茨城県のがけ条例とレッドゾーン——崖の近くに建てられるか

茨城県のがけ条例(茨城県建築基準条例第5条)

茨城で、がけの近くに家を建てる・買う人へ——最初に答えから。

先にすることは、3つです。がけ条例がかかっても、建てられないと決まったわけではありません

  • 土地の売買契約を結ぶ前に動く(すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に)——買ったあとでは、擁壁(ようへき=がけの土が崩れないように支える構造物)の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります
  • 建築士に、現況の測量図・断面図・配置案を用意してもらう
  • その図面を持って、計画地の建築行政の窓口へ。条例の当てはめを確かめる

高さも角度も距離も、目測で判断しないでください。

①茨城の「がけ条例」は、茨城県建築基準条例(昭和36年茨城県条例第21号)の第5条です。②かかるのは、がけ(こう配が30度を超える傾斜地で、高さが2メートルを超えるもの)から、水平距離でがけの高さの2倍以内に建築物を建てる場合と、建築物の敷地を造成する場合です。③距離の起点は、がけの上に建てるなら「下端」、がけの下に建てるなら「上端」——上下で入れ替わります。④条文が求めるのは離れることではなく、原則として「安全な擁壁を設けなければならない」という擁壁の設置です(条文は「がけの形状若しくは土質又は建築物の位置,規模若しくは構造に応じて」と条件を付けています)。その「安全な擁壁」を設ければ、第5条第1項本文については原則として建てられますただし第2項には、擁壁を設けずに済む三つの道があります——①がけの上で、建物の基礎ががけに影響を及ぼさない場合、②がけの下で、主要構造物のうちがけくずれによる被害を受けるおそれのある部分を鉄筋コンクリート造りとする場合、③がけの下で、がけと建物との間に安全な施設を設ける場合です。いずれかに当たれば、第1項本文の擁壁の義務は適用されません——この場合も、第5条第1項本文については原則として建てられますどれに当たるかを決めるのは、読者ではありません——設計者が案を作り、窓口が当てはめます)。ただし、第3項の排水の措置(次の⑤)と、災害危険区域・土砂災害の区域・建築基準法第19条第4項は、別に確認してください。⑤がけの上に敷地があるなら、排水の措置(第3項)も別に要ります。⑥この条例が適用されない市が9市あります(水戸市・日立市・土浦市・古河市・高萩市・北茨城市・取手市・つくば市・ひたちなか市)。ただし、まるごと外れるわけではありません。条文は2026年9月1日に、県の例規集で確認しました。

「がけ条例」の実体は、茨城県建築基準条例の第5条です

「がけ条例」の実体は、茨城県建築基準条例の第5条です
茨城県建築基準条例 第5条。満たせるのはこの条まで。ほかの区域・法令は別に確認

「がけ条例」という名前の条例はありません。茨城県では、茨城県建築基準条例の第3章「がけ」第5条がその中身です。根拠は建築基準法第40条——地方公共団体が、条例で建築物の敷地・構造の制限を付け加えられる、という規定です。第3章にはもう1条(第6条)がありますが、こちらは「削除」です。県条例の第3章「がけ」に残っている現行規定は、第5条だけです。

第5条の条文に「都市計画区域内」の限定はありません。用途地域の外でも、がけと距離の条件に当たれば働きます。条例そのものは県の例規集で全文が読めます。県例規集が第5条に付けている沿革では、平成11年茨城県条例第67号の一部改正が最後です。

どこからが「がけ」か——高さ2メートルを「超える」、こう配30度を「超える」

第5条 高さ2メートルを超えるがけ(こう配が30度を超える傾斜地をいう。以下本条において同じ。)の下端(がけの下にあつては,がけの上端)からの水平距離が,がけの高さの2倍以内の位置に建築物を建築し,又は建築物の敷地を造成する場合には,がけの形状若しくは土質又は建築物の位置,規模若しくは構造に応じて,安全な擁壁を設けなければならない。ただし,がけの形状又は土質により安全上支障がない部分については,この限りでない。

