水戸市で、崖の近くに家を建てる・土地を買う人へ——最初に答えから。
先にすることは、3つです。崖の規定がかかっても、建てられないと決まったわけではありません。まず、土地の売買契約を結ぶ前に動く(すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に)——買ったあとでは、擁壁(ようへき=崖の土が崩れないよう支える壁)の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。つぎに、建築士に現況の測量図・断面図・配置案を用意してもらう。そのうえで、その図面を持って水戸市建築指導課の窓口へ、条例の当てはめを確かめる。高さも角度も距離も、目測で判断しないでください。
①その土地は水戸市内ですか。はい=水戸市建築基準条例 第5条です。茨城県建築基準条例の崖の規定は適用されません(県条例第46条の7第1項)。いいえ(水戸市以外)の方へ——その市町村が茨城県建築基準法等施行細則 第19条に挙げられていなければ、読むのは茨城県建築基準条例 第5条です。まず、その市町村の建築の窓口に、どちらを読むのかを確かめてください。②水戸市の第5条は、高さが2メートルを超える崖(勾配が30度を超える傾斜地)について、水平距離が崖の高さの2倍以内の位置に建築物を建築し、または建築物の敷地を造成するときに、安全な擁壁を設けなければならないと定めています。③距離の起点が、建てる場所と反対側の端になります——崖の上に建てるなら崖の下端(かたん=斜面の低いほうの足元)から、崖の下に建てるなら崖の上端(じょうたん=斜面の高いほうの肩)からです。近いほうの端から測るのではありません。④安全な擁壁を設ければ、第5条第1項については原則として建てられます。第2項の除外に当たる場合もあります。⑤ただし、災害危険区域(条例第55条・第56条)・レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)・イエローゾーン(土砂災害警戒区域)・法第19条第4項は、別に残ります。(条例・解説・法令は2026年9月5日に原文を確認しました)。
水戸市内なら、水戸市建築基準条例 第5条です

「がけ条例」という名前の条例はありません。水戸市では、建築基準法第40条などに基づく水戸市建築基準条例(平成12年3月29日 水戸市条例第7号)の第3章「崖」第5条が、崖に近い建築物の決まりです。市自身も、正式な「がけ条例」は存在せず、この規制は水戸市建築基準条例第5条に含まれている、と説明しています。
茨城県建築基準条例(昭和36年茨城県条例第21号)は、水戸市の区域では原則として適用されません。県条例第46条の7第1項は、法第4条第1項または第2項の規定により建築主事(けんちくしゅじ=建築確認の審査をする行政の職員)を置く、規則で定める市町村の区域内においては適用しない、と定めています。その「規則で定める市町村」を挙げているのが、茨城県建築基準法等施行細則 第19条です。
(適用除外)
茨城県建築基準条例 第46条の7第1項
第46条の7 この条例(第4章の4(第46条の4第1項第2号に掲げる区域に係る部分に限る。)の規定を除く。)は,法第4条第1項又は第2項の規定により建築主事を置く規則で定める市町村の区域内においては,適用しない。
その細則第19条に、水戸市が挙げられています。だから、水戸市の区域にかかるのは、県条例ではなく市の条例です。規制が無くなるのではなく、読む条例が入れ替わります。細則第19条に挙げられた市町村が、どれも同じように自前の崖の規定を持っているとは限りません——第46条の7が書いているのは、県条例を適用しないところまでです。水戸市以外の市町村については、その市町村の窓口で確かめてください。
県条例が「全部」消えるわけではありません。第46条の7第1項の括弧書きは、第4章の4のうち第46条の4第1項第2号に掲げる区域に係る部分を除外から外しています。第46条の4第1項第2号は「出水による危険の著しい区域として知事が指定した区域」——つまり水(出水)のほうの災害危険区域です。崖の規定(県条例第5条)は水戸市の区域では適用されませんが、出水の区域の話は県条例の側に残ります。崖の話をしているのか、水の話をしているのかを、窓口で取り違えないでください。
第3章 崖
水戸市建築基準条例 第5条第1項
第5条 高さが2メートルを超える崖(勾配が30度を超える傾斜地をいう。以下この条において同じ。)の上に建築物を建築する場合において,当該崖の下端から(崖の下に建築物を建築する場合にあっては,当該崖の上端から)の水平距離が当該崖の高さの2倍以内の位置に建築物を建築し,又は建築物の敷地を造成するときは,当該崖の形状若しくは土質又は建築物の位置,規模若しくは構造に応じて,安全な擁壁を設けなければならない。ただし,崖の形状又は土質により安全上支障がないと認めるときは,この限りでない。
