愛知でがけの近くに家を建てる・買う人へ——最初に答えから。
愛知県の「がけ条例」とは、愛知県建築基準条例 第8条のことです。崖の近くに建てるときは、原則として崖から一定の距離を保つことが求められます。
先にすることは、3つです。がけ条例がかかっても、建てられないと決まったわけではありません。まず、土地の売買契約を結ぶ前に動く(すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に)——買ったあとでは、擁壁(ようへき=がけの土が崩れないよう支える壁)の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。つぎに、建築士に現況の測量図・断面図・配置案を用意してもらう(断面図=土地と建物を縦に切って見た図。がけの高さと傾きが分かります。配置案=敷地のどこに建物を置くかの案)——まだ建築士に心当たりが無いなら、先に売主・仲介の不動産会社へ「測量図と、がけの高さが分かる資料はありますか」と聞くところから。そのうえで、どこへ確認申請を出す予定かを建築士に確認し(確認申請=工事を始める前に、計画が法令に合っているかを見てもらう手続)、その図面を持ってその申請先へ、条例の当てはめを確かめる(名古屋市以外の市町村では、市町村独自の上乗せや災害危険区域の有無も、あわせて確かめてください)。高さも角度も距離も、目測で判断しないでください。
擁壁の形や寸法の一般的な考え方は、擁壁の選び方にまとめています(この条の当てはめは、この記事に書いた窓口で確かめてください)。
①愛知の「がけ条例」は、愛知県建築基準条例(昭和39年愛知県条例第49号)の第8条です。②かかるのは、建築物の敷地が、高さ2メートルを超えるがけに接し、又は近接する場合。③そのとき求められるのは、がけの上にあってはがけの下端(かたん=がけの下側の縁。斜面がふもとの地面と接するところ)から、がけの下にあってはがけの上端(じょうたん=がけの上側の縁。斜面が上の平らな地面と接するところ)から、建築物との間にそのがけの高さの2倍以上の水平距離を保つこと——離すという形です。④「がけ」の意味は勾配が30度を超える傾斜地(第4条の括弧書きが定め、「第八条において同じ」で第8条にも及びます)。
⑤ただし書に当たれば、この距離は要りません。その中身は平成12年告示第899号にまとめて置かれています。まず、がけ面を擁壁その他の施設で保護する道。ここから先は、建てる場所で分かれます。がけの上なら、鉄筋コンクリート造の布基礎(ぬのきそ=壁の下に帯のように連続して設ける基礎)等とし、その基礎の底(基礎杭があるときは杭の先端)を、がけの下端から水平面に対し30度の角度をなす面の下方に設ける。がけの下なら、急傾斜地の崩壊による土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)内で居室(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋)のある建物を建てる場合は、建築基準法施行令(以下「令」)第80条の3により大臣が定めた構造方法(外壁等の構造にするか、門・塀を設けるか、どちらか)。
レッドゾーンでどんな構造が求められるかは、土砂災害特別警戒区域で求められる構造にまとめています(区域に入るかどうかの判定と、この条例の当てはめは、上の窓口で確かめてください)。
それ以外の場合は、次の3つのどれかです——①建物の基礎・主要構造部(壁・柱・床・はり・屋根・階段。構造上重要でない間仕切壁などは除かれます——建築基準法(以下「法」)第2条第5号)を鉄筋コンクリート造等とし、かつ、がけ崩れの被害を受けるおそれのある部分を開口部(かいこうぶ=窓や出入口など、壁に開いている部分)のない外壁とする。②がけと建物との間に、がけ崩れの被害を防止する施設(流土止=りゅうどどめ。崩れた土砂を建物の手前で受け止める構造物で、普通の境界塀ではありません)を設ける——②では、建物側の鉄筋コンクリート造までは求められていません。③上のレッドゾーン内の場合の措置(外壁等または門・塀)に準じた措置を講ずる。