茨城県建築基準条例 第5条第1項

押さえるところは4つです。①こう配は「30度を超える」——30.0度ちょうどは当たりません。②高さは「2メートルを超える」——2.0メートルちょうども当たりません(「以上」ではありません)。③一方で、範囲を示す「2倍以内」は「以内」です——ちょうど2倍の位置は、範囲の中に入ります。④かかるのは建物を建てる場合だけではなく、「建築物の敷地を造成する場合」も条文に書いてあります。建物より先に造成する計画なら、その段階から対象です。

条例は、がけの高さの測り方までは定めていません。県の「質疑応答集」に、1問だけ関係する問答があります——「県条例第5条の適用について、がけの一部に擁壁がある場合(残り部分は法面)は、がけの高さの測定位置はどこですか。」に対して、「擁壁の安全性が構造計算上確認された場合は、擁壁天端からがけの高さを測定します。」。ここでいう擁壁天端(ようへきてんば)は、擁壁のいちばん上の面のことです。問いにある法面(のりめん)は、切土や盛土などでできた斜面のことです。同じ資料は「あくまでも参考資料として利用することとし、個別の事例については具体的な条件の下で判断することが必要となります」とも書いています。

距離の起点は、がけの上と下で入れ替わります

条文の括弧書き「(がけの下にあつては,がけの上端)」が、この条のいちばんの山場です。下端(かたん)はがけの下側の縁、上端(じょうたん)はがけの上側の縁を指します。どちらから測るかで、規制がかかる範囲がまるごとずれます。

  • がけの上に建てるとき——起点はがけの下端。そこから水平距離でがけの高さの2倍以内
  • がけの下に建てるとき——起点はがけの上端。そこから水平距離でがけの高さの2倍以内

高さ3メートルのがけなら、どちらの場合も水平距離6メートルが範囲です。ただし、その6メートルを測り始める場所が違います。がけの下に建てる家では、起点が坂の上の縁にあります。がけ下では上端から建物までの水平距離を測るので、下端から建物までの距離だけでは判定できません目測ではなく、現況の測量図と断面図で見てください。

義務の形は「離す」ではなく、「安全な擁壁を設ける」です

条文が命じているのは「安全な擁壁を設けなければならない」で、「2倍以上離しなさい」ではありません。「がけの高さの2倍以内」は、規制が働く範囲を示す言葉です。範囲に入ること自体は禁止ではありません。

どんな擁壁でもよいわけでもありません。条文は「がけの形状若しくは土質又は建築物の位置,規模若しくは構造に応じて」と書いています——そのがけと、その建物に見合った擁壁であることが求められます。すでに擁壁があるときも、「擁壁があるから大丈夫」とは条文から読めません。ここでいう「安全」の中身を、県の条例も細則も数字では定めていません。安全かどうかは、条文からは自動では決まりません——図面と現地の状況をもとに、建築士と窓口に確かめてください。

安全な擁壁を設ければ、第5条第1項本文の擁壁の義務は満たせます——ほかの規制は残ります

安全な擁壁を設ければ、第1項本文の擁壁の義務を満たします。第2項の三つの条件——①がけの上で、建物の基礎ががけに影響を及ぼさないこと、②がけの下で、がけくずれによる被害を受けるおそれのない部分を除いた主要構造物を鉄筋コンクリート造りとすること、③がけの下で、がけと建物との間に安全な施設を設けること——のどれかに当たる場合は、第1項本文(擁壁の義務)が適用されません。いずれの場合も、がけの上に敷地があるなら第3項の排水の措置が別に要ります。

第5条第2項は「安全な施設」とだけ書き、その形・材料・寸法は示していません普通の塀で足りるとは、自分では決められません。売買契約を結ぶ前に、設計者に成立する案を検討してもらい、その図面を持って所管の窓口で第2項への当てはめを確かめてください。

第5条第1項本文は、がけの近くでの建築を一律に禁止するものではありません——求めているのは、安全な擁壁の設置です。第2項には三つの道が、第3項には排水の措置があります。つまり——安全な擁壁の設置は、第5条第1項本文に適合するための原則的な方法です。