どこからが「崖」か——高さが2メートルを超え、勾配が30度を超えるもの
条文は、「崖」を勾配(こうばい)が30度を超える傾斜地と定義し、そのうえで高さが2メートルを超えるものを第5条の対象にしています。勾配が30.0度ちょうどの傾斜地は、この条にいう「崖」に当たりません(条文は「超える」です)。勾配が30度を超えていても、高さが2.0メートルちょうどなら、第5条第1項の対象にはなりません——「崖」に当たるかどうかは勾配だけで決まり、第5条第1項がかかるかどうかは、そこに高さが加わって決まります。勾配も高さも、条文は「超える」なので、ちょうどの数字は入りません。第1項の対象にならなければ、第5条第1項の擁壁の義務はかかりません。ただし、そこで外れるのは第5条第1項だけです——建築基準法第19条第4項に、崖の高さの下限はありません。市の解説は、高さは、崖の下端からその下端を通る30度の勾配線を超える最も高い部分までの垂直距離で算定する、と書いています。
この規定は、崖が敷地の外にあってもかかります。市の解説は、この崖は水戸市で位置を指定するものではないこと、崖に当たるかは敷地及びその周辺の土地の測量の結果から判断すること、崖に該当する土地の所有者に関わらず適用されることを、はっきり書いています。「うちの敷地の中に崖はない」は、外れる理由になりません。そして、斜面の上に立って目で見ただけでは、30度を超えているかどうかは分かりません。2メートルちょうどに見える崖が、測ったら2.1メートルだった——見た目だけでは、2メートルを超えるかどうかは判断できません。建築士に、必要な測量を含めて図面化してもらってください。土質の判定は地盤調査、条例の当てはめは市の窓口です。
崖が上下に分かれて見える場合の扱いも、解説にあります——崖の途中に小段(こだん=斜面の途中の平らな段)や通路を含んで崖が上下に分離されている場合は、下層の崖の下端から30度の勾配を持つ線を想定し、上層の崖がこの線より上に出るときに限って、これを一体の崖と考えて高さを算定する。段があるから別々に数えてよい、とは限りません。現地測量の結果を断面図に反映し、その図面を使って判定します。
建築物のどこが範囲に入れば対象になるのか、についても解説が線を引いています——適用範囲内に外壁面(壁がない場合はこれに代わる柱外面)が含まれる建築物が規制の対象で、基礎や庇(ポーチ、ベランダを含む)だけが範囲内にある場合は規制対象外。ただし庇でも面積に算入される部分が範囲内に入れば規制対象です。
さらに、市の解説は、運用上「崖」に含まないものを3つ挙げています——道路法の道路区域内の法面、河川法の河川区域内の堤防・護岸、鉄道事業法・軌道法の軌道敷きの法面。いずれも「その下方に建築する場合」に限られます。上に建てるなら、この扱いにはなりません。市は、それでも「現地の状況に応じて安全上適当な措置を講じることが望ましい」と付け加えています——安全の保証ではありません。
距離の起点は、建てる場所と反対側の端です
ここが、いちばん間違えやすいところです。条文は、崖の上に建築物を建築する場合は「崖の下端から」、崖の下に建築物を建築する場合は「崖の上端から」の水平距離が、崖の高さの2倍以内かどうかを見る、と書いています。建てる場所に近いほうの端ではありません。崖の上に建てるのに、足元(下端)から測る。崖の下に建てるのに、肩(上端)から測る。起点が、入れ替わります。
この測り方だと、崖そのものの水平の幅(斜面が水平方向に占める長さ)も、「2倍」の中に含めて数えることになります。たとえば高さ4メートルの崖なら、2倍は8メートル。崖の上に建てるなら、下端から8メートルの範囲です。この8メートルには、斜面が水平に占めている長さが入ります。「崖の肩から8メートル」ではありません。図面で、どちらの端が起点かを最初に決めてください。市の解説には、この2倍の範囲を示した図が図-3から図-14まであります——既存の擁壁がある場合、崖の下に水路がある場合など、形で見方が変わります。複雑な形のときは、その図と窓口で確かめてください。
そして対象は、建物を建てる場合だけではありません。条文は「建築物を建築し、又は建築物の敷地を造成するとき」と書いています——造成の段階から、この規定はかかります。建築物の敷地を造成する工事なら、建物の設計より前でも対象になり得ます。
