岩手で、崖のそばに家を建てる・買う人へ——最初に答えから。
先にすることは、3つです。がけ条例がかかっても、建てられないと決まったわけではありません。まず、土地の売買契約を結ぶ前に動く(すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に)——買ったあとでは、擁壁(ようへき=がけの土が崩れないよう支える壁)の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。つぎに、建築士に現況の測量図・断面図・配置案を用意してもらう。そのうえで、その図面を持って計画地を所管する建築行政の窓口へ、条例の当てはめを確かめる。高さも角度も距離も、目測で判断しないでください。確かめる中身は、この記事の最後の「売買契約の前に、専門家と確かめること」にまとめてあります。
①岩手の「がけ条例」は、岩手県の建築基準法施行条例(平成12年岩手県条例第37号)第6条です。②義務の形は「離す」ではなく「設ける」——高さ2メートルを超える崖、または崖の上に接する土地・崖の下に接する土地(崖の上に接する土地は崖の下端(かたん)から、崖の下に接する土地は崖の上端(じょうたん)からの水平距離が崖の高さの2倍以内の土地)で建築物を建築し、または建築物の敷地を造成する場合は、条文が挙げる2つの号のいずれかに当たる場合を除き、安全上支障がない擁壁(ようへき=がけの土が崩れないように支える構造物。塀とは役割が違います)の類を設けなければなりません。「崖の高さの◯倍以上の水平距離を保つ」という離隔の義務は、この条文にはありません。③安全上支障がない擁壁の類を設ければ、第6条第1項の関係では原則として建てられます(第1号・第2号のいずれかに当たるときは、擁壁の類そのものが要りません)。同じ第6条の第2項(高さ2メートルを超える擁壁の構造)と第3項(敷地の排水設備)は、別に掛かります。ただし、災害危険区域・土砂災害の区域・建築基準法第19条第4項は別に確認してください。④所管は、盛岡市内は盛岡市、花巻市・北上市・奥州市・一関市・釜石市・宮古市の市内の小規模な建築物等はそれぞれの市、それ以外は県です(県の案内)。ただし市の区域で県条例を適用しないという定めは、県条例にも県の施行細則にもありません——第6条は、これらの市の中でも生きています(両方の本文を全文検索して確認。釜石市・北上市の施行細則は県条例第6条第1項を名指しで引き、盛岡市の施行細則は同じ範囲を自分の条文に書き写しています)。
建築基準法第6条第1項第3号の規定により知事が指定する区域は「県内全域(都市計画区域及び準都市計画区域並びに景観法第74条第1項の準景観地区を除く。)」です(県の告知ページ・更新日 令和7年5月30日)。都市計画区域の外でも、小規模な建築物でも建築確認の手続きが必要になります。「都市計画区域外だから確認は要らない、だから崖の条文も関係ない」は、岩手では通りません。そして、建築確認が要らない規模の工事でも、第6条の義務がなくなるわけではありません——防火地域及び準防火地域外での10平方メートル以内の増築・改築・移転は法第6条第2項で確認が要りませんが、条例の適合義務は別に残ります(法第3条第1項の文化財建築物等や法第85条の適用除外は別です)。(条例・細則・県の各ページは2026年8月29日に本文を確認しました。)
「がけ条例」の実体は、建築基準法施行条例の第6条です

「がけ条例」という名前の条例はありません。岩手県では、建築基準法の実施に関し必要な事項を定めた建築基準法施行条例(平成12年岩手県条例第37号)(第1条)の第3章「建築物の敷地及び構造」の第6条(崖)が、崖に関する決まりです。条例のうち行政庁の行為を定める条には「知事」が使われていますが(第6条は、建築物を建築し、または建築物の敷地を造成する場合に安全の措置を求める義務規定です。設計者等の処罰は第22条で別に定められています)、「特定行政庁」という語も、市の区域を適用除外にする定めも、条例・細則のどちらにも出てきません(条例本文・細則本文を全文検索して確認)。特定行政庁とは、原則として、建築主事または建築副主事を置く市町村の区域ではその市町村長、それ以外の区域では都道府県知事のことです——ただし、法第97条の2により建築主事または建築副主事を置く市町村(限定特定行政庁)の区域内では、政令で定める建築物の特定行政庁は都道府県知事になります(法第2条第35号ただし書)。実際に、盛岡市の建築基準法施行細則は第5条第1号で県条例第6条第1項と同じ定義を書き写して添付図書を求めており、釜石市・北上市の施行細則も第4条で県条例第6条第1項の「がけ」を引いています。
委任の根拠は、条文の書き方が条によって違います。「法第39条第1項の規定に基づく」と明記しているのは、災害危険区域の第2条だけです。第6条には委任条文の引用がなく、条例本文に「法第40条」という語は出てきません。建築基準法第40条は、地方公共団体が条例で建築物の敷地・構造・建築設備に関して安全上・防火上・衛生上必要な制限を附加できることを定めた規定です。建築確認の対象となる計画では、この条例への適合も原則として確認審査の対象になります。確認特例(法第6条の4・施行令第10条)による審査省略の範囲は建築物・設計者の区分で決まり、法第39条から法第41条までの規定に基づく条例の規定のうち、特定行政庁が法第6条の4第2項の規定の趣旨により規則で定める規定が省略の対象に挙げられています(令第10条第3号ハ・第4号ハ)。条例への適合義務は、審査の範囲とは別に生じます。
窓口については、令和8年4月1日から県の建築指導課が再編されています。県南広域振興局土木部建築指導課(奥州市水沢大手町1-2/Tel 0197-22-2882)が奥州市・金ケ崎町・一関市・平泉町を、同局の花巻土木センター建築指導課(花巻市花城町1-41/Tel 0198-22-5026)が花巻市・北上市・西和賀町・遠野市を、沿岸広域振興局土木部建築指導課(釜石市新町6-50/Tel 0193-27-5573)が釜石市・大槌町・宮古市・山田町・岩泉町・田野畑村を所管します。盛岡広域振興局土木部、沿岸広域振興局土木部大船渡土木センター、県北広域振興局管内(久慈・二戸地区)は変更ありません。県へ書面で提出する案件の経由窓口は、原則として各市役所または町村役場です(県のチラシ)——ただし、令和8年8月1日から、八幡平市・滝沢市・雫石町・葛巻町・岩手町・紫波町・矢巾町の対象手続について電子申請が試行され、その申請先は盛岡広域振興局土木部建築指導課です。指定確認検査機関(民間の確認検査機関)へ申請する場合は、その機関が提出先です。現在の一覧は県の「確認申請等窓口一覧」のページで確認してください。