そのうえで、押さえるところが3つあります。①その擁壁が、がけの形状・土質と、建物の位置・規模・構造に応じた「安全な」ものであること。②がけの上に敷地があるなら、第3項の排水の措置も別に要ること。③がけ崩れ等のおそれがあれば、法第19条第4項の措置も別に要ること。また、この節で扱っているのは、第5条第1項本文の擁壁の義務だけです。災害危険区域や土砂災害の区域の規制は残るので、ほかの規制は別に確認してください。

擁壁を設けずに済む道は、第1項のただし書と、第2項の3つです

第1項のただし書は、「がけの形状又は土質により安全上支障がない部分」だけです。除外はこの一つで、条文はこれ以上の中身を書いていません。

ここで、よくある思い込みを一つ外しておきます。県の例規集で読める条例の全文を通して、「岩」という字は一度も出てきません。「硬岩」も「軟岩」も、土質ごとの角度の表もありません。「うちのがけは岩だから外れる」と条文から読むことはできません。また、県条例は、この判定に必要な調査・計算の方法までは定めていません。がけの形状・土質を踏まえて必要になる資料と判断の方法は、設計者と所管の窓口に確認してください。土質の調査や安定計算を求められる場合があります——調べるのは設計者、当てはめを判断するのは窓口です。

なお、水戸市は自市の条例の解説で、このただし書に宅地造成及び特定盛土等規制法施行令第8条第1項第1号のイ・ロと別表第1(軟岩60度・風化の著しい岩40度・砂利や関東ローム層など35度といった角度)を当てています。これは水戸市の解説で、県の解説ではありません。県が同じ表を当てているという記述は、県の資料の中に見当たりませんでした。

2 前項本文の規定は,がけの上に建築物を建築する場合において,当該建築物の基礎ががけに影響を及ぼさないとき又はがけの下に建築物を建築する場合において,当該建築物の主要構造物(がけくずれによる被害を受けるおそれのない部分を除く。)を鉄筋コンクリート造りとし又はがけと当該建築物との間に安全な施設を設けたときは,適用しない。

茨城県建築基準条例 第5条第2項

第2項が外すのは「前項本文」——第1項の擁壁の義務です。道は3つあります。

  • がけの上に建てるとき——当該建築物の基礎ががけに影響を及ぼさないとき
  • がけの下に建てるとき——がけくずれによる被害を受けるおそれのない部分を除いた主要構造物を鉄筋コンクリート造りとしたとき
  • がけの下に建てるとき——がけと当該建築物との間に安全な施設を設けたとき

この3つのどれかに当たれば、第5条第1項本文については原則として建てられます——外れるのは第1項本文の擁壁の義務だけです。第3項の排水の措置と、法第19条第4項は別に残ります。

ここで一つ、読み違えやすいところがあります。条文の字は「主要構造物」です——建築基準法の主要構造部(壁・柱・床・はり・屋根・階段。建物の構造上重要な部分)とは字が違います。この記事では条文のまま「主要構造物」と書きました。どこまでを指すかは、窓口に確かめてください。

がけの上に敷地があるなら、排水の措置も要ります(第3項)

3 高さ2メートルを超えるがけの上にある建築敷地には,がけのかたに沿つて排水溝を設ける等がけへの流水又は浸水を防止するため安全な措置を講じなければならない。

茨城県建築基準条例 第5条第3項

第3項は、第1項のただし書や第2項では外れません。ただし書は第1項にかかるもので、第2項は「前項本文の規定は……適用しない」と書いています。擁壁が要らなくなっても、排水の措置は別に残ります。

もう一つ、第3項には「がけの高さの2倍以内」という距離の条件がありません。第1項は距離で範囲を切っていますが、第3項が書いているのは「高さ2メートルを超えるがけの上にある建築敷地」だけです。敷地ががけの上にあるかどうかで見ます。求められるのは「排水溝を設ける等」——排水溝はあくまで例として挙がっています。

9つの市では、この条例は適用されません——ただし、出水による危険の著しい区域に係る部分は、9市にも及びます

(適用除外)
第46条の7 この条例(第4章の4(第46条の4第1項第2号に掲げる区域に係る部分に限る。)の規定を除く。)は,法第4条第1項又は第2項の規定により建築主事を置く規則で定める市町村の区域内においては,適用しない。