がけそのものに建てるなら、基礎を「がけの上」と同じ条件に適合させ、切土(きりど=土を削ること)・盛土(もりど=土を盛ること)・埋戻しをする場合はがけ面を保護する。このほかに、硬岩盤(こうがんばん。風化の程度を含め、該当するかどうかは地質資料・調査で確かめます)・切土の勾配・安定計算で通す「堅固な地盤」の道もあります。告示第899号のどれかの道に当たれば、第8条第1項の水平距離の義務は外れます——距離が取れないことは、そのまま「建てられない」ではありません。ただし、がけの上に建てるなら、第2項の排水施設が別に要ります。災害危険区域・土砂災害の区域・法第19条第4項も別に確認してください。
⑥名古屋市は、市に独自のがけ条例は無く、がけに関する建築規制として愛知県建築基準条例第8条が適用される、と公表しています。その他の市町村は全件確認していません——上乗せの有無は、確認申請を出す予定の申請先に確かめてください。⑦条文は2026年9月1日に、愛知県法規集で確認しました。
「がけ条例」の実体は、愛知県建築基準条例の第8条です

「がけ条例」という名前の条例はありません。愛知県では、愛知県建築基準条例の第8条(がけ附近の建築物)がその中身です。根拠は建築基準法第40条——地方公共団体が、条例で建築物の敷地・構造の制限を付け加えられる、という規定です。
名古屋市は、市のページでこう書いています——「名古屋市には独自の『がけ条例』はなく、がけに関する建築規制として愛知県建築基準条例第8条が適用されます」。市のよくある質問も、「どこの地区においても『がけ』付近に建築物がある場合は、『がけ条例』の対象となります。特定の地区において適用されるわけではありません」としています。
都市計画区域の外でも、第8条はかかります
(適用区域)
愛知県建築基準条例 第2条
第二条 第五条から第七条まで、第十条、第二十条及び第二十五条の規定は、都市計画区域及び準都市計画区域内に限り、適用する。
区域を限っている条が、ここに並んでいます。第8条は、この並びに入っていません。つまり都市計画区域の外でも、準都市計画区域の外でも、第8条は働きます。用途地域がない土地でも、がけと距離の条件に当たれば対象です。
どこからが「がけ」か——高さ2メートルを「超える」、勾配30度を「超える」
愛知は、がけの定義が第8条の中にありません。定義は第4条(災害危険区域内の建築物)の括弧書きにあり、そこに「第八条において同じ」と書かれていることで、第8条にも及びます。
……当該建築物の外壁の開口部ががけ(勾配が三十度を超える傾斜地をいう。第八条において同じ。)に直接面しないようにしなければならない。
愛知県建築基準条例 第4条(抜粋)
押さえるところは3つです。①勾配は「30度を超える」——30.0度ちょうどは当たりません。②高さは第8条本文の「2メートルを超える」——2.0メートルちょうどは当たりません(「以上」ではありません)。ちょうどかどうかは、測量しないと決まりません——決めるのは、図面を見た申請先です。ただし、ここで外れるのは県条例第8条だけです——がけ崩れ等による被害を受けるおそれがあれば、建築基準法第19条第4項による安全上適当な措置は別に残ります。③硬岩盤は、定義からは外れません——「がけが硬岩盤である場合」は、あとに出るただし書(告示第899号)の側で扱われます。
県の解説は、硬岩盤を「一般に花崗岩、閃緑岩、片麻岩、安山岩等火成岩及び堅い礫岩等の岩盤」とし、「ただし、真砂土を含む花崗岩その他の著しく風化した岩盤を除く」と断っています。「岩だから外れる」とは限りません。
義務の形は「がけの高さの2倍以上、離す」——起点は上と下で入れ替わります
(がけ附近の建築物)
愛知県建築基準条例 第8条