2倍を超えて離れていても、「何もしなくてよい」という意味ではありません。2倍を超えれば第1項の本文はかかりませんが、建築基準法第19条第4項は別に残ります。同項は、建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合に安全上適当な措置を求めるもので、崖の高さにも、距離にも、条文上の線引きがありません。「2倍の外だから条例第5条第1項の義務はかからない」——ここまでが正しい読み方です。
安全な擁壁を設ければ、第5条第1項については原則として建てられます——ほかの規制は別に確かめます
擁壁だけが道ではありません。条文は、崖と当該建築物との間に安全な施設を設けたときにも、この義務を適用しないと書いています(第5条第2項)。★市の解説は、この道の運用までは書いていません——何をもって「安全な施設」とするかは、設計者を通じて市の窓口に確かめてください。擁壁で受けるか、あいだで受けるか、建物側で受けるか——どれが自分の敷地に合うかは、設計者に見積りを並べてもらって比べてください。
安全な擁壁を設ければ、道はあります。まず見るのは、2倍以内に入るかどうかです。2倍を超えて離れていれば、第1項本文はかかりません(外れるのは第1項本文だけです——災害危険区域・土砂災害の区域・法第19条第4項は、別に確認してください)。入るなら、義務の形は「離しなさい」ではなく「設けなさい」です——条文は「◯倍以上あければよい」という書き方になっていません。崖の形状もしくは土質、または建築物の位置・規模もしくは構造に応じて、安全な擁壁を設ける——これを満たせば、第5条第1項については、原則として建てられます。
「原則として」と書くのには、理由があります——これは第5条第1項の義務を満たすという意味で、建築基準法第19条第4項、条例第55条・第56条の災害危険区域、土砂災害の区域は、別に確認してください。
第1項ただし書は、崖の形状または土質により安全上支障がないと認めるときは、この限りでない、と定めています。市の解説は、これを宅地造成及び特定盛土等規制法施行令第8条第1項第1号イまたはロの崖面に該当する場合としています。イは、切土をした土地の部分に生ずる崖または崖の部分で、その土質と勾配が同令別表第1の角度の範囲に収まるものの崖面。ロは、土質試験等に基づき地盤の安定計算をした結果、崖の安定を保つために擁壁の設置が必要でないことが確かめられた崖面です。
「擁壁がすでにある」ことと、「安全な擁壁がある」ことは、別です。条文が求めているのは安全な擁壁で、そこに古い石積みや練積みがあることではありません。いつ・どういう基準で造られたのか、検査済証(けんさずみしょう=工事が基準に合っていると確かめられた証明書)などの書類が残っているのか、いまの状態はどうか——ここが確かめられなければ、条文の要求を満たしていると言うことはできません。既存の擁壁がある土地では、売買契約の前に、その擁壁の資料が残っているかを売主に確かめてください。資料が無いこと自体が、費用の見積りを変えます。なお、高さが2メートルを超える擁壁は、工作物(こうさくぶつ=建物ではないが土地に定着する構造物)として建築主事等または指定確認検査機関の確認を受ける必要があります(建築基準法施行令第138条第1項第5号が「高さが二メートルを超える擁壁」を指定し、手続は法第88条第1項)——「擁壁を造れば終わり」ではありません。
次に数字が出てきますが、この表は土質を専門家が判定して初めて使えます。角度だけを、自分の土地に当てないでください。同令別表第1の角度は、軟岩(風化の著しいものを除く)は60度/80度、風化の著しい岩は40度/50度、砂利・真砂土(まさど)・関東ローム・硬質粘土その他これらに類するものは35度/45度です。市の解説の表は、小さいほうの数字を「擁壁を要しない勾配の上限」、大きいほうを「擁壁を要する勾配の下限」と呼んでいます。この2つの数字は、3つの区分を作ります。小さいほうの角度以下なら擁壁は要らない。小さいほうを超えて、大きいほうの角度以下なら、その崖の上端から下方に垂直距離5メートル以内の部分に限って擁壁は要らない。大きいほうの角度を超えれば擁壁が要る——という並びです。たとえば軟岩の70度は、60度を超えて80度以下なので、真ん中の区分に入ります。土質の見分けは、素人には決められません。決めるのは地盤調査と建築士で、当てはめを確かめるのは市の窓口です。「うちは岩だから大丈夫」で終わらせないでください。
擁壁の代わりに、建物側で受ける道もあります(第5条第2項)
ここは「安く済む道」ではありません。第5条第2項に当たれば擁壁を設けなくてよくなりますが、代わりに基礎や建物の構造で崖崩れを受け止めることになります。擁壁より安く済むとは限りません。どちらが安いかは、設計者に両方の見積りを出してもらって比べてください。
