八代市で、がけの近くに家を建てる・土地を買う人へ。まず答えから。
先にすることは、3つです。がけの規定がかかっても、建てられないと決まったわけではありません。まず、土地の売買契約を結ぶ前に動く(すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に)——買ったあとでは、擁壁(ようへき=がけの土が崩れないよう支える壁)の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。つぎに、建築士に現況の測量図・断面図・配置案を用意してもらう。そのうえで、その図面を持って八代市建築指導課へ、条例の当てはめを確かめる。高さも角度も距離も、目測で判断しないでください。確かめる中身は、この記事の最後の「売買契約の前に、専門家と確かめること」にまとめてあります。
①その土地は八代市内ですか。はい=八代市建築基準条例 第2条です。熊本県建築基準条例は八代市の区域では適用除外とされています(県条例第1条の3と、熊本県建築基準法施行細則第1条の2。熊本県例規集の現行本文で確認)。②八代市の第2条は、高さ2メートルを超えるがけに接し、または近接して建築しようとする場合に、がけの上にあってはがけの下端(かたん=斜面の低いほうの足元)から、がけの下にあってはがけの上端(じょうたん=斜面の高いほうの肩)から、その建築物との間にそのがけの高さの1.5倍以上の水平距離を保たなければならない、と定めています。③起点は、上に建てるか下に建てるかで入れ替わります。ここがいちばん間違えやすいところです。④離せないときも、道はあります——第3項が、建築物の用途、規模もしくは構造、擁壁の設置またはがけの状況により建築物の安全上支障がないと認められる場合には、第1項・第2項を適用しないと定めています。ここに当たれば、第2条については原則として建てられます。擁壁を設ければ、道はあります。⑤ただし、レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)・急傾斜地崩壊危険区域(=災害危険区域)・法第19条第4項は、別に残ります。(条例・細則・市の資料は2026年9月5日に原文を確認しました)。
八代市内なら、八代市建築基準条例 第2条です
「がけ条例」という名前の条例はありません。八代市では、建築基準法第40条などに基づく八代市建築基準条例(平成17年8月1日条例第218号)の第2条(がけに近接する建築物)が、がけに近い建築物の決まりです。市の建設部建築指導課が配っている資料(令和5年7月)は、この第2条を「1 がけ(八代市建築基準条例第2条)」として、敷地チェックの最初に挙げています。
熊本県建築基準条例には第1条の3(適用除外)があり、市町村が法第39条・第40条・第43条第3項・第56条の2第1項の規定により条例を定めた場合で、その市町村の条例の適用により県条例に定める制限等の目的が達せられるときは、規則で定めるところにより、県条例の全部または一部を適用しない、と定めています。熊本県が公表している「熊本県建築基準条例の解説」は、この仕組みについて「熊本県建築基準法施行細則第1条の2の規定により、熊本市、八代市及び天草市の区域においては、本条例の規定の全部を適用除外としています」と書いています。規制が無くなるのではなく、読む条例が入れ替わります。
(がけに近接する建築物)
八代市建築基準条例 第2条
第2条 建築物を高さ2メートルを超えるがけに接し、又は近接して建築しようとする場合は、がけの上にあってはがけの下端から、がけの下にあってはがけの上端から、その建築物との間に、そのがけの高さの1.5倍以上の水平距離を保たなければならない。
2 鉄筋コンクリート造等の重量建築物を、がけの上に建築しようとする場合は、前項の基準を安全上支障がない程度に増大しなければならない。
3 前2項の規定は、建築物の用途、規模若しくは構造、擁壁の設置又はがけの状況により建築物の安全上支障がないと認められる場合には、適用しない。
どこからが「がけ」か——条文が書いているのは高さだけです
ここは、正直に書きます。八代市建築基準条例第2条には、「がけ」の定義が置かれていません。条文が書いているのは「高さ2メートルを超えるがけ」という高さの条件だけで、勾配(こうばい=斜面の角度)が何度以上かは、この条にも、条例の第1章(総則)にも書かれていません。八代市建築基準法施行細則にも、勾配の数字はありません。2.0メートルちょうどは、当たりません(条文は「超える」です)。