第八条 建築物の敷地が、高さ二メートルを超えるがけに接し、又は近接する場合は、がけの上にあつてはがけの下端から、がけの下にあつてはがけの上端から、建築物との間にそのがけの高さの二倍以上の水平距離を保たなければならない。ただし、堅固な地盤又は特殊な構造方法によるもので安全上支障がないものとして知事が定める場合に該当するときは、この限りでない。
2 高さ二メートルをこえるがけの上にある建築物の敷地には、地盤の保全及びがけ面への流水防止のため、適当な排水施設をしなければならない。
起点が、建てる場所で入れ替わります。取り違えると、必要な距離の測り方が変わります。
- がけの上に建てるとき——がけの下端から、がけの高さの2倍以上
- がけの下に建てるとき——がけの上端から、がけの高さの2倍以上
高さ3メートルのがけなら、6メートル以上。高さ5メートルなら10メートル以上です。条文が命じているのは「離す」ことで、「擁壁を設けよ」ではありません。擁壁は、次に出るただし書で距離が要らなくなるための手段のひとつです。
県の解説は、対象の広さについてこう書いています——自己の敷地の外にあるがけも対象。敷地とがけの間に道路や他人の敷地があっても、それらを含めて一体のがけとみなす。「近接する場合」とは、敷地に接していないがけで、その高さの2倍の水平距離の範囲が敷地にかかる場合です。「うちの土地の中にがけは無い」では、外れません。
県の解説は、がけの数え方をこう整理しています——小段や通路で上下に分かれたがけについては、下の段のがけの下端から30度の勾配をもつ線を想定し、上の段のがけの下端がその線より上に出るときに限り、一体として高さを算定します。がけの下に水路・河川がある場合は、その底からの高さをがけの高さとする、とも書いています(いずれも条例第8条の条文にはありません)。どこまでを1つのがけと数えるかで、必要な距離が変わります。
距離が要らなくなる道は、告示第899号にまとめて書かれています
第8条のただし書は、中身を条文に書かず、知事が定める告示に預けています。それが平成12年告示第899号(最終改正 平成27年告示第142号)です。この告示に当たるかどうかに、知事の個別の認定は要りません——条件に当たれば、それで外れます。当たるかどうかを図面と資料で検討するのは設計者、当てはめを判断するのは確認申請を出す予定の申請先です。
1 堅固な地盤による場合(3つ)
- がけが硬岩盤である場合(風化の著しいものは、県の解説で除かれます)
- 切土をした土地の部分に生ずるがけで、土質に応じた勾配の範囲に収まるもの(下の表)
- 土質試験等に基づいて地盤の安定計算を行い、擁壁の設置が必要でないことが確かめられた場合
| 土質 | ア=勾配がこの角度以下 | イ=勾配がアの角度を超え、この角度以下(当たるのは、上端から下方5メートル以内の部分だけ) |
|---|---|---|
| 風化の少ない軟岩 | 60度 | 80度 |
| 風化の著しい岩 | 40度 | 50度 |
| 硬質粘土、関東ローム、砂利 | 35度 | 45度 |
| 固い赤土又は砂、真砂土 | 30度 | 35度 |
この表は、設計者が土質と勾配を専門的に確認して当てはめる表です——見た目では決められません。表が求めているのは、土質が左欄に該当し、勾配が所定の角度内であることで、告示が「土質試験等に基づいて」と書いているのは別ルートの1の(3)の安定計算です。土質試験等が要るかどうかは、設計者が申請先と検討します。表の使い方を、告示は2段に分けています。アは、勾配が中欄の角度以下のもの。イは、勾配が中欄の角度を超え、右欄の角度以下のもので、当たるのはその上端から下方に垂直距離5メートル以内の部分だけです。告示はイに続けて、アに該当するがけの部分によってイの部分が上下に分かれているときは、アに該当する部分は存在しないものとし、上下のイの部分は連続しているものとみなす、と定めています。県の解説の図-3は、この連続とみなした部分について、aとbの合計を5メートル以下としています。