茨城県建築基準条例 第46条の7第1項

第19条 条例第46条の7第1項の規則で定める市町村は,水戸市,日立市,土浦市,古河市,高萩市,北茨城市,取手市,つくば市及びひたちなか市とする。

茨城県建築基準法等施行細則 第19条

次の9市では、茨城県建築基準条例の第5条は適用されません。それぞれの市の条例によります。

水戸市・日立市・土浦市・古河市・高萩市北茨城市・取手市・つくば市・ひたちなか市

ここで括弧書きを読み飛ばさないでください。条文は「この条例(第4章の4(第46条の4第1項第2号に掲げる区域に係る部分に限る。)の規定を除く。)は……適用しない」です。除かれている部分、つまり「出水による危険の著しい区域として知事が指定した区域」に係る規定は、9市にも県の条例が及びますまるごと外れるわけではありません。一方、急傾斜地崩壊危険区域(第46条の4第1項第1号)のほうは、9市では県の条例は適用されません。

9市の条例の数字が、県と同じとは限りません。この記事で条文まで読んだのは水戸市の1市だけです。水戸市建築基準条例第5条は、高さ2メートル超・こう配30度超・2倍以内・起点の入れ替わり・第2項の3つの道が、県の第5条と同じでした。罰則も市の条例第64条で50万円以下の罰金です。ただしただし書は「安全上支障がないと認めるときは」で、県の「安全上支障がない部分については」とは書き方が違います。市の災害危険区域(第55条)は急傾斜地崩壊危険区域だけで、県のような出水の区域の号はありません。残る8市の条例は、この記事では読んでいません。お住まいの土地が上の9市にあるなら、その市の建築指導の窓口で確かめてください。

災害危険区域では、住居の用に供する建築物は原則として建てられません——知事が認める例外があります

第46条の4 法第39条第1項に規定する災害危険区域は,次の各号に掲げる区域とする。
(1) 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)第3条第1項の規定により指定された急傾斜地崩壊危険区域
(2) 出水による危険の著しい区域として知事が指定した区域

茨城県建築基準条例 第46条の4第1項

第46条の5 前条第1項の災害危険区域においては,住居の用に供する建築物は建築してはならない。ただし,建築物の構造若しくは敷地の状況又は崩壊防止工事等の施工により,規則で定める基準に適合するものとして知事が被害を受けるおそれがないと認める場合は,この限りでない。

茨城県建築基準条例 第46条の5第1項

ここは第5条より重い規制です。第5条は「擁壁を設けなさい」でしたが、こちらは「住居の用に供する建築物は建築してはならない」——原則として禁止です(ただし書の例外は、すぐ下に書きます)。急傾斜地崩壊危険区域に指定されると、県の所管区域ではその区域がそのまま災害危険区域になります

ただし書の「規則で定める基準」は、茨城県建築基準法等施行細則の第17条にあります。急傾斜地崩壊危険区域なら「県が行う急傾斜地の崩壊を防止するための工事が完了した区域内に建築するものであること」か、それと同等以上の安全性を確保できるもの。出水の区域なら、地盤面や基礎の上端が知事の定める基準水位以上であることなどです。いずれも、知事が認めてはじめて第46条の5第1項本文の建築禁止が外れます——外れるのはこの禁止だけで、ほかの規制は別に残ります。

指定は、いまも増えています。県が公表している災害危険区域の指定に関する情報提供には、令和8年6月11日の日立市大和田町ー2地区、令和8年3月26日の土浦市木田余3a-1ほかの地区などが並んでいます。出水のほうも、令和2年7月30日に大子町の南田気地区と西金地区が告示されています。県は同じページに「建築指導課で把握したもののみを掲載している」と断っています——この一覧に無いことは、指定が無いことの証明にはなりません。