どこからが「崖」か——勾配30度超・硬岩盤以外。盛土規制法施行令では小段で分かれた崖を一体とみなす場合があり、県条例第6条での扱いは確認が要ります

第6条の「崖」は、条文が宅地造成及び特定盛土等規制法施行令(昭和37年政令第16号。以下「盛土規制法施行令」)第1条第1項に規定する崖を引いています。
(定義等)
宅地造成及び特定盛土等規制法施行令 第1条第1項〜第3項
第一条 この政令において、「崖」とは地表面が水平面に対し三十度を超える角度をなす土地で硬岩盤(風化の著しいものを除く。)以外のものをいい、「崖面」とはその地表面をいう。
2 崖面の水平面に対する角度を崖の勾配とする。
3 小段その他の崖以外の土地によつて上下に分離された崖がある場合において、下層の崖面の下端を含み、かつ、水平面に対し三十度の角度をなす面の上方に上層の崖面の下端があるときは、その上下の崖は一体のものとみなす。
勾配は「三十度を超える角度」——30度ちょうどは入りません。硬岩盤は「崖」から外れますが、風化の著しい硬岩盤は「硬岩盤」から除かれますので、岩でも風化が著しければ崖に当たり得ます。そして条例側の高さのしきい値は「高さ2メートルを超える崖」——2メートルちょうどは入りません。
盛土規制法施行令第1条第3項は、一定の位置関係にある上下の崖を「一体のものとみなす」としています。小段やテラスで上下に分かれていても、下の崖面の下端を含む30度の面より上方に上の崖面の下端があるときが、その形です。ただし、県条例第6条が括弧書きで直接引いているのは同令第1条第1項です——第6条の判断でも第3項の一体みなしを用いるかは、県の公表資料では確かめられませんでした。2メートル以下の段を重ねたつくりについて通算した高さで見るかどうかは、所管の窓口に確かめてください。
なお、第6条の「崖」に当たらない斜面でも、安全の検討が要らなくなるわけではありません。建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければなりません(建築基準法第19条第4項。高さや勾配の下限はありません)。
義務の形は「安全上支障がない擁壁の類を設ける」。2倍以内は、離す距離ではなく規制がかかる範囲です

(崖)
建築基準法施行条例(平成12年岩手県条例第37号) 第6条第1項
第6条 高さ2メートルを超える崖(宅地造成及び特定盛土等規制法施行令(昭和37年政令第16号)第1条第1項に規定する崖をいう。以下同じ。)又は当該崖の上に接する土地(崖の下端からの水平距離が崖の高さの2倍以内の土地をいう。以下同じ。)若しくは当該崖の下に接する土地(崖の上端からの水平距離が崖の高さの2倍以内の土地をいう。以下同じ。)に建築物を建築し、又は建築物の敷地を造成する場合は、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、崖の形状若しくは土質又は建築物の位置、規模、構造若しくは用途に応じ、安全上支障がない擁壁の類を設けなければならない。
(1) 堅い地盤を切った崖面、安定した地盤の崖面又は特殊な構造方法による崖面で安全上支障がない場合
(2) 構造耐力上主要な部分(崖崩れによる被害を受けるおそれのない部分を除く。)が鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造又はこれらに類する構造で崖崩れに対して安全な建築物を崖又は崖の下に接する土地に建築する場合
この条文で取り違えやすいのは、次の3点です。
- 「2倍以内」は、規制がかかる土地の範囲を画す言葉です。離すべき距離ではありません。範囲の中では、第1号・第2号のいずれにも当たらない場合に、安全上支障がない擁壁の類を設けることが求められます。条文に「◯倍以上離せ」とは書かれていません
- 起点が上下で入れ替わっています。崖の上に接する土地は「崖の下端からの水平距離」、崖の下に接する土地は「崖の上端からの水平距離」。上の土地を上端から測る書き方にはなっていません
- 対象は「建築物を建築し、又は建築物の敷地を造成する場合」。用途による絞り込み(居室(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋)を有するもの、住居の用に供するもの等)は第6条第1項にはありません。ただし、どんな擁壁を設けるかは「崖の形状若しくは土質又は建築物の位置、規模、構造若しくは用途に応じ」と書かれています——用途は「対象かどうか」ではなく「どの擁壁なら安全上支障がないか」の側に効く要素として、条文に出てきます
第6条には知事の認定による明示的な適用除外はありません(第1号・第2号には「安全上支障がない」「崖崩れに対して安全」という技術的な判断が置かれています)。同じ条例の中で「知事が……認めたとき」「知事が認めた場合」が出てくるのは、たとえば第3条ただし書・第4条ただし書・第7条第2項・第8条ただし書・第9条です(条例本文で「知事が」を検索すると、第2条の指定を含めて6か所に出てきます)。第6条にあるのは第1号・第2号という要件だけです。
上端・下端の位置と崖の高さを実測しないと、範囲に入るかどうかは決まりません。県のホームページには、本稿執筆時点で第6条の解説・技術基準に当たる資料が見当たりませんでした——「建築基準法施行条例・建築基準法施行細則」「建築基準法に基づく規制」「建築基準法の運用(建築確認)」「建築確認申請等の手続き」「住宅・建築等に関する手続」の5ページと、盛岡広域振興局土木部の建築指導情報を開いた範囲です。庁内資料や窓口配布物として存在しないことまでは確かめられていません。現況測量図(崖の上端・下端の位置、高さ、勾配、土質)と配置図を持って、所管の建築指導窓口に「第6条第1項の『崖の上に接する土地』『崖の下に接する土地』に当たるか」「下端・上端をどこで見るか」を聞いてください。