県の解説は、この表の右欄の角度を超えるがけは、安全上支障がない場合に該当しないと断っています。ただしこれは、いま見ている切土の勾配で通す道(告示の1の(2))に限った話です。安定計算、擁壁、基礎・構造など、ほかの告示ルートの可否は別に検討します。また、土質がどれに当たるかを決めるのは読者ではありません——土質試験や安定計算が要るかどうかを含めて検討するのは設計者、当てはめを判断するのは確認申請を出す予定の申請先です。
2 特殊な構造方法による場合(4つ)
ここから並ぶのは、がけの高さの2倍の水平距離が取れないときに、告示第899号のただし書で距離の義務を外す方法です。1・2を通じて、どれかの道に当たれば距離の義務は外れます(4つ目の「がけに建てる場合」だけは、基礎の要件が常にかかります)。どれを使うかは設計者が検討し、確認申請を出す予定の申請先と適合性を確かめます。
- がけ面が擁壁その他の施設で保護されている場合——建築基準法施行令第142条に適合する擁壁(令第138条第1項第五号に掲げる擁壁=高さ2メートルを超えるものについて、令第142条第1項が認めるのは、掲げる基準に適合する構造方法か、これと同等以上に擁壁の破壊・転倒を防止できるものとして国土交通大臣が定めた構造方法か、のどちらかです)/鉄筋コンクリート造・間知石練積み造(けんちいしねりづみづくり=石を積み上げてつくる擁壁の一種)その他これらに類する構造で高さ5メートル以下、有害な沈下・はらみ出し・ひび割れ等がなく一級建築士又はこれと同等の者が認めたもの/当該擁壁に加わる荷重及び外力に対して、それが支持する地盤が安全であることを一級建築士又はこれと同等の者が認めたもの/地すべり防止施設/急傾斜地崩壊防止施設
- がけの上に建てる場合——基礎を鉄筋コンクリート造の布基礎その他これに類するものとし、かつがけの下端から水平面に対し30度の角度をなす面の下方に基礎の底(基礎杭があるときは杭の先端)を設けたとき
- がけの下に建てる場合——土砂災害特別警戒区域(どしゃさいがいとくべつけいかいくいき。通称「レッドゾーン」。土砂災害の発生原因となる自然現象の種類が急傾斜地の崩壊であるものに限る)内で、居室(きょしつ=居住・執務・作業などに継続して使う部屋)のある建物を建てるなら令第80条の3の構造方法(これが告示のアです)。示す道は二つで、①外壁及び構造耐力上主要な部分のうち、土石等の高さ以下で衝撃が作用すると想定される部分(同条はこれを「外壁等」と呼びます)を、想定される衝撃が作用しても破壊を生じないものとして国土交通大臣が定めた構造方法とすること、②土石等の高さ以上の高さがあり、外壁等と同等以上の耐力を持つものとして大臣が定めた構造方法による門又は塀を、その衝撃を遮るように設けること、です。県の解説は、この大臣が定めた構造方法として平成13年3月30日国土交通省告示第383号を挙げています。それ以外の場合が告示のイで、その中がさらに2つに分かれます。1つ目は、次の①②のどちらかに当たるとき。①基礎及び主要構造部(壁・柱・床・はり・屋根・階段。建物の構造上重要な部分)を鉄筋コンクリート造その他これに類する構造とし、かつ、がけ崩れの被害を受けるおそれのある部分を開口部を有しない外壁とするとき。②がけと建築物との間に、がけ崩れの被害を防止する施設を設けるとき。②で通す場合に、建物の基礎や主要構造部を鉄筋コンクリート造にすることまでは、告示は求めていません。2つ目は、上のレッドゾーン内の場合(告示のア)に定める措置に準じた措置を講ずるときです
- がけに建てる場合——建築物の基礎を、上の「がけの上に建てる場合」の基礎に適合させることが常に必要です(告示の(4)イ)。これに加えて、がけに対して切土・盛土・埋戻しを行う場合は、がけ面を芝張り又はモルタルの吹付けその他これらに類する方法で保護します(同(4)ア)
県の解説は、基礎について「地盤改良杭等(地盤改良のための小口径鋼管杭も含まれる。)は該当しない」と断っています。杭を打てば必ず当たる、というものではありません。がけとの間に設ける「がけ崩れの被害を防止する施設(流土止)」についても、県の解説は高さが概ね5メートル以下のがけを想定したものであり、これよりも高いがけについては適用しない方がよい、としています。