市の建築指導課が配っている資料も、「高さ2mを超える高低差のあるがけに近接する場合、規制がかかります」と書くにとどまり、角度には触れていません。同じ資料は、そのうえで「がけに該当するか」と「該当する場合の対応方法等の相談」を、八代市建築指導課に相談する項目として挙げています。つまり、がけに当たるかどうかの判定は、市が窓口で行う設計になっています。「30度を超えていないから外れる」といった一般論を、この条例の当てはめに持ち込まないでください。斜面がある土地なら、高さが2メートルを超えるかどうかを図面で確かめて、建築指導課に当ててください。
条文は、自然にできた斜面か、人が切ったり盛ったりしてできた斜面かを問う書き方にはなっていません。また、がけが誰の土地にあるかでも線を引いていません——「建築物を……がけに接し、又は近接して建築しようとする場合」と書かれているだけです。隣の土地や道路との高低差でも、条件に当たれば規定はかかります。
もうひとつ、実務上の手がかりがあります。八代市建築基準法施行細則は、確認申請に添える図書として、敷地が「高さ2メートル以上の崖」に接し、または近接する場合の断面図を求めています(後述)。条例の「2メートルを超える」と、細則の「2メートル以上」は、一字違います。なぜ一字違うのかは、条文にも細則にも書かれていません。ただ、細則のほうが広く網をかけていることは確かです。高さがぎりぎりの土地こそ、図面を用意して窓口に当ててください。
なお、いまの八代市建築基準条例は平成17年8月1日から施行されたもので、附則は、それ以前に合併前の八代市建築基準条例(平成14年八代市条例第14号)の規定によりなされた処分・手続その他の行為を、この条例の相当規定によりなされたものとみなす、と定めています。古い土地の資料に、いまと違う条番号が書かれていることがあります——条番号だけで判断せず、いまの条文に当ててください。
距離の起点は、がけの上に建てるか下に建てるかで入れ替わります
ここが、この条文のいちばんの山場です。がけの上に建てるなら、起点は「がけの下端」。がけの下に建てるなら、起点は「がけの上端」。どちらも、そこから建築物との間にそのがけの高さの1.5倍以上の水平距離を保ちます。たとえば高さ4メートルのがけなら、6メートルです。起点を取り違えると、必要な距離が丸ごとずれます。
この距離は、敷地の境界からではなく、がけの下端または上端から測ります。だから、どこが下端で、どこが上端かを図面で決めることが、最初の仕事になります。斜面の途中に平らな部分があるとき、水路が絡むとき、古い石積みが混じるとき、傾斜が一様でないとき——どれも、目で見て決められるものではありません。そして義務の中身は「離しなさい」です——条文は「水平距離を保たなければならない」と書いています。離せないときにどうするかは、次の第3項に置かれています。
がけの上に建てる重い建物は、基準を増やします(第2項)
第2項は、鉄筋コンクリート造等の重量建築物を、がけの上に建築しようとする場合に、第1項の基準を安全上支障がない程度に増大しなければならないと定めています。重い建物の荷重が、がけに影響を及ぼさないようにするための項です。
「どれだけ増やすか」の数字は、条文に書かれていません。「安全上支障がない程度に」としか書かれていないので、増やす量は、個別の計画ごとに決まります——設計者が根拠を示し、建築指導課で確かめる筋道です。また「鉄筋コンクリート造等の重量建築物」がどこまでを指すかも、条文からは一義に決まりません。木造でも一部を鉄筋コンクリート造にする計画なら、この項の当てはめを窓口で確かめてください。
擁壁を設けるなどして安全が確かめられれば、第2条については原則として建てられます(第3項)
離せないときの道は、第3項にあります。擁壁を設ければ、道はあります。建築物の用途、規模もしくは構造、擁壁の設置、またはがけの状況により、建築物の安全上支障がないと認められる場合には、第1項・第2項を適用しない——つまり、1.5倍を確保できなくても、第2条については原則として建てられます。「原則として」と書くのには、理由があります——これは第2条の義務の話で、建築基準法第19条第4項、災害危険区域、土砂災害の区域は、別に確認してください。