2 前項本文の規定は,崖の上に建築物を建築する場合においては当該建築物の基礎が当該崖に影響を及ぼさないとき,崖の下に建築物を建築する場合においては当該建築物の主要構造物(崖崩れによる被害を受けるおそれのない部分を除く。)を鉄筋コンクリート造りとし,又は当該崖と当該建築物との間に安全な施設を設けたときは,適用しない。
水戸市建築基準条例 第5条第2項
市の解説は、この第2項の運用を書いています。崖の上に建築する場合——(1) 基礎杭(きそぐい=地中の固い層まで打ち込む柱)が支持層に達しているもの。(2) 基礎底面が安定勾配(=斜面が長期的に安定を保ち得る最大の傾斜角。安息角)以内に築造されているもの(あんそくかく=土を積んだとき、崩れずに安定を保てる最大の傾き)。そして「上記以外の地盤補強方法(表層改良工法、柱状改良工法、小口径鋼管杭工法等)については、原則として認めていません」と明記されています。地盤改良をすれば通る、とは限りません。ただし、これは第2項で外れる道の話です。第1項の「安全な擁壁を設ける」道は、そのまま残っています——地盤改良が認められないことは、「その土地に建てられない」という意味ではありません。また、これは市の解説に書かれていることで、個別の計画でどう扱われるかは、設計者を通じて窓口に確かめてください。
崖の下に建築する場合——(1) 主要構造物(市の解説は「建築物の外壁および構造耐力上主要な部分」としています)を鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造としたもの。市の解説は「崖と同じ高さまでをRC造とすること」と書いています。あわせて、崖に面した側が無開口(給気口、換気口程度の開口)に近い状態で、崖崩れ等に対して安全と認められることも挙げています——RC造にすれば窓は自由、ではありません。(2) 建築基準法施行令第80条の3(土砂災害特別警戒区域内における居室(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋)を有する建築物の構造方法)による構造方法および同等の方法により安全性を確かめたもの。解説は、その計算方法の例(平成13年国土交通省告示第332号)まで示しています。
これは「素人が自分で判定する一覧」ではありません。どれに当たるかを確かめるのは設計者(建築士)で、確認申請の対象となる計画では、建築主事等または指定確認検査機関の審査で見られます。条例の当てはめの相談先は、水戸市建築指導課です。
崖の上に建てるなら、排水の措置も要ります(第5条第3項)
3 高さが2メートルを超える崖の上にある建築物の敷地には,崖のかたに沿って排水溝を設ける等当該崖への流水又は浸水を防止するため安全な措置を講じなければならない。
水戸市建築基準条例 第5条第3項
第3項は崖の上の話です。市の解説は、崖の上にある建築敷地(擁壁の有無は問わない)の法肩(のりかた=斜面の上端の縁)には、U字溝などの排水設備を設け、雨水等が滞留して崖際より地盤に浸透しないようにしなければならないと書いています。「擁壁の有無は問わない」——第1項の関係で擁壁が要らないと整理できた場合でも、第3項は別の義務として残ります。第3項には、ただし書がありません。
そして市の解説は、崖に接する・近接する場所を敷地とする建築物は、確認申請書等の添付図書として詳細図が必要で、この条の適合性を明示する必要があるとしています(水戸市建築基準法施行規則第4条)。建築士に頼む図面は、ここが軸になります。
災害危険区域(第55条・第56条)——住居の用に供する建築物は原則として建てられません。例外を認めるのは市長です
この区域は、茨城県知事が場所を決めて指定したものです。崖のそばなら自動的に入るものではありません。入っているかどうかは、茨城県の指定箇所の一覧と、市の窓口で確かめてください。入っていなければ、この節の話はかかりません。
そのうえで——ここは、第5条とは別の、もっと重い規定です。水戸市建築基準条例は、建築基準法第39条第1項の災害危険区域を、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)第3条第1項の規定により指定された急傾斜地崩壊危険区域と定めています(第55条)。そして第56条が、その区域では住居の用に供する建築物は建築してはならないと定めています。
(災害危険区域)
水戸市建築基準条例 第55条・第56条
第55条 法第39条第1項に規定する災害危険区域は,急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)第3条第1項の規定により指定された急傾斜地崩壊危険区域とする。