がけの上に建てるなら、排水の施設も要ります(第2項)
第8条第2項は、高さ2メートルをこえるがけの上にある建築物の敷地について、地盤の保全及びがけ面への流水防止のため、適当な排水施設をしなければならないと定めています。
第2項には、ただし書がありません。第1項のただし書(告示第899号)は第1項にかかるものです。距離が要らなくなっても、排水施設は別に残ります。
県の指定は2022年に廃止。ただし市町村の指定は、別に確認が要ります
条例の第3条は、知事が地すべり又は急傾斜地の崩壊による危険の著しい区域を災害危険区域として指定する、と定めています。第4条は、その区域内で居室のある建物を建てるとき、基礎及び主要構造部を鉄筋コンクリート造又はこれに類する構造とし、外壁の開口部ががけに直接面しないようにすると定めています。第4条にはただし書があり、地すべり防止工事又は急傾斜地崩壊防止工事の施行により、当該建築物が被害を受けるおそれがない場合は、この限りでないとされています。
県は、この指定について次のように公表しています——愛知県建築基準条例第3条第1項の規定に基づき愛知県が指定する災害危険区域について、関係市町村の意見を聞いた上で、令和4年6月3日付けで告示第264号により県内全域の指定を廃止しました。県のページには、県が指定する災害危険区域は無いと書かれています(2026年9月1日に確認)。廃止されたのは知事が第3条で指定していた分です。名古屋市以外の市町村が独自に指定する災害危険区域の有無は、この記事では確認していません。
ただし、名古屋市が指定する「災害危険区域(臨海部防災区域)」は存在しますと県は続けています(2026年9月1日に確認した時点)。こちらは名古屋市臨海部防災区域建築条例による別の制度です。同条例第3条の区分は第1種=直接高潮、第2種・第3種=出水、第4種=市街化調整区域で、備えているのは高潮と出水です。がけの話とは別枠です。
罰則は第44条——10万円以下の罰金。名宛人は原則、設計者です
第44条は違反した条を列挙し、その中に第8条を含めています。刑は10万円以下の罰金。名宛人(なあてにん=この罰則を受ける人)はその建築物の設計者で、設計図書を用いないで工事を施工した場合、または設計図書に従わないで工事を施工した場合は工事施工者です。
建築主(けんちくぬし=工事の請負契約の注文者。請負契約によらず自分で工事をする場合はその人。法第2条第16号)・工作物の築造主(ちくぞうぬし=擁壁などの工作物について、建築主にあたる人)は、その違反が故意によるときに第46条で同じ刑が科されます。法人については第47条の両罰規定があります。第44条は、同じ列挙の中で「第六条第一項」「第九条第一項及び第二項」と項を切って指定していますが、第8条については「第八条」とだけ挙げています。第2項の排水施設も、罰則の対象です。
是正命令は、建築主・所有者なども対象になり得ます(法第9条第1項)
罰則の名宛人が原則として設計者でも、是正命令の相手方は別です。建築基準法第9条第1項は、違反した建築物・敷地について、当該建築物の建築主、工事の請負人(下請人を含みます)・現場管理者、建築物または敷地の所有者・管理者・占有者に対して、工事の施工の停止や、除却(じょきゃく=取り壊し)・移転・改築・使用禁止その他の是正に必要な措置を命ずることができる、と定めています。故意は要件ではありません。設計者は、設計者であることだけでは名宛人に挙げられていませんが、設計者が現場管理者を兼ねていれば名宛人になり得ます。命令に違反した場合は、法第98条第1項第一号により3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です。
市町村が上乗せした場合は、その超える部分だけ市町村の条例によります
(市町村条例との関係)
愛知県建築基準条例 第42条
