東京都で、高さ2メートルを超えるがけの近くで建物を建築するなら、原則として「高さ2メートルを超える擁壁」が要ります(2メートル超は条文が置いた擁壁の下限で、実際に必要な高さ・構造は、がけと地盤の条件で決まります)。かかる範囲は、がけの下端から水平距離で「がけ高の2倍以内」。ここでいう建築は新築だけでなく増築・改築・移転を含み、建物を建てるときだけでなく、建築敷地を造成するときも対象です。
この記事は、いわゆる「がけ条例」——正式には東京都建築安全条例第6条・第6条の2——を、現行条文(東京都例規集データベース・内容現在 令和8年6月15日。条例の直近の改正は令和7年条例第53号=令和7年4月1日施行、第6条自体の直近の改正は平成19年条例第112号)から読んだ整理です。がけのある土地を買う人、建てる人、設計する人向けに、現行条文を軸に、都・区市の公表資料も参照して整理しています。

「がけ条例」という名前の条例はありません
「がけ条例」は通称です。東京都の実体は、東京都建築安全条例(昭和25年条例第89号)の第3節「がけ」=第6条と第6条の2。建築基準法第40条は、地方の気候・風土の特殊性などにより、法令の規定だけでは建築物の安全・防火・衛生の目的を十分に達し難いと認める場合に、地方公共団体が条例で必要な制限を付加できると定めています。第6条・第6条の2は、この第40条(工作物については法第88条第1項の準用を含む)に基づく付加制限です。条例全体には、法第43条第3項など別の根拠による規定もあります(第1条)。
だから、罰金の額だけを見て軽く考えないでください。建築基準法の委任を受けた条例の制限なので、建築確認等の対象となる計画では、この条例への適合も原則として確認審査の対象です。確認特例(法第6条の4・令第10条)による審査省略は、建築物・設計者の区分と、法第39条から第41条までに基づく条例規定のうち特定行政庁が規則で定めた規定の範囲で決まります。適合義務は、審査の範囲とは別に生じます。
第6条第2項の擁壁設置義務がかかるのは「高さ2メートルを超えるがけ」。測り方に定義があります

第六条 この条にいうがけ高とは、がけ下端を過ぎる二分の一こう配の斜線をこえる部分について、がけ下端よりその最高部までの高さをいう。
東京都建築安全条例 第6条第1項(原文の傍点は省略)
読み方はこうです。がけの下端から「2分の1勾配」(水平2に対して垂直1)の斜線を引き、その斜線を超える部分について、下端から最高部までの高さを「がけ高」として測ります。この斜線は「超える部分」があるかを判定するためのもので、超える部分があるときの高さはがけの下端から測ります——斜線より下の高さを差し引く、という意味ではありません。上部がゆるい斜面でも、その斜線を超えている部分は、最高部の判定に含まれます。第6条第2項の擁壁設置義務の対象になるのは、この測り方で高さ2メートルを超えるがけです。
ただし、第6条第2項の擁壁設置義務の対象にならない斜面や、がけ高2倍の範囲の外でも、安全の検討が不要になるわけではありません。建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれがあると判断される場合には、建築基準法第19条第4項により、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければなりません。個別の計画がその「おそれのある場合」に当たるかは、がけの状態・距離・地盤・建物の計画などによって判断されます。第6条の数字は「条例の擁壁義務の入口」であって、「安全検討の入口」ではありません。
かかる範囲は「がけ高の2倍以内」。建てるときだけでなく、造成も

2 高さ二メートルを超えるがけの下端からの水平距離ががけ高の二倍以内のところに建築物を建築し、又は建築敷地を造成する場合は、高さ二メートルを超える擁壁を設けなければならない。
同 第6条第2項本文
たとえば高さ3メートルのがけなら、下端から水平に6メートル以内が範囲です。がけの上も下も、この距離の中に入れば対象になります。そして主語をよく見てください——「建築物を建築し、又は建築敷地を造成する場合」。「建築」は建築基準法第2条第1項第13号の定義で、新築・増築・改築・移転を含みます(大規模の修繕・模様替や用途変更は、この「建築」には含まれません)。ただし、これは用語の定義の話です。建築基準法第3条第2項により、第6条・第6条の2の適用を受けない建築物またはその敷地(規定の施行・適用の際に現に存する建築物・敷地のほか、現に工事中のものも同項の対象です)について、増築・改築・大規模の修繕・模様替や用途変更をする場合の扱いは別問題です。用途変更では、建築基準法第87条第3項の対象となる場合に、同項各号のいずれかに該当する場合を除き、既存不適格となっている条例規定の遡及適用が問題になります。