(建築の制限)
第56条 前条の災害危険区域においては,住居の用に供する建築物は建築してはならない。ただし,建築物の構造若しくは敷地の状況又は崩壊防止工事の施工により市長が被害を受けるおそれがないと認めるときは,この限りでない。
ただし書があります。建築物の構造もしくは敷地の状況、または崩壊防止工事の施工により、市長が被害を受けるおそれがないと認めるときは、この限りでない——つまり「絶対に建てられない」ではありません。決めるのは市長で、判断の材料は構造・敷地の状況・崩壊防止工事です。禁止されているのは「住居の用に供する建築物」で、条文はそれ以上を書いていません——自分の計画が当たるかも、窓口で確かめてください。認めてもらえるかどうかを、自分で決めないでください。計画の早い段階で窓口に相談してください。
急傾斜地崩壊危険区域を指定するのは、茨城県知事です。急傾斜地法第3条第1項は、崩壊するおそれのある急傾斜地で、その崩壊により相当数の居住者その他の者に危害が生ずるおそれのあるものおよびこれに隣接する土地のうち、同法第7条第1項各号に掲げる行為が行われることを制限する必要がある土地の区域を指定できる、と定めています。同法の「急傾斜地」は傾斜度が30度以上である土地です(第2条第1項)。条例第5条の「30度を超える」とは、書き方が違います——法は「30度以上」、条例第5条は「30度を超える」です。30.0度ちょうどは、法では急傾斜地に当たり、条例第5条の崖には当たりません。
区域内では、建物のことだけでなく行為そのものが制限されます。急傾斜地法第7条第1項は、①水を放流し、または停滞させる行為その他水のしん透を助長する行為、②ため池、用水路その他の急傾斜地崩壊防止施設以外の施設または工作物の設置または改造、③のり切、切土、掘さくまたは盛土、④立木竹の伐採、⑤木竹の滑下または地引による搬出、⑥土石の採取または集積、⑦その他政令で定めるもの——これらを都道府県知事の許可を受けなければしてはならないと定めています(非常災害の応急措置等は除きます)。違反すると、6月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金です(同法第28条第2号)。この区域に入っている土地では、庭木を切る、土を盛る、といったことも、許可の対象になり得ます。区域の外なら、この許可は要りません。
指定されているかどうかは、茨城県の公表資料と、市の窓口で確かめてください。指定は変わり得ます。過去に調べた資料や、不動産広告の記載を、そのまま信じないでください。
レッドゾーン・イエローゾーンと、法第19条第4項は、別に残ります
第5条の安全な擁壁を設けても、崖の話はそれで終わりではありません。次の3つを、別に確かめてください。レッドゾーンの中で居室を有する建築物を建てる場面については、市の解説の表が別の整理を示しています——下に、その表のとおり書きます。
災害危険区域・急傾斜地崩壊危険区域・レッドゾーン・イエローゾーンは、名前が似ていますが、別のものです。①災害危険区域(条例が定める区域。この市では②と同じ範囲)/②急傾斜地崩壊危険区域(指定するのは茨城県知事。区域内では住居の建築が原則禁止、切土などに県知事の許可)/③土砂災害特別警戒区域=レッドゾーン(指定するのは茨城県知事。居室のある建物に構造の規制)/④土砂災害警戒区域=イエローゾーン(指定するのは茨城県知事。構造の規制ではなく、警戒避難の区域)。どれも、崖があれば自動的に入るものではありません。入っているかどうかは、茨城県の指定箇所の一覧と市の窓口で確かめてください。
- 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)——指定するのは茨城県知事です。区域内で居室(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋)を有する建築物を建てる場合、建築基準法施行令第80条の3の構造規制がかかります(土砂災害防止法と法施行令による全国共通の仕組みで、この条例とは別です)。市の解説の表は、レッドゾーンの居室を有する建築物には令第80条の3(平成13年国土交通省告示第383号)が適用され、それ以外の建築物には条例第5条が適用される、という整理になっています。市の解説は、崖の下に建てる場合の第5条第2項の運用として、令第80条の3による構造方法を挙げています(第1項本文の適用を外す道)——市の解説の表は、その運用を表にしたものです。条例第5条第2項の条文そのものに、令第80条の3は出てきません。条例第5条を見なくてよい、という意味に読まないでください。自分の計画がこの表のどこに当たるかは、設計者を通じて建築指導課に確かめてください