第3項の入口は4つあります。①用途——建てる建物が何に使われるか。②規模もしくは構造——建物の大きさ、基礎や躯体(くたい=骨組み)の造り方。③擁壁の設置——がけの土を留める壁を設けること。これで安全が認められます。④がけの状況——斜面そのものの状態。4つのどれも、条文には具体的な数字が書かれていません。共通しているのは「建築物の安全上支障がないと認められる場合」という判断で、条文には、誰が認めるかが書かれていません——設計者が根拠を示し、確認申請の審査で見られるものです。土地の持ち主が自分で当てはめる一覧ではありません。条文は「……により……認められる場合」と書いています——4つのうちどれか1つで足りるとも、組み合わせが要るとも書いていません。決まるのは「安全上支障がないと認められるか」のほうで、そこをどう示すかは計画ごとに違います。
「安全上支障がない」の中身は、条例の外にあります。2026年9月5日に八代市のホームページを探した範囲では、第2条第3項の当てはめを条文より詳しく示した解説は見つかりませんでした(見落としの可能性はあります)。市が配っている1枚もの(令和5年7月)にも、第3項の中身までは書かれていません。だから「どこかの表に当てはめれば自分で分かる」とは考えないでください。市の資料が示しているのは、資料をそろえて、県と市の窓口に順番に相談するという道筋のほうです。設計者に根拠を組み立ててもらい、窓口で確かめる——これが、八代市で進めるときの順番です。
既存の擁壁がある土地では、まず書類を探してください。「昔から石積みがあるから安心」ではありません。擁壁が第3項の「擁壁の設置」として通るかどうかは、工作物としての確認済証・検査済証があるか、宅地造成や開発の許可を受けて完了検査に合格しているか、道路や河川の管理者が築造・管理している施設か、急傾斜地崩壊防止工事として築造されたものか——といった裏付けが取れるかどうかで大きく変わります。市の資料も、事前に用意するものとして「擁壁がある場合は、確認申請・検査が行われているかの確認」を挙げています。売主に、擁壁の書類が残っているかを聞いてください。
確認申請には、がけの断面図を付けます(施行細則 第3条)
(確認申請書等に添付する図書)
八代市建築基準法施行細則 第3条第1項第2号(中略は引用者)
第3条 法第6条第1項の規定による確認の申請書及び法第18条第2項の規定による計画の通知書には、省令第1条の3又は第3条に規定する図書及び書類(次の各号のいずれかに該当する場合にあっては、当該各号に定める図書を含む。)その他市長、建築主事又は建築監視員が必要と認める図書を添付しなければならない。
(中略)
(2) 建築物の敷地が高さ2メートル以上の崖に接し、又は近接する場合 崖の高さ、崖の下端及び上端と当該建築物との距離並びに崖の形状を明記した断面図
建築士に頼む図面は、この号がそのまま指示書になります——崖の高さ、崖の下端および上端と当該建築物との距離、崖の形状を明記した断面図。斜面が一様でないときは、方向を変えて複数枚が要ります。細則の書き方は「高さ2メートル以上」で、条例第2条の「2メートルを超える」とは一字違います。つまり、ちょうど2メートルの崖でも、細則の文言どおりなら図面は求められます。「2メートルちょうどだから、図面も要らない」とは考えないでください。
建築士に用意してもらう図面は、この3つが軸になります
第2条の当てはめを窓口で確かめるには、話し言葉ではなく図面が要ります。軸になるのは次の3つです。①現況の測量図——がけの位置、下端と上端の位置、敷地の境界。②断面図——がけの形状、勾配、高さ(細則第3条が求めているものです)。③配置案——建築物の位置と、がけの下端または上端からの水平距離。第3項で安全を示すつもりなら、あわせて擁壁の位置と構造、または基礎の深さ・杭の長さが要ります。「だいたいこのあたり」では、判定できません。がけの高さが30センチ違えば、必要な距離は45センチ変わります。
市の資料が「①必要な資料・情報の準備」として挙げているのも、ほぼ同じものです——現地の状況が分かる地図、図面、写真等/予定建築物の配置がわかる図面等/擁壁がある場合は、確認申請・検査が行われているかの確認/県ホームページでレッドゾーン・急傾斜地崩壊危険区域の内外の確認。この4つがそろってから窓口に行くと、話が一度で済みます。