第6条第1項の例外は、第1号と第2号の2つ。第2号は「崖の上に接する土地」では使えません

第1号は崖面の側で安全を示す道です——堅い地盤を切った崖面、安定した地盤の崖面、特殊な構造方法による崖面のいずれかで、安全上支障がない場合。どれに当たるかは崖面の状態で決まります。確認申請には、後で見るとおり崖の形状及び土質を示す図書を添えることになっています(県細則第5条)。
第2号は建築物の側で安全を示す道です——構造耐力上主要な部分(崖崩れによる被害を受けるおそれのない部分を除く。)が鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造又はこれらに類する構造で、崖崩れに対して安全な建築物であること。崖又は崖の下に接する土地なら、第2号の道が使えます。ただし、第2号が適用される場所はこの2つに限られており、「崖の上に接する土地」は入っていません。
崖の上に建てる計画では、第2号(建物を鉄筋コンクリート造等にする)で外れる道がありません。残るのは第1号(崖面の側で安全上支障がないこと)か、擁壁の類を設けるか、のどちらかです——擁壁の類を設ければ、第6条第1項の関係では崖の上でも原則として建てられます(崖の上に接する土地では、第6条第3項の排水設備が別に要ります)。
擁壁の構造は令第142条と盛土規制法施行令第9条・第10条。敷地の排水は「崖」と「崖の上」に掛かります

2 高さ2メートルを超える擁壁の構造は、建築基準法施行令(昭和25年政令第338号。以下「政令」という。)第142条並びに宅地造成及び特定盛土等規制法施行令第9条及び第10条の規定によらなければならない。
建築基準法施行条例(平成12年岩手県条例第37号) 第6条第2項・第3項
3 崖又は崖の上に接する土地に建築物を建築する場合は、その敷地に適当な排水設備を設けなければならない。
建築基準法施行令第142条は工作物としての擁壁の技術的基準で、鉄筋コンクリート造・石造その他これらに類する腐食しない材料を用いた構造とすること、擁壁の裏面の排水を良くするため水抜穴を設け、その周辺に砂利その他これに類するものを詰めること、構造計算によって安全性が確かめられること等を定めています。盛土規制法施行令第9条は鉄筋コンクリート造・無筋コンクリート造の擁壁について、土圧等によって破壊しない・転倒しない・基礎が滑らない・沈下しないことを構造計算で確かめる規定です。同第10条は間知石練積み造その他の練積み造で、勾配・高さ・下端部分の厚さが、崖の土質に応じ別表第四に定める基準に適合することを求めたうえ(第1号前半)、基礎は一体の鉄筋コンクリート造又は無筋コンクリート造で、滑り及び沈下に対して安全であること(第4号)などを定めています。ほかに控え長さ30センチメートル以上と裏込め(第2号)、控え壁等(第3号)があります。以下は主なものです——擁壁の上端の厚さは、地盤の土質が別表第四上欄の第一種又は第二種に該当するときは40センチメートル以上、その他のときは70センチメートル以上(第1号)、前面の根入れ(ねいれ=擁壁の前面側の底を地中に埋める深さ)は、第一種又は第二種のときは擁壁の高さの100分の15(35センチメートルに満たないときは35センチメートル)以上、その他のときは100分の20(45センチメートルに満たないときは45センチメートル)以上(第4号。「擁壁を岩盤に接着して設置する場合を除き」は、根入れだけでなく、同号後半の「一体の鉄筋コンクリート造又は無筋コンクリート造で滑り及び沈下に対して安全である基礎を設けること」にもかかります)と定めています。なお、令第142条第1項が求めるのは、掲げる基準に適合する構造方法です。あわせて、これと同等以上に擁壁の破壊及び転倒を防止することができるものとして国土交通大臣が定めた構造方法も認めています。基準に適合していれば足ります——大臣が定めた構造方法でなければならない、という意味ではありません。
設ける擁壁そのものにも、別の手続きが掛かります。高さが2メートルを超える擁壁は、建築基準法施行令第138条第1項第5号の工作物です(同項本文で、鉄道及び軌道の線路敷地内の運転保安に関するものその他他の法令の規定により建築基準法及びこれに基づく命令の規定による規制と同等の規制を受けるものとして国土交通大臣が指定するものは除かれます)。法第88条第1項により、建築物についての法第6条等の規定が工作物に準用され、擁壁については法第6条第1項第3号の建築物に係る部分に限って準用されます。岩手では、都市計画区域・準都市計画区域・準景観地区と、知事が指定した「県内全域(これらを除く。)」を合わせると、第3号が掛かる区域が県内をひととおり覆います。条文どおりに読むと、高さ2メートルを超える擁壁を築造するには、原則として工作物の確認申請が要ることになります。ただし法第88条第4項により、盛土規制法第12条第1項・第16条第1項・第30条第1項・第35条第1項、都市計画法第29条第1項・第2項・第35条の2第1項本文、特定都市河川浸水被害対策法第57条第1項・第62条第1項、津波防災地域づくりに関する法律第73条第1項・第78条第1項の許可を受けなければならない場合の擁壁については、法第6条から第7条の5まで、第18条(第1項及び第41項を除く。)及び第89条に係る部分は適用されません。これは条例の解説ではなく、条文どおりに読んだ結果です。擁壁の高さ・位置・工事区分(その擁壁を、どの許可・確認の工事として造るのかの別)を書いた図面を持って、所管の窓口で確認してください。
第3項の排水設備は、「崖又は崖の上に接する土地に建築物を建築する場合」に掛かります。崖の下に接する土地は、第3項の文言には入っていません——第1項・第2項とは対象の範囲が違います。ただし、外れるのはこの第3項の義務だけです。建築物の敷地には、雨水及び汚水を排出し、又は処理するための適当な下水管・下水溝・ためますその他これらに類する施設が別に必要ですし(建築基準法第19条第3項)、がけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合の措置(同条第4項)も別に掛かります。