- 土砂災害警戒区域(イエローゾーン)——こちらは構造規制ではなく、警戒避難体制の区域です。市の解説の表では、居室を有する建築物にも、それ以外の建築物にも条例第5条がかかる、とされています。第5条の崖に当たるかどうかは、区域の内外とは関係なく決まります——イエローゾーンに入っていないことは、第5条が外れる理由になりません
- 建築基準法第19条第4項——建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合は、擁壁の設置その他安全上適当な措置が別に必要です。市の解説は、条例第5条について「本条は、措置を講じるべき崖を定義し、具体的な措置の方法を定めるもの」と位置づけています。法第19条第4項に、崖の高さの下限はありません——高さ2メートル以下でも、かかり得ます
レッドゾーンに入っていると、ふつうなら建築確認が要らない小さな建物でも、確認が必要になることがあります。確認申請(かくにんしんせい=建てる前に、計画が法令に合っているかを審査してもらう手続き)が、そこで初めて要ることになる、という意味です。仕組みは、こうです(土砂災害防止法第25条。条文そのものではなく、要点です)——特別警戒区域(建築基準法第6条第1項第3号に規定する区域を除く。)内における居室を有する建築物(同項第1号又は第2号に掲げるものを除く。)を、同項第3号の区域内の建築物とみなして、法第6条から第7条の5まで・第18条・第89条・第91条・第93条を適用します。つまり、都市計画区域の外で通常は建築確認の対象にならない規模でも、確認が必要になり得ます。「敷地の過半」は、第25条の条文には書かれていません——第25条が適用する法第91条が、敷地が区域の内外にわたる場合は敷地の過半の属する区域の規定によると定めています(ちょうど半分は「過半」ではありません)。
増築・改築をするなら、第5条は原則としてかかってきます
これから新しく建てる方は、この節を飛ばして構いません。
既存不適格(きそんふてきかく=建てたときは適法だった建物)には、建築基準法第3条第2項により、その適合しなくなった規定が原則として適用されません。ただし増築・改築・移転・大規模の修繕・大規模の模様替をすると、法第3条第3項第3号・第4号により緩和が切れて条例が適用されるのが原則です。
水戸市建築基準条例には、既存建築物のための緩和が置かれています——第60条の4(既存の建築物に対する制限の緩和)です。第1項から第7項まで、緩和する条を号ごとに列挙する形になっています。その列挙に、第5条(崖)はありません。つまり、増築・改築などをするなら、崖の第5条は原則としてかかってきます。(第60条(一の敷地とみなすこと等による制限の緩和)は、既存不適格とは別の緩和——複数の敷地を一の敷地とみなす場面の話です。その列挙(第3条、第4条、第6条、第10条、第11条、第15条、第16条、第23条から第28条まで及び第38条から第40条まで)にも第5条はありませんが、既存不適格の結論を支える根拠は第60条の4のほうです。)ただし第5条の義務は「安全な擁壁を設ける」ことなので、既にあるものが安全と確かめられれば足りる場合もあり得ます——個別の当てはめは、建築指導課で確かめてください。
建築基準法の側の緩和も見ておきます。法第86条の7第1項が列挙しているのは法第20条・第21条・第48条といった法自身の条で、法第39条・第40条に基づく条例の規定は入っていません。法第86条の7のほうで、この条例に届くのは第4項(移転)です——同項の「建築基準法令の規定」には条例が含まれます(法第6条第1項)。同一敷地内の移転か、支障がないと特定行政庁(とくていぎょうせいちょう=建築行政を行う市長や知事)が認める移転では、法第3条第3項にかかわらず既存不適格の扱いが継続します(施行令第137条の16)。どの移転でも扱いが続く、という意味ではありません。
用途変更(=建物の使い道を変えること)——工事を伴わない用途変更でも、法第87条第2項により、法第39条第2項・第40条に基づく条例の規定は準用されます(準用=別の場面にも当てはめて使うこと)。既存不適格の建物では、法第87条第3項が列挙する規定が原則として準用され、増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合(第1号)などは除かれます。第1号に当たるときは、法第3条第3項で判断します。
罰金は原則、設計者に。ただし是正命令は、建築主・所有者も対象になり得ます
第5条に適合する計画とし、その図面のとおり適法に施工する必要があります——窓口で相談したこと自体が、免責になるわけではありません。相談した内容と実際の敷地・計画が違っていたり、図面と違う施工がされたりすれば、罰則や是正命令の対象になり得ます。
