別に要ります(おそれの有無を判断するのは建築士と窓口です)

確かめるのは、土地の売買契約を結ぶ前です。買ったあとでは、擁壁や代わる措置の費用と配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に。がけの高さと、がけからの距離は、現況の測量図と断面図がないと自分では判断できません——測量と図面は建築士に、条例の当てはめは所管の建築行政の窓口に、お尋ねください。がけが隣の土地にあるときは、擁壁を誰がどこに設けるのかも問題になります——自分の敷地の中で条例の義務を満たせるのか、隣の土地に及ぶなら所有者との調整が要るのかを、設計に入る前に建築士と窓口に確かめてください。その場合の取扱いを示す資料には、当たれていません。

出典

条文は2026年9月1日に、栃木県例規集の条例本文・建築基準法施行細則と、栃木県建築行政連絡協議会『栃木県建築基準条例の解説』(令和8年4月)で確認しました。急傾斜地法第7条の手続き窓口は、2026年9月3日に県砂防水資源課のページで確かめました。第6条は平成11年栃木県条例第15号による改正のあと、変わっていません(第5条は令和7年栃木県条例第18号で改正されています)。宇都宮市以外の8市(足利・栃木・佐野・鹿沼・日光・小山・大田原・那須塩原)の例規集は、個別に読んでいこの記事が扱うのは県条例ですません——県条例に上乗せする市の条例が無いとは言い切れません。小山市・那須烏山市が浸水被害の区域を災害危険区域に指定していることは県の解説の記述によるもので、両市の条例そのものは読んでいません

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