急傾斜地崩壊危険区域は、建築とは別の規制も連れてきます。区域内で水を放流する行為・急傾斜地崩壊防止施設以外の施設や工作物の設置または改造・のり切・切土・掘さく・盛土・立木竹の伐採・土石の採取などをするには、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律第7条第1項により、知事の許可が要ります。建築の窓口とは別の窓口です。なお、同項ただし書により、非常災害のために必要な応急措置として行う行為、区域の指定の際すでに着手している行為、政令で定めるその他の行為は、許可の対象から外れます。ただし、指定の際すでに着手している人には、指定の日から起算して14日以内に知事へ届け出ることが同条第3項で求められています。国または地方公共団体は、同条第4項により許可ではなく協議によります。

「指定の日」がいつで、14日をどう数えるか——ここでいう「指定の日」は、区域の指定が公示によって効力を生じた日です。知事は指定をするとき国土交通省令で定めるところにより区域を公示し(同法第3条第3項)、指定は、その公示によって効力を生じます(同条第4項)。数え方の目印は、条文の「その指定の日から起算して」という書き方です——日にちが際どいときは、指定の公示日と提出期限を、その区域を所管する窓口で確かめてください。民法第140条は期間の初日は算入しないと定めていますが、法令が「から起算して」と書くのは、その原則を明文で外し、その日を1日目として数える書き方です(指定の日を算入するかどうかは確かめきれていません。公示の日と提出の期限は、所管の窓口で確かめてください)。ただし、この届出について、国や県が数え方を示した資料は見つかりませんでした。日にちが際どいときは、区域を所管する県の窓口(急傾斜地法の許可の窓口)に、指定の公示日と提出期限を確かめてください。なお、この届出をしなかったり、うその届出をしたりすると、同法第29条第2号により1万円以下の罰金です。

県条例第5条の適用区域では、土砂災害の区域に入っても同条は外れません

第5条の条文に、土砂災害の区域を除く定めはありません。土砂災害警戒区域(イエローゾーン)でも、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)でも、がけと距離の条件に当たれば第5条は働きます。ただし、これは県条例第5条が適用される区域の話です——上の9市では、県条例第5条は適用されません。9市の土地なら、各市の条例を別に確認してください。そのうえで、レッドゾーンの規制が別に重なります。

レッドゾーンでは、居室(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋)を有する建築物の外壁等について、建築基準法施行令第80条の3の構造の規制がかかります。なお、同条のただし書により、土石等の高さ等以上の高さの門または塀(外壁等と同等以上の耐力を有するものとして国土交通大臣が定めた構造方法を用いるものに限ります)が、その衝撃を遮るように設けられている場合は、この限りではありません。また、住宅(自己の居住の用に供するものを除く)や、高齢者・障害者・乳幼児その他の特に防災上の配慮を要する人が利用する社会福祉施設・学校・医療施設(政令で定めるもの)を建てるための開発行為は特定開発行為にあたり、これを新たに行うには、原則として土砂災害防止法第10条第1項の知事の許可が要ります。ただし、同項ただし書と同法施行令第5条により、非常災害のために必要な応急措置として行う開発行為と、仮設建築物の建築の用に供する目的で行う開発行為には、土砂災害防止法第10条第1項の許可は要りません。令第80条の3に対応する2つの道の中身と、改修への補助の枠組みは、レッドゾーンの家と土地で整理しています。擁壁の形や寸法の一般的な考え方擁壁の選び方にまとめています(条例の第5条の当てはめは、この記事に書いた窓口で確かめてください)。

さらに同法第25条により、レッドゾーン内では建築確認の対象が広がることがあります。条件は4つ——建築基準法第6条第1項第3号に規定する区域を除く特別警戒区域であること、居室を有する建築物であること(同項第1号又は第2号に掲げるものを除きます)、その建築物が区域内にあること、そして、同条により適用される建築基準法第91条に基づき、敷地の過半が区域内にあること。敷地の過半が区域外なら、この第25条による追加の対象にはなりません(建築基準法第6条による別の確認要件があるときは別です)。区域と境界は、県が公表する市町村ごとの公示図書いばらきデジタルまっぷで確かめてください。