(罰則)
水戸市建築基準条例 第64条第1項(中略は引用者)
第64条 第3条,第4条,第5条第1項若しくは第3項,第6条,(中略)第52条,第56条又は第58条の3の規定に違反した建築物,工作物又は建築設備の設計者(設計図書に記載された認定建築材料等の全部又は一部として当該認定建築材料等の全部又は一部と異なる建築材料又は建築物の部分を引き渡した場合においては当該建築材料又は建築物の部分を引き渡した者,設計図書を用いないで工事を施工し,又は設計図書に従わないで工事を施工した場合(中略)においては当該建築物,工作物又は建築設備の工事施工者)は,500,000円以下の罰金に処する。
第5条第1項と第3項は、罰則の対象として名指しで列挙されています。名宛人(なあてにん=この罰則を受ける人)は原則設計者で、設計図書を用いない・従わない施工では工事施工者に替わります。違反が建築主等の故意によるときは、設計者または工事施工者を罰するほか、建築主等にも同じ刑が科されます(第64条第2項)。法人の代表者や、法人・人の代理人・使用人その他の従業者が業務に関して違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、法人または人にも罰金が科されます(第65条の両罰規定)。
第5条第2項は、この列挙に入っていません。第2項は義務を課す規定ではなく、第1項本文の適用を外す規定だからです。第56条(災害危険区域の建築の制限)は、この列挙に入っています。
是正命令は、建築主・所有者などに来ます(法第9条第1項)
罰則の名宛人が原則として設計者でも、是正命令の相手方は別です。建築基準法第9条第1項は、違反した建築物・敷地について、当該建築物の建築主(=工事の請負契約の注文者。多くは施主。請負契約によらないで自分で工事をする人も、建築主です。法第2条第16号)、工事の請負人(=工事を請け負った工務店や建設会社。下請人を含みます)・現場管理者、建築物または敷地の所有者・管理者・占有者に対して措置を命ずることができる、と定めています。故意かどうかは、この条の要件ではありません。命じられるのは工事の施工の停止のほか、除却(じょきゃく=取り壊し)・移転・改築・増築・修繕・模様替・使用禁止・使用制限その他、違反を是正するために必要な措置です。建てたあとに除却や使用禁止を命じられ得るのは、建築主・所有者などです——設計者は、設計者であることだけでは名宛人に挙げられていませんが、設計者が現場管理者を兼ねていれば名宛人になり得ます。命令に従わないと、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です(法第98条第1項第1号)。
①そもそも確認申請が要らない計画——それでも条例の適合義務は残ります。②確認申請は要るが、確認特例(法第6条の4・令第10条)で審査項目の一部が省略される計画——省略されるのは審査であって、適合義務は別に生じます。どちらの場面でも、「審査されない=守らなくてよい」ではありません。
窓口——水戸市建築指導課です
- 条例第5条の当てはめ・確認申請の相談——水戸市 建築指導課 審査第1係 〒310-8610 茨城県水戸市中央1丁目4番1号 水戸市役所5階514 電話 029-224-1111(内線3452)/ファックス 029-224-1129。土地を買う前に、まずここです
- 開庁時間——午前8時30分から午後5時15分(土曜日、日曜日、祝日、12月29日から1月3日を除く)。この節の部署名・所在地・電話・開庁時間は、2026年9月5日時点のものです——訪問の前に、水戸市の公式の案内で確かめてください。
- 区域の指定——茨城県。急傾斜地崩壊危険区域・レッドゾーン・イエローゾーンを指定するのは、いずれも県知事です。急傾斜地崩壊危険区域内で急傾斜地法第7条第1項に掲げる行為をする場合の許可も、県知事が出します(この許可はレッドゾーン・イエローゾーンの話ではありません)。県の担当は土木部河川課で、県のページには「土木部河川課ダム」と表示されています(〒310-8555 水戸市笠原町978番6/FAX 029-301-1370)。用件で電話が分かれています——急傾斜地崩壊危険区域内の行為の制限について=029-301-4495/土砂災害警戒区域等の指定箇所について=029-301-4498(いずれも県の各ページに載っている番号です。2026年9月5日時点)
売買契約の前に、専門家と確かめること