確認申請に付ける図書——崖の上端・下端から建築物までの水平距離と、崖の形状・土質

(添付図書の附加)
建築基準法施行細則(昭和47年岩手県規則第12号) 第5条
第5条 条例第6条第1項に規定する崖又は当該崖の上若しくは下に接する土地に建築する建築物に係る法第6条第1項(法第87条第1項において準用する場合を含む。)の規定による確認の申請をする場合は、省令第1条の3第1項に規定する図書のほか、崖の上端又は下端から当該建築物までの水平距離並びに崖の形状及び土質を示す図書を添えなければならない。
この図書は、法第87条第1項において準用する場合——用途を変更して法第6条第1項第1号の特殊建築物とする場合の確認申請——にも求められます。用途を変更して法第6条第1項第1号の特殊建築物とする場合を明文で含めているのは、県細則第5条です。ただし、法第87条第1項には、政令で指定する類似の用途相互間の用途変更について確認申請を要しないとする定めがあります——すべての用途変更で確認申請と追加図書が要るわけではありません。盛岡市・釜石市・北上市の細則は、法第6条第1項の確認申請について同じ図書を求めています。盛岡市建築基準法施行細則第5条第1号は県条例第6条第1項の定義をそのまま書き写したうえで同じ図書を求めており、釜石市建築基準法施行細則第4条・北上市建築基準法施行細則第4条も、県条例第6条第1項の「がけ」を引いて同じ図書を求めています(北上市の条文は県条例を「昭和35年岩手県条例第41号」の番号で引いていますが、現行は平成12年岩手県条例第37号です——同条例の本則に「建築基準法施行条例(昭和35年岩手県条例第41号)の全部を改正する」とあります。条番号と中身は同じです)。
岩手県条例第2条の災害危険区域は、全面的な建築禁止ではなく、構造と開口部・居室の規制です

(災害危険区域の指定等)
建築基準法施行条例(平成12年岩手県条例第37号) 第2条第1項・第3条
第2条 法第39条第1項の規定に基づく災害危険区域は、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)第3条第1項の規定に基づき指定された急傾斜地崩壊危険区域内で急傾斜地の崩壊による危険の著しい区域として知事が指定した区域とする。
(略)
(災害危険区域内の建築制限)
第3条 災害危険区域内において住居の用に供する建築物を建築する場合は、当該建築物の構造耐力上主要な部分が鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造又はこれに類する構造で急傾斜地の崩壊に対して構造耐力上支障がなく、かつ、当該建築物の外壁の開口部及び居室が急傾斜地に直接面しないものであって、安全上及び避難上支障がないものでなければならない。ただし、急傾斜地の崩壊に対する防護施設又は防止施設が設置されている場合で知事が安全上及び避難上支障がないと認めたときは、この限りでない。
岩手県条例の災害危険区域は、急傾斜地崩壊危険区域(急傾斜地法第3条第1項により知事が指定する区域)の中で、さらに急傾斜地の崩壊による危険の著しい区域として知事が指定した区域です。区域の指定は告示があった日から効力を生じ、指定にあたってはあらかじめ関係市町村長の意見を聴くことになっています(第2条第2項〜第4項)。この手続は、区域の変更・廃止にも準用されます(同条第5項)。
第3条が求めているのは、住居の用に供する建築物について、①構造耐力上主要な部分が鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造又はこれに類する構造で、急傾斜地の崩壊に対して構造耐力上支障がないこと、②外壁の開口部及び居室が急傾斜地に直接面しないこと、③安全上及び避難上支障がないこと、の3つです。「建築してはならない」という禁止の形ではありません。ただし書は、急傾斜地の崩壊に対する防護施設又は防止施設が設置されている場合で、知事が安全上及び避難上支障がないと認めたときです。倉庫・車庫など住居の用に供しない建築物は、第3条の対象には入っていません(第6条の崖の規定は別に掛かります)。
知事が第2条に基づく災害危険区域を現に何か所指定しているかは、本稿では確認できていません。指定の有無・区域は告示と図面で決まります。急傾斜地崩壊危険区域そのものは第2条の入口の条件であって、指定と同じではありません。なお区域内では、水を放流し又は停滞させる行為その他水のしん透を助長する行為、ため池・用水路その他の急傾斜地崩壊防止施設以外の施設又は工作物の設置又は改造、のり切・切土・掘さく又は盛土、立木竹の伐採、木竹の滑下又は地引による搬出、土石の採取又は集積などが、急傾斜地法第7条第1項により知事の許可を受けなければできない行為とされています(非常災害のために必要な応急措置として行なう行為などのただし書があります)。砂防の担当窓口が別にあります。
津波を原因とする災害危険区域の条例を、沿岸の市が別に持っていることがあります。根拠は同じ建築基準法第39条ですが、県条例第2条(急傾斜地)とは指定する人も、原因も、制限の中身も違います。本稿で条文を確認できたのは、次の2市です。陸前高田市災害危険区域に関する条例は、津波による危険の特に著しい区域として市長が指定した区域を災害危険区域とし、第3条で「住居の用に供する建築物を建築してはならない」と定めています(第4条の適用除外は、工事等のために必要とする宿舎その他これに類する仮設のもので市長が認める場合と、その他市長が周囲の状況からやむを得ないものと認める場合)。釜石市災害危険区域に関する条例は第1種区域(居住の用に供する建築物の建築を禁止する区域)と第2種区域(市長が別に定める構造等の基準を満たす場合を除き建築してはならない区域)を分け、敷地が区域の内外にわたる場合は建築物の全部が区域内に、第1種と第2種にわたる場合は全部が第1種にあるものとみなすと定めています(第4条)。学校教育法に規定する学校、医療法に規定する病院、診療所、介護老人保健施設及び助産所、社会福祉法に規定する社会福祉事業を行う施設を建築しようとする者は、第3条第1項及び第2項の規定を尊重するよう努めなければならないとされています(第5条。努力義務です)。市の施行規則は、第2種区域をさらに区域1(想定津波による浸水深が0メートルを超え0.5メートル以下)と区域2(0.5メートルを超え2.0メートル未満)に分け、第2種区域で住宅を建築する場合は、①住宅の床面の高さ及び基礎の上端の高さが、告示の図面に示す基準面の標高よりも高いこと、②住宅の壁及び柱等の主要構造部(壁・柱・床・はり・屋根・階段。建物の構造上重要な部分)等で、基準面の標高より低い部分を、区域1では木造以外、区域2では木造以外かつ居住室(居間、茶の間、寝室、食事室など居住用の室)以外とすることのいずれかに該当しなければならないとしています(第4条)。第2種区域では、原則として地階を有する住宅を建築してはならないとも定めています(第5条)。ほかの市町村にも同種の条例があるかは、本稿では確認していません。計画地の市町村役場で確かめてください。