第四十二条 市町村が法及び令に基づく条例によつて、この条例(第五章第一節及び第二節を除く。)の規定による制限を超える制限を付加する場合は、その超える部分については、当該条例の定めるところによる。
この条は、市町村が上乗せしたときに、その超える部分だけ市町村の条例によるという書き方です。上乗せがなければ、県条例がそのまま働きます。
がけについて上乗せしている市町村は、この記事が当たった範囲——出典に挙げた名古屋市のページ——では見つかりませんでした。名古屋市は独自のがけ条例が無いと公表しています。54市町村すべての例規は読んでいません。上乗せの有無は、確認申請を出す予定の申請先に確かめてください。
条例が外れても、建築基準法第19条第4項は残ります
4 建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない。
建築基準法 第19条第4項
これは条例ではなく、国の法律の規定です。(ただし、この規定にも、適用されない場合と、条例で緩和される場合があります——くわしくは、すぐ下の「この規定が働かない場合」をご覧ください。)告示第899号に当たって第8条の距離が要らなくなっても、がけ崩れ等による被害を受けるおそれがあるなら、擁壁の設置その他安全上適当な措置が要ります。求められているのは擁壁だけではなく「その他安全上適当な措置」を含みます。
この規定が働かない場合——法第19条第4項にも、次の例外があります。法第3条第1項の文化財等の建築物。法第3条第2項の、その規定の施行・適用の際にすでに存在していた建築物や敷地(いわゆる既存不適格。ただし同条第3項各号に当たるものは除かれ、第一号は、改正後の規定の適用の際、当該規定に相当する従前の規定に違反している建築物・敷地です)。法第85条第1項の、非常災害区域等で災害の発生した日から1か月以内に工事に着手する応急の修繕・応急仮設建築物(防火地域内は除きます。応急仮設建築物は、国・地方公共団体・日本赤十字社が災害救助のために建てるものと、被災者が自ら使う延べ面積30平方メートル以内のものです)。法第85条第2項の、災害時の公益上必要な応急仮設建築物と、工事現場の事務所・下小屋・材料置場などの仮設建築物。第85条は、第1項と第2項で対象も要件も違います——「応急仮設建築物なら外れる」とは読めません。
もうひとつ、条例で外したり緩めたりできる仕組みがあります。法第41条は、法第6条第1項第三号の区域の外(都市計画区域・準都市計画区域・準景観地区・知事が指定する区域の、いずれにも入らない土地)で、市町村が国土交通大臣の承認を得て条例を定め、区域を限って法第19条を適用しない、または制限を緩和することを認めています(法第6条第1項第一号の建築物と、同項第二号の建築物のうち木造以外のものには使えません)。自分の土地がどれに当たるかは、窓口で確かめてください。
愛知県への法第6条第1項の確認申請では、がけの断面図を添えます
第一条 建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号。以下「法」という。)第六条第一項の規定による確認の申請書には、その計画に係る建築物の敷地が、高さ二メートルを超えるがけに接し、又は近接する場合(がけの斜面の勾配が三十度以下の場合を除く。)においては、その敷地とがけとの状況を示す断面図を添えなければならない。
愛知県 建築基準法施行細則 第1条
これが「何を出すか」の一次資料です。敷地とがけの状況を示す断面図が要ります。断面図は、現況を測らないと描けません。ただしこの細則が定めているのは、法第6条第1項の確認申請に県の細則が求める添付図書です。市や指定確認検査機関に出す書類・様式は、申請先に確かめてください。名古屋市に確認申請を出す場合は、市が「がけに関する調書」の様式を用意しています。
窓口は、県と6市・11市に分かれます