第2条を満たしても、この3つは別に残ります
- 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)——指定するのは熊本県知事です(土砂災害防止法第9条第1項)。区域内で居室(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋)を有する建築物を建てる場合、建築基準法施行令第80条の3の構造規制がかかります。市の資料も「区域内に居室のある建築物を建てる場合、構造等に規制がかかります。また、都市計画区域外でも建築確認申請が必要となる場合があります」と案内しています
- 土砂災害警戒区域(イエローゾーン)——こちらは構造規制ではなく、警戒避難体制の区域です。ただし、第2条のがけに当たるかどうかは、区域の内外とは関係なく決まります——イエローゾーンに入っていないことは、第2条が外れる理由になりません
- 建築基準法第19条第4項——「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない。」この規定に、がけの高さの下限はありません——高さ2メートル以下でも、かかり得ます。「条例に当たらない=何もしなくてよい」ではありません
レッドゾーンでは、確認申請そのものが増えることがあります。土砂災害防止法第25条は、こういう仕組みです(条文そのものではなく、要点です)——特別警戒区域(建築基準法第6条第1項第3号に規定する区域を除く。)内における居室を有する建築物(同項第1号又は第2号に掲げるものを除く。)を、同項第3号の区域内の建築物とみなして、法第6条から第7条の5まで・第18条・第89条・第91条・第93条を適用します。つまり、都市計画区域の外で通常は建築確認の対象にならない規模でも、確認が必要になり得ます。「敷地の過半」は、第25条の条文には書かれていません——第25条が適用する法第91条が、敷地が区域の内外にわたる場合は敷地の過半の属する区域の規定によると定めています(ちょうど半分は「過半」ではありません)。
区域に入っているかどうかは熊本県土砂災害情報マップで当たりを付けられますが、熊本県は指定に係る公示図書について「各広域本部土木部及び各地域振興局土木部、熊本県庁砂防課、各市町村役場で縦覧できます」としています。最終確認は、この公示図書で行ってください。レッドゾーン内で建てる場合の構造の考え方と、改修への補助の枠組みは、レッドゾーンの家と土地で整理しています。
災害危険区域では、住居の用に供する建築物は原則、建てられません
(災害危険区域)
八代市建築基準条例 第27条・第28条
第27条 法第39条第1項の規定により指定する災害危険区域は、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(昭和44年法律第57号)第3条第1項の規定により指定された急傾斜地崩壊危険区域とする。
(建築の制限)
第28条 前条の災害危険区域内においては、住居の用に供する建築物は、建築してはならない。ただし、建築物の構造若しくは敷地の状況又は急傾斜地崩壊防止工事の施行等により被害を受けるおそれがないと認められる場合は、この限りでない。
八代市では、急傾斜地崩壊危険区域が指定されると、その区域がそのまま建築基準法第39条の災害危険区域になります。市の資料は、これを「3 急傾斜地崩壊危険区域(急傾斜地法・建築基準法第39条)」として、「区域内は原則、住宅等の建築は不可です。ただし、急傾斜地崩壊防止工事の施工等により被害をうけるおそれがないと認められる場合は、建築可能です」と案内し、あわせて「建築する際は、急傾斜地法による手続きが必要になる場合があります」と注意しています。
ここは、第2条とは別の話です。第2条は距離と構造の規定ですが、災害危険区域は住居用の建築そのものを原則として禁じる規定です。1.5倍を確保できても、区域内なら第28条が別にかかります。市の資料は、区域の確認と急傾斜地法の許可の相談先を県南広域本部(工務課・維持管理課)と八代市土木課に、区域内にある場合の建築物の対応方法の相談先を八代市建築指導課に、と分けて示しています。
既存の建物の増築・改築——第2条は、緩和の対象に入っています