土砂災害警戒区域・特別警戒区域は、この条例には書かれていません

県条例と県の施行細則の全文を検索した範囲では、「土砂災害」「警戒区域」「特別警戒区域」という語がどちらにも1回も出てきません。つまり、レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)やイエローゾーン(土砂災害警戒区域)と第6条の関係を書いた条文も別表も、岩手県の条例・細則にはありません。土砂災害防止法の規制と県条例第6条は、条文の上では別々に掛かります。審査の実務でどう扱われているか(たとえば第1号の「安定した地盤の崖面」の判断にレッドの指定を参照するかどうか)は、本稿では確認できていません。計画地の指定状況を印刷したものを持って、所管の建築指導窓口に「第6条の判断で、レッドやイエローの指定をどう見るか」を聞いてください。
レッドゾーンの側の決まりは全国共通です。土砂災害特別警戒区域は、警戒区域のうち、急傾斜地の崩壊等が発生した場合に建築物に損壊が生じ住民等の生命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域で、一定の開発行為の制限及び居室を有する建築物の構造の規制をすべき土地の区域として政令で定める基準に該当するものを、都道府県知事が基本指針に基づいて指定します(土砂災害防止法第9条第1項)。指定は土砂災害の発生原因ごとに行われ、区域とともに自然現象の種類と衝撃に関する事項が公示されます(同条第2項・第4項)。区域内で制限用途の予定建築物のために開発行為をする特定開発行為には、都道府県知事の許可が要ります(第10条第1項。申請は第11条)。ただし、非常災害のために必要な応急措置として行う開発行為と、仮設建築物の建築の用に供する目的で行う開発行為は、この許可の対象から外れます(同項ただし書、同法施行令第5条)。制限用途は、条文の言い方では「予定建築物の用途で、住宅(自己の居住の用に供するものを除く。)並びに高齢者、障害者、乳幼児その他の特に防災上の配慮を要する者が利用する社会福祉施設、学校及び医療施設(政令で定めるものに限る。)以外の用途でないもの」——用途が未確定で、これら以外の用途であることが確定していない予定建築物も含まれます。
土砂災害防止法第25条は、特別警戒区域(建築基準法第6条第1項第3号に規定する区域を除く。)内における居室を有する建築物(同項第一号又は第二号に掲げるものを除く。)を第3号の区域内の建築物とみなして、建築確認等の規定を適用する条文です。都市計画区域の外にあるレッドゾーンで建築確認を必要にするための条文ですが、岩手では知事の指定が「県内全域(都市計画区域及び準都市計画区域並びに準景観地区を除く。)」なので、これに第3号の都市計画区域等を合わせると、第25条が確認の対象区域を新たに広げる余地は、条文の上では残りません——ただし「みなす」だけの規定なので、法第6条第2項の10平方メートル以内の増築等や、法第85条の適用除外まで消えるわけではありません。また、敷地が区域の内外にわたるときは、第25条が適用する法第91条により敷地の過半の属する区域の規定によります(ちょうど半分は「過半」ではありません)——レッドゾーンかどうかにかかわらず、もともと建築確認が要るからです。これも条文からの読みで、県の解説で裏を取ったものではありません。
区域の境界と数値(土石等の高さ等・最大の力の大きさ等)は、県が公示した指定の図書で確認します。市町村のハザードマップは避難の確認に役立ちますが、作成時点より後の指定が反映されていないことがあります。レッドゾーン内の居室を有する建築物について、令第80条の3に対応する2つの方法——外壁等(外壁・構造耐力上主要な部分のうち、土石等の高さ等以下で、土砂災害の原因となる自然現象〔河道閉塞による湛水を除く〕により衝撃が作用すると想定される部分)を所定の構造にするか、土石等の高さ等以上の高さで、外壁等と同等以上の耐力を有するものとして国土交通大臣が定めた構造方法による門・塀を、衝撃を遮るように設けるか——と、改修への補助の枠組みは、レッドゾーンの家と土地で整理しています。擁壁の選び方も合わせてどうぞ。
建てずに移る道もあります。岩手県は「がけ崩れ危険住宅移転促進支援制度」を設けています(県の砂防災害課のページ・更新日 令和7年7月15日)。
岩手県では県独自の制度を創設し、がけ崩れ危険箇所の土砂災害特別警戒区域にある住宅の移転を支援しています。
岩手県「がけ崩れ危険住宅移転促進支援制度」の概要(見出しと箇条書きは原文の改行のまま)
支援制度の対象となる住宅
以下の条件を全て満たす住宅が対象となります。
市町村事業の「がけ地近接等危険住宅移転事業(国の補助事業)」を利用する住宅
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)内の住宅
急傾斜地崩壊危険箇所ランク1の箇所
注)被害想定区域内に人家5戸以上ある場合は急傾斜地崩壊危険箇所(1)とします(5戸未満でも官公署、学校、病院、駅、旅館等がある場合を含みます。)。
土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)内にある住宅全戸の移転が必要