特定行政庁(原則として、建築主事または建築副主事を置く市町村の区域ではその市町村長、それ以外の区域では都道府県知事。法第2条第35号にはただし書があり、下の限定特定行政庁の区域では、建物によって知事に戻ります)は、愛知県では県知事のほかに6市の市長です——名古屋市・豊橋市・豊田市・岡崎市・一宮市・春日井市。市を確認申請先にする場合は、その市の建築指導の担当課へ。指定確認検査機関(していかくにんけんさきかん=国や知事の指定を受けて建築確認を行う民間の機関)へ出す場合は、その機関へ提出・相談します。
これに加えて、限定特定行政庁が11市あります——刈谷市・小牧市・半田市・安城市・東海市・江南市・瀬戸市・豊川市・西尾市・稲沢市・大府市。この11市が扱うのは、施行令第148条第1項各号に掲げる建築物・工作物(知事の許可を必要とするものを除きます)です。11市の中でも、この範囲から外れる案件は愛知県知事が特定行政庁です(法第2条第35号ただし書、法第97条の2、令第2条の2第1項、令第148条第1項)。
上記以外の市町村では、愛知県知事が特定行政庁です。県が審査する確認申請は、施行細則により建築物が所在する市町村を経由して提出します。建築確認そのものは、業務の範囲内であれば指定確認検査機関にも申請できます(法第6条の2)。県は条例のページで、こう求めています——「なお、個別の取扱いについては、確認申請先(各特定行政庁、限定特定行政庁又は指定確認検査機関)へ直接お問い合わせください。」聞く先は、確認申請を出す予定の申請先です。愛知県 建築局 建築指導課(052-954-6586)は、条例・解説・様式の入口です。
売買契約の前に、専門家と確かめること
このチェック項目は、自分で判定するためのものではありません——測って図にするのは建築士、条例の当てはめは確認申請を出す予定の申請先(特定行政庁・限定特定行政庁・指定確認検査機関)です。個別の判断は、建築士と申請先にご確認ください。
- ①敷地の中や近くに、勾配30度を超え、高さ2メートルを超えるがけがあるか。目測ではなく、現況の測量図と断面図で
- ②敷地の外のがけも対象です。道路や他人の敷地をはさんでいても、一体のがけとみなされます
- ③建てる位置から、がけの上なら下端まで、がけの下なら上端まで、がけの高さの2倍以上の水平距離が取れるか。測るのは建築物とがけとの間の水平距離で、県の解説はこの「建築物」から建築面積に算入されない軒・ひさし、門及び塀並びに小規模な建築設備を除くとしています——この除外に当たるかどうかも、設計者と申請先の判断です
- ④取れないなら、告示第899号のどの道で通すか。堅固な地盤で通すか、がけ面を擁壁その他の施設で保護するか、がけの上なら基礎の底を所定の位置まで入れるか、がけの下ならまず区域と居室の有無を確かめ、レッドゾーン内で居室があるなら令第80条の3により大臣が定めた構造方法(外壁等・門塀)、それ以外なら、①鉄筋コンクリート造等とし、かつ開口部のない外壁か、②流土止等の被害防止施設(②は建物側の構造を問いません)か、③レッドゾーン内の場合の措置に準じた措置かを検討するか、がけに建てるなら、基礎を所定の条件に適合させ、切土・盛土・埋戻しをする場合はがけ面を保護するか。設計者が方法を検討し、申請先と適合性を確認します——どれかに当たれば、第8条第1項の水平距離の義務は外れます——建てられるかどうかは、これだけでは決まりません(⑥の第2項の排水施設、⑦の災害危険区域・土砂災害等の区域、⑧の法第19条第4項は別に確認)
- ⑤すでに擁壁その他の施設があるなら、告示第899号第2の(1)のどれに当たるか——本文に挙げた5つ(令第142条に適合する擁壁/所定の構造で高さ5メートル以下、有害な沈下・はらみ出し・ひび割れ等がなく一級建築士等が認めたもの/当該擁壁に加わる荷重及び外力に対して、それが支持する地盤が安全であることを一級建築士又はこれと同等の者が認めたもの/地すべり防止施設/急傾斜地崩壊防止施設)です。「一級建築士等が認めた」だけで通る道はありません。県の解説は、許可や確認を受けた擁壁であっても、有害な沈下、はらみ出し、ひび割れ等の経年劣化が無いことを設計者が確認すること、としています