既存不適格(きそんふてきかく=建てたときは適法だった建物)には、建築基準法第3条第2項により、その適合しなくなった規定が原則として適用されません。ただし増築・改築・移転・大規模の修繕・大規模の模様替をすると、法第3条第3項第3号・第4号により緩和が切れて条例が適用されるのが原則です。
八代市建築基準条例は、そこに第29条(既存建築物等に関する制限の緩和)を置いています——法第3条第3項第3号および第4号に規定する建築物もしくはその敷地、またはその部分で、特定行政庁(とくていぎょうせいちょう=原則として、建築主事または建築副主事を置く市町村の区域ではその市町村長、それ以外の区域では都道府県知事。法第2条第35号にはただし書があり、限定特定行政庁の区域内の政令で定める建築物については都道府県知事です)が、その建築物、敷地等の状況により、やむを得ないと認めるものについては、第2章および第3章の規定を緩和して適用することができる。第2条は第2章(建築物の敷地及び構造)に置かれていますから、この緩和の対象に入ります。ただし条文は「やむを得ないと認めるもの」「緩和して適用することができる」と書いています——増築だから自動的に外れる、という意味ではありません。個別の当てはめは、建築指導課で確かめてください。
用途変更——工事を伴わない用途変更でも、建築基準法第87条第2項により、法第39条第2項・第40条に基づく条例の規定は用途変更に準用されます。既存不適格の建物の用途変更については、法第87条第3項が列挙する規定(またはそれらに基づく条例規定)が原則として準用され、増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合(第1号)などは、この準用から除かれます。また第30条は、法第85条第6項もしくは第7項の許可を受けた仮設興行場等などについて、安全上および防火上支障がないと認められる場合は第2章・第3章の規定を適用しない、としています。
罰金は原則、設計者に。ただし是正命令は、建築主・所有者も対象になり得ます
第33条 第2条第1項若しくは第2項、(中略)又は第28条の規定に違反した場合における当該建築物の設計者(設計図書を用いないで工事を施工し、又は設計図書に従わないで工事を施工した場合は、当該建築物の工事施工者)は、20万円以下の罰金に処する。
八代市建築基準条例 第33条(中略は引用者)
2 前項に規定する違反があった場合において、その違反が建築物の建築主の故意によるものであるときは、その設計者又は工事施工者を罰するほか、当該建築主に対して前項の刑を科する。
第2条第1項・第2項は、罰則の対象です。名宛人(なあてにん=この罰則を受ける人)は原則設計者で、設計図書を用いない・従わない施工では工事施工者に替わります。違反が建築主の故意によるときは、設計者または工事施工者を罰するほか、建築主にも同じ刑が科されます(第33条第2項)。法人の代表者や、法人・人の代理人、使用人その他の従業者が業務に関して違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、法人または人にも罰金が科されます(第34条の両罰規定)。災害危険区域の第28条も、同じ第33条に並んでいます。
是正命令は、建築主・所有者などに来ます(法第9条第1項)
罰則の名宛人が原則として設計者でも、是正命令の相手方は別です。建築基準法第9条第1項は、違反した建築物・敷地について、当該建築物の建築主、工事の請負人(下請人を含みます)・現場管理者、建築物または敷地の所有者・管理者・占有者に対して措置を命ずることができる、と定めています。故意かどうかは、この条の要件ではありません。命じられるのは工事の施工の停止のほか、除却(じょきゃく=取り壊し)・移転・改築・増築・修繕・模様替・使用禁止・使用制限その他、違反を是正するために必要な措置です。建てたあとに除却や使用禁止を命じられ得るのは、建築主・所有者などです——設計者は、設計者であることだけでは名宛人に挙げられていませんが、設計者が現場管理者を兼ねていれば名宛人になり得ます。命令に従わないと、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です(法第98条第1項第1号)。