単に古い建物というだけでは既存不適格とは限りません。既存建築物の緩和が適用されるのは、既存不適格となっている規定についてで、違反している規定には適用されません——第6条・第6条の2について従前の規定に適合していたかを、他の規定と分けて確認します。この条例の既存建築物の緩和規定(第8条の21・第8条の22)の緩和対象に、第6条・第6条の2は含まれていません——個別の計画での適用は、窓口で確認してください。なお、移転は別の仕組みです。既存不適格の建物を、建築基準法第86条の7第4項・施行令第137条の16の範囲内——同一敷地内の移転か、交通上・安全上・防火上・避難上・衛生上・市街地の環境の保全上支障がないと特定行政庁が認める移転——で移転する場合は、条例を含む建築基準法令の規定について、既存不適格の緩和が適用される場合があります。都は、この法の緩和が条例の規定にも及ぶため、第8条の21には移転の緩和を別途規定していない、と説明しています。そして家を建てる場合だけでなく、建築敷地を造成する場合にもかかります。
義務の中身は、第6条第2項に適合する擁壁を設けることです。同項は擁壁を「高さ2メートルを超える」ものとしていますが、これは一律の設計高さではありません——実際に必要な高さ・位置・構造は、がけや背面の地盤の形状・荷重・地盤の条件などに応じて決まります。第6条第2項ただし書には、次の3つの型の例外があります(なお、条例全体には、特定の仮設興行場等に条例を適用しない第8条の2などの別の適用除外もあります——一般の住宅・建築物の計画で中心になるのは、この3つです)。
規制の範囲に、既に擁壁がある場合は、新設や例外の検討に入る前に、その擁壁が使えるかの確認から入ります。役割は分かれています——検査済証などの資料の有無は所管の行政庁で確認し、使えるかどうかは、いまの劣化・変状・構造・計画後に上に載る荷重などを踏まえて、設計者等が検討します。確認申請に関わる案件は、申請先となる特定行政庁または指定確認検査機関に、必要な資料と取扱いを確認してください。
第6条第2項ただし書の例外は3つ——がけ自体・がけ上の建築・がけ下の建築

ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。
同 第6条第2項ただし書
一 斜面のこう配が三十度以下のもの又は堅固な地盤を切つて斜面とするもの若しくは特殊な構法によるもので安全上支障がない場合
二 がけ上に建築物を建築する場合において、がけ又は既設の擁壁に構造耐力上支障がないとき。
三 がけ下に建築物を建築する場合において、その主要構造部が鉄筋コンクリート造若しくは鉄骨鉄筋コンクリート造であるか、又は建築物の位置が、がけより相当の距離にあり、がけの崩壊に対して安全であるとき。
- 第1号(がけそのものの性質)——①斜面の勾配が30度以下、②堅固な地盤を切って斜面とする、③特殊な構法による、のいずれかで、かつ安全上支障がない場合。勾配を30度以下にしただけで、自動的に例外になるものではありません
- 第2号(がけの上に建てる)——がけ、または既にある擁壁に構造耐力上支障がないとき
- 第3号(がけの下に建てる)——建物の主要構造部が鉄筋コンクリート造か鉄骨鉄筋コンクリート造であるか、建物の位置ががけから相当の距離(条例の本文に、距離をメートルで示した一律の数値はありません)にあって崩壊に対して安全であるとき。構造種別の名前だけで自動的に当たるものではなく、部位・開口部・崩壊時に受ける力を含めて、安全な計画であることの確認が要ります
射程に注意してください。第2号と第3号は、条文上「建築物を建築する場合」の例外です。建築を伴わず、建築敷地だけを造成する場合には、第2号・第3号は適用対象ではありません。
どの号も、「該当すれば例外」であって、自己申告で決まるものではありません。「安全上支障がない」「構造耐力上支障がない」「相当の距離」への該当は、客観的に満たす必要があり、確認等で審査対象となる計画・範囲では、必要な資料をもとに確認されます——確認特例の適用や、審査対象となる規定・図書は、申請先に確認してください。建築を伴わない造成や、別の法令の許可の対象となる工事は、必要な手続と審査先を所管の窓口に確認してください。がけのある計画は、早い段階で建築士と、都・区市の建築指導の窓口へ。
擁壁を造るなら、構造と排水にも条件があります
3 前項の規定により設ける擁壁の構造は、令第百四十二条第一項の規定によるほか、土の摩擦角が三十度以下(土質が堅固で支障がない場合は、四十五度以下)であつて、基礎と地盤との摩擦係数が〇・三以下(土質が良好で支障がない場合は、〇・五以下)の場合にも安全でなければならない。
同 第6条第3項