罰則は第49条——50万円以下の罰金。原則は設計者、建築主等の故意なら建築主等も

第49条 この条例の規定に違反した建築物,工作物又は建築設備の設計者(設計図書を用いないで工事を施工し,又は設計図書に従がわないで工事を施工した場合においては,その建築物,工作物又は建築設備の工事施行者)は,50万円以下の罰金に処する。
2 前項に規定する違反が建築主,工作物の築造主又は建築設備の設置者の故意によるものであるときは,当該設計者又は工事施行者を罰するほか,当該建築主,工作物の築造主又は建築設備の設置者に対して前項の刑を科する。

茨城県建築基準条例 第49条

読むときに大事なのは、書き出しが「この条例の規定に違反した」という形になっていることです。違反した条を並べる書き方ではありません。ですから第5条の違反も、この第49条に入ります——擁壁の義務も、排水の措置も、どちらもです。

処罰の対象(罰金を科される人)は原則、設計者です。設計図書を用いずに、または設計図書に従がわないで工事を施工した場合は工事施行者建築主は、その違反が故意によるときに、第2項で同じ刑が科されます。法人については第50条の両罰規定があります。

是正命令は、建築主・所有者などに来ます(法第9条第1項)

罰則の処罰の対象が原則として設計者でも、是正命令の名宛人(なあてにん=命令を受ける人)は別です。建築基準法第9条第1項は、違反した建築物・敷地について、当該建築物の建築主、工事の請負人(下請人を含みます)現場管理者、建築物または敷地の所有者・管理者・占有者に対して、工事の施工の停止を命じ、または相当の猶予期限を付けて、除却(じょきゃく=取り壊し)・移転・改築・増築・修繕・模様替・使用禁止・使用制限その他の是正に必要な措置を命ずることができる、と定めています。故意は要件ではありません。設計者は、設計者であることだけでは名宛人に挙げられていませんが、設計者が現場管理者を兼ねていれば名宛人になり得ます。命令に違反した場合は、法第98条第1項第一号により3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です。

条例が外れても、建築基準法第19条第4項は残ります

4 建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない。

建築基準法 第19条第4項

これは、がけ崩れ等への安全措置を定めた国の法律の規定です——建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合に、擁壁の設置その他安全上適当な措置を求めるものです。(ただし、この規定にも、適用されない場合と、条例で緩和される場合があります——くわしくは、すぐ下の「この規定が働かない場合」をご覧ください。)県の条例が適用されない9市でも、条例の第5条に当たらない土地でも、がけ崩れ等による被害を受けるおそれがあるなら、擁壁の設置その他安全上適当な措置が要ります。求められているのは擁壁だけではなく「その他安全上適当な措置」を含みます。「2メートルを超えないから何もしなくてよい」とは読めません。

この規定が働かない場合——法第19条第4項にも、次の例外があります。法第3条第1項の文化財等の建築物。法第3条第2項の、その規定の施行・適用の際にすでに存在していた建築物や敷地(いわゆる既存不適格。ただし同条第3項各号に当たるものは除かれ、第一号は「改正後の規定の適用の際、これに相当する従前の規定に違反していたもの」です)。法第85条第1項の、非常災害区域等で災害の発生した日から1か月以内に工事に着手する応急の修繕・応急仮設建築物(防火地域内は除きます。応急仮設建築物は、国・地方公共団体・日本赤十字社が災害救助のために建てるものと、被災者が自ら使う延べ面積30平方メートル以内のものです)。法第85条第2項の、災害時の公益上必要な応急仮設建築物と、工事現場の事務所・下小屋・材料置場などの仮設建築物。第85条は、第1項と第2項で対象も要件も違います——「応急仮設建築物なら外れる」とは読めません。

もうひとつ、条例で外したり緩めたりできる仕組みがあります法第41条は、法第6条第1項第三号の区域の外(都市計画区域・準都市計画区域・準景観地区・知事が指定する区域の、いずれにも入らない土地)で、市町村が国土交通大臣の承認を得て条例を定め、区域を限って法第19条を適用しない、または制限を緩和することを認めています(法第6条第1項第一号の建築物と、同項第二号の建築物のうち木造以外のものには使えません)。自分の土地がどれに当たるかは、窓口で確かめてください。