確かめるのは、土地の売買契約を結ぶ前です。買ったあとでは、擁壁の費用と配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。この一覧は、自分で判定するためのものではありません——測って図にするのは建築士、条例の当てはめは水戸市建築指導課の窓口です。
- ① その土地は水戸市内か。水戸市内なら、読むのは水戸市建築基準条例 第5条です(茨城県建築基準条例の崖の規定は適用されません。県条例第46条の7第1項・県細則第19条)
- ② 敷地の中や周りに、勾配が30度を超える傾斜地で、高さが2メートルを超えるものがあるか。崖が敷地の外にあっても、この規定はかかります。高さは、崖の下端からその下端を通る30度の勾配線を超える最も高い部分までの垂直距離で測ります
- ③ 小段や通路で崖が上下に分かれて見えないか。下層の崖の下端から30度の勾配線を引いて、上層の崖がその線より上に出るなら、一体の崖として高さを数えます
- ④ 起点は、建てる場所と反対側の端。崖の上に建てるなら下端から、崖の下に建てるなら上端から、水平距離が崖の高さの2倍以内か。崖の水平の幅も、この2倍の中に入ります。敷地の造成も対象です
- ⑤ 建物のどこが範囲に入るか。外壁面(壁がない場合は柱外面)が範囲に入れば対象です
- ⑥ かかるなら——安全な擁壁を設ければ、第5条第1項については原則として建てられます。第1項ただし書(盛土規制法施行令第8条第1項第1号イ・ロの崖面)や、第2項の除外に当たるかも、設計者に確かめてもらってください。崖の上では、表層改良・柱状改良・小口径鋼管杭などの地盤補強は、市の解説上は原則として認められていません (第5条第2項によって第1項本文の適用を外そうとする場合の話です)
- ⑦ 崖の上に建てるなら、第3項の排水の措置(法肩のU字溝など)が計画に入っているか。擁壁の有無は問われません。第3項にただし書はありません
- ⑧ 急傾斜地崩壊危険区域に入っていないか。入っていれば、条例第56条により住居の用に供する建築物は原則として建てられません(市長が被害を受けるおそれがないと認めるときを除く)。区域内では、切土・盛土・立木竹の伐採なども県知事の許可が要ります(非常災害の応急措置などの例外があります)(急傾斜地法第7条第1項。→ 急傾斜地崩壊危険区域等における行為の制限について(茨城県))
- ⑨ レッドゾーン・イエローゾーンに入っていないか。指定するのは茨城県知事です。最終確認は、茨城県の告示・公表資料で(→ 茨城県の土砂災害警戒区域等指定箇所(市町村一覧))。地図サービスの表示は、最新の指定を反映していないことがあります
- ⑩ 既存の建物の増築・改築・用途変更は、適用関係を窓口で。条例第60条の4(既存の建築物に対する制限の緩和)の列挙に第5条はありません
- ⑪ 建築確認が不要でも、条例の適合義務は残ります。違反すれば条例第64条の罰則(50万円以下の罰金)や、法第9条の是正命令の対象になり得ます
参考にした資料(2026年9月5日に原文を確認)
- 水戸市建築基準条例(水戸市公式PDF・第5条・第55条・第56条・第60条・第60条の4・第64条・第65条)
- 第5条 崖(建築指導課)(水戸市公式・条例第5条の解説。崖の高さの算定、適用範囲、ただし書、第2項・第3項の運用)
- 「がけ条例」について教えてください。(建築指導課)(水戸市公式)/水戸市建築基準条例の解説(建築指導課)(水戸市公式)
- 茨城県建築基準条例(茨城県例規集・第5条・第46条の4・第46条の5・第46条の7)
- 茨城県建築基準法等施行細則(茨城県例規集・第19条)
- 茨城県の土砂災害警戒区域等指定箇所(市町村一覧)(茨城県公式)/急傾斜地崩壊危険区域等における行為の制限について(茨城県公式)
- 建築基準法(e-Gov法令検索・第3条・第4条・第6条・第6条の4・第9条・第19条第4項・第39条・第40条・第86条の7・第87条・第91条・第98条)
- 建築基準法施行令(e-Gov法令検索・第10条・第80条の3・第137条の16・第138条第1項第5号)
- 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(e-Gov法令検索・第2条・第3条・第7条・第28条)
- 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(e-Gov法令検索・第7条・第9条・第25条)/宅地造成及び特定盛土等規制法施行令(e-Gov法令検索・第8条第1項第1号・別表第1)
擁壁の形や寸法の一般的な考え方は、擁壁の選び方にまとめています(この条例の当てはめは、この記事に書いた窓口で確かめてください)。レッドゾーン内で建てる場合の考え方は、レッドゾーンの家と土地で整理しています。