移転先が岩手県内であり、かつ、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)以外の場所である
(略)
支援内容
上記の支援制度の対象となった住宅に対し、
住宅の撤去費用の一部
移転経費の一部
住宅の建設・購入費用の一部
を補助します。
県のページは「『がけ地近接等危険住宅移転事業』は各市町村によって実施内容が異なりますので、詳しくは市町村へお問い合わせください」と書いています。金額や条件を県の制度だけで判断せず、住んでいる市町村の担当課に確かめてください。県側の窓口は県土整備部砂防災害課砂防担当(Tel 019-629-5925)と、最寄りの広域振興局土木部・土木センターです。
仮設・既存の建物・用途変更——岩手の条例には、崖の条を外す定めがありません

①仮設——条例第21条(仮設建築物等に対する制限の緩和)は、法第85条第6項・第7項の建築の許可を受けた仮設建築物や、法第87条の3第6項・第7項の使用の許可を受けた建築物について「第4条、第5条及び第7条から第10条までの規定は、適用しない」と定めています。この列挙に第6条(崖)はありません。第3条(災害危険区域内の建築制限)もありません。条例第20条(1の敷地内にあるものとみなされる建築物に対する規制の特例)の列挙も「第4条、第5条、第7条、第8条及び第9条」で、第6条は入っていません。条例の側に、仮設だから崖の条を外すという定めはありません。
建築基準法の側には、別の適用除外があります。法第85条第1項は、非常災害区域等(非常災害が発生した区域又はこれに隣接する区域で特定行政庁が指定するもの)の内において、①災害により破損した建築物の応急の修繕と、②応急仮設建築物の建築で、その災害が発生した日から1月以内にその工事に着手するもの(国・地方公共団体・日本赤十字社が災害救助のために建築するもの、または被災者が自ら使用するために建築するもので延べ面積が30平方メートル以内のもの)について、建築基準法令の規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定)は、適用しないとしています。1月以内の着手が条件になっているのは②の応急仮設建築物のほうです。①については、国土交通省住宅局建築指導課長通知(国住指第27号・平成23年4月5日)が「災害により破損した部分の修繕であれば、工事に着手する時期にかかわらず、建築基準法令の規定は適用されない」と示しています。ただし書で除かれるのは、防火地域内に建築する場合です。法第85条第2項は、災害があつた場合に建築する停車場・官公署その他これらに類する公益上必要な用途に供する応急仮設建築物や、工事を施工するために現場に設ける事務所・下小屋・材料置場その他これらに類する仮設建築物について、法第19条、第39条、第40条その他の列挙された規定と、第3章の規定を適用除外としています。この列挙に法第19条が入っていることが効きます——これに当たる仮設建築物には、さきに書いた法第19条第4項の措置義務も及びません。なお第2項にもただし書があり、防火地域又は準防火地域内にある延べ面積50平方メートルを超えるものには、法第62条の適用があります。第1項・第2項の応急仮設建築物を工事完了後3月を超えて存続させるには、その超えることとなる日前に特定行政庁の許可が必要です(同条第3項。期限前に申請して、期限までに処分がされないときは、処分がされるまで存続できます)。どの道が使えるかは計画の中身で決まるので、窓口で確認してください。
②既存不適格(きそんふてきかく=建てたときは適法だった建物)——条例の規定の施行・適用の際に現に存し、または現に建築・修繕・模様替の工事中で、その規定に適合しない建築物・敷地には、建築基準法第3条第2項により、その適合しない規定が適用されません(条例の全部が外れるという意味ではありません)。ただし、工事の着手が規定の施行・適用の後である増築・改築・移転・大規模の修繕・大規模の模様替に係る建築物又はその敷地には、法第3条第3項第3号によりこの扱いが及びません。もっとも増築・改築の側では、法第86条の7第1項の法定緩和がこの条例には届きません——同項が列挙しているのは法第20条・第21条・第48条といった法自身の条で、法第39条・第40条に基づく条例の規定は入っていません(同条第2項・第3項も同じです)。施行令第137条の2以下も、それぞれ法の個別の条に対応するものです。法第86条の7第4項は、法第3条第2項により適用を受けていない建築基準法令の規定について、施行令第137条の16の範囲内の移転をしても既存不適格の扱いを続ける規定です——移転後に現行の法令がすべて外れる制度ではありません。同項が対象にする「建築基準法令の規定」には条例が含まれ(法第6条第1項の定義)、同項の「政令で定める範囲」を定めているのが施行令第137条の16(同一敷地内の移転か、交通上・安全上・防火上・避難上・衛生上及び市街地の環境の保全上支障がないと特定行政庁が認める移転)で、この範囲であれば、法第3条第3項にかかわらず適用されません。これとは別に、増築等を二以上の工事に分けて段階的に適合させる場合には、法第86条の8の全体計画認定があります。この条例には、既存の建築物について知事がやむを得ないと認めて緩和する定めがありません(条例本文を全文検索した範囲では、「やむを得ない」の語は1回も出てこず、「緩和」の語は第21条〔仮設建築物等に対する制限の緩和〕の見出しと目次に出るだけです。「既存」の語は第17条の手数料の表の中の認定申請の名称として出てきます)。
③用途変更——工事を伴わない用途変更でも、建築基準法第87条第2項により、法第39条第2項・第40条の規定に基づく条例の規定が準用されます。既存不適格でこれらの適用を受けていない建築物の用途変更については、法第87条第3項により原則としてこれらの規定が準用され、増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合や、政令で指定する類似の用途相互間の変更で修繕・模様替をしない(またはそれが大規模でない)場合は準用から除かれます。号ごとに結論が違います——第1号(増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替を伴う場合)は、用途変更の側ではなく法第3条第3項で判断します。第2号(政令で指定する類似の用途相互間で、修繕・模様替をしないか、それが大規模でない場合)は、その用途変更だけを理由に条例が遡って適用されることはありません。第3号は法第48条(用途地域)に関する例外で、がけの規定には関わりません。法第87条第1項により確認申請が必要となる用途変更(政令で指定する類似の用途相互間の変更は、同項の準用から除かれます)の場合には、県細則第5条の図書(崖の上端又は下端から建築物までの水平距離、崖の形状及び土質)が要ります。