そして、確認申請の審査で見られなかった場合でも、条例の適用要件を満たせば適合義務は残ります——確認申請を審査するのは建築主事等または指定確認検査機関で、確認特例(法第6条の4・施行令第10条)による審査の省略は、建築物・設計者の区分と、法第39条から第41条までに基づく条例規定のうち特定行政庁が規則で定めた規定の範囲で決まります。審査が省略される場合でも、適合義務は別に生じます。また、指定確認検査機関に出す場合でも、条例の当てはめの相談は、市の窓口で受けてください。
読み手として大事なのは、罰金の額よりも「どこに来るか」です。条例の罰金は設計者・工事施工者に向いていますが、是正命令は土地と建物のほうに向いてきます。がけの手当てをしないまま建ててしまうと、その土地と建物を持っている人が、あとから工事や使用制限を命じられ得る立場になります。設計者に任せきりにせず、「第2条はどう当てはめたのか」を、契約の前に言葉で説明してもらってください。
「うちは確認申請が要らない規模だから」で、条例が外れるわけではありません
がけの近くの土地で聞かれることの多い誤解が、ふたつあります。
ひとつめ——「小さい建物だから条例は関係ない」。八代市建築基準条例第2条は、建築物の規模で線を引いていません。条文が書いているのは「建築物を高さ2メートルを超えるがけに接し、又は近接して建築しようとする場合」だけです。平屋の小さな住宅でも、当たるときは当たります。確認申請の要否と、条例に適合する義務は、別々に決まります。
ふたつめ——「がけはお隣の土地だから、うちには関係ない」。第2条は、がけが誰の所有かで線を引いていません。隣地や道路との高低差でも、条件に当たれば規定はかかります。そして、そのがけの手当て(擁壁を設ける、基礎を深くするなど)は、原則として建てる側の計画の中で解決することになります。土地を買う前に確かめる意味は、ここにあります——買ってから分かると、費用も配置も、後から動かせません。
すでにがけの上や下に住んでいる人には、移転の補助という枠があります
この記事は「これから建てる・買う」人に向けて書いていますが、すでにがけの近くに住んでいる方のための枠も、八代市の窓口一覧には挙がっています——がけ地近接等危険住宅移転補助金です。市の資料の窓口一覧では、「がけ条例」の欄のこの補助金に◎が付いているのは八代市建築指導課で、「レッドゾーン」の欄の「住宅移転補助金」に◎が付いているのは八代市土木課です。使えるかどうか、いくらか、いつまでか、といった条件はこの記事では確かめていません。該当しそうな方は、建築指導課(0965-33-4750)へ直接お問い合わせください。
窓口——市の資料が、相談の順番まで書いています
八代市建設部建築指導課が配っている「高低差、がけ、急傾斜がある敷地の建築計画について」(令和5年7月)は、①必要な資料・情報の準備 → ②県南広域本部・八代市土木課で相談 → ③八代市建築指導課で相談という順番を示しています。用意するものは、現地の状況が分かる地図・図面・写真等、予定建築物の配置がわかる図面等、擁壁がある場合は確認申請・検査が行われているかの確認、そして県のホームページでレッドゾーン・急傾斜地崩壊危険区域の内外の確認です。
- 条例第2条の当てはめ・確認申請・レッドゾーン内の建築物の対応——八代市 建設部 建築指導課 0965-33-4750(ファクス 0965-33-4461/メール kenshido@city.yatsushiro.lg.jp)。所在は八代市松江城町1-25(新庁舎5階)。土地を買う前に、まずここです
- レッドゾーンの区域確認、構造計算に必要な「土砂の移動により想定される力」等の資料、急傾斜地法の許可——熊本県 県南広域本部 工務課 0965-33-4184/維持管理課 0965-33-4166(ファクスはいずれも 0965-33-4051)
- レッドゾーンの区域確認、住宅移転補助金——八代市 土木課 0965-33-4471(ファクス 0965-32-1405/メール doboku@city.yatsushiro.lg.jp/新庁舎5階)。がけ地近接等危険住宅移転補助金は、市の資料では建築指導課の欄に◎が付いています
- 土砂災害の区域の指定・公示図書——熊本県 土木部 砂防課 096-333-2553。区域を指定するのは熊本県知事です
売買契約の前に、専門家と確かめること