建築確認に付ける図面は、細則の第3条で決まっています

茨城県建築基準法等施行細則の第3条は、「がけに接する場所又はがけに近接する場所を敷地とする建築物」について、詳細図を添えることと、そこに明示すべき事項を定めています——縮尺、構造耐力上主要な部分の材料の種類及びその寸法がけの高さ及び形状、そしてがけの上下端から建築物までの水平距離です。この詳細図は、建築確認の申請時に要るものです。売買契約の前の相談では、まず現況の測量図・断面図・配置案を用意します——詳細図まで作り込む時期は、設計者と窓口で決めてください。

あわせて、高さが2メートルを超える擁壁は、原則として工作物として建築確認の対象です(建築基準法第88条第1項、同法施行令第138条第1項第5号)。擁壁を新しく造るなら、その手続も要ります。法第88条第1項が適用される高さ2メートル超の擁壁の構造の技術的基準は、令第142条第1項です。同項が置いているのは二つの道です——①同項各号の基準に適合する構造方法、または②これと同等以上に擁壁の破壊及び転倒を防止することができるものとして国土交通大臣が定めた構造方法①と②の、どちらでもかまいません。ただし、都市計画法の開発許可や盛土規制法の工事許可など、法第88条第4項に挙げる許可を受けなければならない場合の擁壁には、工作物としての建築確認は要りません。必要な手続は、計画ごとに確かめてください。行政側に確認申請をする場合は、建築主事または建築副主事に提出します(法第6条第1項)。業務の範囲内であれば、指定確認検査機関(民間の確認検査機関)にも申請できます(法第6条の2)。特定行政庁(原則として、建築主事または建築副主事を置く市町村の区域ではその市町村長、それ以外の区域では都道府県知事。ただし、法第97条の2第1項・第2項により建築主事等を置く市町村(限定特定行政庁)では、その区域内の政令で定める建築物については都道府県知事)は、確認の審査をする人とは別の役割で、是正命令などの権限を持ちます。ただし、条例の当てはめの相談は、下の窓口です。

相談の窓口は、県の本庁と5つの出先、そして9市です

県が特定行政庁となる区域では、次の窓口が受け持ちます。県は、「公立学校、工場及び倉庫以外の建築物であって5以上の階数を有するもの又は延べ面積が2,000平方メートル以上のもの」のほか、建築物と別申請する昇降機・遊戯施設等本庁それ以外を出先が担当する、と案内しています。この本庁と出先の分け方は、県が建築確認申請等の窓口として案内しているものです。

窓口所管する市町村電話
県 土木部都市局 建築指導課(本庁)公立学校・工場・倉庫以外で、階数5以上または延べ面積2,000㎡以上のもの/建築物と別申請する昇降機・遊戯施設等029-301-4727
建築指導課 県央建築指導室笠間市、那珂市、小美玉市、茨城町、大洗町、城里町、東海村029-301-4784
県北県民センター 建築指導課常陸太田市、常陸大宮市、大子町0294-80-3344
鹿行県民センター 建築指導課鹿嶋市、潮来市、神栖市、行方市、鉾田市0291-33-4113
県南県民センター 建築指導課石岡市、龍ケ崎市、牛久市、守谷市、稲敷市、かすみがうら市、つくばみらい市、美浦村、阿見町、河内町、利根町029-822-8519
県西県民センター 建築指導課結城市、下妻市、常総市、筑西市、坂東市、桜川市、八千代町、五霞町、境町0296-24-9152

9市は、それぞれの市が特定行政庁です。細則第19条が挙げるのは法第4条第1項又は第2項により建築主事を置く市で、令和8年4月1日現在、県内に限定特定行政庁はありません(法第97条の2)。建物の規模で、県と市が入れ替わることはありません。水戸市 029-224-1111/日立市 0294-22-3111/土浦市 029-826-1111/古河市 0280-76-1511/高萩市 0293-23-7032/北茨城市 0293-43-1111/取手市 0297-74-2141/つくば市 029-883-1111/ひたちなか市 029-273-0111。県の質疑応答集も「各市特定行政庁及び指定確認検査機関においては取り扱いが異なることがありますので、各市担当課へ照会のうえご確認いただきますようお願いします」と書いています。