構造の条件(第3項)がかかるのは、条文どおりなら「前項の規定により設ける擁壁」=第6条第2項の義務で設ける擁壁です。その構造は建築基準法施行令第142条第1項の構造規定に従ったうえで、この条例が足す条件——土の摩擦角30度以下(土質が堅固で支障がない場合は45度以下)であって、基礎と地盤の摩擦係数0.3以下(土質が良好で支障がない場合は0.5以下)——の場合にも安全であることが求められます。
4 擁壁等には、次の各号に定める排水のための措置を講じなければならない。
同 第6条第4項
一 擁壁には、壁面の面積三平方メートル以内ごとに耐水材料を用いた水抜穴を設けること。
二 擁壁には、水抜穴の裏面の周辺その他必要な箇所に砂利等の透水性の層を設けること。
三 擁壁の上部の地表面(傾斜面を含む。)には、雨水及び汚水の浸透を防ぐための不透水性の層又は排水施設等を設けること。
排水の措置(第4項)の主語は、第3項と違って「擁壁等」です。3つの号すべてへの対応が要ります(ただし第3号の中身は、「不透水性の層」又は「排水施設等」の選択です)。第3項=第2項の義務で設ける擁壁の構造、第4項=擁壁等の排水——2つの項は主語が違うので、一括りにしないでください。
さらに、擁壁の基礎の位置にも定めがあります。
第六条の二 擁壁の基礎の底部は、がけの下端を過ぎるこう配三十度以内の良好な地盤に達しなければならない。ただし、構造計算又は地盤調査その他の方法により、そのがけの全体が構造耐力上安全であることが確かめられた場合においては、この限りでない。
同 第6条の2
基礎の底は、がけ下端から勾配30度以内の線より深い、良好な地盤に届かせる——これが原則です。この原則によらない場合は、構造計算、地盤調査その他の方法により、がけの全体が構造耐力上安全であることを確かめる必要があります(ただし書)。必要になる調査・計算の中身は、地盤と計画によって異なります。
区市町村が同等以上の制限を条例で定めた場合、対応する都条例の規定は適用されません
第一条の三 特別区及び市町村(以下「区市町村」という。)が法第四十条、法第四十三条第三項、令第百二十八条の三第六項及び令第百四十四条の四第二項の規定に基づき制定する条例(以下「区市町村条例」という。)により、この条例と同等以上の制限の付加等を講ずることとなるよう定めている場合は、当該区市町村条例の規定に相当するこの条例の規定は、当該区市町村の区域内においては、適用しない。
同 第1条の3
置き換わるのは「相当する規定」だけで、条例全体ではありません。要件は3つ——第1条の3に列挙された法令の委任に基づく区市町村条例であること、都条例と同等以上の制限等を講ずる内容であること、その条例の規定に相当する都条例の規定であること。敷地のある区市町村の条例にこの要件を満たす定めがあるか、がけの規定が置き換わっているかは、その区市町村の建築指導の窓口で確認してください。
第6条(第1項を除く)・第6条の2の違反は、設計者に10万円以下。一定の施工では施工者が対象です
2 第六条(第一項を除く。)及び第六条の二の規定に違反した工作物の設計者(設計図書を用いないで工事を施工し、又は設計図書に従わないで工事を施工した場合においては、その工作物の工事施工者)は、十万円以下の罰金に処する。
同 第83条第2項
第6条(第1項を除く)・第6条の2の違反について、基本の罰則がこの第83条第2項——工作物(擁壁)の設計者に10万円以下の罰金で、設計図書を用いないで施工した場合・設計図書に従わないで施工した場合は、工事施工者が対象です。第83条第1項の罰金(20万円以下)の対象条文の列挙には、第6条も第6条の2も含まれていません——第6条(第1項を除く)と第6条の2の違反は、第2項の10万円以下の対象です。さらに、違反が建築主・工作物の築造主の故意によるときは、その建築主・築造主にも同じ刑が科されることがあり(同条第3項)、法人の代表者や、法人又は人の代理人・使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して違反行為をした場合は、行為者を罰するほか、その法人又は人にも罰金刑が科されます(同条第4項)。
問題になるのは、罰金だけではありません。第6条・第6条の2は、建築基準法第40条(工作物については第88条第1項の準用を含む)に基づく付加制限です。建築確認等の対象となる計画では、条例への適合も原則として確認審査の対象です。確認特例(法第6条の4・令第10条)による審査省略は、建築物・設計者の区分と、法第39条から第41条までに基づく条例規定のうち特定行政庁が規則で定めた規定の範囲で決まります——適合義務は、審査の範囲とは別に生じます。建築物の位置や建築敷地の造成範囲が、がけ高2倍の範囲に入る計画では、擁壁の費用や構造の制約を、土地選びや配置計画の段階から織り込んで検討することになります。造成などについて別法令の許可が必要になる場合の基準・審査の範囲は、各法令の所管窓口で確認してください。なお、建築物の確認済証が交付されたことは、既存のがけや擁壁そのものの恒久的な安全性を保証するものではありません。