確かめるのは、土地の売買契約を結ぶ前です。買ったあとでは、擁壁や基礎の費用と配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。この一覧は、自分で判定するためのものではありません——測って図にするのは建築士、条例の当てはめは八代市建築指導課です。
- ① その土地は八代市内か。八代市内なら、読むのは八代市建築基準条例 第2条です(熊本県建築基準条例は、県の施行細則第1条の2の表により、八代市の区域では全部が適用除外)
- ② 敷地の中や周りに、高さが2メートルを超える高低差があるか。条例に「がけ」の定義(角度)は書かれていません——がけに当たるかどうかの判定は、建築指導課に相談する項目として市の資料に挙げられています
- ③ 起点は、上に建てるか下に建てるかで入れ替わります。がけの上に建てるならがけの下端から、がけの下に建てるならがけの上端から、そのがけの高さの1.5倍以上の水平距離。高さ4メートルなら6メートルです
- ④ がけの上に建てる建物が、鉄筋コンクリート造等の重量建築物か。そうなら第2項で基準を増やします。増やす量は条文に数字が無く、個別に決まります
- ⑤ 1.5倍を確保できないなら——第3項の4つの入口(用途/規模もしくは構造/擁壁の設置/がけの状況)のどれで安全を示すかを、設計者と決める。4つとも、条文に数字はありません
- ⑥ 既存の擁壁があるなら、書類から。市の資料は、事前に用意するものとして「擁壁がある場合は、確認申請・検査が行われているかの確認」を挙げています。売主に、書類が残っているかを聞いてください
- ⑦ 確認申請に付ける断面図を、早い段階で。細則第3条第1項第2号は、敷地が高さ2メートル以上の崖に接し、または近接する場合に、崖の高さ、崖の下端及び上端と当該建築物との距離並びに崖の形状を明記した断面図を求めています
- ⑧ レッドゾーン・イエローゾーンに入っていないか。熊本県土砂災害情報マップで当たりを付け、最終確認は熊本県の公示図書で。レッドゾーンでは居室を有する建築物に令第80条の3の構造規制がかかり、土砂法第25条による確認申請も別に要り得ます
- ⑨ 急傾斜地崩壊危険区域に入っていないか。入っていれば、条例第27条によりそこは災害危険区域で、住居の用に供する建築物は原則、建てられません(第28条)。急傾斜地法による手続きが別に要ることもあります
- ⑩ 既存の建物の増築・改築・用途変更は、適用関係を窓口で。条例第29条の緩和は「特定行政庁が(中略)やむを得ないと認めるもの」が条件です
- ⑪ 建築確認の審査で見られなくても、条例の適合義務は残ります。違反すれば、条例第33条の罰則(20万円以下の罰金)や、建築基準法第9条の是正命令の対象になり得ます
参考にした資料(2026年9月5日に原文を確認)
- 八代市建築基準条例(八代市例規集・現行条文。平成17年8月1日条例第218号、最終改正 令和4年10月5日条例第31号・同日施行。第2条・第27条・第28条・第29条・第30条・第33条・第34条)
- 八代市建築基準法施行細則(八代市例規集・現行条文。平成17年8月1日規則第154号、最終改正 令和8年5月19日規則第26号。第3条第1項第2号)
- 高低差、がけ、急傾斜がある敷地の建築計画について(八代市 建設部 建築指導課、令和5年7月。3つのチェック・相談の順番・対応窓口一覧・連絡先)
- 建築指導課(八代市公式・所在地と連絡先)
- 熊本県建築基準条例の解説(熊本県公式PDF・第1条・第1条の3。熊本市・八代市・天草市の区域における県条例の適用除外の記載)/熊本県建築基準条例(熊本県例規集・現行本文。第1条の3)/熊本県建築基準法施行細則(熊本県例規集・現行本文。第1条の2の表に「八代市の区域 全部」)
- 県内の土砂災害警戒区域等指定状況(熊本県公式・公示図書の縦覧と砂防課の連絡先)/熊本県土砂災害情報マップ
- 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(e-Gov法令検索・第9条・第24条・第25条)/急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(第2条・第3条)
擁壁の形や寸法の一般的な考え方は、擁壁の選び方にまとめています(条例第2条の当てはめは、この記事に書いた窓口で確かめてください)。