- ⑥がけの上に建てるなら、排水施設は別に要ります(第2項。ただし書では外れません)
- ⑦その土地が、災害危険区域、土砂災害警戒区域・特別警戒区域、急傾斜地崩壊危険区域・地すべり防止区域に入っていないか。区域の正式な指定と境界は、県の所管建設事務所または市町村で確認します——その区域が建築計画にどう効くかは、建築士と確認申請の予定先に確かめます。なお、県が条例第3条で指定していた災害危険区域は令和4年に廃止されましたが、名古屋市の災害危険区域(臨海部防災区域)は、2026年9月1日に確認した時点では存在します(高潮・出水に備える別の制度です)。名古屋市以外の市町村が独自に指定しているかは、この記事では確認していません
- ⑧条例が外れても、がけ崩れ等による被害を受けるおそれがある場合は、建築基準法第19条第4項の措置が別に要ります
確かめるのは、土地の売買契約を結ぶ前です。買ったあとでは、擁壁の費用や配置の制約を、土地の値段に織り込みにくくなります。もう契約したけれど、引渡し(決済)がまだなら、その前に。契約書にどんな条件が付いているかは、契約した不動産会社に確かめてください。測量図・断面図をそろえて相談するまでには、日数がかかります——契約日が決まっているなら、その日程を先に不動産会社へ伝えてください。すでにお持ちの土地なら、設計を始める前に。がけの高さと、がけからの距離は、現況の測量図と断面図がないと自分では判断できません——測量と図面は建築士に、条例の当てはめは確認申請を出す予定の申請先(特定行政庁・限定特定行政庁・指定確認検査機関)に、お尋ねください。
レッドゾーン内の居室を有する建築物について、令第80条の3に対応する2つの方法——外壁等(外壁・構造耐力上主要な部分のうち、土石等の高さ等以下で、土砂災害の原因となる自然現象〔河道閉塞による湛水を除く〕により衝撃が作用すると想定される部分)を所定の構造にするか、土石等の高さ等以上の高さで、外壁等と同等以上の耐力を有するものとして国土交通大臣が定めた構造方法による門・塀を、衝撃を遮るように設けるか——と、改修への補助の枠組みは、レッドゾーンの家と土地で整理しています。擁壁の形や寸法の一般的な考え方は、擁壁の選び方にまとめています(愛知県条例第8条・告示第899号の当てはめは、この記事に書いた申請先で確かめてください)。
出典
- 愛知県建築基準条例(県法規集・第2条・第3条・第4条・第8条・第42条・第43条〜第47条)
- 愛知県建築基準条例第8条第1項ただし書の規定に基づく……知事が定める場合(平成12年告示第899号・県法規集)
- 愛知県 建築基準法施行細則(県法規集・第1条=がけの断面図の添付)
- 愛知県 県条例・細則等(建築指導課。条例・同解説・新旧対照表の入口。災害危険区域の廃止の案内)
- 愛知県 建築確認の窓口(特定行政庁・限定特定行政庁の一覧)
- 愛知県建築基準条例・同解説(令和7年4月1日改訂版)(PDF。第8条はP.13〜18。硬岩盤・図-3・擁壁の経年劣化・流土止)
- 名古屋市 がけ条例について(「名古屋市には独自の『がけ条例』はなく……」)
- 名古屋市 よくある質問「がけ条例とは」
- 名古屋市臨海部防災区域建築条例(市例規集・第3条=臨海部防災区域の種別)
- 建築基準法(e-Gov法令検索・第2条第35号・第6条第1項・第6条の2・第9条第1項・第19条第4項・第40条・第97条の2・第98条)
- 建築基準法施行令(e-Gov法令検索・第2条の2・第80条の3・第138条第1項第五号・第142条・第148条)
- 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(e-Gov法令検索・第2条・第9条)
- 愛知県 土砂災害警戒区域等の指定状況(砂防課・市町村別)
- 愛知県 地すべり防止区域及び急傾斜地崩壊危険区域の確認
- 愛知県土砂災害情報マップ
条文と告示は2026年9月1日に、愛知県法規集で確認しました。54市町村の例規は、この記事では読んでいません。