罰則は第22条・第23条——原則は設計者。両罰に免責のただし書はありません

(罰則)
建築基準法施行条例(平成12年岩手県条例第37号) 第22条・第23条
第22条 第3条から第9条までの規定に違反した場合における当該建築物又は工作物の設計者(設計図書を用いないで工事を施工し、又は設計図書に従わないで工事を施工した場合においては、当該建築物又は工作物の工事施工者)は、50万円以下の罰金に処する。
2 前項に規定する違反があった場合において、その違反が建築主又は工作物の築造主の故意によるものであるときは、当該設計者又は工事施工者を罰するほか、当該建築主又は工作物の築造主に対して同項の刑を科する。
(略)
第23条 法人の代理者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、前条の違反行為をした場合においては、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して同条の刑を科する。
罰則の範囲は「第3条から第9条まで」——災害危険区域内の建築制限(第3条)も、崖(第6条)も入ります。名宛人(なあてにん=命令や罰則を受ける人)は原則設計者で、設計図書を用いないで工事を施工した場合、または設計図書に従わないで工事を施工した場合は工事施工者に替わります。違反が建築主又は工作物の築造主の故意によるときは、その建築主・築造主にも同じ刑が科されます(第22条第2項)。法人の代理者や、法人・人の代理人・使用人その他の従業者が業務に関して違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人にも同じ刑が科されます(第23条)——この条には、相当の注意・監督を尽くした場合の免責のただし書がありません(条文はここで終わっています)。
違反すれば、罰則のほかに建築基準法第9条による是正命令(除却(じょきゃく=取り壊し)・使用禁止などの措置を含みます)の対象にもなり得ます。なお、防火地域及び準防火地域外で増築・改築・移転をする場合で、その部分の床面積の合計が10平方メートル以内のときは建築確認が要りません(法第6条第2項)が、確認が要らないことを理由に第6条が適用外になるわけではありません(法第3条第1項の文化財建築物等や、上に書いた法第85条の適用除外は別です)。
是正命令は、建築主・所有者などに来ます(法第9条第1項)
罰則の名宛人が原則として設計者でも、是正命令の相手方は別です。建築基準法第9条第1項は、違反した建築物・敷地について、当該建築物の建築主、工事の請負人(下請人を含みます)・現場管理者、建築物または敷地の所有者・管理者・占有者に対して措置を命ずることができる、と定めています。故意かどうかは、この条の要件ではありません。命じられるのは工事の施工の停止のほか、除却・移転・改築・増築・修繕・模様替・使用禁止・使用制限その他、違反を是正するために必要な措置です。建てたあとに除却や使用禁止を命じられ得るのは、建築主・所有者などです——設計者は、設計者であることだけでは名宛人に挙げられていません。命令に従わないと、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です(法第98条第1項第一号)。条例の罰則は罰金だけですが、こちらは拘禁刑もあります。
売買契約の前に、専門家と確かめること

確かめるのは、土地の売買契約を結ぶ前です。買ったあとでは、擁壁の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。がけの高さと、がけからの距離は、現況の測量図と断面図がないと自分では判断できません——測量と図面は建築士に、条例の当てはめは所管の建築行政の窓口に確かめてください。どこを上端・下端とみるかも、窓口に確かめてください。
- ① 計画地の所管はどこか。盛岡市内は盛岡市、花巻市・北上市・奥州市・一関市・釜石市・宮古市の市内の小規模な建築物等はそれぞれの市、それ以外は県(各広域振興局土木部等の建築指導課)です。県へ書面で出す案件の経由窓口は原則として各市役所または町村役場(令和8年8月1日からの電子申請の試行では、7市町の対象手続の申請先は盛岡広域振興局土木部建築指導課。指定確認検査機関へ出すならその機関)。県の窓口は令和8年4月1日に再編されているので、県の「確認申請等窓口一覧」で現在の担当を確かめます
- ② 敷地の内外に、「勾配30度を超え、高さ2メートルを超える」崖があるか。硬岩盤は崖から外れますが、風化の著しいものは硬岩盤から除かれます。盛土規制法施行令第1条第3項では、下の崖面の下端を含む30度の面より上に上の崖面の下端があるとき、上下の崖を一体とみなします——県条例第6条でも同じ扱いになるかは、所管の窓口で確かめます
- ③ 建築物を建築する位置、または建築物の敷地を造成する範囲が、「崖」「崖の上に接する土地」「崖の下に接する土地」のいずれかに当たるか。崖の上は下端から、崖の下は上端から、水平距離が崖の高さの2倍以内かどうかで決まります(第6条第1項)。これは離す距離ではなく、規制がかかる範囲です。現況測量図と配置図を持って窓口へ
- ④ 範囲に入るなら、第1号・第2号のどちらかに当たるか。当たらないなら、安全上支障がない擁壁の類を設けます(第6条第1項)。崖の上に接する土地では、第2号(鉄筋コンクリート造等の建築物)を使う道がありません——第2号は「崖又は崖の下に接する土地」に限られています