土砂災害の区域と急傾斜地崩壊危険区域は、建築の窓口ではありません。区域の照会は、県 土木部 河川課(029-301-4480)、または区域を所管する土木事務所・工事事務所です。県の土砂災害警戒区域等指定箇所のページには、区域を所管する土木事務所が載っていることがあります(この記事で開いたのは水戸市(急傾斜)のページだけです)。

売買契約の前に、専門家と確かめること

この一覧は、自分で判定するためのものではありません——測って図にするのは建築士、条例の当てはめは所管の建築行政の窓口です。個別の判断は、建築士と窓口にご確認ください。

  • ①その土地は、9市(水戸・日立・土浦・古河・高萩・北茨城・取手・つくば・ひたちなか)の中か、外か。中なら、県条例第5条は適用されません——がけの規定はその市の条例で確かめてください(この記事が条文まで読んだのは水戸市だけです。出水の区域に係る部分は、9市でも県の条例です)
  • ②敷地の中や隣に、こう配30度を超え、高さ2メートルを超えるがけがあるか。目測ではなく、測量図と断面図で
  • ③建てる位置が、がけの高さの2倍以内に入るか。起点は、がけの上なら下端、がけの下なら上端です
  • 敷地の造成だけでも対象です。建物より先に造成する計画なら、その段階から
  • 敷地ががけの上にあるなら、第3項の排水の措置が別に要ります。擁壁が要らない場合でも残ります
  • ⑥すでに擁壁があるなら、いつ誰が造り、安全性を確かめられるか見るのは建築士、当てはめは窓口です
  • ⑦その土地が災害危険区域・急傾斜地崩壊危険区域に入っていないか。県の告示と最新の指定情報で
  • ⑧その土地が土砂災害警戒区域・特別警戒区域に入っていないか。県条例第5条の適用区域なら、入っていても同条は外れません(9市では県条例第5条が適用されないので、各市の条例を確かめます)
  • ⑨条例が外れても、がけ崩れ等による被害を受けるおそれがある場合は、建築基準法第19条第4項の措置が別に要ります
  • 第2項の三つの道を使えるか。①がけの上なら、基礎ががけに影響を及ぼさないこと。②がけの下なら、がけくずれによる被害を受けるおそれのない部分を除いた主要構造物を鉄筋コンクリート造りとすること。③がけの下なら、がけと建物の間に安全な施設を設けること——「安全な施設」は、がけの下の道です。設計者に案を作ってもらい、窓口で確認します
  • ⑪高さ2メートルを超える擁壁(令第138条第1項第5号)を新しく造るなら、工作物としての建築確認の要否と、法第88条第1項が適用される場合の令第142条第1項の構造方法(同項各号の基準か、これと同等以上のものとして国土交通大臣が定めた構造方法か)を、設計者と申請先に確認します

確かめるのは、土地の売買契約を結ぶ前です。買ったあとでは、擁壁の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に。がけの高さと、がけからの距離は、現況の測量図と断面図がないと自分では判断できません——測量と図面は建築士に、条例の当てはめは所管の建築行政の窓口に、お尋ねください。

出典

条文は2026年9月1日に、茨城県例規集の茨城県建築基準条例(令和7年3月27日施行)と茨城県建築基準法等施行細則(令和7年7月1日施行)で確認しました。法令はe-Gov法令検索で確認しました。県の条例が適用されない9市のうち、条例の条文まで読んだのは水戸市だけです。残る8市(日立・土浦・古河・高萩・北茨城・取手・つくば・ひたちなか)の条例は、この記事では読んでいません。県の「がけ」についての逐条解説は、探した範囲では見つかりませんでした。県の質疑応答集にある関係する問答は、上に引いたQ8の1問だけです。

製品・技術・見積についてご相談ください

お電話でのご相談(フリーダイヤル・平日9:00〜18:00) 0120-1181-46(イイヘイヨロ)

ご相談・お見積は無料です。原則1〜2営業日以内にご返信します。