土砂災害の区域の話は、別の法律です
がけの近くの土地は、この条例とは別に、土砂災害防止法の土砂災害警戒区域(イエローゾーン)または土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)に指定されていることがあります。警戒区域では警戒避難体制の整備などが行われ、特別警戒区域では、これに加えて、住宅(自己居住用を除く)や、高齢者・障害者・乳幼児など特に防災上の配慮を要する人が利用する社会福祉施設・学校・医療施設(政令で定めるもの)を建てるための土地の区画形質の変更(特定開発行為)の許可や、居室を有する建築物の構造規制などが問題になります。入口も基準もこの条例とは別物です。最新の指定状況と区域の境界は、都が公表する指定の図書で確認してください。市区町村のハザードマップは避難の確認に有用ですが、作成時点より後の指定が反映されていないことがあります。レッドゾーン内の居室を有する建築物について、令第80条の3に対応する2つの方法——外壁等(外壁・構造耐力上主要な部分のうち、土石等の高さ等以下で、土砂災害の原因となる自然現象〔河道閉塞による湛水を除く〕により衝撃が作用すると想定される部分)を所定の構造にするか、土石等の高さ等以上の高さで、外壁等と同等以上の耐力を有するものとして国土交通大臣が定めた構造方法による門・塀を、衝撃を遮るように設けるか——と、改修への補助の枠組みは、レッドゾーンの家と土地で整理しています。擁壁の選び方も合わせてどうぞ。
いま、確かめておくこと

- ① 計画地の周辺に、高さ2メートルを超えるがけがあるか。敷地の中・隣地に限りません。がけ高は、下端を過ぎる2分の1勾配の斜線を超える部分がある場合に、その部分の最高部までを下端から測ります(第6条第1項)
- ② 建てたい位置・造成したい範囲は、がけの下端から水平距離で「がけ高の2倍以内」に入るか(同条第2項。がけの上も下も対象。道路・水路・別の敷地を挟んでいても、水平距離で判定します)
- ③ 建築物がある場合・建てる場合は、①の測り方で第6条第2項の義務の対象にならない斜面や、②の範囲の外でも、その建築物ががけ崩れ等の被害を受けるおそれがないかを別に確認。おそれがあると判断される場合は、建築基準法第19条第4項の安全上適当な措置が必要です。建築を伴わず建築敷地だけを造成する場合は、第6条第2項と、造成に関係する別法令の手続・基準を確認します
- ④ 入るなら——既にある擁壁が使えるか(劣化・変状・検査済証等の資料)の確認から。使えなければ、第2項に適合する擁壁を設けるか、同項ただし書への該当を検討。建築物を建てる場合は例外3つの型(勾配30度以下等で安全上支障がない/がけ上でがけ・既設擁壁に構造耐力上支障がない/がけ下でRC・SRC造、または相当の距離にあって崩壊に対して安全)を検討。構造種別の名前や距離だけで、自動的に例外になるものではありません。建築を伴わず敷地だけを造成する場合は、第2号・第3号は適用対象外——第1号への該当等を確認。必要な資料・調査・計算は例外の型と計画で異なり、確認等で当該事項が審査対象となる計画・範囲では、それらの資料をもとに確認されます
- ⑤ 第6条第2項の義務で擁壁を設けるなら——令第142条第1項+摩擦角30度以下(土質が堅固で支障がない場合は45度以下)・摩擦係数0.3以下(土質が良好で支障がない場合は0.5以下)の場合にも安全であること(第3項)。擁壁等の排水は——壁面3平方メートル以内ごとに耐水材料を用いた水抜穴+水抜穴の裏面周辺等に透水層+上部の地表面(傾斜面を含む)に不透水性の層又は排水施設等(第4項)。基礎の底部はがけ下端から勾配30度以内の良好な地盤へ。ただし構造計算又は地盤調査その他の方法で、がけ全体が構造耐力上安全と確かめられた場合はこの限りではありません(第6条の2)
- ⑥ 敷地のある区市町村に、第1条の3に列挙された法令に基づく建築条例があり、都条例と同等以上の制限等を定めているか。その場合も、適用されなくなるのはその条例の規定に相当する都条例の規定だけです(第1条の3)。区市町村の建築指導窓口へ
- ⑦ 土砂災害警戒区域・特別警戒区域に入っていないか。こちらは別の法律です。最新の指定は、都が公表する指定の図書で確認(ハザードマップは作成時点の指定のことがあります)
個別の敷地でどう当たるかの判断は、建築士と、都・区市の建築指導の窓口にご確認ください。この記事は、現行条文(内容現在 令和8年6月15日)を軸に、都・区市の公表資料を参照して書いています。
出典