- ⑤ 設ける擁壁の高さが2メートルを超えるなら、構造は令第142条に従い、鉄筋コンクリート造・無筋コンクリート造には盛土規制法施行令第9条、間知石練積み造その他の練積み造には同令第10条の基準を確かめます(第6条第2項)。高さ2メートルを超える擁壁は令第138条第1項第5号の工作物で、工作物の確認申請の要否と、盛土規制法・都市計画法などの許可との関係(法第88条第4項)を、擁壁の高さ・位置・工事区分を書いた図面を持って窓口で確認します
- ⑥ 崖、または崖の上に接する土地に建てるなら、敷地に適当な排水設備を設ける(第6条第3項)。崖の下に接する土地は、この第3項の文言には入っていません
- ⑦ 確認申請には、崖の上端又は下端から建築物までの水平距離、崖の形状及び土質を示す図書を添える(県細則第5条。盛岡市・釜石市・北上市の細則にも同じ定めがあります)。法第87条第1項により確認申請が必要となる用途変更(類似の用途相互間の変更は除かれます)の場合も同じです
- ⑧ 災害危険区域に入っていないか。県条例第2条の区域なら、住居の用に供する建築物は第3条の構造・開口部・居室の規制を受けます(禁止ではありません)。沿岸の市町村が、津波を原因とする別の災害危険区域条例を持っていることがあります——本稿で条文を確認したのは陸前高田市(住居の用に供する建築物の建築禁止)と釜石市(第1種区域は禁止、第2種区域は市長が別に定める基準)の2市です。計画地の市町村役場で確かめます
- ⑨ 土砂災害警戒区域・特別警戒区域は、この条例とは別の法律です。最新の指定と数値は県が公示した指定の図書で確認します(ハザードマップは作成時点の指定のことがあります)。レッドゾーン内の住宅を移す場合には、県の「がけ崩れ危険住宅移転促進支援制度」があります——県のページが挙げる5つの条件を全て満たす住宅が対象で、土台になる市町村事業「がけ地近接等危険住宅移転事業」の実施内容は市町村によって異なります。市町村の担当課へ
- ⑩ 都市計画区域の外でも建築確認が要ります(法第6条第1項第3号。知事指定区域は、県内全域のうち都市計画区域・準都市計画区域・準景観地区を除く区域で、都市計画区域等と合わせると県内全域を覆います。防火地域及び準防火地域外での10平方メートル以内の増築・改築・移転は、法第6条第2項で確認が要りません)。仮設でも、条例の側に第6条を外す定めはありません(条例第21条の列挙に第6条はありません。法第85条第1項・第2項の国法上の適用除外は別です)。違反すれば第22条・第23条の罰金(50万円以下・原則は設計者)と、建築基準法第9条の是正命令の対象になり得ます
- 土砂災害防止法第25条は、建築基準法第6条第1項第3号の区域の外にある特別警戒区域内の居室を有する建築物のうち、同項第1号・第2号の建築物を除くものを、第3号区域内の建築物とみなす規定です。敷地が区域の内外にわたる場合は、法第91条により敷地の過半で判断します。岩手では第3号の区域が県内をひととおり覆うため、第25条が確認の対象区域を新たに広げる余地は、条文の上では残りません(これは条文からの読みで、県の解説で裏を取ったものではありません)。
個別の敷地でどう当たるかの判断は、建築士と、計画地を所管する建築指導の窓口にご確認ください。ここで挙げているのは、行政の相談窓口です。建築確認そのものは、業務の範囲内であれば指定確認検査機関にも申請できます——その確認は法第6条第1項の確認とみなされます(法第6条の2第1項)。行政庁へ申請・相談する案件は所管の建築指導窓口へ、指定確認検査機関へ申請または事前相談する案件は、まずその機関へ相談してください。県の案内では、審査上の疑義は、指定確認検査機関から県の建築指導課へ照会される扱いです。第6条の解説・運用資料に当たるものは、上に挙げた県の5ページと盛岡広域振興局土木部の建築指導情報を開いた範囲では見当たりませんでした。条文の当てはめは、図面を持って窓口で聞くのが確実です。
出典
- 建築基準法施行条例(平成12年岩手県条例第37号・岩手県例規集/第1条・第2条・第3条・第6条・第17条・第20条・第21条・第22条・第23条)
- 建築基準法施行細則(昭和47年岩手県規則第12号・岩手県例規集/第5条)
- 岩手県 建築基準法施行条例・建築基準法施行細則(案内ページ)
- 岩手県 建築基準法第6条第1項第3号の規定による区域の指定(県内全域のうち都市計画区域・準都市計画区域・準景観地区を除く区域)
- 岩手県 建築指導課(県の出先機関)の業務について(所管地域と対象規模)
- 岩手県 建築基準法等の審査・相談窓口及び建築計画概要書閲覧場所の変更(令和8年4月1日から)
- 岩手県 「がけ崩れ危険住宅移転促進支援制度」の概要
- 盛岡市建築基準法施行細則(市例規集・第5条第1号)
- 釜石市建築基準法施行細則(市例規集・第4条)
- 北上市建築基準法施行細則(市例規集・第4条)
- 陸前高田市災害危険区域に関する条例(市例規集)
- 釜石市災害危険区域に関する条例(市例規集)
- 釜石市災害危険区域に関する条例施行規則(市例規集)
- 建築基準法(e-Gov法令検索・第3条・第6条・第6条の4・第9条・第19条第4項・第39条・第40条・第85条・第86条の7・第87条・第88条・第91条)
- 建築基準法施行令(e-Gov法令検索・第10条・第80条の3・第137条の2・第137条の16・第138条・第142条)
- 宅地造成及び特定盛土等規制法施行令(e-Gov法令検索・第1条・第9条・第10条)
- 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(e-Gov法令検索・第9条・第10条・第11条・第25条)
- 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(e-Gov法令検索・第3条・第7条)
- 災害により破損した建築物の応急の修繕に係る建築基準法の取扱いについて(国住指第27号・平成23年4月5日・国土交通省PDF)
- 岩手県「がけ崩れ危険住宅移転促進支援制度」の概要(見出しと箇条書きは原文の改行のまま)
擁壁の形や寸法の一般的な考え方は、擁壁の選び方にまとめています(条例の第6条の当てはめは、この記事に書いた窓口で確かめてください)。
